インタビュー
2024.12.26
日本の若手育成がプロシーン発展促す BURNING CORE TOYAMA 社長 堺谷陽平さん インタビュー 地方eスポーツ・チームのあり方とは?
- 大会/イベント
eスポーツチーム「BURNING CORE」は2023年11月に富山県滑川市に新拠点「BURNING CORE TOYAMA GAMING BASE」を設立。チーム名も「BURNING CORE TOYAMA(BCT)」に変更し、翌年1月にはチームロゴも変更しています。富山eスポーツ連合会長である堺谷陽平氏が2023年5月に同チームの社長に就任したことをきっかけに、富山へのシフトが始まっていました。
堺谷氏は、これまで富山を拠点にさまざまなeスポーツイベントを開催しており、eスポーツによる地方創生や地域振興に先進的に取り組んだ人物としても知られています。現在ではeスポーツによるフレイル予防や認知症対策など、福祉分野への応用にも取り組んでおり、eスポーツやゲームの新たな活用方法を示してきています。このたび、BCT GAMING BASEに訪れる機会があったので、施設の見学と堺谷氏へのインタビューを行うことができました。
(ライター:岡安学)
当初は「可能性」の話だった チームの継続的運営を模索した結果 富山に拠点を移す
――早速ですが、最初はeスポーツイベントを富山で主催していたと思いますが、BCTの拠点を富山に移すなど、どういった経緯で行われたのでしょうか。
堺谷陽平氏(以下堺谷) BCに関わり始めたのは2年前くらいですね。コロナ禍があって、地方でのeスポーツの取り組みが落ち着き始めてきたころです。「次に何をやっていこうかな」と思い、チームの運営が頭をよぎりました。ただ、チーム運営では、選手やスタッフを養うことになります。さらにeスポーツ事業とは別に予算を確保しなくてはならず、ハードルが高めでした。そんな折りにBCとの関わりができ、一緒になってリソースを割いていけばできるようになる、そう思いました。話をしていてシナジーが生まれる可能性も感じたので、一緒にやれるかなと。
堺谷 BCを富山に移す話は「まあ無くはない、あくまで可能性」ぐらいだったんですよ。最初は富山で開催するeスポーツイベントに選手が出てもらうくらいの感覚でしたから。
元々、BCは「League of Legends(LoL)」と格闘ゲームに特化したチームでした。LoLにかなりの予算を投入していたんで、ちょうどそのあたりも見直してみても良いのではないかという話も出ていました。オーナーや株主との話し合いでは、地方創生について話題が上がり、そこで富山に拠点を移す話が徐々に現実化していきました。
ちょうど1年半前くらいですね。富山の方で自治体や商工会議所などに相談する機会を設け、拠点を移すならどこが良いか、検討を始めました。そして半年という短い期限の中で募集を始め、無事に滑川市が手を挙げてくれたので、居を移すことができました。BC全体と言うよりはサテライトオフィスとして活用する方針も決まり、新たに現地スタッフを雇うようになりました。
単純に東京に拠点を置くよりも富山に置いておいた方が、コスト的にはかなり違います。費用は10分の1以下になりました。
eスポーツの業界もいろいろ状況が変化しています。例えば、チームの規模感は、以前と比べ大きくなったところもありますよね。BCTにおいては、現状のままチームを継続するにはどうすべきかを考えてきました。まずは、規模を大きくするのではなく、やれていないことをやっていこうと思いました。そのひとつが富山への移転でした。
海外選手のスカウトが主流の中 BCTは日本の若手を育てたい
――チームの運営を見直す時期にあったとおっしゃいましたが、拠点を移す以外にチームとしてどういった変革をしようとしているのでしょうか。
堺谷 LJL(日本のLoLのリーグ)の場合は韓国人選手が中心となっていて、いかに良い選手を韓国からスカウトできるかが問題の一つになっていました。ですが、当チームでは若手中心のロースターを編成する方針に転換しました。これは選手を呼ぶのにコストがかかるという理由もありますが、それ以上の目的があります。それは、国内のLoLプロシーンを育てる土壌をつくることです。
LJLは日本のリーグなので、海外から強い選手を呼ぶだけでなく、日本の若い選手たちを育てていく必要があると考えています。それはコーチやアナリストでも同様です。チームでは、日本人のヘッドコーチをつけ、アナリストも新たに雇いました。ロースターが若手中心となったこともあり、結果として前シーズンでは一度も勝つことができず、良くて引き分けという結果でした。ただ、路線変更は着々と進められているのではと考えています。
富山はイベント開く人も増加 コロナをきっかけに活動に広がりも
――地方での活動はどんな感じでしょうか。
堺谷 2020年度から富山県庁と一緒に地域でのイベント活動などに取り組んでいます。高齢者向けが中心ですね。2023年度は県内の体験会を80~100件くらい手掛けたと思います。eスポーツが県内で広がりを見せてきたんじゃないでしょうか。今では、我々の取り組みで下地ができ、様々な企業や自治体でもeスポーツのイベントに挑戦できるようにはなってきました。最近は、それらをサポートする側にまわっていますね。元々予算が少ないので、「自分たちが」というより、イベントを開催したいという団体などのサポートができればと思っています。
――堺谷さんと言えば地方でのeスポーツイベントですが、そちらはどうでしょうか。
堺谷 高岡市のeスポーツ施設では今でもeスポーツイベントを少し実施しています。ただ、今では他の方もイベントを開くようになってきたので、こちらも我々が率先して開催しなくても、誰かが開いてくれるという状況になっています。
