ゲームを競技として捉える「eスポーツ」は、ゲームをプレーしたり、観戦したりするだけのコンテンツではありません。今ではテレビ番組や動画配信など、さまざまなコンテンツとして楽しまれています。なかでも今回注目したいのは、漫画です。「マンガBANG!」では現在、eスポーツを題材としたオリジナル漫画『ガーディアン・エンジェル』を連載しています。その作者である漫画家のしゃるもん氏と担当編集者、企画案の考案者の3人に話を聞くことができたので、「eスポーツ漫画はどのようにして作られたのか？」うかがいました。（取材・文/eスポーツジャーナリスト・小川）

インタビュー内容
・漫画家しゃるもん氏とは何者か？
・なぜeスポーツの中でもMOBAを題材にしたのか？
・どんな物語なのか？

── まずは、しゃるもんさんの経歴について教えてください。

しゃるもん　昔から同人作品のイラストレーターとして活動をしてきました。ずっとイラスト作成をメインでやっていまして、スマホゲームのイラスト制作にも関わらせていただいたことがあります。

　イラストレーターを続けていくうちに、ある時、ご縁があって「漫画を描いてみませんか」とお声がけいただきました。何本か漫画の読み切りを描いたところ、ある出版社では新人賞をいただきました。ただ、それらの漫画は連載にはなりませんでしたね。

── イラストレーターから漫画家になられたとのことですが、イラストの1枚絵と漫画のバトルシーンは描き方が異なりそうですが、苦労はされませんでしたか？

しゃるもん　そうですね。まずはイラストの1枚絵のような一番盛り上がるカッコイイ見せ場と構図を考えて、そこまでの間を埋めていく感じで描いています。

── ジャンプルーキーで連載中の『黒薔薇の無限』（漫画　しゃるもん）も読ませていただきましたが、しゃるもんさん自身、バトルシーンを描くのがお好きであるようにお見受けしました。影響を受けた作品は何かありますか？

しゃるもん　『ONE PIECE』『金色のガッシュ』が好きなので、そのあたりの影響は受けているかと思いますね。

── 今回の作品はeスポーツの漫画ですが、普段からゲームはよくプレーされるのでしょうか？ Twitterではよく『ポケモンユナイト』の話をされているようですが。

しゃるもん　MOBAだと 『ポケモンユナイト 』や『リーグ・オブ・レジェンド：ワイルドリフト』をよく遊んでいます。『リーグ・オブ・レジェンド』（以下、LoL）もやってみたのですが、あのゲームはかなり難しいですね。

　昔からポケモンで遊んだり、1人用のゲームで遊ぶことが多かったので、対戦型のオンラインゲームは全くやってきませんでした。改めてプレーしてみると、（LoLなどのMOBAは）覚えることが多くて大変ですね。チャンピオンの数も多いのでかなり苦戦しています。

── ゲームでたくさんのキャラクターを扱うのが苦手なしゃるもんさんですが、漫画では多くのキャラクターを書き分けるのはすごく上手ですね。

しゃるもん　キャラクターを考えるのは好きですね。あとはキャラクターが使うスキルも似たものばかりにならないように考えています。

── しゃるもんさん自身、異能系のバトル漫画にも影響を受けているということでしょうか？ 『ジョジョの奇妙な冒険』『僕のヒーローアカデミア』など。

しゃるもん　そうですね。あとは『HUNTER×HUNTER（ハンター×ハンター）』とかが好きですね。

── 『ガーディアン・エンジェル』について、eスポーツ×女子高生という珍しいコンセプトの漫画ですが、この企画がきたとき率直にどう思われましたか？

しゃるもん　最初は正直、自分に描けるか不安でしたね。ただバトルシーンを描くのは得意なので受けさせていただきました。

企画者　この漫画に登場するのは「ヴィラン・オブ・ザ・ヴァンキッシュ」という、LoLをモチーフにした架空のゲームには、使用できるキャラクターが36体ぐらいいます。実は、そのキャラクターの全デザインをしゃるもんさんが作っているんです。

