高校eスポーツ探訪

2024.08.02

eスポーツが学校生活の活力に 立正大淞南eスポーツ部「GEEK JAM」 ランクイモータルのプロ志望も入部!? 部員インタビュー

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 【高校eスポーツ探訪・21】6月5日に、米公立高校のフォーサイスアカデミーと教育的eスポーツの活用で友好関係を結び話題を集めた島根県の立正大学淞南高等学校。その際、セレモニーを運営した同校のeスポーツ部は全日本高校eスポーツ選手権(全国高校eスポーツ選手権)で3年連続のベスト16入りを果たすなど、その実力も確かなもの。Xでも頻繁に情報発信を続けている同部活動を取材しました。(取材・文/寺澤 克)(取材日:2024年6月5日)

全日制としては充実の設備群 ゲーミングPCは地元企業などからの寄付も

 立正大学淞南高等学校は、JR松江駅からバスで20分ほどの場所にあります。国宝に指定されている神魂(かもす)神社を横切って校門をくぐり、坂を上ると校舎が見えてきます。

バス停から降りて田園風景の中を歩く
校門前

坂を上りきると一気に視界が開ける。
校舎の奥には野球部、サッカー部、射撃部のグラウンドが
それぞれ整備されている。いずれも強豪の部活動だ


 学校の敷地内にも「出雲大神宮」という非常に長い歴史を持つ神社があるなど、独特の雰囲気がある淞南高校。セレモニーが行われた体育館のステージには、鳥居とお社があるのにはびっくりしました。

セレモニー時の写真。登壇者の後ろには鳥居とお社


 その体育館の二階に上がるとeスポーツ部の部室があります。

階段の途中には、eスポーツ部の実績を称える横断幕が並ぶ


 ドアを開けると、そこにはたくさんのゲーミングチェアとゲーミングPCが並び、まるでゲーミングカフェのようなスペースが広がっています。ゲーミングPCはデスクトップが11台、ノートPCが2台と充実した環境で、学校による自費購入以外に、地元企業からの寄付などによって用意されたものも含まれています。地域に支えられながら活動を続けています。

ゲーミングPCのほかに、PS5などの家庭用ゲーム機も完備。
アーケードコントローラーなどもあるほか、
CPUの箱が積まれているなど、eスポーツ感満載な部室
同部のチーム名「GEEK JAM」(愉快なオタク)の
エンブレムも掲示されている。
ちなみにGEEKは社交的なオタクの意


 なお、別室には、レーシングシミュレーターもあり、わざわざ他の部活動と兼部してまで、利用する生徒もいるのだとか。

取材時は、調整中で使用不可だった
シミュレーター稼働時の写真

第二部室「ESPORTS COZY NOOK ROOM」も完成!

 そして、この取材の後、同eスポーツ部の第二部室「ESPORTS COZY NOOK ROOM」が完成したことを顧問の畑山友朗先生から聞きました。中の様子も写真で見せてもらい、照明や内装にもこだわっていることが伝わってきました。先ほどのシミュレーターもしっかりと場所を用意し、レイアウトされています。ちなみに部室の名前は和訳すると「居心地のよい隅っこ部屋」という意味。

ESPORTS COZY NOOK ROOM内のようす
(画像は顧問の畑山先生から提供)

イベント活動にも全力! 参加者とも交流を深める愉快なオタク集団

GEEK JAMのみなさん


 まずはeスポーツ部を代表して部長を務める村中良光さんに普段の活動内容について話を聞いてみました。

部長の村中さんはeスポーツ部唯一の3年生


──部活動について教えてください。

村中さん(以下敬称略) 立正大学淞南高等学校eスポーツ部は2021年に創部しました。eスポーツ大会への出場はもちろん、イベントの企画・運営などにも取り組んでいます。

──活動時間について。

村中 平日は5日間すべて、放課後から19時ぐらいまで活動しています。土曜日は9~13時で活動して練習などに励んでいます。日曜日は大会などがなければ基本的にお休みです。

──今取り組んでいるタイトルは。

村中 フォートナイトとVALORANT、大会の競技種目にも数多く採用されているこの2タイトルを今は集中的に練習しています。

──部活動の特徴は。

村中 eスポーツ部と言えば、一般的にはeスポーツの大会を意識して、日々練習などの活動に励んでいるかと思います。それは私たちもそうです。

 ただ、ちょっと他と違うのは大会と同じくらい、イベントへの参加や運営にも重点を置いているところでしょうか。

──これまでのイベントの活動について。

村中 校内で大規模なeスポーツ創部式典を開催したり、他校とオンラインで対戦したり、さらにはeスポーツとゴミ拾いを掛け合わせたSDGsイベント「eスポGOMI」に参加したりと、さまざまなものに参加、時には自ら企画したりしています。

eスポGOMI参加時


 小中学生を対象にしたeスポーツ体験会を開催し、eスポーツに親しむ仲間を増やす取り組みなども行っています。僕たちは、子ども達にゲームのプレー方法やコツをレクチャーするなどして交流を深めています。

小中学生向けの体験会のようす


村中 他のイベントに応援スタッフとして参加することもあります。くにびきメッセで行われたeスポーツイベントでは、地元企業からの依頼があり、裏方スタッフとして参加しました。来場者が楽しめるよう運営サポートにあたりました。

裏方スタッフとして参加することも


 2023年の春には、ロケットリーグを競技タイトルにしたチャリティ大会を開催しました。運営なども生徒が行い、YouTubeでも配信しました。イベント全体で110万円ほどの募金が集まり、全国11カ所の児童福祉施設に寄付することができました。県内では、松江市緑が丘養護学校にNintendo Switchなどのゲーム機を寄付することができました。

