インタビュー
2025.05.28
「ゲームは豊かな生活送るためのツール」医療×ゲーム「Dr.GAMES」代表理事 近藤慶太さん
- インタビュー
【「地域×eスポーツ」の最前線(4)Dr.GAMES】地域活性化やにぎわい創出などを目的に、全国各地で広がる「eスポーツの活用」。そこで活躍する団体などに焦点を当てる「『地域×eスポーツ』の最前線」。第4回では「『医療×ゲーム』で人々を健康に」をテーマに活動するDr.GAMESを取材した。
(取材・文・写真/ 寺澤 克)

各地で講演を行い、ゲームとの上手な付き合い方などをレクチャーするDr.GAMES。1月には「Dr.GAMES流 ゲーマーズエクササイズ」をリリース。神奈川県横須賀市の高校eスポーツ部に講義を行うなど、eスポーツ分野での取り組みも増えてきた。こうした活動は、ある意味では「eスポーツの活用」において、重要な役目を担っていると言える。「ゲーム分野の中でも、私は謎解きを作っていたんです」と語るのは、代表理事を務める医師の近藤慶太さん。立ち上げの経緯から話を聞いた。
「日本一の団体作れそう」ゲームの作り手&プレイヤー 医師の仲間と意気投合
──立ち上げの経緯は。
近藤さん(以下敬称略) 当団体で理事を務めている阿部はぷよぷよやボンバーマンが得意なゲーマー。一方で私は謎解きイベントの作り手として学生時代から活動してきた。千葉県館山市の病院で研修をしているときに出会い「ゲーマーとゲームクリエイター、そしてお互いに医師。二人なら、ゲームと医療を掛け合わせた日本で一番の団体を作れるのでは」と意気投合したのがきっかけです。
現在では、総合診療医のほか、スポーツドクターや眼科医、精神科医、救急医、薬剤師、ゲームクリエイターなども在籍しています。メンバーには医師として働く中で知り合った方も多いんですが、ゲーム好きが応募してくれて活動を共にするケースも出てきましたね。
──近藤さんご自身について。
近藤 学生時代は、リアル脱出ゲームや謎解きイベントを作っていました。埼玉県川越市の町全体を舞台にした謎解きなど20コンテンツほど制作しました。また、テレビ朝日で放送していた「お願い!ランキング」では、東京大学の団体と戦い、芸能人に自分たちのゲームを遊んでいただいたこともありましたね。
今は総合診療科の医師をしています。その傍ら、日本スポーツ協会公認のスポーツドクターとして、大好きな浦和レッズの本拠地、埼玉スタジアムで観客救護を行ったり、今年からは、FC琉球OKINAWAのチームドクターとしてアウェーの試合でベンチ入りしたりしています。また、順天堂大学ではスポーツ医学のチーム「プライマリ・ケアスポーツ医学コース」に所属しています。
総合診療とは年齢や性別、疾患を問わず、さまざまな健康問題を診療する分野で、患者さんの身体や心の問題だけでなく、病気の背景や地域性にも目を向け診療することが特徴です。いわゆる「なんでも屋」みたいなものでしょうか。
実は、スポーツドクターって総合診療の先生が多く活躍できる分野なんです。よく整形外科をイメージされる方が多いですが、意外と貧血や脳震盪、喘息といった内科疾患、ドーピングへの対応など、筋骨格系以外のさまざまな対応が求められることもあるんですよ。
三つの「介入」を柱に活動
──団体について。
近藤 「『医療×ゲーム』で人々を健康に」のビジョンのもと「ゲームプレイヤーの健康への介入」「ゲームがもたらす疾病への介入」「ゲームを用いた医療への介入」の三つの「介入」を柱に活動をしています。
ゲーマーエクササイズを考案 eスポーツプレイヤーの疾患予防をサポート
「ゲームプレイヤーの健康への介入」は、主にeスポーツプレイヤーの健康問題に対してアプローチして改善する活動が主です。例えば、全国高校対抗eスポーツ大会「STAGE:0」では医療監修を行い、救護室を設け新型コロナ ウイルスの感染管理などを行った実績があります。