コロナ禍で地域外からの集客が難しくなり、地方でのイベントが開きにくくなった時には、逆に可能性を広げるチャンスにもなりました。子供向けのゲーム教室を開いたり、NASEF JAPANと一緒にeスポーツを活用した学習カリキュラムを作ったり、教育面や学びにつながることにも取り組むようになりました。また、各地域で断片的ながらイベント開催などに協力することで、我々の取り組みに賛同してくれる人も増えてきました。eスポーツが各地域に根付くというのは、まだ先の話ですが、徐々に手離れしている感じですね。さらに、ローカルのeスポーツを盛り上げていくために、次の段階でどういった切り口から攻めるのか、展開を考えているところです。
地方eスポーツは次の段階に 地方の強みを生かしたイベント運営により持続性のある事業に
――「次の段階」というのは、実際にはどのようなことでしょうか。
堺谷 各地域の特徴に合わせた取り組みを展開するということです。
まず、イベントについては、もう少し身の丈にあったサイズ感を考えられるようになりました。自分の地域の良さを知ってもらう取り組みは全国各地で始まっています。そして、地方の強み、弱みもわかりやすくなってきています。これはeスポーツに限らずです。
ただ、エンタメ系って「東京でやっても地方でやっても変わらなくない?」って感じじゃないですか。だったら地方で無理して集客することはないわけです。どちらかというと、地方では喜ばれるのは、ファミリー層向けや高齢者福祉に関するイベントです。だから、都市部でもできることを地方でするのではなく、地方で開きやすく、かつ結果的なものに取り組む。そうなると、地方からeスポーツが成長する側面も出てくるのではないでしょうか。
隣の石川県羽咋市で行った施策はまさにそれでした。遊休地に市民に開放した施設「LAKUNAはくい」を建設し、その中にeスポーツの設備が整ったスペースを設けたんです。今後もeスポーツイベントやプログラミング教室なども積極的に行い、運営にはeスポーツ事業を展開するGLOEが入っています。こういう施策って、東京ではトライしにくいものなんですよね。
BCTは多くのeスポーツチームが目指す方向性とは真逆を向いているかも知れませんが、ある種、先を行っている感もあります。爆発的に人気が高まるチームではないですけど、持続性のあるチーム作りは地方のeスポーツチームの在り方なんじゃないかな。地方でのeスポーツのモデルケースとしてこれからも続いていければと思います。
「eスポーツはゲームの下請けになっている」 もう一度ゲームの魅力に立ち返り人と人とのつながり見直したい
――BCTではなく、堺谷さん個人としての目標や目的はありますでしょうか。
堺谷 BCTとは別の本業の会社の方に、スクウェア・エニックスで10年間社長を務められた松田さんと言う方がアドバイザーとして、入ってくれたんです。松田さんは大手ゲームメーカーの幹部を務めてきた経験があり、我々とは見ている世界が違うんですよね。ある時、松田さんが「eスポーツはゲームの下請けになっている」と口にしたことがありました。マーケティング的な要素もありつつ、eスポーツのビジネスモデルの脆弱さを指摘された感じがして、自分には響きました。
ゲーム業界自体も分水嶺に立たされている感があります。開発コストは大きく跳ね上がり、それによって大手メーカーも開発を断念したり、倒産したりしていますし、持続可能性という点では懸念が出てきましたよね。
――マイクロソフトが開発部門を閉鎖したり、SIEが610億円の制作費を費やしたゲームが10日でサービス終了になったり、大手であれば安心という継続性はなくなりましたね。
堺谷 その反面、Unreal EngineやUnityなどのゲームエンジンを使用することで、個人でつくるゲームのクオリティはどんどん上がっています。大きな会社がコストをかけてつくるゲームが面白いというわけではないので、低コストで面白いゲームを発掘する楽しみも出てきています。
eスポーツってゲームのプロモーションで終わってしまうこともあるんですが、そこを変えられればと思っています。そもそもeスポーツの強みってユーザーコミュニティやコミュニティシーンだと思うんですよね。熱量とかすごいですし。それがゲーム業界自体の根本を変えるきっかけになるかもしれないと考えています。
ゲームが元々持っている「みんなで集まってゲームをやるだけで楽しいね」という魅力が再確認できたら。有名選手や有名人がそこにいなくても楽しいんだって。リアルで人と人とのつながりを見直していきたいですね。
【終わりに】業界に一石投じるBCTの方針 今後の動きにも注目
これまで地方を牽引してきた堺谷さんですが、これからも新たな地方eスポーツの在り方を示してくれる予感がしました。LJLの参加チームとしても、日本人選手が育たない環境にあることについて、「日本人の選手、コーチ、アナリストを育てていく」との考え方は、業界に一石を投じる方針ではないでしょうか。
選手の取り合いでロースターを決めていくやり方は、チームも運営も選手も疲弊し、良い結果を迎えないと思っているだけに、他のeスポーツタイトルのチームに対しても注目の内容と言えるでしょう。他の人がやれることは任せてしまうと語る堺谷さんですが、まだまだ堺谷さんしかできないことはeスポーツ界隈には山積しています。今後も堺谷さんに期待したいと思いました。
(編集:BCN eスポーツ部)
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外部リンク
BURNING CORE TOYAMA
https://burning-core.com/
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