高校eスポーツニュース
2025.02.27
徳島の龍昇学園高等課程、生徒がマイクラの授業で作った校章を正式採用! 生徒と先生に聞く感想と成功のカギ
- 高校eスポーツ
徳島県徳島市にある龍昇経理情報専門学校は、2026年度にフルモデルチェンジする制服に、生徒が考案した校章を採択します。きっかけとなったのは、「マインクラフト」(マイクラ)を活用した国際教育eスポーツ連盟ネットワーク日本本部(NASEF JAPAN)の独自教材「Clubcraft 校章編」。近い将来、ゲームの中で生まれた工夫とチームワークの結晶が、学校を象徴することになります。

龍昇経理情報専門学校は、社会に出てすぐに役立つ実践的な職業教育を行い、さまざまな分野でスペシャリストを養成する専修学校です。そのなかでも今回焦点を当てるのは高等課程の3年生。情報の授業でClubcraftを利用しました。
Clubcraftは、マイクラを通じて科学、技術、ロボット工学、工学、芸術・リベラルアーツ、数学などに触れることができる教材。「調査」「制作」「発表」の3ステップで進めていきます。マイクラのクリエイティブモードを活用しており、教材自体がプレーして楽しいコンテンツになっている点が特徴です。
「部活」や「総合的な探求の時間」などでの活用を想定しており、龍昇学園の高等課程では情報の授業で教材として使用。国宝・重要文化財編や、制服編、校章編を実施しました。
『鯉の滝登り』
新しい制服に描かれることになった校章は、曽我部さんの作品です。曽我部さんは、「学校名の『龍昇』から、急流の滝を登りきる鯉は、登竜門をくぐり、天まで昇って龍になるという『鯉の滝登り』の話を連想して、学校のみんなが大成できるようにと思ってつくりました。両脇にあるのはヤグルマギクです。マイクラで知り、花言葉を調べたら幸運や信頼とあったので、校章にピッタリだと考え入れました」とデザインについて説明します。

新しい制服に採用されることについては、「恥ずかしいですが、選ばれたらいいなと思いながら頑張って作ったので、実現してうれしいです。今3年生なので、この校章が入った制服を着ることはないと思いますが、完成するのがすごく楽しみです。Clubcraftを通して、自分は細かい作業が好きだということがわかりました。また機会があったら挑戦したいです」と感想を語りました。
採択に至った経緯について、Clubcraftの進行を担当した久次米健義先生は「みんなが『龍昇』の名称から絵や文字で龍を描くなか、全く違うものを描いていたので、途中経過では何をつくっているのかわかりませんでした。でも、完成したら『だから鯉なのか』と深く納得しました。社会生活や学校生活の壁を滝に見立てて、それを乗り越えて龍になるという作品を見て、彼自身が過ごしてきた山あり谷ありの3年間を思い起こしました。大人になってもしんどいことはあるけど、それを乗り越えてもらいたいという教員一同の思いと重なったので採用に至りました」と振り返ります。

Clubcraftの採用と独自の仕組みが成功のカギ
そもそもClubcraftを授業に取り入れたきっかけは、生徒からの発案でした。新型コロナ禍で外出しにくくなった際、生徒と「オンラインで何かできないか」を考えた結果、一つの案として出てきたのがeスポーツや教育版マインクラフトです。そんな折にNASEF JAPANからClubcraft提供開始の知らせが入り、久次米先生は「短い期間で実施できて、マイクラ初心者でも取り組みやすい」と考え採用しました。
「Clubcraftはある程度のテーマが決まっているだけで、最終的に何をつくるのかは生徒の自由。テーマも知的好奇心をくすぐる内容で、白紙の状態から自分のやりたいことを見つけるのが難しい生徒のヒントにもなります。何より題材がゲームなので、授業中の生徒たちはいつもより生き生きしていました」と、久次米先生は話します。
生徒たちも、「同じテーマでも、どこかで調べてきて発表するだけの授業だったらこんなにやる気は出なかった」と口をそろえて話していました。久次米先生は、「専修学校のメリットは、柔軟にプログラムを組める点にあります。だからこそ、生徒の意見をすぐに取り入れることができ、自主性を育むことができます」と、ゲームを授業に取り入れることができた理由について説明します。
生徒の桃原さんも「この学校はeスポーツに理解があって、関連する取り組みが多いんです。体育祭や球技大会でも、生徒が運営することを条件にeスポーツを新しい種目として追加できるくらいです。先生との距離も近くて、ゲームで対戦することもあります」と話します。

