インタビュー

2023.07.26

大会日程に問題あり? 問題山積の高校eスポーツ部事情、顧問とNASEFが議論

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 6月、noteに投稿された1本の記事が話題※になりました。この記事を投稿したのは浜松学芸高等学校eスポーツ部の顧問を務める細谷賢行教諭。メディアが主催する2大高校eスポーツ大会について「eスポーツの教育的な側面は軽視されがち」と問題を提起しつつ、解決案を模索する内容です。eスポーツの教育的活用を推し進めながら、自らも大会を企画する北米教育eスポーツ連盟 日本本部(NASEF JAPAN)はこの投稿をどう受け取ったのか。また、解決の糸口は見つかるのか。両者の対談を実施しました。(取材・文/南雲 亮平)

※7月10日15時時点で、該当note記事の「スキ」が85件、記事のURLを掲載したツイートも「いいね」が125件、リツイートが125件(うち引用が26件)、インプレッションが11.4万件、ブックマークが52件

浜松学芸高等学校eスポーツ部顧問の細谷教諭(右)とNASEF JAPANの末廣氏(左奥)と坪山氏(左手前)

──2大高校eスポーツ大会の「全国高校eスポーツ選手権」と「STAGE:0」は、今や高校eスポーツ部の大きな目標になっています。しかし、顧問の先生から見ればまだまだ課題があると。

※全国高校eスポーツ選手権は毎日新聞社と全国高等学校eスポーツ連盟(JHSEF)、STAGE:0はテレビ東京と電通が主催

細谷先生(以下、敬称略) 大会が目標になっているのは確かです。しかし、noteにも書いたことですが、例えばSTAGE:0 2023は大変です。LoL部門は予選2日前の22時にタイムテーブルが発表されたんですが、ミスがありました。さらに大会20時間前になってもトーナメントが発表されない。やっと発表されたトーナメントにはミスがある。大会で使用する学校別のDiscordサーバーは大会直前につくられるなど、切羽詰まった現場の様子が伝わってきました。

 STAGE:0に限らず、全国高校eスポーツ選手権も年度の最中にスケジュールを発表するので、前年度中に来年度の予定を立てる高校の文化と相性が悪いんです。学校によっては大会の予選や決勝戦が試験期間と重なることもあり、生徒の負担になっています。通常だと2?3週間前に大会の日程など要綱を添えて上長に公欠を出すのですが、直前だと難しいです……。もう少し参加者側への配慮があると、参加しやすくなると思います。

顧問としての立場からeスポーツ大会の課題について話す細谷先生


──学校現場、参加者側の声がまだ運営に届いていないということですね。

細谷 だからこそ自分たちのことをよくわかっている現場の人が自ら立ち上がって、コミュニティや大会をつくり上げるのがいいのかなと考えました。ただ、部活の顧問という役割は、教員の数ある業務の一つなんです。教員に顧問、さらにコミュニティの運営となると難しいので、現場の意図を組んでくれる外部の団体があって、意見をまとめて、スケジュールを組んでいただけると助かります。

NASEF JAPAN 事務局長 末廣誠氏(以下、敬称略) まさにそうした課題を解決していきたいと考えています。先生のお手伝いをすることも、NASEF JAPANの役割です。現在、当団体のフェロー会員になっていただいている教員の方々は15?20人ほど。先生方にアクセスしやすい土壌はあります。運営側と先生方が歩み寄って、互いにいいかたちにできるように、参加者側の意見を集約して運営側に提出するといったお手伝いができればと思います。

細谷 実現すれば助かります。学校によって試験や行事のスケジュールが異なりますから、すべての学校に都合のいい日程にするのは難しいですが、オンラインで一斉に意見を集める方法もありそうですね。これまでは一学校単位で問い合わせ窓口から意見を送っていましたが、まとまったかたちでNASEF JAPANのような団体から提出できれば、状況を変えることができるかもしれません。

NASEF JAPAN eスポーツスカラスティックディレクター 坪山義明氏(以下、敬称略) 私たちが送っても「検討します」と言われるかもしれませんが、何もやらないよりはいいはずです。現在(6月24日時点)、NASEF JAPANの加盟校は450校以上。これだけの高校eスポーツ部と繋がっているのはわれわれだけです。学校単位よりも、450校という数字を背景に代表として意見を伝えることになれば、かなりのストロングメッセージになるでしょう。

大会運営に参加者側からの意見を伝えようと意気込む坪山氏と末廣氏


──意見を集約するのであればコミュニティの形成が急務かと思いますが、それについては加盟校向けのポータルサイトがありますね。

末廣 少しずつ、ポータルサイトに参加していただける学校を増やしていこうと進めています。これまではゲームプレイヤーに人気のコミュニケーションアプリ「Discord」を使って連絡を取ろうとしていたのですが、メッセージを発信しても普段からDiscordを使う人にしか届きませんでした。

 今後はゲームに馴染みのない先生がeスポーツ部の顧問になるケースも増えていくはずです。そういった先生方に情報を届けるのであれば、普通のWebサイトからアクセスしたり、メールで告知したりした方がいいと考え、切り替えています。

