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「eスポーツな人」第2回 岸大河「いいことも悪いことも意外と見られてるんです」

 ゲームキャスターの岸大河さんを迎えたインタビュー、後編では当メディアの特色とも言える高校eスポーツに焦点を当ててオープンに語ってもらった。母校のeスポーツ学科で高校生を指導するという経験も経た岸さん。その彼自身はどんな高校生だったのか。eスポーツに関わることを将来志望する人たちへのアドバイスから、SNSとの付き合い方、プロとしてのキャリアを積み重ねる上で大事なことなど、高校eスポーツの当事者ならずとも胸に響くその言葉の数々に耳を傾けていきたい。

取材・文/野口智弘  写真/松嶋 優子

ゲームキャスターの岸大河さん

■eスポーツ先生、母校に帰る

――ここからは高校eスポーツを中心にお聞きしたいと思います。いきなりですが、岸さんの高校時代にeスポーツ部があったら入ると思いますか?

岸 うーん……すぐには入らないかもしれない(笑)。たぶん入るときは同時にほかのコミュニティにも入るでしょうね。地元のチームにも入るけど、クラブチームの練習にも参加するような。そうやって別のレイヤーにも関わっていくやり方はサッカーで学んだんですよ。もちろん部活動に入ったら楽しいし、学校で会えるメンバーと切磋琢磨できるとか、メリットはたくさんあると思いますけど、学校という括りが自分に合うかどうかはわからないじゃないですか。

――そういうアイデアは普通の高校生がなんとなく受け身でやっていると、なかなか思いつかないかもしれないですね。

岸 僕の選手としての歩み方が特殊だっただけかもしれないですけどね。そもそも僕の学生時代って、PCでオンラインゲームしていること自体がまだ恥ずかしかったんですよ。学校では自分のやりたいことを隠して、家でオンラインゲームにのめり込むという時代がついこの間まであったので、そこから脱却していることはうらやましいし、よかったと思います。

――先ほどサッカーの話が出ましたが、学生時代の課外活動の経験は?

岸 中学時代まではサッカーに打ち込んでいました。ただ、それもやめることになって「サッカーがなくなったら俺は何もないなあ」と自暴自棄になって、中学2年生ぐらいからゲームに走って。韓国産のMMORPG黎明期だったので『ラグナロクオンライン』とか。高校は定時制に行ったんですけど、演劇やアルバイトをやりつつ、そこからオンラインFPSにハマりましたね。その当時僕がやっていたのは『WarRock』です。

――『WarRock』では日本一(WarRock TGS2008公式大会 優勝)にもなってますね。

岸 その経験は大きかったですね。高校のほうは通信制でもあったので社会人もいましたし、芸能活動してる人もいたりとか、なんでもオッケーな環境でしたね。

――差し支えなければどこの学校ですか?

岸 クラーク(記念国際高等学校)です。その経緯があって、いまクラークの秋葉原校のeスポーツ学科で先生として登壇しています。

――高校生を教えてみてどうですか?

岸 まだ硬い感じはありますけど、僕もこういう高校生だったんだろうなと思いますね。僕が高校生のときにeスポーツの先生が来たとしたら、どうでもいい態度で流しちゃって後から後悔するタイプ(笑)。高校生ぐらいってやっぱり人に教わるより自分が強いと思いたいじゃないですか。ただゲームを知らない先生よりは、ゲーマーのお兄ちゃんとして親しみは持ってくれてるみたいです。

――教育実習の先生と仲良くなるみたいな。

岸 僕も偉そうなことは言えないですけど、さっき言った高校時代のことを話したりとかして。で、クラークって普通の公立高校に比べたらお金がかかってるんですよ。だから「みんながやってるのはゲームでしょ? お金をかけてゲームをしてるのはどういう意味かわかったほうがいい」という話をしたりとか。

――ちゃんと元を取らないともったいないよと。

岸 そう。だから厳しいというか現実的な話はしました。せっかくなら普通の高校の授業じゃ得られないものを提供したいなと思って、そういう話をするようにしています。あと学力も大事だと思っています。いいチームって学力も重視されるんですよ。僕がサッカーに打ち込んでいたときも成績は全メンバー監督に出してましたし、それを見て練習量や試合に出る出ないも決められて「お前しっかり勉強しないといい選手になれないぞ」みたいな話はされてたんで。両立は大変なんですけど5は取れなくても3は維持しとけというか、「ゲームだけだと人生が難しくなっちゃうんだよ」というのは重視されるべき部分だと思ってますね。

■高校のみでやるべきか、年齢制限でやるべきか

――今後高校eスポーツは高校野球のようなメジャーなものを目指すべきなのか、そうではない方向性を目指すべきなのか、その点はどう考えますか?

