高校eスポーツニュース
2023.11.03
県立浦安高校パソコン部、eスポーツ活動スタートまでの奮闘記
- 高校eスポーツ
「やっとつながりました!」。秋口、編集部に一本の電話が入りました。2022年12月に取材した千葉県立浦安高等学校のパソコン同好会「クリエイティブサークル」が、学校でゲームをプレーできるようになったというのです。同校はASUS JAPAN(以下、ASUS)からゲーミングノートPCを貸与されて以来、eスポーツ活動の開始に向けたネットワークの整備に10カ月ほど奔走していたので、喜びもひとしおでした。
公立高校が校舎からゲームにアクセスするには高いハードルがあります。従来の教育向けに引いている回線ではフィルタリングが厳しく、ゲームのインストールすらできません。自治体や教育機関にアクセスの許可を申請しても、担当部署が分からずたらい回し。この難題を浦安高校はどのように乗り越えたのか。詳しい経緯や状況をうかがうべく、早速、取材に行ってきました。
↓↓以前の取材記事はこちら↓↓
千葉県立浦安高校でeスポーツ活動スタート! ASUSが強力サポート
https://esports.bcnretail.com/highschool/highschool-news/221225_000890.html
eスポーツができると思いきや
浦安高校のクリエイティブサークルは、プログラミングや動画編集、3Dモデル制作など“PCでできること”に個人やグループで取り組む部活です。eスポーツも活動内容として掲げていますが、「フィルタリングが厳しくて学校ではゲームができないので、家からオンラインで参加しています」と、副部長の藤本さんはこぼします。
そもそも同校がeスポーツを活動に取り入れようと動き始めたのは2022年12月。ASUSの試験的な取り組みである「高校eスポーツ部設立支援プロジェクト」に参加したことがきっかけです。eスポーツに興味があっても機材が足りない、といった課題を抱えた学校をASUSが支援する取り組みで、浦安高校には高性能なゲーミングノートPC 5台を貸与。同校はこれをもってeスポーツ活動を始める計画でした。
しかし、いざ貸与というタイミングになって初めて、学校からゲームにアクセスできない問題が浮上。ゲーミングノートPCを導入すれば活動を始めることができると考えていたため、すでに活動内容の紹介にeスポーツを入れていました。この問題は部活動にも大きな影響を与えました。部長の植田さんは、「eスポーツがあると言っていたのに学校ではできないから、と辞める部員もいました」と、当時の状況を寂しそうに振り返ります。
生徒がワイワイと部活に取り組む姿が見たい
そうした状況を変えるべく手を尽くしていたのが、クリエイティブサークル顧問の今井先生です。PC貸与の話がまとまった後にネットワークの問題に気が付いたため初動は少し遅れましたが、先行してeスポーツに取り組んでいる学校に話を聞くなどして情報収集を開始。集めた情報をもとに、教頭先生に相談しました。
教頭先生からは「県に問い合わせてみる」と回答がありました。ただ、いざ問い合わせても県にとってeスポーツは新しい分野で、関連するルールや取り扱い方がまだ定まっていません。ICT関係や財務関係など、どの部門で扱えばいいのかも分からず、「あっちに聞いて」「こっちに聞いて」のたらい回し。結局、「新たな回線を引くのであれば学校で決めていいですよ」となりました。ここまでで、すでに数カ月がかかっています。
その間、今井先生は生徒たちの情熱や、これから必ずメジャーになっていくので今からはじめておいたほうがいいなど、「どれだけeスポーツが必要か」という情報を集めては教頭先生に託していました。「家からでもeスポーツに参加できるかもしれませんが、私は生徒たちがオフラインで集まって、顔を合わせながら試行錯誤して、目標に向けて一生懸命に取り組むことができる環境を用意したかったんです。みんなでワイワイしている姿が見たいです」(今井先生)。
学校に判断を委ねられてからは、学校の財務を担当する事務長を、教頭先生に伝えたものと同様の情報で説得。値段が高くなければ大丈夫という話になりました。
今井先生は新たな回線を引くための値段を調べようとさまざまな通信会社に問い合わせましたが、各社が提供しているのはマンションか戸建て向けの2種類。学校はマンションではないのでマンションタイプの回線を引くことができず、戸建てとして扱っても部室のある4階以上は近くの電線からは届かず対象外。手詰まりかと思われました。
