インタビュー
2025.06.16
「何者かになろう」とするのではなく「本当に面白いと思えること」に目を向ける──オムナオトさんに聞く学生時代とキャリア
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練習を重ねた選手たちが熱い試合を繰り広げ、たくさんの観客が熱狂するeスポーツシーンは、さまざまな人によって支えられています。連載企画「ゲームの進路相談室」では、そんな“eスポーツに関わる職業”と“その職業に就いた経緯”を紹介。将来の仕事をぼんやり考えるきっかけとなることを目指します。
今回は、YouTubeや配信を通じて、独自のスタイルでeスポーツ文化に切り込む実況者・オムナオトさん(以下、敬称略)にインタビュー。現在の活動に至るまでの経緯や、学生時代の経験がどう仕事に活かされているのかを聞きました。最後に「eスポーツを頑張る学生へのメッセージ」もあります!
(取材・文/松永 華佳 編集/小川 翔太)

選手をやめて実況へ「これもゲームの楽しみ方」
──現在の活動について教えてください。
オムナオト 今は、スマブラを中心としたeスポーツシーンで実況や解説を行っています。大会の実況だけでなく、動画や配信など、さまざまなチャンネルなどを通じてゲームを深堀りしています。
特に意識しているのは、「選手が聞いたときに納得できる実況・解説」をすることです。画面だけでは捉えづらいプレイヤーの複雑な操作や駆け引きの意図を紐解き、勝負の熱さを伝えることで、最終的には見ている人にも選手の凄さを知ってもらえると考えています。
最近では、ほかタイトルのオフライン大会にも興味を持っています。実況だけでなく運営との連携や司会進行など、新たなことにも挑戦しようと思っています。いつか自分の存在が、選手と観客をつなぐ架け橋になれたら嬉しいですね。
──元々学生時代から実況者を目指していたのでしょうか。
オムナオト いえ、元々はスマブラのプレイヤーとして活動していました。負けず嫌いなもので、ゲームの持つ「勝負事」の側面にも興味があったのですが、若くから思い入れのあるゲームタイトルだったので、どちらかといえば「ゲームの持つ魅力そのもの」に関心がありました。ある時、実況の世界に触れて「プレイするだけでなく、見て喋ることでもまた、好きなゲームについてもっと深堀りできるかもしれない」と感じたんです。
実際にやってみると、流暢に喋るためにゲームの知識を蓄えていくのが面白くて、これもまた「ゲームの一つの楽しみ方」だと思えました。強さのみではなく、知識や言葉、伝え方など、さまざまな方向からゲームに対する愛を突き詰められる実況は思ったよりも自分に合っていたんだと思います。
批判との向き合い方──「技術的な改善点」と「感情」を切り離す
──学生時代はどのように過ごしていたのでしょうか。
オムナオト 小さい頃からゲーム、特に「スマブラ」が大好きで、毎日のように友人を家に招いて対戦する日々を送っていました。負けず嫌いな性格もあり、「学校で一番うまくなってやる」という気持ちで、友人が帰った後も一人用モードで遊んでいました。
中学生になってからも「スマブラ」を続けていて、新しいスマブラの発売日には隠しキャラを真っ先に解放して友達を驚かせたり、コンピューターと戦いながら腕を磨いていました。しかし、地元から少し離れた高校生活が始まると、友人同士で家に集まることが減りました。声楽部に所属していたのですが、そちらもなかなか忙しく、スマブラとは距離が生まれました。
今までより短くなった放課後には、同じ部活動の友人から誘われてゲームセンターやカードショップなどの出先で遊ぶことが増え、そこで新たに音楽ゲームやカードゲームにのめり込みました。どのゲームについても、友人と解散した後でも一人で遊んだり、考えたり……。
振り返ってみると、友人とのこういった時間があったからこそ、差をつけるために一人でやりこむことで、「一人で突き詰めていく面白さ」に何となく気付き始めていた気がします。
──ゲーム以外にも部活動などいろいろな活動をしていたのですね。
