インタビュー
2022.05.10
今までにないeスポーツ大会をNASEF JAPANが考案した理由 eスポーツ高校生のためにできること
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最後のeスポーツ元年とも呼べる2018年から4年が経過し、日本国内ではeスポーツプレイヤーが大きく増加しました。高校eスポーツにおいてもSTAGE:0と全国高校eスポーツ選手権の2大大会をはじめとして高校生を対象としたイベントが数多く開催されるようになり、高校eスポーツシーンは一層の盛り上がりを見せています。一方で、新たな活動に頭を悩ませる先生や以前からゲーム業界に残る悪習といった懸念点も。新年度が始まった今、NASEF JAPANへの取材から高校eスポーツの現在地を考えます。(取材・文/銭 君毅)
急速に拡大した部活としてのゲーム
2018年に「全国高校eスポーツ選手権(高e)」が立ち上がり、19年には「STAGE:0」が初開催、20年からはサードウェーブによる「高校eスポーツ部支援プログラム」が開始、高校eスポーツシーンは年を追うごとに拡大の一途をたどってきました。もともと日本eスポーツ連合(JeSU)の設立や国内eスポーツチームの活躍により国内でeスポーツへの注目が集まってきていましたが、大会という場が提供され、機材面の支援という環境整備がなされたことで高校においても普及が拡大した印象です。事実、前述の大会におけるリーグ・オブ・レジェンド部門の参加チーム数は年々増加しており、高eでは18年に93チームだったのが21年には163チームに、STAGE:0では19年に60チームだったのが21年には173チームへと増えています。これまでも趣味の一環としてeスポーツをプレーする高校生は多かったと思われますが、これらの草の根的な活動を部活動の大会として体系化したことで表面化したのかもしれません。近年は地方の学校などでも先進的な取り組みが進んでおり、地方創生や地域活性化といった目的のもと、eスポーツに積極的な自治体や学校も生まれています。
NASEF JAPANの岡田勇樹トーナメントプロデューサーもそういった流れを実感している一人で「大会のシーンはすごく大きくなってきていると思います。われわれとしても部活動の立ち上げ支援を続けてきましたし、サードウェーブによる部活動支援プログラムもあり、学校でeスポーツに触れる機会が増えてきています。これはわれわれが学生だった頃は考えられないこと」だと言います。NASEF JAPANでは、21年からeスポーツ部かそれに準ずる活動をしている学校によるコミュニティを醸成することを目的としてNASEF JAPANメンバーシップの募集を始めていましたが、当初10校程度の規模だった会員数が、現在は310校を超えるほどまで拡大しているとか。これは情報収集や他校との交流に積極的な学校が増えている証拠でもあります。
新型コロナウイルスによる活動制限の影響も無視できません。岡田プロデューサーは「コロナの“せい”というか“おかげ”というか、両方の側面がある」と分析します。ここ1、2年、日本全国の教育機関は感染拡大防止のために教育活動を制限する動きが広がっています。中には部活動を禁止する高校も多数存在しました。eスポーツ部や同好会なども例にもれず活動が制限されているといい、過去に高校の部活動を基準とした大会をNASEF JAPANが開催した際には「(活動禁止の影響で)部活としては参加できないため、生徒各自の自宅からの参加を認めてほしい」といった要望もあったといいます。一方、コロナ禍によるおうち時間の拡大はオンラインゲームのプレー人口を増やすことにもつながりました。これにより高校でeスポーツが普及する土壌は整えられつつあり、岡田プロデューサーは「コロナが明けてくれば、(eスポーツは)もっと盛り上がると思います」と期待します。
また、高校生たちのプレースキルにおいても徐々に変化がみられている様子。宮川慶吾テクニカルコーチは「強い生徒は学年が上がっても強く、最近ではプロチームと兼任している子も出てきています。一方で、プロ活動をしておらず名が知られていない生徒が上位入賞することも増えてきました」と語ります。「高校生の吸収力は速く、特に目標が定まってからは一気に伸びる傾向にあります。われわれが思っているよりも、高校生はさまざまな大会で鍛錬を積んでいて、レベルがどんどん上がっている」と期待を寄せます。大会が増加したことで、そこに向けた計画的な練習ができるようになっているのかもしれません。
いまだ根深い課題の数々