チャリティーイベントでは運営を部員が行った


──イベントの取り組みで大切にしていることは何ですか。

村中 そこでしか会えないイベントのゲストの方、プレースキルの高い人、なかなか普段会えない他校の人、そして高齢者の方や子ども達など、いろいろな人がイベントに来場したり、一緒に運営していたりする。そういった方々との交流の機会を大切にしています。さまざまな人との交流、これは部活動の目的の一つでもあります。そこから、お互いを高め合える仲間が生まれたり、さらに深い関わりを持つことになったりすることもあるんですよね。

現役部員の声

 淞南高校eスポーツ部には、7月現在11人の生徒が在籍しています。取材時に部室で活動していた一部の部員に入部の理由や実際に活動してみての感想などを聞いてみました。

プロ志望も入部!今年度入部の1年生にインタビュー

左から田中さん、辻さん、春日さん、三好さん


田中 光輝さん 僕が通っていた中学校に淞南高校の先生方が説明に来られたんですよね。そこでeスポーツ部の存在を知って、ちょっと興味があったから入ろうかなって。環境が良いですよね。ゲーミングPCも充実しているし、デバイスもいろいろあるから。雰囲気も良くて、これからの大会を目標にして日々練習していきたいと思います。

辻 七音さん 元々ゲームは好きなんですが、いつも一人で遊んでいたので、みんなと楽しくゲームに打ち込めて楽しめる、そんな環境が欲しくてここを見つけました。特に僕はマニアックなデバイス関係が好きで、実際に入部してみるとPCを一から組み立てるような機会もありました。みんなで協力しながら楽しく組み立てたのですが、まだまだ知らないことも多いんだなと思い、わくわくしました。

春日 龍乃介さん 僕はフォートナイトが得意なので、その強みを生かせる学校に入りたいと思っていました。設備も充実しており両親の勧めもあったから、この部活動に入るために入学しました。実際に入ってみるとやっぱり楽しいです。好きなゲームをできるのはもちろんですが、友達とお互いに高め合いながら実力を伸ばせているなと実感しています。

三好 耕友さん 自分はプロを目指しているので、どれが一番近道なのかなって考えた時に、この高校を見つけて入学しました。中学までは卓球をやっていてそれを続けようかなと思っていたんですが、好きなことじゃないと続かないし、せっかくの3年間だからってeスポーツ部に入りました。得意なタイトルはVALORANTで、最近ランクはイモータルになりました。これからも日々練習を積み重ねてプロになりたいです。

「配信が好き!」な人も活躍できる 2年生部員にインタビュー

奥野さん


奥野 友梨亜さん もともと兄の影響でゲームが好きになりました。ここには、イベントの運営などを通してコミュニケーション能力を付けたいと思って入部しました。ちなみに、兄が好きだったのがレインボーシックスシージというFPSゲームだったんですが、私はどちらかというとストリーマーのプレーを見たりするのが好きです。

 最初は人と話すのも苦手だったんですが、入ってからはイベントもたくさんあって、こうして受け答えができるまでになりました。今はまだ先生や先輩方に頼ることも多いんですが、それを全部自分でこなせるように、他の部員が困っていたら助けられるような、縁の下の力持ちになりたいです。

 そして、今はOBS Studioの勉強をしています。配信とかもそうですが、PCに関する技術ってこの先必要になるので、この部活で培ったものが将来につながればいいなと思っています。

不登校からeスポーツ部に 特進クラスに編入し将来も考えるまでに

アケコンでスト6を楽しむ村中さん


 最後に改めて部長の村中さんにも話を聞くと「自分は中学では不登校だった」と語ります。いままで取材にも慣れたような受け答えをしていたので驚きです。

村中さん 中学の頃に進路を考えた時、ここ淞南高校と、地元から通える夜間学校と迷ったこともあったんですよ。実際に見学に来た時にeスポーツ部も見させてもらって淞南高校に進学を決めました。

 寮生活になり、料理できるか、朝起きられるかとか不安はあったんですが、みんなで一緒に登校するので、もうそういう心配がなくなって今では毎日が楽しいです。

 学校生活が楽しくなるにつれて、勉強をもっと頑張りたいという気持ちも芽生えました。1年生の3学期からは、編入試験を経て特進クラスに入りました。将来は大学に進学してeスポーツに関係する仕事やイベントに参画できるような職に就きたいと思っています。

【取材の終わりに】eスポーツは生徒たちの目標になりうるし、成長を促すもの

 取材の終わりに畑山先生は「なんとなく学校に行けなくなり不登校になってしまうケースもある」と語ります。それに対してeスポーツは生徒の目標にもなり、効果的な面も多いのだそう。確かに村中さんの例を考えると、勉強も部活も楽しもうという活力が生まれるきっかけは、eスポーツにありました。

 eスポーツの教育的活用について先進的な取り組みを続けている立正大淞南高校。特にeスポーツ部はゲームプレーだけでなく、イベントへの参加や企画運営にも力を入れていることが特徴です。eスポーツに取り組むことが、部員たちの成長につながっている。それがインタビューを通してよく感じられました。

 淞南高校eスポーツ部では最近、部室を一般に開放してeスポーツを体験してもらうユニークなイベントを定期開催しています。確かに島根県にはこれだけの設備を備えた場所はそう多くはないでしょうし、部室を一般開放するという取り組みもあまり前例がありません。過去にはチャリティーイベントを開いたほどの組織力もある同校eスポーツ部の今後の活躍にも要注目です。

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外部リンク

立正大淞南eスポーツ部
https://www.shonangakuen-h.ed.jp/club/e%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%84%E9%83%A8/

立正大淞南eスポーツ部 X公式
https://esports.bcnretail.com/highschool/highschool-news/240607_005262.html

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