オムナオト そうですね。高校時代は合唱で関東大会を目指すような部活に所属して、そちらも真剣に取り組んでいました。男子校特有のノリもあって、仲間とバカをやりながら切磋琢磨し、みんなで一つのものを作り上げることができたのはとても貴重な経験でした。
その後、進路に迷い一年間の浪人生活を送るのですが、その間に「3DS版スマブラ」が発売して、そこでスマブラと再会してしまい……褒められた話ではありませんが、受験勉強そっちのけでプレイしてしまうほど、スマブラに対するかつての熱を取り戻して、やりこんでいました。
苦しい勉強から逃避していた側面もあるのかもしれませんが……笑
──実況に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
オムナオト 大学に入ってからは、教職課程を履修しながら、漫画研究会でオタク仲間と絵を描く日々を送りつつ、スマブラに本気で取り組みました。昔よりも身近で発達したインターネットを通して、遠く離れたプレイヤーと対戦したり、動画でほかのプレイヤーの試合を見たり、同じキャラクターの使い手たちが集まるコミュニティに参加したり……。特に、同キャラ使いの集いを取り仕切っていた方と仲良くなったことが、自分にとって大きな転機になりました。
その方に「オフライン大会」に誘われて参加したのがきっかけで、今の道に足を踏み入れました。関東だけでもさまざまな場所で大会が開催されており、少なくとも月に一回はどこかの大会に出場していました。時にはそこでできた友人と遠くの大会に遠征することもありましたね。
そのうち、スマブラはプレイヤー自身が有志で大会を行っており、スタッフとして大会運営に携わると参加費が免除されるという話を小耳にはさみました。当時は大学で手一杯でお金に余裕がなく、できる限り多くの大会に参加したかった自分が大会のスタッフを志すには十分すぎる理由でした。そんな自分を快くスタッフとして受け入れてくださった大会には今でも感謝しています。
はじめは会場設営や撤収、トーナメント進行を周囲のスタッフと共同で行っていましたが、声楽の経験もあり、声を使うことに抵抗がなかったので、それに加えて受付をやっていました。そんな折、「実況をできる人がいない」という話を聞き、試しに名乗り出てみた結果、ほかのスタッフに背中を押していただき実況を始めることになります。最初から実況を志していたわけではなかったし、動機も些細なものだったんですよね。
──学生時代に培った力で、今につながっていると感じることはありますか。
オムナオト 「好きなことについてとことん知りたい、突き詰めたい」という自分に気付けたことが、今の活動に直結しています。はじめはゲームについて、駆け引きについて、戦っている選手について詳しくなることがとにかく楽しかったのですが、続けていくうちに声の出し方やワードチョイス、実況・解説ペアとしての応対など、続けるうちに「聞き手にどう届くか」も意識して深堀りするようになりました。知識の蓄積から始まり、さまざまな方向から「好きなゲームに対する表現」として実況の技術を突き詰めました。
この時、批判や指摘に対して、ネガティブにばかり受け取るのではなく、「技術的な改善点」を感情と切り分けて抽出できるようになったのも大きかったです。「自己表現の精度を上げる」という目標を中心に据えたとき、ネガティブな感情もポジティブな感情と絶対値は等しいので、そこに含まれる敵意や攻撃性などは度外視して、とにかく自分に取り入れました。
「好きなことを突き詰める」ことは「過去の自分より強くなること」だとも思ったので、最終的に自分が自分に満足できているかどうかこそが重要であり、批評や指摘に出会ったとき一時の怒りや悲しみこそあれど、感想を踏まえて自らの改善できそうな箇所を模索し、とにかく表現の成長を目指しました。あのとき実況に挑戦していなければ、ここまで気づくことはできなかったと思います。
戦友「キシル」の存在
──実況者として、これまでに影響を受けた人や存在はいますか。
オムナオト キシルくんは、自分にとって間違いなく大きな存在でした。同時期に実況を始めたため、直接口には出さずとも互いになんとなく意識しつつ高めあっていたのではないかなと思います。ただ、そんな中で実況の現場で彼と一緒になった時は、自然と彼が解説で、僕が実況という立ち位置になることが多かったんです。どちらも実況をやりたいはずなのに。
