高校eスポーツ探訪
2022.05.22
高校eスポーツ黎明期に創立した古豪・朋優学院高等学校が示す道のり eスポーツ部が“普通の部活”になるまで
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【高校eスポーツ探訪・9】 女子高として創立し、2001年には共学化、現在では多くの難関大学合格者を輩出する都内私立高校の朋優学院高等学校。進学校としての側面が強い同校ですが18年頃にはeスポーツ部を設立している先進的な学校でもあります。今年で4年目となる朋優学院eスポーツ部「HYeC」は全国に数多くあるeスポーツ部の中でも最古参であり、新たな取り組みを継続化することに成功した一例だと言えます。現在では、大会を目指して日々練習し、試合し、時には卒業生とも交流する。何の変哲もない“普通の部活”そのものがそこにありました。第9回ではHYeCの生徒6人と顧問の岸波禎人先生に話を聞きます。(取材・文/関根 航太郎 構成/銭 君毅)
新渕安希子さん:新2年生、ロールはADC。中学時代はテニス部に所属。(上段左)
本田克哉君:新2年生、ロールはSUP。中学時代は水泳部に所属。(上段左から2番め)
左近太輝君:新2年生、ロールはMID。中学時代は体力向上部(陸上部)に所属。(上段右から2番め)
岸波禎人先生:担当教科は数学で数学科の副主任。eスポーツ同好会立ち上げ時からの顧問で、当時はバトミントン部顧問と掛け持ち。同好会から部活になったのに伴い専任の顧問として活動。(上段右)
鈴木勝太君:新3年生、LOLのロールはTOP。中学時代は野球部に所属。(下段左)
佐治和真君:新3年生、ロールはジャングル。中学時代はコンピュータ部に所属。(下段中央)
林幸諒君:新3年生、ロールはADC。中学時代は卓球部に所属。(下段右)
eスポーツはリアルスポーツよりも続けやすい
??現在のeスポーツ部の活動についてお伺いしたいと思います。
岸波先生(以下、人名は初出以降敬称略) 基本的に、活動は週4日で1日あたり3時間程度が活動時間です。競技タイトルはLeague of Legend(LoL)に絞って活動していて、部員は現在はここにいる6人が全員です。1、2年生(注:3月に取材)つまり新2、3年生ですね。
??立ち上げ時期からLoLに絞ってこられたのですか?
岸波 そうですね。LoLだけでやってきています。理由はいくつかあって、一つは部活動として考えていく中でチームでやれる競技であるということ。もう一つは、大会タイトルが当時はLoLかロケットリーグだったので、5人というより多い人数でプレーできるということでLoLになりました。複数タイトルやらないのは単純に1タイトルあたりの練習量が分散されてしまうからです。
??なるほど。チームとしてコミュニケーションの鍛錬になるし、練習メニューとしての制約もあったということですか。
岸波 そうですね。
??6人というと少ないように感じますが、少数精鋭のような理由があるんでしょうか?
岸波 ええと、毎年部員を募った結果、こうなりました(笑)。
??eスポーツ部というとゲーム好きな生徒さんが集まってきそうな印象もありますが……。
林君 やはり、タイトルが新規参入しづらいというのはあるかなと思います。たぶんフォートナイト部門とかがあればもう少し部員がいるんだろうなあと思いますが、部員が少なすぎて困ったことはそんなにないです。
??立ち上がった時期はいつ頃だったんですか?
岸波 2018年の10月です。サードウェーブさんのeスポーツ部の立ち上げ支援プログラムの広告があって、大会が11月というタイミングだったと記憶してます。プログラムを活用して最初は学校主導で同好会を立ち上げました。
??経緯としてはどんなきっかけがあったのでしょうか?
岸波 生徒会担当の教員から、こういう案件がきてるんだけど興味ありますか?と言われて……。では生徒を募ってみますという話になり、私が担当として告知して部員を募ってという感じです。最初に5、6人集まったので同好会が出来上がって、そこから継続的に部員が入り、少しずつ大会で結果が出たことで部に昇格しました。
??eスポーツ部を立ち上げるにあたって学校側にはどんな狙いがありましたか?
