インタビュー

2025.05.13

eスポーツ部の経験から在学中に起業、山形県惺山高校出身・管悠南さんが社長になるまで

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 山形県山形市にある惺山高等学校を2025年3月に卒業した管悠南さんは、eスポーツ部でイベント運営事務局として活躍した経験から、在学中に「Link Rise」を起業しました。現在はアルバイトをしながら専門学校に通いつつ、イベント事務局代行事業を展開しています。学校生活やeスポーツ部で体験したことがどのように起業につながったのか、話を聞きました。
(取材・文・写真/南雲 亮平)

Link Riseの管悠南社長の写真
Link Riseの管悠南社長

「とりあえずやってみよう」の精神

── Link Riseはどのような会社なのでしょうか。

 イベント事務局・運営を代行する会社です。イベントの企画から、実施に必要な機材の準備、人手集め、イベントチームの立ち上げ、当日の進行表などの資料作成、オープニング映像の制作、イベント当日の運営まで担当します。3月には、初の仕事として服飾関係のイベントを開催しました。高齢者や身体障がい者でも着やすいようにリメイクするというイベントで、企画から運営まで行いました。

 このほか、学校や一般企業、地元の方々とつながりながら、活動領域を広げています。eスポーツ部の経験を生かして、学校教育にeスポーツを取り入れたり、新たな学び場をつくったりして、サポートもしています。

Link Riseの事業概要の写真
Link Riseの事業概要


── 「イベント事務局の業務を行う」事業を展開している理由を教えてください。

 きっかけは、eスポーツ部でイベントの事務局を担当した経験です。いくつかのイベントに携わりましたが、特に強く印象に残っているのは二つです。

 一つは、惺山高校が夏に開催する「サマーチャレンジ」というオープンスクールイベントです。高校2年生の時に、このイベントの事務局を担当しました。会場の手配や当日投影するスライドの準備といった裏方から、司会進行や学校説明のプレゼンテーションなど表に出る仕事も担当しました。

── 学生時代から積極的に動いていたんですね。

 これだけ聞くとそう思われるかもしれませんが、実はすべて自分から動いたものではありません。顧問の高橋先生や部員のみんなから頼まれたことがほとんどです。私は「とりあえずやってみよう」の精神で生きているので、その気持ちに従って何かを言われてから動き出し、どんどん活動が大きくなった形です。

 高校2年の時に実施したサマーチャレンジは初めて規模を大きくしたタイミングだったのですが、当日はeスポーツだけでも100人以上の中学生や保護者の方に足を運んでいただき、大成功となりました。この時は大きな達成感とともに、何かを始める時はできるかどうかではなく、やるかどうかが大事なんだと考えたことを覚えています。

 もう一つのイベントは高校3年生の秋ごろに参加した地域イベント「やまがたeスポーツフェスタ 2024 in SEIZAN ~高校生が作るeスポーツイベント~ 」です。こちらでは実行委員長を務め、最終的に来場者数200人以上の大規模なイベントとなり、大成功を果たしました。

 とはいえ、私の仕事は順調に進んでいたわけではありませんでした。自分の中にある完璧にしたいという理想や期待に応えたいという思いから、プレッシャーに押しつぶされてしまい、1週間ほど学校を休んでしまったり、仕事が手につかなくなってしまったりということがありました。

 その間も心のどこかで「このままじゃダメだ」ということは分かっていながら、「これからどうしよう」と悩んでいました。そこで頑張って学校に行ってみた際に、高橋先生が「このままでいいのか」と声をかけてくださいました。その言葉で目が覚め、ほかの人にも迷惑をかけていたことにも気が付き、もう一度自分の手でやり切ろうと、また走り出すことができました。

プレゼンする管さんの写真
EDIX東京2025のサードウェーブのブースでプレゼンする管さん


── すでにあるイベント会社に就職するという選択肢もあるなかで、なぜ起業したのでしょうか。

 もともと私は高校3年生まで税理士を目指していました。ただ、自己分析した際に、自分には合わない道であることがわかったんです。じゃあどうしようとすごく悩んで、一般企業への就職も考えたのですが、それも自分に合うところがなかなかありませんでした。

 先生と相談しながらずっと悩んでいたのですが、そのなかで高橋先生が「起業してみたら」と話してくださいました。学校でアントレプレナーシップ(起業家精神)学習の時間がありましたし、簿記の勉強もしていたので不可能ではない選択肢ではあったんです。けれどその時は、「社長になるなんて私には無理だ」と思いました。私はゼロからアイデアを生み出すことが苦手で、人から頼まれたことに全力で取り組むことを得意としていたからです。

