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高齢者施設に広がるeスポーツ活用の波 太鼓とハンドルで老後を豊かに

 遊んで良し、観て良しのeスポーツ。今や世界中が興奮するエンターテインメントとなりました。一方で、eスポーツが持つ特徴はエンタメ分野以外でも活用できると再認識されてきています。教育や医療、福祉など、eスポーツが活用される場は徐々に拡大しており、幅広い世代がゲームに触れています。今回はそんな中でも高齢者施設でのeスポーツ活用に着目。2021年11月に開催された沼津eスポーツフェスティバルで登壇した医療法人友愛会のセミナーを基に高齢者施設の現状をお伝えします。

 

いち早くeスポーツを取り入れた先進施設

 厚生労働省の調査によれば、20年時点での国内の有料老人ホームの数は1万4695件あります。一見かなりの数があるようですが、20年の65歳以上人口は3619万人にのぼるため、非常にひっ迫している状況だと言えそうです。その中でも、友愛会は宮崎県に本部を置き、病院や有料老人ホームなどを運営する医療法人です。沼津においては17年に「さとやま整形外科内科」と「デイケアさとやま」を開設したほか、18年にはデイケアさとやまのすぐそばに有料老人ホーム「聖人の家 風のガーデン」を開設。「心身ともに健康な地域社会を実現するためのコミュニティの形成」を目指して活動しているとか。21年4月には施設に隣接するお寺「宝珠院」の空間を活用してさまざまなイベントを開催する「サトヤマ寺スプロジェクト」に協力しており、eスポーツイベントも実施しています。

 そんな友愛会が、今回沼津eスポーツフェスティバルに参加することになったのは、沼津においてeスポーツをいち早く医療・介護の現場に取り入れてきたからだと言います。実際に同施設では太鼓の達人やグランツーリスモといったタイトルの設備を導入しており、入居者から高い評価を得ているそうです。

 

施設が抱える3つの問題とは

 友愛会の柳田礼央さんは、「そもそも友愛会がeスポーツを導入した背景には、全国の高齢者施設が抱えるレクリエーションに関する問題を友愛会も抱えていたから」と言います。

 

柳田礼央さん

 

 介護施設におけるレクリエーションは、認知症予防だけでなくQOLにも直結するだけに無視できません。そんな多くの施設が頭を悩ませる問題とは、「人材不足によるレクリエーションコンテンツの不足」「レクリエーションのマンネリ化」「コロナ禍における健康への影響」の3点です。

 

友愛会が考える高齢者施設の抱える問題点

 

 まず、「人材不足によるレクリエーションコンテンツの不足」という点について。元来、高齢者施設の人材不足は慢性的な課題で、近年はさらに深刻化しています。入居者のケアといったメインの業務に人手が割く必要があり、レクリエーションのメニュー作成や実施といった業務に時間を取れなくなっているのだとか。

 2つめの「レクリエーションのマンネリ化」は人手不足による二次的な問題ともいえるでしょう。レクリエーション業務に時間を充てられず、コンテンツが少なくなればおのずと同じようなメニューが続くことになります。その結果、参加者が固定化されたり、参加者に飽きられてしまったりといった悪影響が発生します。参加率を落としてしまうことにつながります。友愛会によれば、その中でも男性向けのコンテンツの提供という課題についてはなかなか改善できないとか。

 そして3つめの「コロナ禍における健康への影響」については、多くの世代にのしかかっている問題かもしれません。ここ2年間は緊急事態宣言などによって長いステイホーム期間を多くの世代が経験しました。高齢者世代も同様で、介護施設や自治体が開く“通いの場”(地域の住民が集まって交流する場。さまざまな企画を通して生きがいや仲間を増やすことができる)などへの参加が困難になっています。これにより高齢者の中で運動不足や物忘れが加速していると言います。

 