岸波 そのときに聞いたのは、「なんかそういう時代なんじゃね?」「おもしろそうじゃん」という……(笑)。当校の場合、同好会の設立は5人以上の生徒が在籍することと誰か顧問が就くことが条件になるので、そこさえクリアすれば活動できます。ハードルが低くいので、(試しに)やってみれば?ということですね。
??なるほど。今年で4年目となるとeスポーツ部としては歴史がありますね。
岸波 そうですね。(全国で高校eスポーツが始まった)一番初期のオリジナルメンバーという感じですね。eスポーツ部では、顧問も含めて積極的に継続して活動している全日制の部活動はほとんどないので、全国探しても両手でおさまるくらいなんじゃないでしょうか。他でよくあるのが、生徒が自主的に始めて、その子たちが卒業しちゃうとなくなっちゃうみたいな形で、こうやって継続的にやっているのは東京でいうと当校が最初に名前があがってくると思います。
??直近ではコロナもありました。影響はありましたか?
岸波 新3年生が1年生のとき(2020年)は、4月には全く授業がなくて、5月から6月の中旬までオンライン授業でそこから少しずつ登校が始まったという状況でした。21年からは、合間合間でオンライン授業があったりしたんですけど、基本的には通常登校が4月から続いてました。
佐治君 eスポーツ自体はオンラインで活動ができるので大丈夫でしたが、高校に入って3カ月ぐらい経っているのにクラスのメンバーの顔と名前が一致しない恐怖感があって、本当にやっていけるのかなという不安はありました。
岸波 今は2年生のクラス担任をしているのですが、ある運動部の部活の生徒が後輩から(寄せ書きの)メッセージカードを送られることがあって、「この○○君っていうのは誰?」というのを盛んにいっていました。もちろん部活自体の人数がものすごく多いというのはあるんでしょうけど、活動が制限されて学年をまたいだ交流が例年以上に薄くなっていたんだろうと感じます。当部は各学年だいたい2、3人で推移してますので、部員同士のコネクションは他の部活よりもちゃんとありますし、ここ2、3年はきちんと継続性を保てていると思います。
??部活継続のために大切なこと必要なことはありますか?
岸波 設備などのハード面では、学校側の理解を得られないとお金はなかなか集められないので、協力を仰いだり、サードウェーブさんの新プログラムなどをいかに活用していくかなどですね。学校の理解を得るためには、当校の場合は勉学が優先になるのでそこをちゃんとするとか、部活動として当たり前のことを他の部と同じようにやっていくことで認めてもらうことが大事かなと思います。「eスポーツ部だから」ということではなく、一つの部活として認識してもらうためにちゃんとやるということですね。
??あくまでも学校の活動の一つとしてですね。
岸波 そうですね。設備も場所も学校で借りているものですので。
??部活の中のルールなどはありますか?
林 あります。朋優学院には基準点というのがあって、定期考査で40点以下だと「赤点」になって留年しちゃうみたいなのがあるんですけど。「赤点」のときは補修課題が出るんですが、それが終わるまでは部活にゲームが出来ないというのがありますね。
岸波 この条件は基本的にはどの部活でも同じで、私がバドミントン部の顧問をしているときも同じでした。
??なるほど、扱いは他の部活と同じなんですね。
岸波 そうですね。eスポーツ部だからみたいな制限が掛かることはありません。むしろオンラインで活動できたりとか。他の部活よりも「できる」ということは多いと思います。練習試合もオンラインで出来てしまうので。教員同士のコミュニティがあるのでそこで「明日練習試合とかできません?」「出来ますよ」みたいなやり取りがあれば次の日に練習試合ができたり。それこそ昨日札幌の学校の先生と練習試合の話がでましたし、おかやま山陽高等学校や大阪市立西高等学校との練習試合はどうとでもなりますね。オンラインなので遠征もないですし、いろんなパターンで練習ができるというのもeスポーツ部の良さかなと思います。(小声で)引率もなくて本当に助かります。
一同 (笑)
??バドミントン部と比べていかがですか?
