高校eスポーツニュース
2024.01.24
「F1レーサーはマシンに詳しい、eスポーツも同じこと」、富山の高岡向陵高校でeスポーツ×人材育成
- 大会/イベント
前のめりになるほど楽しいことがあるなら、今よりもっと捗る勉強方法があるかもしれません。このほど、NASEF JAPANとZORGEは富山県高岡市の高岡向陵高等学校で、eスポーツを活用したSTEAM教育に挑戦しました。カギとなるのは、紙と鉛筆だけでは引き出すのが難しい“好奇心”をいかに刺激するのか。1月19日に実施された講座の様子を取材してきました。
STEAM教育推進 富山県プロジェクト
机に向かって長時間勉強することは難しくても、ゲームやeスポーツなら積極的に長時間、机の前にいたくなるものです。今回、NASEF JAPANとZORGEが挑んだのは、この情熱をできるだけそのまま学習につなげる取り組み。全50コマほどの講座で、希望者15人ほどを対象に実施しました。
STEAM教育は、「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Art(芸術)」「Mathematics(数学)」の頭文字を取った言葉です。講座も、組み込みエンジニアリング講座、デザイン・アニメーション講座、PC組み立て講座、映像編集・映像配信講座、デザイン講座、eスポーツ合同練習、高校生企画運営eスポーツ大会など、STEAMに沿った内容で構成されています。
NASEF JAPANは組み込みエンジニアリングやデザイン、アニメーション、PC組み立てなどを担当。ZORGEが映像編集・映像配信、デザインやeスポーツ関連の講座を担当しています。1講座は10コマほど。1コマ約2時間です。
好奇心から自ずと応用
取材に訪れた日は、アニメーションについての講義。工学以外のS、T、A、Mが含まれています。講師は、プログラミング教育のスペシャリストの下村幸広さん。すでに組込エンジニアリング講座などを実施し、好奇心を引き出しながら教え導くスタイルで生徒たちの心をつかんでいました。
講義は、PCと「Prosessing 4.2 for Windows」をつかってデジタルアートをプログラミングで作成するというもの。生徒たちは、マウスカーソルの位置情報を検出し、カーソルの動きに合わせて図形を表示するプログラムを組んでいました。ただ指示された通りのプログラムを組むのではなく、図形に色を付けたり、サイズを変更したりと、これまで得た知識を活用して生徒自身が独自の工夫をしていたのが印象的でした。
さらには数学の要素が強い内容もありました。乱数を用いた試行を繰り返すことで数値計算を行う“モンテカルロ法”です。半径1の円と一辺2の正方形を重ね合わせた図形にランダムで点を打つと、正方形内と円内の点の数の比が3.14に近づいてくる、というプログラムを組んでひたすら試行する、という内容でした。賭け事などに活用されることがあるため、カジノで有名なモナコ公国の地区の一つから名付けられています。
講義に参加していた奥波蒼真さんは「何をしているのかわからないところもありますが、動くので楽しいです」とコメント。竹内創太郎さんも「数学は苦手ですが、プログラムは組むことができました」と話していました。鉛筆と紙だけでは数学に抵抗感のある生徒も、自分で組み上げたプログラムが動いているところを見ると、達成感や面白さから結果的に数学の学習につながった様子でした。
講師を務めた下村幸広さんは、「F1レーサーは、レースで勝つためにエンジンの仕組みなどを詳しく理解しています。eスポーツもPCとネットワークを使った競技なので、基本的な情報を知っているのといないのとでは大きく異なります。eスポーツをきっかけにそういった知識を身に付ければ、授業や仕事に応用することができます」と、eスポーツを支える技術的な仕組みを理解する大切さについて強調。
「好奇心を引き出すことで“やらされている勉強”ではなく、その先を知りたい、行きたい、思わず実践しちゃう、と自発的に前に進めるような講義を心掛けました。今回、マウスの座標をもとに図形や線を引く内容で実施しましたが、発展させていくとエイムのトレーニングツールなどにもつながります」と、ベテランの技術をいかんなく発揮しました。
eスポーツで得た学びを次につなげる
今回のプロジェクトを実施した経緯について、NASEF JAPAN エバンジェリストの大浦豊弘さんは、「NASEF JAPANでは現在、eスポーツを入り口としたデジタル人材やグローバル人材を育成支援するためのSTEAM教育推進活動を行っています。STEAM教育は生徒に気付きを与え、将来進む道を考えるきっかけをつくります。たとえば、eスポーツ大会の告知ポスターの制作や、デザインコンテストなど、さまざまなことにつながります。eスポーツを呼び水にして、こうした潜在的な能力を発掘し、今後懸念されるIT人材不足の解決に貢献できればと考えています」と話します。
NASEF JAPANと共同でプロジェクトを進めているZORGE 代表取締役/CEOの堺谷陽平さんは、今回のプロジェクトに参加した理由について、「高校生向けのeスポーツの取り組みを広げていきたいと考えて参加しました。富山はまだ学校にeスポーツを受け入れる体制が整っているわけではありません。まずは教育的な側面からアプローチをかけて、徐々に納得してもらえるような取り組みを作って、流れを変えていきたいと思います」と展望しました。
富山県には約50校ほどの高校がありますが、eスポーツに取り組んでいるのはこのうち5~6校ほど。こうした現状を変えるために堺谷さんは動いています。今回のプロジェクトには富山県立大学も参加しており、生徒たちに各講座の受講前と受講後のヒアリングを実施。どのような影響を与えているのか研究し、今後につなげていこうとしています。
そんな富山県のなかでもeスポーツの教育的活用に積極的に乗り出した高岡向陵高校の宮袋誠副校長は、「私も最初は懐疑的でしたが、eスポーツが人と繋がる手段となっているという現実を見て意識が変わりました。練習があるから学校に来る、人と関わるようになる、といった事例があるので、教員も見方を変えていかなきゃいけない、という空気が段々出来上がりつつあると思います。今では、eスポーツ部があるからと入学してくる生徒も現れました。eスポーツに取り組む生徒たちには、ただゲームをプレーするだけでなく、イベントを企画したり、中学生や小学生に教えたりと、学んだことを応用していってもらいたいです」と期待を寄せます。
今回の取り組みは、企業版ふるさと納税を活用したプロジェクトの一環です。今後IT人材が不足していくという懸念に対し、eスポーツを入り口とした「デジタル人材」「グローバル人材」の育成支援による課題解決に向けて活動するNASEF JAPANとZORGEの理念に共感したサードウェーブが寄付を実施。地元企業のZORGEが地域と学校をプロジェクトと結び付け、実現しました。
将来的には、同じような取り組みを繰り返し実施できるように、地域に根付かせることを狙います。ZORGE周囲を巻き込みながら継続していくことで、IT人材の育成と受け入れる土壌の形成を目指します。同時にeスポーツに対する理解を広めることで、eスポーツ部の創設や大会参加、観戦、イベント開催など、eスポーツの輪がさらに広がっていきそうです。
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外部リンク
高岡向陵高等学校
https://takaokakoryo-h.ed.jp/
ZORGE 公式サイト
https://zorge.jp/
NASEF JAPAN 公式サイト
https://nasef.jp/
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