坪山 一方、フェローの先生方とは密に連絡を取るので、そのままDiscordを使っていこうと考えています。

──ポータルサイトでは、練習試合の募集などもできますよね。同じような取り組みとしては、飛龍高等学校がスクリム募集サーバーを立ち上げていると聞きました。

細谷 とてもありがたいことです。そういったものが、全国に広がっていけばいいなと思います。ただ、飛龍高校さんに管理を任せきりにしてしまい負担をかけるかたちでやっているので、外部団体にも手伝っていただけると学校の負担が減るかと思います。そうすれば、eスポーツ部がもっと持続可能なものになると思います。

 現状のままでは、「始めたのはいいけど、顧問の負担が大きいうえにゲーミングPCなどの機材や通信費などの維持費は安くない。大会も出にくい。もう持たないからeスポーツ部を閉めようか」となりかねません。それはもったいないことです。

坪山 確かに、試しにeスポーツ部をつくってみた学校のなかには、熱心な生徒が卒業してしまったり、つくった先生が転職してしまったりして、熱が下がってしまっている学校もあるようです。そういった事情も把握しきれていません。よく話を聞いて、なんらかの施策を講じていく必要があると感じています。

外部コーチに地元の大学生

──大会以外にも課題に感じていることはありますか。

細谷 先生同士でお話するなかでは、練習試合や外部指導者に関する悩みをよく聞きます。サッカー部だと外部からコーチを招きますが、eスポーツで実践している学校は少数。すでに上手でモチベーションも高い生徒が入ってくるとレベルが上がりますが、その生徒が卒業するとチーム全体の順位も下がってしまうなど、技術が上手く継承されていない問題もあります。さらに大会によって採用するタイトルはバラバラなので、eスポーツ部で採用するタイトルも学校によって異なる点も少し気になります。

末廣 今、挙がったなかで、外部コーチの件については一つ考えがあります。eスポーツを専門分野として取り組んでいる高校はプロ選手を呼ぶこともありますが、そこまでいかなくても、例えば地元の大学生がオンライン、オフラインで指導に入る、という仕組みを考えています。こういったことは可能なのでしょうか。

細谷 アリだと思います。私たちも今、卒業生にオンラインで指導してもらえないか模索しているところです。生徒たちは技術を向上させることができる、卒業生はコネクションや実績づくりになる、といったウィンウィンの関係になれるはずです。

末廣 NASEF JAPANでも今後の施策としてステージごとのコミュニティをつくりたいと考えています。高校でeスポーツに熱心だったけど、大学にはeスポーツ系のサークルがないから、みんなでやる機会もなく、たまにプロの試合を見るだけになってしまった、ではもったいないです。中学、高校、大学、社会人へと進む中で、お互いに助け合える学校を越えたコミュニティをつくり、もっとeスポーツを楽しんでもらいたいです。

 まずは高校を卒業した大学生や専門学校生のコミュニティの形成を目指し、地元で高校生にeスポーツを教える機会をつくることができればと考えています。ボランティアとして活動すればキャリアになりますし、履歴書に書くこともできます。なにより、教えるという経験が大きいです。

細谷 それは確かにあると思います。ただ、学校に外部から人を入れるとなると、信用に足る人物かどうかという点も重視されます。特にeスポーツというだけで顔をしかめる学校もあるなかで、面識がないと「本当に大丈夫か」、と心配されてしまいます。その点、卒業生はある程度問題ないと思われますが、その“信頼”といった部分を担保してくれる団体があれば、外部からでも何とかなるかもしれません。

末廣 身辺調査までは難しいかもしれませんが、例えば浜松市内の学生なら誓約書を書いていただいて、それをNASEF JAPANがある程度担保すなどであれば、学校も助かりますか。

細谷 まっさらから始めるよりも断然いいと思います。

先生とNASEF JAPANは横一線

末廣 「eスポーツ部」は全く新しい取り組みだったので、これまでは何かしらの指標になればと私たちから「これやりませんか」「あれやりませんか」と声をかけてきました。それが本当に生徒や先生がやりたいことなのか分からないなかでも、「きっとこれなら生徒のためになるんじゃないか」と考えながら試行錯誤してきました。

 でも今なら、これまでの取り組みを通して、どう改善すればいいのか、本当はどのようなことをやりたいのか、といったことが生徒や先生のなかで具体化してきたんじゃないかと思うんです。今後はそうした意見を取り入れて、“やりたいこと”を後押ししていきます。そう思っていた矢先に細谷先生の記事が掲載されたので、「これですよ!」となりました。一緒に課題を解決していきたいです。

坪山 オフラインでフェローの先生方が集まれるようにもなってきましたし、今年度からは先生方にもNASEF JAPANの運営側にも入っていただき、一緒につくっていければと考えております。大会やサミットの時などにガンガン意見を言っていただきたいです。450校の声を一度には聞けないので、まずはフェローの先生方から聞き、「こんなことをやりたい」「学校単位では難しいのでNASEF JAPANがやってもらえませんか」といった流れにしていきたいです。

細谷 ぜひ一緒にできればと思います。よろしくお願いします。

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■外部リンク

今回の発端となった浜松学芸高等学校のnote記事
https://note.com/hsesports/n/n1899fdf8c6e7

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