実験結果が示すeスポーツの医学的メリット

 eスポーツはこれらの問題に対する改善策として注目を集めています。もともと、ゲームは機材さえそろえることができれば誰もが楽しめるバリアフリーな要素を持ち合わせているほか、eスポーツになりうる対戦ゲームは人との交流が前提となっています。高齢者であっても娯楽として遊ぶことができるはずです。

 また、柳田さんは「近年、eスポーツが脳の活性化や認知症予防に効果があることを示す論文が多数報告されている」と語ります。同セミナーでは日本アクティビティ協会が都立諏訪東京理科大学と慶應義塾大学とともに実施した研究の結果が2つ紹介されました。

 まずはレースゲームを使った実験結果。同実験は17年7月3日から8月21日まで実施。平均年齢77歳の対象者25人に週1回1時間の運動と運転ゲームを実施してもらい、認知機能と脳機能の変化を測定しました。その結果、実験前と実験後では多くの対象者で前頭葉機能の有意な変化と認知機能全般の変化が見られたと言います。

 

レースゲームによる実験の概要
実験結果

 

 次いで太鼓の達人を使用した実験です。19年5月13日から7月22日に実施。平均年齢79歳の女性19人に毎週1回約2時間のゲームを実施してもらい、眼球運動や注意機能、判断力の変化を測定しました。結果として眼球運動において先のオブジェクトに視線を向ける割合が増加したほか、注意機能の向上、判断における反応時間の短縮が見られたと言います。

 

太鼓の達人による実験の概要
実験結果

 

 あくまで実験の結果ではありますが、これらの結果はeスポーツが持つ医学的なメリットを示していると言えそうです。また医学的な効果のほかにも、先述した参加率問題の改善も見られたとか。なかなか上がらないとされていた男性参加率がゲームを導入したことで4%から25%に上昇したと言います。

 

ゲーム導入後の変化

 

 友愛会はこれを受けて「eスポーツは高齢者施設が抱える問題を打破するコンテンツとなりうる」と判断。実際に太鼓の達人とグランツーリスモを導入しました。導入に際しては日本アクティビティ協会が展開する「ゲーム健康指導士養成講座」をスタッフに受講してもらい、施設でのeスポーツ活用に関する知識やノウハウを身に着けたそうです。

 

eスポーツが生み出す施設内の交流

 実際にレクリエーションにeスポーツを取り入れて感じたこととして、柳田さんは「参加者のほとんどがゲーム未経験で、初めての体験として高い満足度が得られた」と語ります。初心者は操作に慣れる段階で上手く適応できずに辞めてしまうケースも多いですが、ゲーム健康指導士養成講座の効果もあったからか、スタッフの丁寧な指導によって新たなアクティビティとして受け入れてもらえたとか。

 

ゲームを楽しむ高齢者の様子

 

 結果として、「スタッフと利用者、利用者同士、スタッフ同士などで会話や声がけが促進」されたと語っており、「次はもっとうまくやりたい」という次回への意欲が感じられるコメントもあったそうです。

 どんな人であっても、加齢とこれによる心身の衰え(フレイル)を避けることはできません。しかし、少しでもこれらを遅らせ、心身ともに健康な状態を伸ばすことは自身の人生をより良くするためにも大切なことです。柳田さんは「フレイルを予防するには運動や食事のみならず、これまでにない体験をして脳を活性化することや、コミュニティに参加して人と交流し、感情を抱くことも重要」と指摘。「eスポーツはフレイル予防に適したコンテンツ」だと強調しています。

 今後、友愛会ではより多くの高齢者に対してeスポーツを積極的に普及させていく考え。柳田さんは「高齢者施設でのeスポーツ利用は増えてきたとはいえ、沼津で導入している施設はまだまだ少ないのが現状です。eスポーツがどんなものなのか、高齢者にとってどんなメリットがあるのかを知っていただき、興味を持ってもらう必要があります」と語ります。自身の施設の取り組みをさらに充実させつつ、他の施設でもeスポーツの導入を促すことで、沼津全体が健康で明るい地域社会を作れるよう目指していきます。

 

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