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「eスポーツな人」第1回 岸大河「僕たちがeスポーツ元年の次にやるべきこと」

 eスポーツのキーマンに生の声を聞くインタビュー企画「eスポーツな人」、その記念すべき第1回は、日本のeスポーツシーンを象徴する人としてキャスターの岸大河さんにお願いした。FPSやMOBAのプロ選手としてキャリアをスタートさせた後、大会やイベントのキャスターとしても活躍。いまでは数多くのeスポーツの大舞台に欠かせない人物として、多忙な日々を駆け抜けている。現在進行形でプロシーンの現場に立ち続けている彼が見ている景色とはどんなものなのか。前編と後編の2回に分けてお届けする。

取材・文/野口智弘  写真/松嶋 優子

ゲームキャスターの岸大河さん

■2020年のeスポーツキャスター

――2020年11月現在で、岸さんが関わっているタイトルは?

岸 『VARORANT』『クラッシュ・ロワイヤル』『ブロールスターズ』『PUBG』『PUBG MOBILE』『TEPPEN』『ニンジャラ』『Rise of Kingdoms(万国覚醒)』『AFKアリーナ』『ロケットリーグ』『FIFA』……あと『シャドウバース』のNintendo Switch版とか。eスポーツじゃないタイトルも入ってますけどね。

――スポーツに置き換えると十種競技どころじゃないですよ。

岸 プロリーグがあるものは継続的に追いかけてますし、新しく出たものも依頼を受けるので、いま現在どれだけのタイトルでキャスターをやっているかを挙げるのはなかなか難しいですけどね。ちょっと前までは『APEX LEGENDS』や『フォートナイト』にも関わっていましたし。ただ全部を一度にというわけではなくて、大会がなくなれば違うタイトルをやろうとなるし、クライアントの状況にも応じてという感じですね。

――以前どうやって複数のタイトルを追いかけているのかを聞いたら「自分は勘所をつかむのが早いと思う」と答えてました。

岸 そうですね。あとはいち早く触るようにしてます。とりあえずゲームを触り始めると、これまでの蓄積である程度は理解しやすいというのは強みではありますね。

――自宅から個人配信もされていて、eスポーツ業界でも「いつ寝てるの?」感がある人だと思います。

岸 よく言われますね(笑)。でもどこかしらで調整して睡眠は取るようにしてます。もちろん寝れないときもありますけどね。

――2020年でとくに忙しかったタイミングは?

岸 10月かな。4日連続で大会があったんです。まず木曜日は『VALORANT』の大会(「VALORANT Mildom Masters」)。当日にアップデートが来たんでいろいろ不具合も出ちゃって。その日の試合はやっぱり中断が入り、生放送を1時間半ぐらいつなぎまして……。

――芸人さんでも「生放送を1時間半つなげ」と言われたら相当きついですよ。

岸 結局2時間ぐらい押しちゃったのかな。終わったのが夜中の12時ぐらい。で、翌朝には大阪に行かなくちゃいけなくて。金曜も『VALORANT』の大会(「A.W EXTREME MASTERS Asia Invitational」)だったんですけど、木曜は国内の大会で、金曜は海外の大会。海外選手の名前も覚えなきゃいけないし、海外の大会は向こうから映像だけ送られてくるんで感覚も違ったりとか。試合も接戦ばかりでフルセット行っちゃって、終わってホテルに戻ったのが夜中1時すぎ。で、翌朝の始発の新幹線で東京に戻って、そのまま土曜も日曜も両方6時間ぐらい『PUBG MOBILE』の最終戦(「PUBG MOBILE JAPAN LEAGUE SEASON 0 GRAND FINAL」)の生放送があって。その4日間はかなりしんどかったですね。嬉しいしんどさでしたけど、体力は使いました。

――スポーツ実況をやっているアナウンサーでもそこまで過密スケジュールではやらないでしょうが、eスポーツの大会のタイミングってかぶりがちですからね。

岸 国内大会の実況をやって仮眠したあと、世界大会が時差の関係で夜10時ぐらいから明け方までとか。東京ゲームショウのタイミングもかぶりがちで、東京ゲームショウでイベントをやって、夜は都内のイベントに出て、また東京からタクシーで幕張に帰って、翌朝から東京ゲームショウとかありましたね。

■サッカースタジアムから得たモチベーション

――国内のイベントや大会がそれだけ盛況ということは、「eスポーツ元年」と言われた状態を経て、次のステップに移ろうとしているのかなと思いますが、変化は感じますか?

