インタビュー

2022.12.17

eスポーツがもたらした若者支援の変化と全国に広がる取り組み NPO法人サンカクシャ 後編

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 若者を夢中にさせる一方、いまだ賛否両論が渦巻くeスポーツという存在。これまで悪者扱いされてきたeスポーツですが、徐々にその扱いに変化が訪れています。15?25歳の若者支援に注力するNPO法人サンカクシャは新たにeスポーツ事業を立ち上げ、eスポーツを若者支援のための新たなツールとして取り入れました。後編ではそんなサンカクシャがeスポーツをどのように捉え、どのように広げていくのかを探ります。(取材・文/銭 君毅)

*前編=eスポーツがつなぐ新たな若者支援の輪 NPO法人サンカクシャ 前編

ゲームに始まりゲームに終わらない

 ここ最近、eスポーツの存在は徐々に世間から認められるようになってきました。しかし、必ずしも好意的な意見ばかりではありません。ゲーム脳の存在や結局は遊びであるという側面からいまだ白い目で見られる瞬間が少なからずあります。そんなeスポーツの存在について荒井さんは「世間の厳しい目っていうのは半分あっているし半分間違っていると思います」と指摘します。「やっぱり生活リズムが乱れるのは私自身が実感していますし、暴言などのよくないコミュニケーションが起こりやすいという面もあります。ただ、団体の見解としてはつながるツールとしては良いっていうのは間違いなくありますね」と強調します。

 また、eスポーツでつながった若者が必ずしもeスポーツにはまりすぎているかというとそうでもないのだとか。「ゲームを一緒にやって見ている限り、ゲームにはまるというよりかは人間関係の方に面白みを感じる子の方が多いなと思っています。サンカクキチのような居場所に来たりとか、人とのつながりを求めたりとかそれこそ仕事の話とかに切り替わっていったりとか。そういった形になっていくのが健全かなって思っていて、ゲームだけで終始しないっていうのはすごく大事にしているところです」。

 人間はだれしも誰かとつながっていたいと多少なりとも思っているもの。サンカクシャへ問い合わせをする若者たちは、家族に甘えることができなかったり、友人を上手く作れなかった経験を持つことが多いためか、ゲームをきっかけにつながったとしても人との接触を優先するようになる傾向があるようです。「ゲームはあくまでつながるきっかけとして、つながったあとは安心できる場や話せる相手、信頼できる大人を見つけてほしい」と語る荒井さんからは、若者たちの行く先を案じる想いが感じ取れます。

eスポーツは硬いNPOの印象を柔くする

 一方で、ゲームによる接点を大切にしているとはいえ、プロチームまでをも立ち上げるのは少し飛躍しているようにも見て取れます。近年はさまざまな企業や団体がeスポーツ事業に乗り出してきましが、eスポーツチームを立ち上げ運営していくとなると話は別です。拠点が必要になるだけでなく、選手の給与やスケジュール管理、練習環境の整備といったさまざまな要素が必須となるため、ただeスポーツ事業を始めることよりハードルが高いといえます。

 それでも、サンカクシャはeスポーツチーム「OWLRISE」を立ち上げ、APEX部門のプロチームは実際に大会へと出場しています。10月に開催されたApex Legends Global Series(ALGS)プレシーズンでは決勝8位まで食い込む実績を残しました。

サンカクキチ内のPCスペースの様子

 プロチームをを立ち上げたことについて荒井さんは「正直に言って趣味に近いかもしれません」と笑います。「プロチームの選手はうまい人たちばかりなので若者とかに教えてもらいたいとは思いますが、彼らは彼らで競技シーンが始まればそっちに集中して欲しいというところもあります。あんまり若者と関わるところに巻き込み過ぎたくはなくて、そこの両立の難しさは感じています」とのこと。

 ただ、現時点では若者支援とプロチームの直接的な接触は少ない一方、荒井さんも想定していなかったサンカクシャの団体としての変化があったとか。荒井さんは「サンカクシャのイメージが若者にちょっと寄ったなっていう感覚があって、相談しやすくなったんじゃないかなって思います。いわゆる普通のNPOって、敷居が高そうとか堅そうとか、深刻な感じがしちゃうじゃないですか。でもeスポーツチームをやっていたり、eスポーツ施設を持っていたりするとなんか相談のハードルが下がるんじゃないかなと思っていて、そういう団体のイメージを変えてくれたところは大きい」と振り返ります。

 もともとの目論見としては、チームが勝ち進むことによってそこからサンカクシャへの問い合わせを増やすことを考えていたそうですが、それよりもサンカクシャ自体がより若者に知られていく必要性を実感したのだといいます。

全国のNPOに広がるeスポーツの火

 サンカクシャでは、eスポーツを取り入れたことによってゲームが一つのツールとして役に立つことを認識したと同時に、ゲーム以外の手法による若者向けの情報発信が重要になることを感じたとか。これまでは行政などの紹介を中心に活動していた方針を転換し、自ら若者向けの情報発信をしていくことで行政がキャッチできない層まで支援の手を広げていく考え。具体的にはYouTubeを活用した発信を想定しており、ゲームに限らないコンテンツで若者からの知名度を高めていくとか。

 なかでも、現在支援を受けている若者たちからYouTubeチームを編成し情報発信の戦力になってもらうことも検討しているといいます。荒井さんは「外の人よりも若者たちにチームに入ってもらった方が意思疎通は図れますし、サンカクシャのいいところには詳しいですから。YouTube班みたいな形でそこそこのアルバイト代とかも出せたらいいんじゃないかと思っています」と語ります。

 一方でeスポーツ関連の取り組みもより発展させていく予定です。23年1月には近くのNPO団体を集めた団体対抗のeスポーツ大会を開催する計画も立てているとか。

 また、サンカクシャがeスポーツ事業を立ち上げたことで似たような動きが増えてきているようで、荒井さんは「半分気のせいかもしれませんが、eスポーツのクラブを作ったり、eスポーツ大会を開いたりと他のNPO団体もeスポーツに乗り込んできている感じがしていて、このまま全国各地に増えるだろうと思います」と予想します。

 「現在も全国でゲームが好きな若者たちから問い合わせが来るんですが、オンラインだけでは難しい部分があります。対面の場と関係性ってとても大事で、サンカクシャがオンラインで抱えるよりも、地元のeスポーツに取り組んでいるNPO団体とつながった方がいいと思います」。

 サンカクシャは、まさにNPO団体におけるeスポーツ事業立ち上げの火付け役になったともいえそうですが、東京豊島区から始まったeスポーツによる若者支援の輪が全国のどこまで燃え広がっていくのか、注目が集まりそうです。

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■外部リンク

特定非営利法人サンカクシャ=https://www.sankakusha.or.jp/

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