一方、高校eスポーツには課題も残ります。前述の通り、学校や自治体がeスポーツに意欲を示している状況は高校eスポーツシーン全体にとって追い風になっていますが、現場がそれについていけるかどうかは別問題です。NASEF JAPANでeスポーツ戦略室長を務める内藤裕志さんは「いかに入学者数を伸ばすかは経営を考えるときに重要な視点になります。eスポーツ部の存在により、生徒たちが自分の興味を持ったもので成長できる機会があると広報することは、結果的に入学者数を増やし、退学や転校を防ぐことにつながります。しかし、誰が先導し、環境を整えていくのかは相談していかないといけません」と語ります。eスポーツにおいては、ほとんどの学校が初の創立になることからノウハウの蓄積がなく、当然eスポーツ部出身の教員は存在しません。いざ顧問を任されたとしてもいかに運営していくかは手探りの状態になります。eスポーツ以外の部活動においても教員が自らの希望とは異なる部活動の顧問を“やらされる”事態は慢性的かつ深刻な問題ですが、eスポーツ部においてはより多くの負担が教員にのしかかる可能性が高いと言えるでしょう。
また、eスポーツ自体の問題でもある暴言も、高校生や教育関係者にとっては大きな課題となります。もともとオンラインゲームに限らず対戦型ゲームには、対戦相手・味方への暴言やいわゆる“煽り”と呼ばれるバッドマナーがつきものでした。「ゲームの世界は罵倒するような発言が多くなりがちな特殊な環境です。リアルスポーツでそんなことはめったにありません」(岡田プロデューサー)。現在においてもeスポーツの文化などと表されるこれらの要素ですが、多くのタイトルがオンライン化し相手の顔が見えなくなったことでより顕著になった感があります。多感な時期であり、今後のeスポーツ文化を支える存在でもある高校生たちが触れるだけに、これらの悪しき慣習を断ち切る取り組みが必要になります。
新プログラムの裏側と狙い
そういった中、eスポーツを軸とした教育支援を展開する団体「北米教育eスポーツ連盟 日本本部(NASEF JAPAN)」が高校eスポーツ大会をベースにした新たな教育プログラムを発表しています。そもそもNASEF JAPANは、北米を中心としてeスポーツを活用した教育支援を実施する民間団体「北米教育eスポーツ連盟」が、ゲーミングPCメーカーであるサードウェーブと提携して誕生しました。内藤eスポーツ戦略室長は同団体の活動内容を「生徒に対する活動、先生や学校組織に対する活動、それら以外のその他のeスポーツ関係者に対する活動」の三つに分けられると言います。具体的には、生徒に向けた大会などの開催、先生たちに向けた勉強会の開催やカリキュラムの作成、その他の関係者に向けたセミナーや報告会の実施といった内容で、これらの活動を通し、20年11月の創設以来、eスポーツ教育の普及を目指してきました。
特に大会については、フォートナイトを2回、ロケットリーグを1回と精力的に主催。他団体との共催も含め、高校生たちに大会出場という機会を数多く提供してきました。そして今年4月、これまで開催してきた大会シリーズ「NASEF JAPAN MAJOR」のフレームワークを一新。NASEF JAPAN MAJOR 2.0として開催しています。最も大きな改革と言えるのが、参加校に対して大会前後に実施する教育プログラム「Beyond the Game Program」(関連記事)で、プロ選手などの実力者から競技タイトルのテクニックを学べるスキルアップレッスンと、eスポーツに取り組むにあたって必要となるコミュニケーション力やマナーを身につけられるスポーツマンシップレッスンの2種類のカリキュラムを用意しています。
今回、大会のシステムに大幅な改修を加えた背景には、NASEF JAPAN設立当初からの想いがあったのだとか。岡田プロデューサーは「もともと、NASEF JAPANで大会を開くなら普通の大会とは一線を画した大会を開きたいと思っていました」と言います。創設からさまざまなイベントを企画し、一般的な競技大会も開催してきましたが、大会に関しては元から「勝つことだけが目的ではない大会」を開きたかったそう。内藤eスポーツ戦略室長は「やはりわれわれはeスポーツを広げる団体ではなく、次世代の若者たちの可能性をどのように広げていくか考える団体だということが念頭にありました。ただ、いくら崇高な活動をしていたとしても生徒たちがやりたいと思ってくれなければいけないので、まずは大会を実施し、プレーする場を提供することにフォーカスを置いていました」と振り返ります。Beyond the Game Programの作成は21年の秋から着手。今年度初の大会でお披露目となりました。
