インタビュー

2022.12.11

eスポーツの未来がかかった「漫画」? 編集者×企画者×漫画家【スペシャル対談】

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 漫画業界、そしてeスポーツ業界はこれからどうなるのか──。今回は「eスポーツ」を題材とした漫画『ガーディアン・エンジェル』の担当編集者と企画者、漫画家の「しゃるもん」さん、の計3人と「漫画業界の未来」「eスポーツの未来」について語り合いました。(eスポーツジャーナリスト・小川)

eスポーツ漫画『ガーディアン・エンジェル』作者のしゃるもんさん

・今の漫画読者は「コンテンツに飽きやすい」
・キャラを描くべきか?ゲームを描くべきか?
・読者ターゲットをゲーム初心者にすべきかガチ勢にすべきか?
・同時に5人のキャラクターを描く難しさ
・漫画『ガーディアン・エンジェル』は「eスポーツ業界の課題」を描いている?

 漫画制作の裏側や苦労話など、漫画の企画者や編集者を目指したい人にとって、必見のインタビューになりました。

Z世代やスマホネイティブは「漫画の消費スピード」が速い

── 全4巻という長さについてどう感じていますか? 4巻は一般的な漫画だと、かなり序盤の印象でして、『ワンピース』だとウソップが仲間になっていないぐらいの巻数です。そのあたりに短さや難しさを感じませんでしたか?

しゃるもん 5人のキャラクターたちのことを、しっかりと描ききりたいという想いはありました。それぞれキャラクターの魅力であったり、どこを目指しているのかであったりを限られた巻数で描きたいと思いました。

編集者 昔はマンガといえば紙の雑誌でしたが、今はWEBやアプリで連載している作品が随分と増えました。『ガーディアン・エンジェル』もアプリで連載しています。媒体がWEBやアプリになったことで、読者のコンテンツを消費するスピードが速くなったと感じています。つまり読者が「飽きやすくなっている」ということです。

 少ない巻数で描くのはもちろん大変なのですが、その中でも読者に楽しんでもらえるように物語を描くというのは、今後もやっていかないといけない挑戦だとは思っています。


── 新しい世代のニーズに対応して、成功している漫画の代表例は何かありますか?

編集者 最近のスポーツ漫画では『メダリスト』という作品が印象的です。フィギュアスケートの話なのですが、あまり知られていないルールを説明しながら、人物も描いていく必要があるのは、eスポーツの漫画と共通する点です。

 小学生が全国大会に出場する話なのですが、全体的にスピード感もあって、時代に合っている作品だと感じました。

 あと少し昔の作品ですと『僕のヒーローアカデミア』も、第1話で「これは僕が最強のヒーローになっていく物語です」と主人公の目標が提示されるのは、今の漫画でも有効な手法ですね。最初にどういう漫画なのか言いきっちゃう感じが、今の読者のスピード感に合っている作りだと思います。

eスポーツ漫画の“挑戦”と“課題”

── 挑戦的なコンセプトの漫画であるがゆえに、さまざまな課題が浮き彫りになったかと思います。また偶然にも、eスポーツ業界が抱えている課題と『ガーディアン・エンジェル』の課題が重なるような気がします。各メディアもeスポーツを広めようと考えつつも、PV稼ぎをインフルエンサーの影響力に頼ってしまい、本質的なゲームの面白さを伝えることに苦労しています。

編集者 ゲームを取り上げるべきか、人物をとりあげるべきというお話には非常に共感します。私たちもゲーム描写と人物描写のバランスには苦労しました。

 『ガーディアン・エンジェル』では、eスポーツ好き以外の読者が入りやすいように、序盤は普通の漫画のような話になっています。それはそれで作りやすく面白い作品になったと思っていますが、もし序盤から積極的にゲームのことを絡められたのであれば、eスポーツの漫画であることの必然性がもっと高くなったかもしれません。

「ゲームを使ってキャラクターを描く」ということですね。

 例えば、ゲームのプレイスタイルとキャラクターの人間性がリンクしているだとか、もしくは性格とプレイスタイルが真逆だとか。

 あとは「そのキャラクターが何故、そのゲームをやりはじめたのか。どうしてFPSではなく、MOBAを選んだのか?なぜ格闘ゲームでは駄目だったのか?」といったテーマに切り込むのも面白いと思っています。そういったeスポーツ漫画ならではの切り口を、もっと積極的にやる方法もあったかなと。

