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全日制の高校初、eスポーツを教育に組み込むワケ 品川学藝高等学校インタビュー

 「全国高校eスポーツ選手権(高e)」や「STAGE:0」といった大会開催を皮切りに成長を続けてきた高校eスポーツ。中には正式な部活動として認める学校もあり、事例のいくつかは弊メディアでも「高校eスポーツ探訪」と題して取り上げてきました。

 

左から、コース監修を務める慶應義塾大学教授 加藤先生、日本音楽高等学校校長 若林先生、実習講師を務めるYouTuber もか先生

 

 eスポーツと教育の接近は部活動にとどまりません。音楽や舞台芸術の名門である日本音楽高等学校では、2023年の共学化・校名変更(品川学藝高等学校へ)に伴い、日本初の全日制「eスポーツエデュケーションコース」を開設するそうです。

 同校はなぜeスポーツに可能性を感じ、全日制コースを開設するまでに至ったのでしょうか。本記事では前後編に分け、日本音楽高等学校校長 若林先生、コース監修を務める慶應義塾大学教授 加藤先生、実習講師を務めるYouTuber もか先生にお話を伺いました。

(取材・文/夏野 かおる)

基礎学力と専門性の両立をめざして

 「eスポーツ元年」と呼ばれた2018年をきっかけに、eスポーツはますます認知を拡大しています。さまざまな大会が催される中で、ふと目に留まるのは選手たちの年齢の若さです。動体視力や反射神経が求められるeスポーツの世界では競技者としてのピークを迎えるのが早く、「ゲームタイトルにもよるが、14歳?15歳がピークと言われることもある」(もか先生)と言います。大胆な言い方をすれば、中高生世代こそがeスポーツの“主役”なのです。

 

プロゲーマーのピークについて語るもか先生

 

 戦略を立て、仲間と助け合い、勝利の喜びを分かち合う。そんなeスポーツの可能性は、決してエンタメにとどまるものではありません。多くのスポーツ強豪校がそうであるように、eスポーツが教育にもたらす好影響もきっとあるはずです。

 今回「eスポーツエデュケーションコース」を開設する日本音楽高等学校も、eスポーツに教育的な可能性を見出した学校のひとつ。日本初の全日制コースを開設する背景には、子ども達の専門性を高める教育を長年にわたって実現してきた同校ならではのこだわりと確信がありました。

 校長である若林先生はこう語ります。「本校は長らく音楽・バレエ・幼児教育・舞台芸術に特化した4つのコースを通し、子ども達の成長を支えてきました。かねてより専門教育の魅力を知っていた本校がeスポーツという新たな可能性に着目したのはごく自然なこと。高校生として身につけるべき学力と専門性の両立も、本校なら実現できると確信しています。それに、個人的にもeスポーツへの期待は高かったんです。これまで、ゲームはどうしても勉強の『敵』と見なされてきましたが、裏を返せば、それほどまでに子ども達を夢中にさせる魅力があるわけです。そんなゲームのメリットを教育に取り入れることができたら、単に知識を詰め込むよりもずっと本質的で濃密な学びを得られるのではないかという思いがありました」。

 

日本音楽高等学校校長 若林先生

 

 同校の卒業生には、工藤静香さんや栗山千明さんなどそうそうたる芸能人が名を連ねます。校舎には宝塚音楽学校への合格をたたえる垂れ幕がかかり、掲示板にははつらつとした生徒達の写真が並んでいました。才能ある生徒達を見守り、支え、導いてきた歴史があればこそ、eスポーツという新たな領域にも果敢に挑戦できるのかもしれません。

ゲームは「脳力」向上につながる?

 そんな若林先生の思いに共感し、コース監修を務めるのは慶應義塾大学環境情報学部教授の加藤先生です。人間工学やスポーツ科学を専門としてきた先生はかねてより、ゲームがフィジカルスポーツに及ぼす影響に関心を寄せていました。

 「スポーツの試合中には、さまざまな物事を把握し、瞬時に判断する必要があります。サッカーであれば、相手チームの選手の動きを観察し、パス・ドリブル・シュートを判断する、というような。即時的な判断力をどう身につけているのだろう?と気になった私は、スポーツ選手達にインタビューしてみました。すると意外なことに、『ゲームのプレー経験がスポーツに役立っている』と答える選手が多かったのです。eスポーツに興味を抱いたのはそこからですね。以前は『ゲーム脳』という言葉に代表されるように、『ゲームばかりしていると脳の働きが衰える』なんて言われていたけれども、むしろ逆に脳を鍛えている可能性もあるのではないかと考えるようになりました」

 加藤先生は「あくまでも仮説段階」と慎重ですが、実際に先生が高齢者の健康維持を目的として行った実践では、高齢者がゲームを楽しみながらプレーすることで認知機能が改善したという結果も出ています。また、ゲームを好むスポーツ選手が一定数いることは事実です。有名どころでは、平昌五輪メダリストのフィギュアスケーター、宇野昌磨選手が『大乱闘スマッシュブラザーズ』を好むことはよく知られています。高い集中力と判断力を要求するeスポーツのプレー経験がフィジカルスポーツにも好影響を与えるのではという仮説が出てくるのも、ごく自然なことではないでしょうか。

 

eスポーツのコース監修を務める慶應義塾大学教授 加藤先生

ゲームを通じて磨かれる人間力に期待

 もちろん、eスポーツの可能性は能力向上にとどまりません。若林先生によると、同校はむしろゲームを通じた「人間力の向上」に大きな期待を寄せていると言います。

 「我々がeスポーツに期待するのは、一連の経験を通じて得られる人間力です。これまでの学校では、ゲームに打ち込む子はなかなか個性を発揮することができず、活発な生徒の後ろに隠れがちでした。場合によっては、うまく学校に来られない子もいるほどでした。そんな子がもし、高校eスポーツの舞台で学校代表として輝くことができたらどうでしょう?新たな学校のヒーローとして、その子の個性に光を当てることができますよね。大会へのチャレンジを通じて仲間とのコミュニケーションを学ぶきっかけにもなるでしょうし、学校を超えた友達が出来るかもしれない。選手としてふさわしい行動をとらなければという意識も養われることでしょう。『ゲーム実況』であっても同じことです。動画を通じた自己表現ができるだけでなく、今の時代には必須のネットリテラシーを学ぶことにもつながる。eスポーツはまさに、教育の機会にあふれているのです」。

 

 

 ゲームのプレーを通じて磨かれる判断能力と人間力。そして何よりも、青春を投じてゲームに打ち込み、仲間とともに高みを目指した経験。そのいずれもが「きっと将来の糧になる」と若林先生は確信します。eスポーツの指導はどうあるべきか?後編ではその具体的なカリキュラムに迫ります。

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■外部リンク

日本音楽高等学校
https://www.nichion-h.ed.jp/