岸 難しいですよね。高校生が競う姿ってやっぱり高校野球みたいなイメージが強いと思うんです。でもその一方で高校eスポーツの課題ってプロへの道筋がまだはっきりしていない。学生スポーツってそこからプロになれるかどうかも重要じゃないですか。

――プロ野球みたいに高校3年生や大学生の選手をプロチームがドラフト会議で取るわけではないですからね。

岸 そうなんですよね。例えばサッカーだと学校以外にクラブチームもあって、ジュニア(小学生の部)、ジュニアユース(中学生の部)、ユース(高校生から20歳まで)、という組織作りがうまくいっているのでその後につながるんですけど、高校時代の部活動で完結しちゃうとプロになれるかわからない。あるいは逆に実力があれば、高校生の段階ですでにプロチームに入ってる可能性だってあるわけです。ただ、そういうプロ級の選手がいたとしても、高校単位だと自分だけうまくても勝ち上がっていけないでしょうから。

――じゃあ年齢制限だけ決めて、学校単位でもプロのユースチームでも垣根なしで戦える大会があってもいいかもしれない。

岸 いいと思います。サッカーだと高円宮杯は高体連(全国高等学校体育連盟)に所属する学校のチームとクラブチームと両方が入り交じる大会ですし、昔の天皇杯みたいにプロでも高校生でも出られる大会があれば、本当に強いeスポーツチームがわかりますよね。直接プロと戦えるチャンスにもなるかもしれないし、そこからプロへのスカウトがあるかもしれない。

 ただそうは言っても、“どこ高校”という看板を背負って戦う、昔ながらのストーリーがメディア映えするのも間違いないわけですよ。だから今のところは、ほかのスポーツの仕組みがeスポーツにそのまま使えるかどうかはわからない。現状に違和感がある人と、このまま伸ばしていこうと思っている人は両方いるでしょうし。僕は運営に直接関わってるわけじゃないので、偉そうに言うのは失礼ですけど、まだまだ検討の余地があるかも、とは思いますね。

■いい大人を見つけるために

――プロ選手でなくてもeスポーツに関わる仕事に就きたい若い人は増えていると思いますが、そういう人へのアドバイスはありますか?

岸 うーん、いい大人を見つけよう、ということですかね。信頼できる人かを見極める力もそうですし、大切なことを教えてもらってそれをエネルギーに変えていくことも、成績や勝ち負けに関わらず大事だと思ってます。信頼できるところとやり取りしないと、給料や待遇だけじゃなくて自分の評価も落ちたり、キャリアが短くなる可能性もありますよね。いきなりチームがなくなっちゃうこともあるかもしれない。

 僕も昔は人見知りだったんですけど、人見知りな分だけ「この人なら信頼できそう」とか「こういう考え方は面白いな」とかじっくり考えることができたと思います。あとはゲーム以外のところから情報を汲み取ってきて、いろいろ考えることで、結果的にいい方向に転がっていったのかなと思いますね。

 ぶっちゃけ高校生から二十歳ぐらいまでって多少粋がっても許してくれるわけですよ。その「許してもらえてるんだな」という自覚が大事ですよね。それを自覚できなければ成長は止まりますし、「あのときはごめんなさい」と後から言えるようになれば、それは成長だと思うんです。相手に面と向かって言えなくても、自分のなかで変わろうという原動力になれば成長ですよね。ゲーマーのキャリアじゃなくて、人としてのキャリアの部分で。

――プロゲーマーやeスポーツに限らず大切なことですね。

岸 失敗しないと身につかない部分もやっぱりあるんですよ。僕もいっぱい失敗は経験しましたし。でもいまのeスポーツ業界って成功している人もいれば、失敗している人もいる。意識さえすれば「この人はここがいいんだな」とか「この人はなんで失敗しても人気なんだろう?」とかいろんなケースを見れるんですよ。僕の頃はサンプルすらなくて、自分で突き進むしかなかったですけど、いまっていろんな観察ができるし、そういう意味でもすごくうらやましい環境ですね。

――岸さんにとってのいい大人を挙げるとしたら? 