そこで同校に教員用スマートフォンを提供しているNTTドコモに相談すると、部室のはす向かいにあるサーバールームまできている光回線を利用する方法を提案されました。サーバールームから活動拠点のパソコンルームに回線を延伸しようと画策しましたが、学校の壁が物理的に厚く断念。サーバールームにモデムを設置する形なら工事費は0円とのことで、無事に回線開通のめどが立ちました。
ようやくゲームにアクセスできるかと思われましたが、ここでさらに課題が浮上。生徒たちが有害なサイトなどにアクセスしないよう防止するフィルタリングが整備されていませんでした。
再び、eスポーツ部支援に取り組んでいるASUSに相談。フィルタリングができるルータについて問い合わせたところ、「ピッタリのモノがあります」と出てきたのがゲーミングWi-Fiルータ「ROG Rapture GT-AX6000」。同社のゲーミングモデルの中でも上から2番目のハイエンドモデルでした。
「ROG Rapture GT-AX6000」は、Wi-Fi 6(802.11ax)に対応し、4804+1148Mbpsの高速接続が可能なルータ。有線接続用の端子には2.5G対応デュアルネットワークポートを備えるほか、無線の送受信は2.4GHz帯を4×4、5GHz帯を4×4搭載。ゲームへの接続に特化した機能もあり、学校ではこれ以上を望む余地がない高スペックです。
高い性能は学校にとってありがたいことですが、決め手になったのはやはりフィルタリング機能とセキュリティでした。同製品は無料のペアレンタルコントロール機能を備え、不適切なコンテンツに対するフィルター設定が可能。ウイルス対策ソフト大手のトレンドマイクロによる強力なサイバーセキュリティサービスと、クラウドデータセンターを活用したビジネスレベルのセキュリティを備えています。
ROG Rapture GT-AX6000を導入し、ASUSがフィルタリングを設定したことで最後の課題をクリア。23年10月下旬、クリエイティブサークルはついにeスポーツの活動を開始することができました。
自由なネット環境で開ける未来
今井先生は、「ようやくつながるようになりました。22年末、いざPCを貸与していただくというタイミングで、ゲームにアクセスできない問題に気がついて動き出したので、ずいぶん遅くなってしまいました。ついに本格的にeスポーツに取り組むことができます」と安堵していました。
部活の際は、活動時間だけサーバールームから長いLANケーブルを引いてパソコンルームにルーターを移動し、部長もしくは副部長が電源を入れる体制で運用します。なお、サーバールームに設置したまま試してみたところ、驚いたことに、学校の分厚い鉄筋コンクリートの壁を貫通したうえでVALORANTをほぼ問題なくプレーできるほど、強力で安定した無線接続を実現していました。とはいえ全く問題ないわけではないので、本来のスペックを十分に引き出すためにも、活動場所の近くにルーターを設置して活動するとのことでした。
これまでは動画制作に注力していた副部長の斉藤さんは、「学校でeスポーツができるなら、やってみたいと思っていたんです。家からオンラインで集まって活動しているのは知っていましたが、私の家にはPCがなかったので参加できず、学校でゲームについて楽しそうに話す様子を見ているしかありませんでした。ストリーマーの配信は見ているので、前から興味はあったんです」と期待します。
部長の植田さんも「オンラインでプレーするより近くで集まってプレーしたくて、回線を引きたいとずっと思っていました。部員は19人ほどいて、半数以上はeスポーツに期待して入部しているので、これで部活がにぎやかになりそうです」と話します。
eスポーツ以外にも、「個人で取り組んでいるMMD動画も、これまではフィルタリングが厳しくて入手できなかった素材やソフトを使うことができるようになるので楽しみです」(植田さん)。「学校からYouTubeで配信してみたいです。日常やイベントを配信して、学校のことを知ってもらうきっかけになれば」(藤本さん)。
自由と責任
学校にある従来の回線よりも自由なネット環境は、フィルタリングがあるとはいえ、使い方を誤ると個人情報の漏えいなどのリスクが生まれます。学校の信頼を損なう事態になれば、自由に使うことができなくなる可能性もあるでしょう。そうした事態にならないよう、クリエイティブサークルではフィルタリングだけに頼ることなく、リテラシー教育にも力を入れています。
藤本さんは、「ネットリテラシーについては授業でも習ったんですが、さらっと言ったことや気軽に載せた写真から、住所だったり、顔だったりが特定されてしまう危険があります。特にSNSでは、そのあたりに気をつけています」。