岸波 大会によっては毎週土曜日曜に開催されますし、練習試合も直接向こうに行かなきゃいけないですからね。生徒教員共々、eスポーツは負担が軽いと思います。ただ、eスポーツ部は初期投資がとにかく大変ですよね。準備の部分に圧倒的なハードルがありますが、そこを乗り越えてしまえば、ひょっとすると運用では他の部活よりもやりやすいかもしれません。
縁の下で活動を支えるOBOGの存在
??4年目ともなると、すでに卒業生がいると思うのですが。OBOGの方との関係はいかがですか?
林 めちゃめちゃ関わりがあります。むしろ、そのお陰で部活が成り立っていると思います。部活に専門のコーチはいないので、OBの方々に定期的に参加していただいていて、よくスクリム(注:練習試合のこと)を組んでもらっています。普段の部活とは別にDiscordとかでやり取りしながら(オンラインで)集まれる日を決めてスクリムをしていて、先輩から「ここはこうした方がいいよ」とか自分たちや後輩たちにフィードバックしてもらったりと、それが代々受け継がれている感じです。
鈴木君 他の部活の友達に聞くと、卒業後も先輩とゲームをするというのはあまりない機会なんだとか。困ったときにすぐ先輩に話を聞ける状態にあるのはeスポーツ部ならではなんだなと思います。これから僕たち(新3年生)は受験シーズンに入るわけで、「こんなときにどうしてました?」と聞けるのは心強いです。
??LoLは5人でプレーするので、そもそもチームを組むハードルが高いですし、OBOGの方が参加することは意味が大きいですね。3月になって先輩(前年度の3年生)が抜けた影響はありますか?
林 先輩は昨年7月の大会で引退していて、その時期に入れ替わりが起きているので、この時期にチームが変わったわけではないです。
??そうすると7月新チームとなって12月くらいまでが調整の期間ですかね?
林 今も調整期間ですね(笑)。
岸波 今が調整し終わったかなぐらいの感じですかね。STAGE:0のあたりで良い感じになる雰囲気です。
??チームとして完成することは永遠に無いですもんね。3年生が7月に引退して夏休みを挟んで新部活ですか?
岸波 夏休みから新部活ですね。7月にSTAGE:0があって、定期考査を挟み、夏休みから1、2年生だけの活動になります。その後、秋の全国高校eスポーツ選手権に向けて頑張って、そして今、STAGE:0に向けて練習しているという状況です。
??3年生がおらず、大会が控えている夏休みはピリピリしていたのでは?
鈴木 普段の練習は結構ゆるくワイワイやってますけど、大会のときはみんな集中して緊張感があります。スクリムを組んだりするときは、ほかの運動部と遜色ない緊張感を持ってプレーしている感じになりますかね。その面でいうなら他の運動部と変わらないかなと思います。
雰囲気はエンジョイ・大会はガチの新体制
??新体制になってチームが固まってきた時期だと思うのですが、自分たちでどんなチームだと思いますか?
佐治 この体制になる前からそうなんですけど、メンバー同士が無茶苦茶仲が良いというのはありますね。自分が1年生で入ったときは2年生が3年生に敬語を使ってなくてビックリしました。上下関係がないのが今も続いています。
??OBOGの方ともそんな感じですか?
林 そうですね。自分は「敬語を使いたい」派なんですが、そこも「使わなくていいよ」と言われています。
??そういうコミュニケーションがもう部活・チームの色になっていると。
岸波 そうですね。私がずっと見ていてもそこは変わっていないと思います。
??中学時代、運動部の方も文化部の方もいらっしゃいますが、違いは感じますか?