 そんな私が起業するに至ったのも、大きく二つの理由があります。一つは2024年に大阪で開催された「EDIX(教育総合展)」でeスポーツ部の取り組みについてプレゼンをしたときです。プレゼン後にOCA大阪デザイン&テクノロジー専門学校のeスポーツ学科長の田中義乃さんが「すごくよかった。あなたなら絶対できる」と声をかけてくださったんです。誰かに信じてもらえるなら「じゃあやってみよう」と一歩踏み出すきっかけになりました。

 もう一つは、先ほどお話した「やまがたeスポーツフェスタ」をやり切ったことです。自信につながっただけでなく、来場された方々の笑顔を見て「イベントを通じてみんなを笑顔にしたい」と思ったとき、ふと「私は起業するんだな」といった感覚が頭に浮かびました。そこで決心がつき、いまLink Riseでイベント事務局や運営サポート、事務作業の代行というサービスを提供しています。

管さんの写真

「イベント事務局」業務の原点

── もともとeスポーツやゲームに興味があって惺山高校に入学を決めたのでしょうか。

 こちらも二つの大きな理由があります。まず一つは税理士を目指していたので、商業科で簿記が取れるということ。もう一つが、eスポーツ部から推薦をもらっていたからです。

── 中学生のころから推薦されるほどの実力があったと。

 中学時代に惺山高校のオープンスクールでeスポーツ体験に参加し推薦していただきました。中学生のころからeスポーツに触れており、部活動体験に真剣に取り組んでいた姿を見つけていただいたのかもしれません。小学生のころに雑談配信をはじめ、中学生になってからはゲームの配信をするようになりました。最初は親からゲーミングPCを借りることができたので、参加型のホラーゲーム配信していたのですが、ゲーム内で出会った人にFPSに誘われて、始めたら夢中になってしまいました。規模は大きくありませんが、細々と活動していたこともありました。

── 参加型の配信を実施していたんですね。人を集めて、集まった人と楽しむ活動は、イベント事務局の原点とも言えそうです。推薦で入ってからは、イベント以外にどのような活動をしてきたのでしょうか。

 実は入部当初はeスポーツ部ではなく、「IT部」という名前の部活でした。ゲーミングPCも5台しかなかったのでローテーションでプレイするしかなく、eスポーツ以外にも音楽制作やプログラミング、アナログで将棋を打つ部員など、緩すぎる空間でした。

 でも2年生に上がる頃、新しく顧問となった高橋先生が部活をしている部屋にやってきて、「やる気のある生徒は来い」という声掛けがありました。私は「つまらない毎日を変えたい、楽しいことがあるかもしれない、何か成し遂げてみたい」という思いでついて行きました。

 ついて行った先で最初にやったのは、部室の掃除でした。机の設置をしたり、PCを購入して設置してみたりしているうちに、何かがここから始まる、もう始まっているのだと感じたんです。その後、ただゲームをするだけでなく、それぞれの力が発揮できる部活動にしていこうということで、方針を大きく変え、練習から始まって、大会に出て優勝を目指すという、大きな目標をもって活動していく方針に変えました。そして高校3年に上がる際に、ついに正式にeスポーツ部となりました。

── 方針を変えることができる立場ということは、何かしらの役職についていた?

 部活では事務局長を担当していました。部長、副部長と並ぶ役職です。部員が100人以上いるので、3人で協力してまとめていました。部長とほぼ変わらない立ち位置と言ってもいいかもしれません。そうした経験も、かけがえのないものとなりました。

── 奇しくもまとめる立場は今と同じですね。最後に、今後の展望について教えてください。

 今はイベントで配るチラシのデザインなどを専門に学ぼうと考え、今はウェブデザインを学べる専門学校のICTクリエイティブ学科に通っています。これまで独学でしたが、改めてしっかりと学び、仕事に反映していきたいと思ったんです。ちなみにアルバイトもしています。高校時代は三つのアルバイトを掛け持ちしていましたが、今は一つだけです。

 当社の社員はまだ私一人ですが、いつか事業を安定させて、地元山形のいろんなイベントを担当できる会社にしていきたいと考えています。

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外部リンク

惺山高等学校
https://www.seizan.ed.jp/

Link Rise
https://www.instagram.com/link.rise?utm_source=ig_web_button_share_sheet&igsh=ZDNlZDc0MzIxNw==

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