コラム

2022.10.18

大学研究から見るeスポーツの可能性、神奈川工科大学eスポーツシンポジウム

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 10月15日、神奈川工科大学で「eスポーツシンポジウム 2022」が開催されました。テーマはeスポーツの工学研究や地域活性化への活用について。講演では、横浜F・マリノス ブランド戦略部の武田裕迪氏や同大学の先進eスポーツ研究センターなどが取り組みについて紹介しながら、eスポーツの可能性を発表しました。

神奈川工科大学でeスポーツシンポジウム

eスポーツの“スポーツ”の側面

 基調講演に登壇した武田氏は、チームの運営に携わる立場から「構造上はeスポーツとサッカーはおおむね同じ」とし、スポーツ産業として捉えることができると話します。理念を中心として、勝利することでファンを獲得し、ライセンスや放映権、グッズ販売などで収入を獲得し、競技への参加を目指して参加者が増えていくといった構造のことです。

横浜F・マリノス ブランド戦略部の武田裕迪氏

 ただ、「育成体系が未整備で、在野の即戦力選手への依存度が高い」と課題を指摘。eスポーツは、個人で参加できる大会が多く、チームに所属していなくても実績を残すことができるからです。また、オンライン大会であれば地域に縛られることもありません。それゆえに、所属するクラブより、選手個人への支持が大きいことがあることも課題としてあげました。

 では、eスポーツ大会でチームが介在する価値とは何でしょうか。武田氏は、「育成環境を整えてトレーニングを支援したり、プロ意識の醸成を促すことができる」と提示します。さらに、横浜F・マリノスはホームタウンを持つというユニークな地域でもあります。それを強みに、地元の中高部活や大学サークルの支援など、サッカークラブの取り組みを応用することで、地域への貢献とファンの獲得を両立することができます。

 将来的には、プレイヤーではない人にも「この人は強い」と思われるような競技力・人間力・プロ意識で尊敬される人を育成できる環境、デュアルキャリア・セカンドキャリアの整備、eスポーツの福祉への活用を通した社会貢献といった、従来のスポーツと似通った構造を確立することで、eスポーツに対する「尊敬と正しい理解」を得られると展望しました。

音とプレーの関係について

 次に、神奈川工科大学の上田麻理准教授(音響工学)は、「eスポーツにおける聴覚情報の役割」について発表しました。音とeスポーツとの関係についての研究です。音の位置や方向をゲーム内で正しく判別するにはどのようなトレーニングが有効か、そのトレーニングシステムを開発できないかといった検討をしているそうです。

神奈川工科大学の上田麻理准教授

 研究には、学生が協力。学生たちのゲームに対する情熱と潜在能力を研究に活用しています。将来的には、音などに関する感覚の定量化を図り、音をゲームの攻略に役立てる方法・聴覚メカニズムの解明を目指します。目で見なくても音だけでプレーできるような方法についても模索していくといいます。

遅延が与える影響

 情報ネットワーク・コミュニケーション学科の岩田一准教授の取り組み紹介は、「eスポーツの操作におけるネットワーク遅延の影響検証」についてです。YouTubeなどの動画配信の隆盛や、コロナ禍でオフラインからオンラインに大会の場が移っていることから、オンラインでも競技としての公平性を保つために通信環境を厳密に管理する必要がある、という背景から研究しているそうです。

情報ネットワーク・コミュニケーション学科の岩田一准教授

 研究の題材は、岩田氏が個人的にも興味を持っている「DanceDanceRevolution」。オフライン、音声ありでプレーした場合を基準に、音声なし、リモートプレーで検証しました。その結果、得意な被験者は画面の表示遅延があっても音声遅延がなければある程度タイミングを修正できましたが、得意ではない場合は音声なし、リモートの影響が大きいことがわかりました。

 このほか、レースゲームで競技サーバーから遅延を意図的に発生させる機器を介して計測しました。100ms以上の遅延で明確に操作性に影響を与えるとのこと。遅延500ms以上で競技成立が困難になりました。今後は、実際のeスポーツ大会の環境に近い状況で検証していくとしています。

研究成果を活かしたトレーニングは実現なるか

 神奈川工科大学には、KAIT eSportsという大学公認サークルがあります。2018年に設立し、現在は70人ほどが在籍。ゲームタイトル毎の部門分けやイベントの主催を通して、eスポーツの普及と個々のプレースキル向上を目指し活動しています。

大学公認サークル「KAIT eSports」

 ICT分野の教育・研究に力を入れる同大学は、2023年度に創立60周年を迎えるにあたり、eスポーツにも注力していくとのこと。eスポーツを通して交流したり、トレーニングしたりできる拠点も用意していくとしています。研究をもとにした高度な訓練のできる施設が誕生するのも、遠くないかもしれません。

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■外部リンク

神奈川工科大学
https://www.kait.jp/

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