また、eスポーツプレイヤーがどういう疾患に陥りやすいのか。最近では、その傾向が論文で明らかになりつつあります。こうしたところに対応すべく「ゲーマーズエクササイズ」を考案するなど、さまざまな形でサポートを続けているところです。
──ちなみに、どんな疾患が多いんですか?
近藤 筋骨格系の問題では、悪い姿勢によって首や腰を痛めることが多いです。あとは反復動作ですね。クリックを長時間繰り返すことで手や腕を痛めやすく腱鞘炎にもつながります。
海外の論文を含め、我々医師で解釈して具体的に伝える。眼科医や精神科医、理学療法士が所属する専門家集団という強みを生かし、こうした取り組みを積み重ねて、ゲームによる疾患を予防していければと考えています。

親子が歩み寄り「ゲームのある生活」送るために 出張授業や独自のツール用いてサポート
近藤 次に「ゲームがもたらす疾病への介入」ですが、こちらでは、ゲーム症(ゲーム依存)といわれる病気にアプローチしています。
ただ、我々はゲームを「悪」と捉えるのではなく、ゲームと上手く付き合う状態を目指しています。そのため、使用者だけでなくその家族や、教職員の方も対象となります。
出張講義は、館山市の小中学校の先生方にゲーム障害の講義をしたのがきっかけです。そこから、口コミで評判が広がり、依頼が来るようになりました。それを受け、私も依存症治療のメッカともいわれる久里浜医療センターで治療指導者養成研修を受けました。最新の書籍や論文も参考にしながら、内容をブラッシュアップし現在に至っています。
また、コンテンツの中でも「ゲームの終わらせ方ガイド」は、親子が気持ち良くゲームを終わらせる、それを積み重ねることが大切だと考え公開したものです。

──気持ちの良い終わらせ方?
近藤 これには、お互いに歩み寄りながらゲームのある生活を送ってもらいたいという思いを込めています。親御さんって普段子どもたちが遊んでいるゲームのことをよく知らないことが多いなと感じていたんです。
ある地方の学校の教職員にアンケートを取りました。すると、お子さんが遊んでいるゲームの名前がわかる人は7割でしたが、「その内容を説明できますか」と問うと1~2割程度まで落ち込んだんです。これは、現場で活動する我々の肌感覚とも合致する結果となりました。
ですから、どういうゲームなのか理解する、お互いに話し合う、そしてそのゲームはどのタイミングで終わらせればキリが良いのか。「ゲームの終わらせ方ガイド」にはそうした内容を記載しています。そこにはゲームが日常的な親子のコミュニケーションの入り口になってほしいという狙いもあります。
ゲームを通して医療の知識を「楽しく学ぶ」をサポート
近藤 三つ目の「ゲームを用いた医療への介入」は、医療の知識をゲームで楽しく一般の方にも伝えよう、という取り組みです。
例えば、主に子宮頸がんを予防するHPVワクチンのことがわかる謎解きゲームを制作しました。打つかどうか判断する前に、正しい知識をつけてほしいという啓発の意味も込めており、無料で公開中です。
また香川県高松市のゲームのお祭り「SANUKI × GAME」では緑内障や白内障を体験できるメガネをかけてゲームをプレイしてもらうイベントも行いました。
注目されにくいがスポーツ医学は大切なもの 活動の幅を広げていきたい
──草の根的な運動に見えますが、各地で活動をした感触はどうでしょうか。
近藤 直近だと横須賀市で講義をやらせてもらいました。また地域の小中学校からの依頼も結構あります。それこそeスポーツの専門学科がある高校では健康管理に関する授業もやりました。さらに、今年度開校したNTTe-Sports高等学院では「eスポーツ×健康」という担当講座を持っています。
ただ、出張講義などの依頼が増えてきたとはあんまり思いません(笑)。サッカーや野球など、フィジカルスポーツでもそうですが、スポーツ医学というのはあまり注目されにくい分野です。けれど、ケガなどが原因で早期に引退するeスポーツプレイヤーがいることは事実ですし、医療の大切さは知られていくべきものです。プロスポーツ化がこれまで以上に進むというなら、それはなおさらでしょう。
──今後の展開について。
我々は、ゲームを愛するゲーマーでありながら、医療者として科学的エビデンスを大切にし、活動しています。ゲームに関する知識や制作能力と科学的な視点・医療知識を高いレベルで兼ね備えた団体と自負しています。
今後は、活動する地域を広げながらも、eスポーツチームとの専属契約など、eスポーツプレイヤーをサポートする取り組みを拡充していきたいと考えています。また、デジタルのゲームをつくるノウハウを持っていないので、そうした企業とタッグを組めれば、医療面で質の高いものが作れそうだなと思っています。
とにかく、コンセプトの「ゲームで人々を健康に」をひたすらに目指し、質の高いサポートを提供する。それに尽きますね。
【番外編】Dr.GAMES 近藤さんにとって「ゲーム」とは?
──近藤さんにとってゲームとは?
近藤 ゲームって身近なものだけど、友達とのコミュニケーションのツールにもなるし、人生を一変させることもある。めちゃくちゃ夢と魅力が詰まったものだと思いますね。
私は謎解きイベントをつくるようになって、大人に認められるようになり、ここまで成長できました。ゲームは正しく使えば、人生を幸せにしてくれる。だから、親子が、ゲームきっかけで喧嘩してしまうケースがまだまだ多いのは、悲しいことだと思います。人生を豊かにするツール、ゲームがあらゆる人からそういう目で見られるようになったらうれしいですよね。
ちなみに、デジタルの方のゲームでいうと、私は「ファイナルファンタジーX」に人生の大事なものすべてが詰まっているような気がします。
──ありがとうございました!
関連記事
「eスポーツは一つの『メディア』の形」 TIE_PRiZEさんが登壇 生まれの地 立川のピッチイベントでeスポーツイベントの魅力と効果をPR
eスポーツ部の経験から在学中に起業、山形県惺山高校出身・管悠南さんが社長になるまで
慣れ親しんだeスポーツで地元に恩返し 千葉市eスポーツ協会が描く「地域×eスポーツ」のかたち
外部リンク
Dr.GAMES
https://dr-games.jp/