 どういう形がベストだったのかはまだ見えてはいませんが……

── 「時代に合っている」ことが重要だったりするのでしょうか。というのも「eスポーツ×女子高生」というコンセプトの漫画は、何パターンでも作れてしまうので、今の時代にマッチしている「eスポーツ×女子高生」漫画がどんどん紡がれていくと良いなと思いました。今後はMOBAだけでなくFPSなど、いろんなeスポーツを題材とした漫画が出てきてほしいなと。

しゃるもんさん LoLにせよ『Valorant』にせよ、5vs5のeスポーツを描く場合、主人公5人の物語を描くのが大変ですね。

編集者 そうなんですよね。漫画はメインキャラが2人とかでも成立するので。

しゃるもんさん よくあるのが「主人公×ヒロイン」とかですよね。

編集者 メインキャラが5人いると、5人の組み合わせで関係性が無限に作れちゃうんです。

 『ガーディアン・エンジェル』に与えられたミッションが、普段から漫画を読む人にeスポーツの良さを伝えることだと考えたので、まずは漫画としての面白さで漫画好きの人たちを納得させた上で、eスポーツの魅力を伝える描写を組み込んでいくようにしました。

とはいえ、eスポーツ好きの読者がこの漫画を手に取ることもあるので、eスポーツの描写に手を抜くわけにもいかない。eスポーツの初心者とガチ勢、どちらに向けて作っていくのかが難しいところでした。

ガチ勢と初心者、どちらのニーズに応えるべきか

── マインドスポーツを題材にした漫画ですと、『咲-saki-』とか『アカギ』がありますが、どちらも読者に「麻雀の知識がある」ことが前提で進むので、eスポーツ漫画も専門的な部分はガチ勢を対象に設定しつつ、初心者に対しては、キャラクターの可愛さやバトルシーンのカッコよさで押し切るというのも、選択肢の1つだったのでしょうか?

編集者 おっしゃるとおりですね。ただ麻雀とMOBAでは知名度もルールの浸透度も違うので、MOBAが麻雀ぐらいメジャーなコンテンツであれば、その戦略が有効かもしれません。

 麻雀漫画雑誌があるぐらい、eスポーツ漫画というジャンルが確立されるまでの、今をどうやるのか、というフェーズなので、一筋縄ではいきませんね。
 eスポーツ漫画は他にも出ていて、どれも2?4巻ぐらいのボリュームなんです。やはりどのeスポーツ漫画も同じような課題を抱えていて、キャラクターを描こうとするとeスポーツの部分が少なくなって、eスポーツ漫画であることの必要性が薄れていく。そうするとeスポーツを読みたい人のニーズに応えられない、そこのせめぎあいですね。

── 少し大げさかもしれませんが(発展途上のジャンルを突き進む)『ガーディアン・エンジェル』が背負ってしまった使命がある気がします。

編集者 そういう部分もあるかもしれませんね。

 『ガーディアン・エンジェル』はMOBAを扱ったeスポーツ漫画なので、5人のメインキャラクタ?が常に登場している漫画になりました。大変な部分もありますが、読者が感情移入できるキャラの選択肢を増やすことが容易だった、そこの作りやすさはありましたね。

 MOBA以外のeスポーツを扱った作品だとしてもしっかりとゲームの切り口でキャラを描ければ、良いeスポーツ漫画が生まれると思います。今も『ガーディアン・エンジェル』を編集していて、できるだけゲームと紐づいたセリフを言わせてあげるように奮闘していますね。

── ここから3巻?4巻、終盤に向かうにつれて、キャラの個性とゲームのプレイスタイルがリンクした発言が出てくるんですね。

企画者 ご期待に応えられるように頑張っています(笑)。

── ちなみに結末が描かれる最終巻(4巻)はいつ公開予定でしょうか?

編集者 3巻が年内か年明けに公開されるので、4巻は来年末ぐらいになると思います。

eスポーツ関係者は今すぐにこの漫画を読むべき!

── 今後の展開としてはどのようなことを考えていますか?