同プログラムを作成するにあたり、「最初に考えたのはスポーツマンシップレッスンの方でした」と岡田プロデューサーは語ります。「私としては、(eスポーツは)どうしても暴言が飛び交うよねっていう印象を失くしたいと思っています。われわれの取り組みが入り口となって、発言に気を遣う生徒が増えてくれたら嬉しいです」(岡田プロデューサー)。直近ではプロ選手の失言に注目が集まるなどeスポーツが一般化したが故の問題も頻発するようになってきました。スポーツマンシップレッスンでは、子どもの精神的な成長を促すだけでなく、彼らの将来を守ることにもつながるのかもしれません。岡田プロデューサーは「発言の内容がプレーの強さに直結するかというと難しいところですが、そういった精神を持っていて悪いことはないはずです」と強調します。
一方で、岡田プロデューサーは「ぶっちゃけていうと、スポーツマンシップって生徒さんたちにとって面白くないじゃないですか。なので、ゲームのスキルを鍛えることができるスキルアップレッスンも企画することになりました」と語ります。スキルアップレッスンでは、プロ選手や各タイトルでの実力者を招いてゲーム内のテクニックを伝授するもので、実際にプレーする時間も交えながら教えます。講師を担当する宮川コーチは「こういった技術指導は座学が中心になってしまいがちで、高校生が2時間ずっと座って話を聞くというのはきついでしょう。そこで、クイズ形式を取り入れたり、実際にチャンピオンを動かす時間を設けて飽きない仕組みを作っています。見て、実践して、覚えるというサイクルでインプットさせています」と語ります。そのほか、参加するチームを実力でレート分けし、各レートに合った内容を教えることでレートが低い生徒が遠慮してしまう状況をなくしたり、授業後にアンケートを実施し生徒の理解度を整理し、次の授業で補講を開くことで全ての生徒を置いていかないよう工夫しているのだとか。宮川コーチは「クラス全員の足並みをそろえるため、生徒たちの意見を聞きながら歩調を合わせるようにしています」と語ります。一方で、これらの技術指導の対象は生徒だけではありません。「ゲーム好きの先生ばかりではないので、普段の部活動で生徒たちにどんな練習をさせればいいかという疑問がたくさん届いています。そういった先生向けに、初心者であっても生徒たちだけでできるような練習メニューを取り入れています」(宮川コーチ)。効果的な練習方法がわからない先生向けにも、具体的な練習メニューを例示することで今後の活動に取り入れられるようにしているのです。
実際に講義を実施したところ、生徒からさまざまな意見が上がってきていると言います。岡田プロデューサーは「われわれで教材を作成し、ある程度回答案も作っているんですが、想定していなかった回答も多いです。高校生の皆さんが考えたことをわれわれも吸収しつつ、今後のカリキュラムに生かしていきたいですね」と意気込みます。
健全な高校eスポーツシーンへ成長させるために
近年のeスポーツ部・同好会の増加傾向は高校eスポーツシーンが黎明期から成長期へと移りつつあることを予感させます。暴言や現場の先生など問題は部活動でeスポーツが普及したからこそ改めて認知されるようになったのかもしれません。今回のBeyond the Game Programは、若者たちの可能性を広げることに主眼を置きつつも、高校eスポーツシーンに残る課題へアプローチする取り組みだと言えます。
今後、NASEF JAPANでは、NASEF JAPAN MAJORとして開催する全ての大会をBeyond the Game Programとのセットで実施していくとしています。岡田プロデューサーは「現時点では先生や生徒の皆さんが求めている内容と少しズレがあるように思いますが、意見交換しながら改良していき、受けた方々が周りに勧めるようなものにしていきたいです」と意気込みます。スキルアップレッスンにおける講師陣の人選などは模索しながらの対応となるものの、適任者をアテンドしていく考えだとか。
その他、同団体ではさまざまなeスポーツ教育イベントを予定しています。直近ではeスポーツをテーマとしたアイデアコンテスト「eスポーツ・クリエイティブ・チャレンジ(ECC)」(関連記事)の第2回を発表。6月?7月の開催を目指して参加校を募集しています。また、7月にはECCの結果発表を兼ねたセミナーイベント「eスポーツ国際教育サミット2022(仮称)」を開催予定です。
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