岸 そうですねえ。でもいまのライゼストの代表の古澤(明仁)さんにはロジクール時代からすごくお世話になりましたね。ビジネスのこともしっかり考えてる人なんですけど、僕自身のキャリアをより伸ばしてくれた人だと感じています。古澤さんとロジクールのみなさんには一緒にいい経験をたくさんさせてもらったなと思いますね。

■「意外と見られてる」時代の空気の読み方

――観察のツールとしては、いまだとSNSや配信がありますよね。

岸 SNSでも配信でも大事なのは「意外と見られてるよ」ってことなんですよ。アカウントを消すことはできますけど、あとでごまかすぐらいなら最初からそういうことはしないほうがいい。ひとつひとつのつぶやきが誰かを傷つけるかもしれないし、結局自分の評価を下げるかもしれない。でも逆にうまく使えば誰かの評価も自分の評価も上げることができる。昔の失言を探して拾ってくる人もいれば、無名でもきちんと評価してくれる人もいる。そういうツールをどう活用するかは、どの選手にとっても必要なことですよね。

――優勝すると「通知が鳴り止まないです」みたいなこともあると聞きますね。

岸 SNSの使い方は自由でいいんですけど、一般人から有名人に変わった瞬間に届く範囲が広がるんですよね。そこに関しても有名人と関わることがあると「こういうことを意識してるんだな」とか「こういうことは言わないようにしているんだな」とか勉強になりますし。だからゲーム以外の部分で高校生に伝えたいことがあるとすれば、いろんな空気を読むことですかね。「空気を読まない発言をするな」ではなくて、この場はこういうところだからこうしたほうがいいよという空気。それって大きな試合でどうしても必要になってくるんですよ。

――黙っていれば減点は減らせるかもしれないけど、加点にはならないし。

岸 自分が出なきゃいけないときもあるし、逆に抑えなきゃいけないときもある。普段配信でしゃべっている人でも難しいんですよ。いつもは自分のペースでしゃべっていても、共演者がいると全然変わっちゃうんで。

――ひな壇芸人に求められるようなスキルがeスポーツでも必要になると。

岸 僕が共演した人だとアンガールズの田中(卓志)さんとか印象的でしたよね。前に出るときもいやらしくない出方をするし、ゲームも好きでしっかり予習してきてくれるから的外れなコメントをしないんですよ。選手への配慮もあって、場を盛り上げても選手が嫌がるいじり方は絶対しない。そういう見極めがすごく達者だし、共演者にも優しく接してしてくれる。人間性もふくめてタレントのある人のすごさを感じますよね。

――では最後に若い読者に向けたメッセージをお願いします。

岸 NTTドコモのeスポーツ参入の話もしましたけど、これからはそういう大手と並行して大学生からプロチームを立ち上げた「REJECT」とか、若手がどんどん起業してチームを作る文化にもなっていくと思うんですね。海外だとデヴィッド・ベッカムがプロチームを発足させたりとか、日本でもいずれ有名人がオーナーのチームも出てくるでしょう。今後もいろんな動きが起こるなかで「自分なら何ができるだろうか」とか「自分と同い年の人がこんなことまでやってる」とか、やりたいことが決まってない人でもいろんなものが見えてくる。その見えたものから刺激を受けてほしいなと思います。もっとがんばろうとか、違うことをしてみようとか、変化をエネルギーに変えていくために、自分の世界だけじゃなくてもっと横に広がっている世界を見ていけるといいんじゃないかと思います。僕自身もそういう横の世界から刺激を受けながら、一歩一歩積み重ねていきたいですね。

(了)

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