コラム

2022.11.19

eスポーツの教育的活用に必要なこととは? 北米の事例から得たヒント

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(米国・アトランタ発)日本で教育的eスポーツを推し進めるにはどのような要素が必要なのか。それを探るために、北米教育eスポーツ連盟 日本本部(NASEF JAPAN)が実施しているアトランタ視察団は4日目となる11月17日、アトランタで開催されるeスポーツをテーマとしたシンポジウムに参加しました。セッションには北米教育eスポーツ連盟(NASEF)も登壇。話したテーマは「グローバルな教育的eスポーツ」についてです。

Skillshot eスポーツシンポジウム

 NASEFのセッションでは、ステージにアイオアやニュージャージー、テキサス、日本(NASEF JAPAN)など、さまざまな場所から集まったNASEFのディレクターが登壇しました。

「教育的eスポーツ」を通して気が付いたこと

 最初の話題は、「教育的eスポーツ」を通して気が付いたことです。フロリダでeスポーツトレーナーを務めるメイカー氏は、アンケート調査の結果、「学校で安心して話ができる人がいない」と回答した子どもは38%。友情の輪を作ることが難しい生徒は、家でゲームをすることになります。しかし、eスポーツを教育に活用すれば、学校でコミュニティに参加することができるようになります」と、教育的eスポーツのメリットについて語ります。

グローバルな教育的eスポーツについて語る登壇者

 バーチャルスクールで教員を務めるグレア氏も、「バーチャルスクールは画面越しに話を聞くことになるので、授業への参加意識が希薄な生徒もいます。でも、ゲームを授業に取り入れてみたら、子どもたちが積極的に参加してきました。さらには、授業でこんなことをしたい、こんなこともできる、と私に教えてくれるのです」と、ゲームへの情熱が生徒のやる気を引き出した事例を紹介しました。

 アイオアで図書館の司書を務めるタイラー氏は、「教員は生徒と話す機会を逃してしまうことも多いですが、eスポーツを通せばコミュニケーションの機会を作ることができます。eスポーツには、通常の授業では学べない技能もあります。授業として取り扱う意義はあります」と、eスポーツが生徒同士のコミュニティだけでなく、教員と生徒をつなぐ架け橋にもなり得ると強調します。

 他方、日本では少し事情が異なります。NASEF JAPANのスカラスティック・ディレクターを務める坪山氏は、「eスポーツがコミュティのきっかけになるという点は日本も同じです。すでに355校のeスポーツクラブがNASEF JAPANに登録しています。しかし、日本でeスポーツクラブに取り組もうとすると課題があります。『生徒に指導できるほどeスポーツに詳しい教員がいない』といった理由で創部をためらってしまうのです」と肩を落とします。

 ただ、対処は明確です。「教員は専門家である必要はありません。eスポーツはあくまで、生徒が参加しやすくするための手段です。専門性よりも、生徒の声を聞きながら時に背中を押し、時に道を指し示すことの方が大切です。そういった“ファシリテーター”としてクラブに関わってもらえるよう、呼び掛けています」(坪山氏)。

eスポーツクラブを担当する日本の先生にはファシリテーターになってほしいと語る坪山氏

教育的eスポーツを実践する生徒たち

 メインステージには、教育的eスポーツに参加する生徒たちも登壇しました。口々にeスポーツがコミュニティ形成のきっかけになった経験を話しますが、今回注目したいのはそれ以外にもメリットがあるということです。

中央左から、DJさん、ベンさん、アンドレさん、ライアンさん、ジェイソンさん

 eスポーツクラブの副会長を務める高校2年生のDJさんは、「eスポーツの授業は、自分がどんな職業に向いているのかを知るきっかけになりました」と、教育的eスポーツが目指すキャリア教育の実践例について話します。ほかにも、ベンさんは「ゲームが無ければeスポーツもありません。そしてゲームは音楽も大切な要素です。私はゲームの音楽制作に関わっていきたいです」と将来の夢について語りました。

 授業でゲームを扱う際に心配される成績についても、「成績自体は上がっています。授業のなかにeスポーツがあるので、喜んで学校に行っていますから」(DJさん)。「eスポーツを通じてできたコミュニティでお互いを助け合うことで、学業の成績をあげることができました」と、eスポーツがプラスに働いています。

会場の様子

教育的eスポーツの課題

 メリットの多い教育的eスポーツですが、課題もあります。「ゲームに理解のない親が反対するケースがあります。ゲームで何を学ぶことができるのか知らないわけです。そういった場合には、ただ楽しむだけではなくコミュニティがあること、ゲームで奨学金をもらえる制度があることなど、じっくりと説明する必要があります」」(DJさん)。

 また、DJさんは「最初の一歩は大変です。まず学校内でのスペースの確保。私たちの学校には最初、ゲームをするための机すらありませんでした。しかし、eスポーツのメリットを理解している群の行政が支援してくれました。こうした大きな一歩を踏み出すためには、リーダーシップを持つ人が欠かせません」と話します。

 大人たちに求めるリーダーシップについて、ジェイソンさんは「いつでも相談できるということが重要です。ついていきたいと思える、道しるべになるような人です」と語りました。

 坪山氏が話すように、そういったリーダーシップを発揮できる人材を発掘し、育成することもNASEFが担う使命です。やる気を引き出しコミュニティ形成を助けるeスポーツの強みへの理解を促すことに加え、リーダーシップを発揮できる人材の育成が、日本で教育的eスポーツを発展させていくためのカギを握ることになりそうです。

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■外部リンク

ESPORTS SUMMIT
https://www.esportssummit.live/

Skillshot
https://www.skillshot.com/

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