彼は勝負師としてのプレイヤーへの理解度が非常に高く、選手の意図や動きを現場の空気に沿って的確に解説できる。その鋭さに、いつも刺激を受けていました。
視聴者からは我々の組み合わせを「相性がいい」と言っていただけることもありましたが、それは彼が一歩引いて、解説という役割を引き受けてくれていたからこそだと思います。ありがたい反面、自分の力不足を痛感する場面も多々ありました。
──そうした「ライバル」的な関係性が、ご自身の成長に影響した部分もありますか。
オムナオト とても大きく影響していると思います。実況という仕事には、ある意味で“座席の限られた世界”という側面があります。だからこそ、同じ時期に同じ熱量で走っている人がいると、「自分は何者で、何を武器にしていくべきか」を真剣に考えざるを得なくなる。
そんな彼と比べて、自分には何があるのか。なんとなく頭の片隅で考え続けた結果、「スマブラというゲーム自体が本当に好きなこと」が自分らしさだと思い当たりました。喋りの技術だけでなく、ゲームの背景やキャラクターの設定、細かなルールやアイテムの仕様、何より、同じくスマブラが好きで戦っているプレイヤーたちのことまで、深く理解して語ろうとする姿勢。それが、自分の実況スタイルを形作る土台になったと思います。
ライバルの存在があったからこそ、なんとなく「好き」だけでは通用しない領域まで突き詰める意識が芽生えた。実況者としての自分を育ててくれた、大きな原動力でした。
eスポーツを頑張る学生にメッセージ
オムナオト まず伝えたいのは、「何者かになろうとする前に、自分が本当に面白いと思えることを見つけに行ってほしい」です。
進路に迷う学生の方にとって、なりたい自分になるためには事前に何か特別な能力が必要だと思うかもしれませんが、そんなことはありません。僕自身、最初から実況者を目指していたわけではありませんし、始めた動機も些細なものです。
高校に進学して大学に通うという、いわゆる「普通の進路」を歩みながらも(浪人はしましたが)、僕はスマブラや部活動、音楽ゲームやカードゲームなど、自分が心から面白いと感じたものにとことん素直に没頭してきました。
それらで受けた刺激や経験を実況に転用することで、また新たな面白さを見つけていく。強いて言うなら、今まで歩んだ人生で得た経験を、新たに始めることに上手く活用する能力さえあれば、いずれは自分だけの特別な能力を獲得できると考えています。
また、面白いことに出会っても、それを「続ける」ことは意外と簡単ではありません。面白かったことだったはずなのに、怒ったり悔しかったり伸び悩んだりと、苦しい時期が必ずやってきます。そんなときには、出発点が「面白いと感じた事」なのが役立ちます。
思い返すたびに不安を乗り越える原動力になりますし、それらを乗り越えた先には更に楽しい景色がきっと見えるはずです。だから、面白いと思えることは続けられるし、一つのことを続けることは自分の成長に大きく役立ってくれます。人のネガティブな感情すら自身の成長のために意味があると気づけると、現代の価値観の坩堝の中でも歩みを進められると思います。
もちろん、「やり続ければ必ず報われる」といった楽観的な言葉を軽々しく使うつもりはありません。今の時代は僕の時代よりも競争も激しく、熱意だけで突き進むのが難しい場面もあるでしょう。ただ、「これが自分にとっては面白いんだ」という情熱は間違いなく自分を育てる原動力になり、その成長の最中で自分だけの強みがきっと獲得できます。
最初から明確なゴールがなくても構いません。まずは、自分の心が動いた瞬間に素直になってみてください。そこから始まる道が、やがてあなた自身の強みや役割につながっていくはずです。
──オムナオトさん、ありがとうございました!
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外部リンク
オムナオトさん(Xアカウント:@OMNaoto)
https://x.com/OMNaoto

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