おすすめ関連記事


新着記事
-
大会レポート
「スト6」だけでも6600人以上が参加! 熱気あふれた「EVO Japan 2025」レポート、選手目線やサルバトーレ・ガナッチ本人登場も
2025.05.28
-
インタビュー
「ゲームは豊かな生活送るためのツール」医療×ゲーム「Dr.GAMES」代表理事 近藤慶太さん
2025.05.28
-
サービス
埼玉県入間市でeスポーツ活用の介護予防事業スタート コミュニティの活性化や継続的活動めざす 効果の科学的な検証にも取り組む
2025.05.27
-
売れ筋ランキング
Xiaomiの34型湾曲モニターが3位! 今売れてるゲーミングモニターTOP10 2025年5月12日~5月18日
2025.05.27

高校eスポーツ探訪
-
2025.03.29
300年の歴史を誇る伝統校でeスポーツが部活動に 広島県 修道中学校・修道高等学校 物理班 eスポーツ部門 活動内容を聞いてみた!
-
2025.03.04
地元大会では優勝も OBとの距離も近い 教育分野でも注目集める山口・立修館高等専修学校 eスポーツ部の活動内容とは?

記事ランキング
-
1
解説
2025.05.05
再起動の前に確認しよう!PCがフリーズしたときの原因と対処法をわかりやすく解説
-
2
解説
2025.05.07
PCの動作が重いのは「RAM」が原因かも?RAMって何?ROMやストレージとの違いもあわせて解説
-
3
新製品
2025.05.01
イブラヒムさん、叶さん、葛葉さんら12人が完全監修!「にじさんじ」×「ふもっふのおみせ」のコラボ製品が登場! 第一弾は6月予約開始
-
4
インタビュー
2025.05.13
eスポーツ部の経験から在学中に起業、山形県惺山高校出身・管悠南さんが社長になるまで
-
5
新製品
2025.05.26
5月27日発売!ホリから「スライム」「はぐれメタル」のコントローラーが登場! 高耐久ボタンや背面ボタンなど備える