植田さんは、「情報モラルやネットリテラシーは常識的に考えても必要だと思うので気をつけています。不審なソフトは開かない、ウイルスに感染しましたなどの文章がウェブ上で表示されたら触らない、マカフィーなどのセキュリティに専門で取り組んでいるところ以外は信用しないなど。とにかく分からないものは全部無視し、ブロックして対策しています。以前、姉がX(旧Twitter)で知らない人と交流している中で脅迫などがあり、警察沙汰に発展したことがあるので、二の舞になってはいけないということで気をつけています」。
斎藤さんは、「もともと対策はあまりしていなくて、インスタグラムを鍵付きアカウントで利用しているくらいでした。でも今は、個人情報は出さないようにしていますし、フリーWi-Fiが危ないということも学んだので、むやみに知らないネットワークにつなげない、今いる場所とかをSNSにあげると居場所が分かるので、あげないようにするなど気をつけています」。
部長と副部長から三者三様の答えが返ってくるほど、しっかりと叩き込まれていました。また、まだリテラシー教育が万全ではない新入生が増える4月、5月は、セキュリティの観点からゲーミングノートPCをあまり表に出さないで活動をしていたほか、使っていない時はクリエイティブサークルのメンバー以外が触ることのないよう厳重に保管していると言います。
今いる部員は自由なネット環境を獲得するまでの経緯や苦難を知っており、ありがたさから丁寧に扱うでしょう。しかし、来年度以降の新入部員たちはこの環境が当たり前になってしまいます。気の緩みから生まれるミスなどで信頼を損なうことにならないよう、ルールづくりや心構えの継承が必要です。公立高校の教員は3~5年で異動になってしまうので、黎明期を支えている今井先生が在籍している間が最大のチャンスです。
さらに、今回貸与されているゲーミングノートPCは試用品だったので、安定した動作がいつまで続くか分かりません。機材の替えがない状況で故障などがあった場合、活動に支障が出てしまいます。学校の規定により、部費が出るようになるのは約2年後。たとえ部費があったとしてもゲーミングPCは高額なので、購入できるかわかりません。必要になったときに対処できるよう備えておくことも、今後の課題として残ります。
生徒と先生の情熱がカギ
同校のeスポーツに関する活動としては、すでに「STAGE:0 2023」のフォートナイト部門とVALORANT部門に出場していました。その際も学校からはアクセスできないため集まっての練習はできず、オンラインでも参加率はいまいち。結果、いずれも初戦で惨敗しました。たとえ学校で本格的に活動を始められなかったとしても、大会に出るほどeスポーツに対する情熱を持っているのです。
今後は顔をあわせて、密にコミュニケーションを取りながら練習できるので、11月に予選を控えた「NASEF JAPAN 全日本高校eスポーツ選手権」では前回以上の活躍を目指します。
浦安高校のケースでは、上記のような生徒の情熱と先生の生徒を思う気持ちが縁を手繰り寄せて、eスポーツ活動の開始につながりました。自治体によって対応は異なるかもしれませんが、eスポーツはどの自治体にとっても新しい分野であることは事実です。現段階では根気強く説明していくことが最短ルートになっています。
しかし、教員は度々話題になるほど多忙です。すべてのケースで今回のような取り組みが奏功するとは限りません。特に公立高校で生徒の新たな活躍の場としてeスポーツを広げるには、自治体側の理解や歩み寄りが不可欠。浦安高校のようなケースを“特殊なケース”として扱うのではなく、実例として蓄積することができれば、ほかにeスポーツ部を設置したい学校が現れた際に、実現に向けて動きやすくなりそうです。
eスポーツは、チーム戦に欠かせないコミュニケーション能力の向上や、ゲームをきっかけとした不登校の改善などが期待されています。ほかにも、PCの操作に慣れたり、スペックや仕様について知識をつけたりと、将来の選択肢を広げることもできます。ゲームへの情熱を将来につなげることができるeスポーツを、活用しない手はないはずです。(BCN・南雲 亮平)
書いた人
南雲 亮平
一児のパパ。生まれて初めてプレーしたゲームはマリオカート64。中学生の頃、アーマードコアに熱中。このほか、アクションやRPG、シューティングを中心にさまざまなゲームが大好き。FF14ではガンブレイカー。
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外部リンク
千葉県立浦安高等学校
https://cms1.chiba-c.ed.jp/urayasu-h/
ROG - ASUS
https://rog.asus.com/jp/
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