和気あいあいとした雰囲気で知識を共有していた
さまざまな施策のなかでも注目したいのは、Clubcraftの取り組み方です。久次米先生が行ったのは、テーマに沿った成果物がなくても生徒の成績をつけることができる仕組みづくりでした。「発表の強制に苦しんだり、グループ活動が苦手だったり、本校に入学するまでにさまざまな理由で不登校を経験した生徒もいるので、自分たちの好きにしていいよと言ったんです。自分がどのような活動をしたのか、最後にレポートしてもらい成績をつけました」(久次米先生)。
制服編では制服を、校章編では校章を提出するなど、「学校の授業では、個人またはチームそれぞれが授業内容に沿った成果物を必ず提出するものだ」という先入観にとらわれず、独自の道を切り開いたかたちです。Clubcraftでも「生徒主体のグループワーク」を推奨していますが、今回はあえてソロ活動も認めていました。
その結果、チームに所属せず、自分の作品がなくても、ほかの机を回ってみんなのサポートをする生徒が現れました。自分の作品をつくり終わった生徒が、まだ終わっていない生徒の手助けをする場面もあったといいます。「そうした光景を見たときに、クラス全体が一つのチームだと気が付きました。Clubcraftが軌道に乗ったあたりからクラス内での会話も増え、助け合う場面が増えたとも聞いています」と久次米先生は話します。
また、嬉しかったこととして、「他人は自分ではないので、思った通りに動いてくれません。例えばチームメンバーで作業を分担したとしても、時には『自分がやったほうが早い、上手い』と思うこともあります。実際、Clubcraft中にそういった悩みを打ち明けてきた生徒もいました。でも最終的には、相手の良いところ、その子だからできることもあるということを自発的に口にしていたんです。生徒たちにはよく、自分と違う他人を認めること、そしてそんな自分も認められる人になってほしいという話をしています。そういったことが自然とできている姿を見て、心の中でガッツポーズしました」と紹介しました。
生徒たちの感想
Clubcraftに参加した生徒たちも、それぞれ得るものがあったとのこと。感想の一部を紹介します。
濱田さん PCでゲームをすることはあるのですが、マイクラの経験はあまりなく、ドット絵を描いてスキンをつくることもなかったので、そこは難しかったです。でも、自分が作りたいものをかたちにすることができるのは楽しかったです。あと、つくる過程で制服の由来や歴史を知ることができ、勉強になりました。この授業を通じて制服の大切さが分かり、今まで着てきた制服に感謝したいと思いました。
田野さん 全部楽しかったです! 可愛いものが好きなので、自分で可愛い制服をつくることができるというだけでもワクワクしました。制作中も楽しかったですし、自分がつくった制服を着たキャラクターを動かしたときはうれしかったです。当時、パワーポイントはあまり使ったことがなかったのですが、この授業がきっかけでかなり使いこなすことができるようにもなりました!

川道さん 私たち3人はグループで制服編に挑戦しました。一人で取り組むよりも、みんなで意見を出し合ったのが楽しかったです。仲も深まりました。でも、マイクラをプレーしたことがなかったので慣れるまでは大変でした。ドットでデザインするのも思ったより難しく、塗り忘れなども出てしまいました。
谷田さん 今の制服がほかの学校と似ているので、違いを出すために色はネイビーからワインレッドに変えました。ネクタイしかなかったところも、リボンを追加しています。着心地などを考えて素材から考えるのも楽しかったです。またやりたいですね。
高橋さん リボンの制作を担当したのですが、ドットで斜めや丸みをデザインするのがとても難しかったです。また、グループで制作を進めるなかで、メモの大切さを実感しました。メモがあれば前週やったことを振り返ってすぐに続きから始めることができますし、話もまとめやすかったです。

松尾さん もともとマイクラが好きで、家でもJAVA版をプレーしたり、サーバーを立てて遊んだりしています。制服編で使うスキンをつくるツールも使ったことがあったので、知識を応用して立体的に見えるよう、袖やポケットの部分に凹凸をつけました。つくったスキンをゲームに実装する作業が少し複雑でしたが、経験があったのでみんなをサポートすることもできました。

