高校eスポーツ探訪
2022.10.09
eスポーツを“活かす”には? 仙台育英高校、ゲーミングPC80台導入の背景(下)
- ゲーミングデバイス
- 高校eスポーツ
今年4月、強力なGPU搭載したゲーミングPCを80台も導入した仙台育英高等学校。全日制普通科高校としてはかなり異例な大規模投資です。その背景にはICT教育に注力する教育方針とeスポーツを通じた教育の価値への「気づき」がありました。そんな流れを生んだ仙台育英高校の“土台”とeスポーツとの関わりについて、同校に取材しました。
大人が導く大切さ
仙台育英高校のeスポーツ部を語るうえで前提となるのが、同校の部活の捉え方です。部活は課外活動ではありますが、「部活は学生生活の一環であり、学校の魅力を構成するものでもあるので、学校教育の範囲と考えて教員がマネジメントしています」(加藤聖一学園常務理事・校長室長)といいます。
これは部に昇格していない同好会などにも当てはまり、必ず教員が運営をサポートします。理由は大きく二つ。一つは「大人としてできることは正しい取り組み方を教育していくこと」(加藤室長)と学校が考えているためです。
もう一つの理由は、外部指導者など対外的な契約が発生したり部費を管理したりするためです。加藤校長室長は「支出構造を明確にしないと説明責任が果たせないので大人の目を通します」と理由を話します。「マネージャー」や「キャプテン」、「部長」などの肩書きで中心となって運営する生徒はいますが、統制を取るために必ず大人が“部長”として運営に入ります。生徒は、教員と二人三脚で運営に関わることで大人の目線を経験することができ、教育の機会にもなります。
また、部活も教育の一環と考え、必要に応じて教員が外部の専門家を呼ぶケースもあります。専門的な技術指導などは教員で対応できない場合が多く、外部の識者の力が必要になります。先の夏の甲子園で東北初の優勝を成し遂げた野球部も例外ではありません。陸上部など、教員である部長自身が監督を兼務する場合もありますが、やや例外だそうです。
なかでもeスポーツ部は当初、「eスポーツをやりたい」という学生に応える形で日野晃教務部長と後に部長に就任する村上淳教諭が校内に働きかけて創部しました。村上教諭はゲームの技術指導も可能でしたが、日本電子専門学校にも協力を仰ぎ、より専門的な技術を持つ教員に協力してもらっています。現在は、部長の布施晃伸教諭と副部長の武田若葉教諭が部活の管理者・教育者として運営に関わり、技術指導は日本電子専門学校の教員が担っています。
学校の集合体
仙台育英高校のユニークな体制も、eスポーツ部が教育に役立つ土台になっています。
同校の全校生徒数は3277人(2022年8月現在)。宮城野と多賀城の二つのキャンパスにまたがる全日制普通科高校としては非常に規模が大きな学校です。六つのコースから構成されており、宮城野キャンパスの特別進学コース・情報科学コース、多賀城キャンパスの外国語コース、英進進学コース、フレックスコース、技能開発コースがあります。それぞれのコースでは、具体的に生徒の「育成すべき資質」を掲げています。
全校3277人と聞くと“マンモス校”に見えますが、各コースの独立性が高いことから、大きなインフラを共有する6つの少人数教育の学校と言うこともできます。情報科学コースのようにICT教育に重点を置くコースもあれば、国際バカロレア機構(本部ジュネーブ)の認定を受けた教育プログラムを提供するコースもあり、「育成すべき資質」もコースによって全く異なります。
一学年の人数は70人(外国語コース)、90人(情報科学コース)というコースもあり、最も定員の多い特別進学コースでも240人と小規模な高等学校の位置学年と変わりません。なので、全校生徒で3000人を超える状況でも教員の目が生徒全員に届きやすい環境と言えます。
同校において部活に求められるものの一つは「学生のニーズ」。同時に部活がそのホームグラウンドとなるコースの「育成するべき生徒の資質」に合致するかどうかということも重要な要素となっています。合致するのであれば、部活に限らず課外で外部の団体や専門家を呼び、本格的に活動します。
例えば特別進学コースが育むべき資質として「受験に対応できる力を育む」というものがあります。その力を育むために課外活動として部活と同じ位置付けで課外講習が組まれます。宮城県の予備校や塾から講師を招き講習を実施することなどもあります。同じく部活も学校の一部であり、教育の一環という原則が貫かれています。
情報科学コースをホームグラウンドとするeスポーツ部は、ICT教育のきっかけづくりに大きな役割を果たしています。生徒が取り組みたいからと立ち上げた部活も、教員が正しい取り組み方を指導することで、「育成すべき資質」を育むチャンスになっています。
また、部活動はコース間をつなぐ機会でもあります。eスポーツ部に参加する生徒は情報科学コースが主ですが、同じ宮城野キャンパスの特別進学コースからも数名が参加しており、数名、多賀城キャンパスからの入部もあります。複数の部活を掛け持ちする「兼部」も認められています。このように、部活は横のつながりが生まれる機会としても機能しています。
コースの内容に応じたデバイス選び
コースごとに使用するデバイスが異なっているということも特徴です。コースごとにChromebook、MacBook、SurfaceなどタブレットPC、自宅にあるパソコンをもってくる、iPadなど導入しているデバイスはさまざまです。
学校が生徒の使用する端末を一律に決めるのは、大量に購入すればするほど1台当たりのコストを抑えることができ、セキュリティなどの管理も楽になります。しかし「それは大人の都合」と加藤室長は語ります。
「コースごとでやりたいことが異なるのに、デバイスを統一してしまうとその性能でできることが限られてしまう可能性があります」と全校共通化の問題点を指摘します。例えば、情報科学コースと外国語コースでは、育てたい能力や資質が異なります。それに伴って取り組む内容も異なり、デバイスに求めるスペックが変わってくるわけです。
?情報科学コースではPCを使ってアプリ開発やプログラミング、高度な画像処理を行う関係から、高性能なゲーミングPCに着目。eスポーツに真剣に取り組むためにも高いスペックが欠かせないことを加味して、80台という大量導入にいたりました。
全校で通信環境の整備もしており、NTTグループと提携して毎年回線を増強しているとのこと。なかでも5G回線をWi-Fiに変換し、強力な通信回線を利用可能にしています。加藤校長室長は、「最初に宮城県内で5Gの電波が飛んだのは宮城野と多賀城の校舎ではないかと思う」と、ゲームをプレーするうえでも重視される回線には並々ならぬ力を入れていると強調します。
活躍できる場、認められる場
こうした状況を見ると、仙台育英高校にとっては80台のゲーミングPCも氷山の一角に過ぎません。水面下には、「生徒の育むべき資質能力」に資するのであれば、既存の教育概念に縛られない柔軟な姿勢がありました。この考え方が、eスポーツが教材として役立つ土台になっています。
加藤校長室長は「子どもたちが活躍できる場、認められる場が増えるというのは学校経営として最大の喜び」として、成長に役立つインフラを計画的に整備する方針を語りました。これまでは考えられなかったゲームを教育に組み込むことで、メンタルや人格、デジタル技術などの資質を伸ばしたいという情熱がそこにはあります。
eスポーツ部の有無は、新しい時代に対応した教育を模索している学校かどうかの指標に一つになりつつあるのかもしれません。(ライター・関根 航太郎)
■関連記事
■外部リンク
仙台育英学園高等学校
https://www.sendaiikuei.ed.jp/hs/
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