岸 大会運営の現場経験が多い会社も増えてきてますし、スポンサーも大企業とか大きなお金が動いていることもあります。

 ほかに変化を感じるのは演出ですかね。演出と配信の画作りはここ数年で本当に進んできたなと。あとコンテンツの盛り込み。配信を飽きさせないようにインターバルをテコ入れして面白く見せたりとか短くしたりとか。インターバルが短いと僕らキャスターに負担はかかるんですけどね(笑)。あとはキャンペーンとSNSを絡めるようになったりとか、より楽しく見せるための工夫は進んできたんじゃないかと思います。

――単にゲームの大会を見て終わり、じゃなくなっていると。

岸 ちょうどこの間『シャドウバース』のイベントで日産スタジアムに行って久々にサッカーの試合を見たときに、横浜・F・マリノスの人とそういう話になってたんです。最近のプロスポーツって試合をただ見るだけじゃなくて、スタジアムに入る前からいろんなコンテンツを楽しむようになっている。たくさん屋台があったり、ユニフォームが飾ってあったり、ミニイベントもあったりするし、ビールを飲みたい人は飲んでもいい。試合が始まったらサッカーだと45分は集中して見続けるわけですよ。で、ハーフタイムにトイレに行って戻ってきたら後半始まるんで、スタジアムのなかでお金を使う暇はないじゃないですか。その代わりに試合の前後のコンテンツを充実させれば、観客の滞在時間も長くなるし、満足感もあるし、お金も使ってくれる循環になっている。そこも考えた上でのコンテンツなんですという話をして。昔だとスポーツ観戦に行っても外にはダフ屋しかいないとかあったじゃないですか(笑)。

――もっと“おじさん”中心の場所でしたよね。

岸 そういうプロスポーツの積極的な取り組みを見ると、まだまだeスポーツでもいろんな施策ができるのかなと思っちゃいますね。コロナが収まったら食べたり飲んだりしながらみんなで一緒に見るのが増えたらいいなと思うし、暴言を防ぐルール作りは必要になりますけど、各プロチームがDISCORDで集まるようなオンライン観戦会を作って「ファンはここに集まれ」みたいな場があってもいいですよね。負けたときにはみんなで悔しがって、勝ったときにはみんなで喜んで、試合が終わった選手が来ることがあってもいい。自分がどこかのチームのファンだったらそうしたいし、海外ではそういうのも進んでるみたいなんですよ。試合会場で集まってチームのユニフォームを着て、旗を置いたりとか。

――試合会場だけでなくDISCORDやオンラインで集まるやり方なら、いろんなゲームタイトルにも応用できそうですね。

岸 そうですね。同じプロチームの違うゲーム部門にも同じチームの選手が参加しているならちょっと見に行こうとか横の広がりもできると思うし。あと僕がずっとやりたいと言い続けているのは裏配信ですね。表の配信ってやっぱり硬くなりがちなので。

――ラグビーの中継だとルール解説の副音声や、紅白歌合戦では副音声でバナナマンがおしゃべりしながらとかやってますよね。

岸 初心者向けでもいいし、元選手がおしゃべりに来てもいいし、「試合の展開はこうだけどこっちがいいんじゃないの?」みたいな読み合いをしてもいいですし。そういうことも充実できたら日本のeスポーツも次の段階に進められるかなと思いますけどね。

――スタッフの判断的には「岸さんには表の配信を任せたい」ということなのかもしれないですけどね。裏にさせるのはもったいないというか。

岸 うーん。もちろん予算や現場の技術スタッフを裏配信に割くのはなかなか難しいと思いますし、自分たちで機材を準備して「自分たちで裏配信チャンネルをやるんで、映像だけください」というやり方のほうがまだいいのかもしれないですけどね。許可だけもらって裏配信チャンネルは視聴者からの投げ銭で賄うとか。

――野球なんかもスタジアムでラジオの中継を聞きながら見てる人とか多いですよね。

岸 そうですね。あと会場での情報の出し方だと、今後はAR(拡張現実)との組み合わせなんかもあるかもしれないですよね。会場でスマホをかざせばその選手の情報が出てくるとか。

■NTTドコモが数億円を投資しただけの価値を

――2021年のeスポーツシーンはどうなっていくと思っていますか?