企画者 企画側としては、せっかく立ち上がったeスポーツ×女子高生というコンテンツなので、今後どのようなメディアミックスをしていくべきかを考えています。

編集者 私たちは面白い作品だと思って作っていますが、この漫画を読んだ方々は、みんないろんな意見があると思うので、意見を自由にいえる場になることが、私たちとしても作品を作る原動力になりますね。「俺なら作中のゲームデザインはこうする」でもよいですし「私が祈(※作中のキャラ)だったらこうする」でもよいですし。

── 1つの漫画として消費されて終わるのではなく、「eスポーツや漫画について語り合える」プラットフォームを担ってくれるとよいですね。

編集者 そうですね。コンセプトが尖っていて、画もキャラが立っているので、どんどん語り合ってほしいですね。

企画者 (ただコンテンツを受け取るだけでなく)自分の意見をSNSで発信する時代なので、そういう場を作れるように頑張っていきたいです。

── 本当にその通りだと思います。eスポーツが好きな人たち全員で、この漫画を読んで語り合いたいと思いました。世間のeスポーツ関係者は今すぐに『ガーディアン・エンジェル』を読んで、SNSに意見を書くべきですよ!(笑)

編集者&企画者 (笑)

企画者 私たちも、漫画界のブルーオーシャンを走っている感覚はある反面、参考にできる漫画が他になく、どのジャンルに当てはめるべきか迷っている部分もあります。その辺りはいろんな方々に意見をもらってブラッシュアップしていきたいですね。

編集者 ですね。

企画者 この対談記事を読んで「何か一緒にやりたい!」と思ってもらえる方がいたら嬉しいなと思います!公式TwitterのDMを解放していますのでどんどんお声がけいただきたいです!

『ガーディアン・エンジェル』公式Twitter(@0guardianangel0)
https //twitter.com/0guardianangel0

スポ魂モノが苦手な人にオススメな『ガーディアン・エンジェル』

── 個人的には『黒薔薇の夢幻』(漫画 しゃるもん)も合わせて読むと『ガーディアン・エンジェル』は面白いと思いますね。先ほど大量のキャラクターが出てきて大変という話がありましたが『黒薔薇の夢幻』はそれ以上のキャラクターが出てきてさらにカオスなので(笑)

しゃるもんさん 『黒薔薇の夢幻』では100体以上のキャラクターが出てきますね。
『黒薔薇の夢幻』https //rookie.shonenjump.com/users/1609047349021210750

── 『ガーディアン・エンジェル』の比じゃないぐらい、次々とキャラクターが出てきますね。『ワンピース』の七武海みたいな集団が何チームも出てくるので(笑)。

編集者 『黒薔薇の夢幻』を大変気に入ってくださっているようでありがとうございます(笑)

── 読ませていただいています(笑)。序盤の展開は漫画やアニメに慣れている人ほど、騙されると思いますね。9話ぐらいまで世界観の全容が明かされないので、最初は『XXXHOLiC(ホリック)』とか『地獄少女』のような漫画なのかと思いきや、全く違う方向に進んでいきバトル要素が強くなっていく。

しゃるもん やはりバトルが好きなので、描いているうちにバトル漫画にしたくなりまして(笑)。

企画者 『ガーディアン・エンジェル』も仲間集めの日常パートの後、紅音達が操作するゲームキャラクター達の競技パートがメインとなっていきます。現実のゲームですと画面越しにしか見られないバトルシーンも、漫画だったら立体的に表現できるのでそこも注目していただけると嬉しいです。


── 『ガーディアン・エンジェル』って、スポ魂モノ漫画が苦手なひとでも楽しめるようになっていますね。日常パートと競技パートの見た目が全く別物になるので、どちらかというと異世界転生ものというか、機動戦士ガンダムや仮面ライダーといった、ロボットものや変身ヒーローものが好きな人でも楽しめると思いました。

編集者 ありがとうございます!


ガーディアン・エンジェル
<概要>
性格や個性もバラバラで様々な問題をかかえる女子高生5人が「eスポーツ」に出会い、多くの苦難を乗り越えながら高校生eスポーツの頂点を目指す物語。

▼参考リンク▼

・『ガーディアン・エンジェル』
https //manga-bang.com/free/waiting_free/guardian202106#
・公式Twitter(@0guardianangel0)?
https //twitter.com/0guardianangel0

・マンガBANGコミックスより各電子書籍ストアで好評販売中!
【マンガBANG!】
https //manga-bang.com/store/books?book_title_id=1055301
【kindle】
https //www.amazon.co.jp/dp/B09NDS4W25/ref=cm_sw_r_li_dp_AZZQ9CC55SN1SD54GNXB

・『ガーディアン・エンジェル』第1話 試し読み
■マンガBANGコミックス公式note
https //comics.manga-bang.com/n/n8cc1252d9353

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