鈴木 運動部に比べて上下関係はユルい思います。
??元々野球部でしたよね。確かに野球部は上下関係に厳しいイメージがあります。体力向上部はいかがですか。
左近君 体力向上部は「陸上部」っていう名前になっていないだけあって、結構ユルめの部活でした。そこはeスポーツ部と共通していて楽しいなと思う瞬間は結構あります。
??なるほど、やっぱりある程度カジュアルな方が楽しめますよね。チームの雰囲気としての特色をお聞きしましたが、戦略面などはどうでしょう?
林 先輩がいた頃は、MIDレーンの先輩が強くてそこに寄せるような戦い方だったんですが、今はどのレーンも平均的で、状況に応じてどこからでも試合を動かしていけるようになりました。
??一点突破から状況に応じて柔軟な戦術が組めるチームになったわけですね。全国高校eスポーツ選手権(高e)ではFブロックで準優勝という結果になりましたが、結果を今どう受け止めてますか?
佐治 1年生がLoLを始めて半年ぐらいでここまでやれるんだ、というのはありました。最初はもっと負けると思っていたので。Fブロックの決勝戦は力の差でボコボコにされましたけど、1年生の可能性が見えた大会だったのでとても嬉しかったです。
林 実は、高eまでは固定のロールが違っていたんです。もともと新渕が正ADCで、自分がSUP、本田がMIDだったんですけど、新渕が用事があって大会に出場できないとわかったんです。そのとき左近は一番入部が遅くて補欠だったので、「じゃあ」ということで自分がADCになって本田をSUPにして左近をMIDにしました。即席のチーム構成でしたが、挑んでみたら思いの外勝ち進んだので「この構成で練習してみないか」となり、それが元で今の構成になっているんです。
??さっき、おっしゃっていた柔軟性もそこで実現したんですね。
佐治 前は鈴木君のTOPレーンから(試合を)作っていくことが多かったので、今の構成になってから柔軟性がよくなったと思います。
??1年生が活躍されたということですが、大変だったことはありますか?
左近 そもそもLoLのゲーム性が初心者にはあんまり優しくないので……。普段の練習でも結構メンタルにくるってとこですかね。下手なプレーすると暴言が飛んできたり、Pingとかを使って「?」とかが飛んできたり。
一同 (笑)
岸波 今はオフラインで横並びでやっています。本人たちの声が聞けて人間関係が築けているときは精神環境はいいですが、チャットで打たれるのと、口頭でそのワイワイしたテンションでいわれるのとでは全然違うんですよね。そこも部活として集まって人間関係を築きながらLoLやれるというのが、ハードルが低いんじゃないかなと思います。
創立から続く強い朋優学院を後輩に繋ぐ
??今後の目標としてはいかがでしょうか?
林 7月のSTAGE:0の関東ブロックで優勝して決勝大会に出るというのが大きな目標かなと思います。
??全日制の学校の中ではかなり優秀な成績を残されてますが、通信制の高校は強いですか?
林 そうですね。そこは大きな壁があるというか……。高校生の野球チームがプロの二軍と戦ってるイメージです。
佐治 通信制高校の2軍だったら……本当に運が良いと何とか勝てるぐらいですけど、1軍には絶対勝てないと感じます。通信制高校と同じブロックに入るか入らないかでもう戦いが始まっているというか。通信制高校と自分たちがどのブロックになるか、毎回そこが気になりますね。
??日々の活動での目標はありますか?
佐治 あと3、4カ月で引退することになると思うんですが、来年になったとき、後輩には最低でも自分たちぐらいまで強くなっていてほしいというのはあります。正直、先輩たちが強すぎて年々実力が落ちていってる感触があるので……。せめてここで戦力を維持して強くしてあげたい、というのはあります。
??大会の様子を見ているとそうは感じませんでしたが……。
林 昨年、一昨年はクジ運が良かったんですよ。前回のeスポーツ選手権も正直すごく運が良かったんです。全国各地の名だたる学校がいないブロックに配属されて、ブロック優勝まで見えたんです。(決勝の対戦相手の)大阪市立西高等学校も1試合だけ勝ったことがあったので。
??運だけじゃなく実力も、ということですね。
一同 そうですね!頑張ります!
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