岸 先日NTTドコモが『PUBG MOBILE』でシーズン賞金総額3億円というリーグ運営を発表しましたよね。同時に『ワイルドリフト』の大会もやると。そういうビッグなプロシーンが設けられるのは嬉しいことなんですけど、それを継続してもらうためには関わっているすべての人たちが協力していかないといけないでしょう。

――あれって誰が賞金をもらえるかという話じゃなくて、NTTドコモが何億円規模のお金をeスポーツ事業に投資しますという話じゃないですか。

岸 そうなんです。モバイルゲームの普及という形で5Gのインフラもふくめ、競合他社に負けずに市場を取ろうと思ってそういう規模のお金を出している。それに対して選手やチームが「賞金がもらえるからゲームをやろう」という視点だけだと「賞金もらえた。でも2022年は大会がなくなっちゃった」ということになるかもしれない。大企業だから撤退しないだろうという理屈はないんで、むしろ大企業だからこそ見極めはシビアですよね。おそらく二度とこんな大企業が入ってくることもないだろうと。だから2021年に関してはNTTドコモという大きな主催者に対してきちんと価値を見出してもらいつつ、その次につなげていけるように全員で協力する必要があると思っています。

――そこで何かしらの成果を残せないと、eスポーツに対するビジネスはよりシビアになっていくでしょうし。

岸 この投資の分のパフォーマンスをみんなで見せていかないといけない年になるわけですよ。もちろん視聴者は好きに見てくれればいいんですけど、もし僕からお願いできるなら、これまで以上にeスポーツに積極的に興味を持ってくれたり、あるいはダメならダメで声を上げてくれたらありがたいなとは思ってますね。

■視聴者に感情の火を灯していくためには

――2021年は試される年になるわけですが、岸さんがキャスターとして大事にしていることは?

岸 まだ僕それがわかってなくて、ずっと模索中なんですよ。

――もがいている感じ?

岸 ここ2年ぐらいずっと悩んでるんです。「なんで俺は仕事ができているんだろう?」ってよく考えるんですよね。自分のポジションに対して「ゲーマー上がりの僕がこういう場にいてもいいのかな? アナウンサーに任せたほうがいいんじゃないか」と思うことだってあるんですよ。人に伝える仕事をする上で「感情を揺るがすものの正体って何なのかな?」とずっと考えてるんですけど、まだわからない。言葉を巧みに使ってなくても伝わるものは伝わるし、逆に思い切り伝えようと思って前のめりでは伝わらないこともある。歌がうまいイコール誰かに伝わる、ではないじゃないですか。歌が下手でも伝わるものは伝わる。自然に伝わるものを作るためには何が必要なのか。

 うまくいけばきっとできるだろうとは思ってるんですけど、どうやればできるかの仕組みがわからない。しかも人間って感受性もそれぞれで、同じことを視聴者に伝えても親切と受け取る人もいれば、うるさいと感じる人もいる。人に伝えるって自分の感情を誰かの感情に手渡す行為で、それは火を点けていくみたいなことだと思うんですけど、その火の点け方がわからなくてずっと悩んでますね。

――わからないからこそ、2021年もとにかく走り続けると。

岸 そうですね。長年パフォーマンスを続けている人の歌を聞いたりすると「こういう技術ってどこから生まれるんだろう?」と思ったりするし、ゲーム以外のジャンルにヒントがあるかもしれない。そういう表現の元にあるのはその人の人生なのか、何が背景にあるのか気にしながら見ててもわからない。

 いまはひとりの演者としてお仕事とお金はもらってますけど、僕と同じ出演料でこれぐらいの芸人さんや声優さんが呼べます、というのがなんとなく見えてくると、そういう人たちのレベルまで僕の実況もレベルを上げないといけないし、視聴者数を集めるパワーもなくちゃいけない。自分はまだまだ失敗も多いし、もっとやるべきことは多いなと思いますね。

――eスポーツも面白いんだけど、それもふくめて人生面白いんだなということを感じてそうですね。

岸 (力強く)うん。難しいですけどね。


後編へ続く