高校eスポーツ探訪
2020.10.16
eスポーツで長所を伸ばし、人間力を身に付けてほしい 岡山共生高等学校 eスポーツ部
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【高校eスポーツ探訪・4】 大会やイベントが次々と開催され注目を集めている高校生のeスポーツ活動。部活を立ち上げる学校も増え、徐々に活性化しつつある。今後の進路はそれぞれだが、eスポーツファンであることは間違いない。そんなeスポーツの明日を担う若者の今を追いかけ、明日を占う連載が「高校eスポーツ探訪」だ。
第4回は、岡山共生高等学校 eスポーツ部の活動を取材した。
岡山県共生高等学校は、岡山県 新見市に位置する私立高校だ。昭和25年に“自立する近代女性の養成”を目的に開設された「裁縫塾」を母体とし、女子高時代を経て平成8年に男女共学になった。建学の精神は「天与の才能を伸ばす」。学科は普通科のみで、1学年の定員は80名と小規模。総合進学、生活アレンジ、メディア情報、スポーツ科学の4コースを設置している。
同校のeスポーツ部は、2014年にその原型となるeスポーツ同好会の設立に端を発する。そのきっかけは、eスポーツ部顧問を務める柴原先生が、日本の生徒と海外留学生とのコミュニケーションを深める手段として、中国人留学生がプレーしていた「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」を休日などに共に楽しめるよう、同好会の設立を支援した。同好会の設立の中心メンバーで、当時、生徒会の副会長を務めていたのが、“赤バフ”として知られる佐倉涼太君の兄である。
「その後、2018年に彼(赤バフ)が入学。その年の夏にeスポーツ選手権開催に向けた会議にオブザーバーとして呼ばれた。彼が選手権に学校としても参加したいと訴えたことから、私の方で学校に掛け合ったところ、理事長の判断で9月に正式に部として認められ、活動がスタートした」と部の顧問を務める柴原先生は経緯を語る。
なお、同校にはメディア情報コースに「eスポーツ専攻」があり、それを目的に入学している生徒も多い。現在、部員数は27人で、うち5人が留学生だ。同校もeスポーツ部新設には「eスポーツ部 発足支援プログラム」を利用した。
部室にはプログラムから貸与された5台のゲーミングPCがあるが、部員の多くは個人でもゲーミングPCを所有している。特に、eスポーツをすることをモチベーションに入学してきた1年生は全員がゲーミングPCを所有する。
練習は週に3?4日だが、自主練習時間も設けている。活動は、部室とeスポーツ専攻が利用する情報処理室の2カ所。輪番制でプレーするゲームを変えたり、メンバーを交代している。力を入れている競技は「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」と「フォートナイト」。今年の「STAGE:0」には、27名の部員のうち大会には25名が出場予定。LoLに3チーム、フォートナイトに4チームが出場した。
第1回全国高校eスポーツ選手権の準優勝など輝かしい成績を残す同校だが、今は、赤バフ選手が卒業し、チームメンバーも3年生で構成していたことから主力が抜けてゼロからのスタートだという。コーチは、かつて同好会設立の中心メンバーだった赤バフ選手の兄が、仕事に合間に週2回程度務めている。
バスケ部の顧問も兼任する柴原先生は、「私がすべてを教えられるわけではない。立場としてはプロデューサーと言わせてもらっている。困ればネット上に情報があるので、問題の解決の仕方を教えている」と話す。
学校間の交流も盛んで、練習試合や情報交換も頻繁におこなっている。かなりフラットなつながりができているのが、高校eスポーツの特長だという。
ゲームに長けた留学生も多ければ良いというものではない。チームゲームはメンバー同士の連携がなければ、良いプレーにつながらないためだ。「eスポーツを通じての教育、人間形成を第一に考えている。その点、留学生とのプレーは、ゲームを通じた文化交流にもなっている」という。なお、遊びと部活との違いは、モチベーションに現れるそうだ。
「他人の目を意識したり、取材を受けることで、時間厳守、時間管理がしっかりしてくる。チームワークの大切さも知る。それにより話し方や人との接し方など、コミュニケーションが変わってくる」(柴原先生)。
実は、プレー中に暴言を吐くと、パフォーマンスが低下することがデータで分かっている。本人だけでなく、それを見たチームメイトのパフォーマンスにも影響するため、悪態が出ると罰則として部の掃除が課せられる。一方、自分の活動が認められることで、生活態度が良くなり、勉強にも前向きになり、成績も上がったという例も多数あるという。
eスポーツ部を目的に入学したという生徒に話を聞くと「部活で自分も変わった」と話す。「eスポーツを通じての友達も増えましたし、何より、我慢強くなりました。部活では、自分のミスがチーム全体に及ぶので緊張すますし、責任も感じます。練習試合は何度かしていますが、相手が強いとミスも増える。それが勉強になっています」LoLをはじめて3?4カ月というが、目標は今年の「STAGE:0」での優勝だ。
同校は、eスポーツの啓蒙活動にも積極的だ。例えば、フォートナイト熱が小中学生の間で非常に高まっている。それが高じ、コロナ禍でゲーム依存症になった生徒も出たことから、地元でプレイを禁止した中学もある。そこで、依存症にならず、また、単なるゲーム好きだけで終わることがないよう、大学の先生とも連携して心と体のケアに配慮するとともに、eスポーツのアスリートを目指そうという取り組みを計画している。
「島根大学の健康科学系の先生ともやり取りしているが、ゲーム開始前に20分ほど体を動かすことで、ゲームの成績が高まったという実証データもある。また、当校の生徒のデータ分析からも、強くなればなるほどゲーム依存の傾向は低くなるという結果が出ている」と柴原先生。
こうしたデータを広く世の中に発信するなどの啓蒙活動を通じて、各高校のeスポーツへの参入障壁を少しでも下げ、全国に仲間を増やしていきたいという。
最後に、eスポーツ部の活動から学んでもらいたいことを聞いた。「普通科の学校は、練習時間を考えると通信制の学校にはとても勝てない。たとえ、eスポーツのプロになれなくても、アスリートとして社会人としてのしっかりしたマナーを身に付けてほしい。また、eスポーツを通じて学んだことで自分の長所を伸ばし、人間力、つまり世の中で生きていく力をしっかり身に付けていってほしい」(柴原先生)。