大久保さん マイクラはNintendo Switchでプレーしていたので、PC版の操作性の良さに驚きました。参加したのは校章編で、デザインの基本である三原色をベースにしています。制作にあたってさまざまな校章を調べると、地域の植物などが描かれていたので、私も住みやすい街に欠かせない自然を表す緑色を取り入れました。あとは、PCや簿記、藍染めなどいろいろ体験したことがこの場につながっていることを、四つの円で表現しています。

坂口さん 小学校のときにはマイクラを使った授業がありましたが、高校でもあるとは思いませんでした。家で遊ぶときとは違い、しっかりルールに沿ってプレーする必要がありますが、沿っていれば好きな建物を建てることもできたので楽しかったです。制服編ではデザインが難しかったのですが、自分が考えた制服が形になって、そして動くところを見たら、気持ちよかったです。

桃原さん 学校でマイクラをプレーすることになるのは驚きました。つくった校章はシンプルなデザインではありますが、かなり考え抜いた結果こうなりました。制作を始める前に日本の校章を調べていたら、似ている校章がたくさんあることに気が付いたんです。似たようなデザインではつまらないので、今度は海外の校章も調べました。そのなかで見つけた縦のデザインを参考にしました。
派手なデザインも考えたのですが、校章なのに派手だと悪目立ちしてしまうと思って、シンプルに落ち着きました。龍の文字が大きいのは、「龍」と「昇」だったら「龍」を強調したいと思い、メリハリを付けるために大きくしました。盾を描いているのは勝利・成功をイメージしています。調査に時間をかけてしまったのでデザインの時間が足りず少しシンプル過ぎるかとは思いますが、チームでやることになったらアイデアはたくさん出せると思います。

近藤さん 制服は好きな緑色にしました。あとは、モデルも緑色がよかったのでゾンビを選んでいます。パワーポイントを使って何かをつくるのは好きなので、発表資料づくりも楽しかったです。
最初は何をすればいいのかわかりませんでした。でも、いろいろな制服を調べて、自分でもつくってみたら楽しかったです。自分は知らないことに挑むのは苦手だと思っていたのですが、やってみたら面白くて、むしろ好きかもしれないと思うようになりました。ゲームが好きなので、ゲームを通して新しいものにチャレンジできたことが理由だと思います。またこうした取り組みがあったら参加したいです。

大村さん 学校でゲームをプレーする体験は新鮮でした。今回は規定範囲ギリギリを攻めるほど建築しましたが、普通の授業だったらここまでこだわらなかったと思います。ゲームが好きだからこそ頑張ることができました。難しい授業も、ゲームになればもっとできる気がします。マイクラのコマンドを覚えるのは難しかったのですが、今は検索すればいろいろな方法が出てくることがわかり、勉強になりました。

知賀さん どうやって大きいものを完成させるのか考え、工夫してつくっていくことが楽しかったです。マイクラは10数年プレーしているので、その経験を生かそうかと思い、大きくて、マイクラでは再現の難しい曲線のある「太陽の塔」をつくりました。チームメイトがExcelで設計図をつくったのですが、その時はみんな平面図しか考えていなかったので、そこから立体にするのは難しかったです。
あと基本一人でプレーしていたので、今回のようにチームで取り組むのは初めてで楽しかったです。制服編や校章編では、みんなのサポートを務めました。コマンドやツールは使い慣れているので、その知識を生かしました。

授業の手応えや生徒たちの感想を受けて、久次米先生は「Clubcraftにはまだ多くのテーマがあるので、今後もいろいろチャレンジしていきたいです」と展望しました。
個人ではなく全体で
久次米先生は最後に、こんな話を話してくれました。「数年前、教育関係者や地元企業の経営者の方々に集まっていただき、学校の在り方についての意見交換する会がありました。その場で経営者の方からいただいた、『個人で高得点を取る教育ではなく、みんなで協力して高得点を目指す教育をしてほしい』という、会社や社会の在り方につながる意見が印象に残っています。今はそれが、少し実現できている気がします」。

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外部リンク
学校法人龍昇学園 | 龍昇経理情報専門学校
https://www.ryusho.ed.jp/
NASEF JAPAN
https://nasef.jp/

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