　企画が立ち上がった初期の頃、しゃるもんさんから50体ぐらいアイデアを出していただきました。どのキャラにも個性があって、ジャンルにも縛られてなくて、キャラ造形の引き出しが多くて純粋に驚きました（笑）。

しゃるもん　ファンタジー系の漫画はよく読んでいたので、キャラを考えるのは得意です。LoLのチャンピオンも参考にしつつ作成しました。

── LoLのチャンピオンをオマージュしているキャラクターがたくさん登場するので、LoL好きの読者はそこにも注目して読んでもらいたいですね。ところで、eスポーツの戦いを描きつつ、女子高生の群像劇を描くとなると、ゲームパートと日常パートの配分が難しそうですが、その辺りは苦労されましたか？

編集者　そこは常に悩んでますね。元ネタのLoLが5対5のゲームなので、必然的に主人公側のメインキャラクターが5人になります。ゲームのバトルシーンもしっかり描きたいのですが、だからといって人物描写に手を抜くと、いま誰がどのキャラを操作しているかわからなくなってしまうので。

　人間描写は企画者さんがシナリオ段階で丁寧に書いてくださっているので、そこをいかに削らず、派手な戦闘シーンを盛り込めるかが、漫画の編集側の仕事だと思っています。

　特に7話以降は、本格的にeスポーツの試合がはじまったので人間描写とのバランスが編集としては悩ましいですが、その分面白さは増しているんじゃないかと思います。

── 5人の女子高生キャラの書き分けについて、苦労はされませんでしたか？

しゃるもんさん　企画の段階で、ある程度は各キャラの個性が決まっていて、元気系だったり清楚系だったり、そのままの印象でキャラクターデザインをしました。

編集者　企画でいただいた情報がかなり詳細だったので、（キャラの描写も）難なくできたのだと思います。

　主要キャラが5人以上いると、どうしてもデザインが似てしまうことがあります。本来、編集者が「似ているキャラクターがいないかどうか」をチェックするのですが、『ガーディアン・エンジェル』のキャラクターデザインは初稿の段階で「すごい！キャラのデザインがちゃんとバラバラ！みんなかっこいい！」みたいな感じだったので、私が手を加える必要がなかったですね（笑）。

── しゃるもんさんのお気に入りキャラは誰でしょうか？

しゃるもん　主人公が好きになりがちなので、紅音が好きですね。

── 紅音ちゃんのどういうところが魅力的でしょうか？

しゃるもん　思っていることをそのまま発言するところですね。うじうじしていなくて、前向きな感じが気に入っています。

── 私も『ガーディアン・エンジェル』を読ませていただいていますが、個人的には翠香ちゃんが好きです。2巻の途中辺りの翠香ちゃんのセリフは熱かったです。

しゃるもん　翠香は年上キャラなので、みんなをひっぱっていくのがいいですね。

編集者　翠香ちゃんも元気系のキャラクターですが、紅音とも違うキャラクターになっていますね。学年も上なので、大人の小田桐コーチともガンガン絡みますし。

── そもそもですが、このeスポーツ漫画が立ち上がったきっかけについて教えてください。

企画者　この企画が立ち上がったきっかけは、2019年の「高校eスポーツ選手権」です。

　私が会場に観戦しに行った時は、競技がLoLだったのですが、会場がすごく盛り上がっていて、負けた選手たちの悔しそうな姿に心打たれました。あの熱気をみて、MOBAってすごく良いドラマを産むんだと思ったんです。

　私自身、当時はeスポーツに詳しくなかったのですが、これを題材にした漫画を作るべきだと思いました。

── eスポーツの大会観戦がきっかけだったんですね。1人用のゲームをよく遊んできた、しゃるもんさんにとって、チームでeスポーツをプレーする人たちのことはどう見えていますか？

しゃるもん　ゲームが上手な人のことは、純粋にすごいなと思います。

　もっとMOBAがはやってほしいですね。スキルやキャラが多くて楽しいですし、何よりもチーム力が試されるゲームであることが魅力です。チーム内の誰か1人でも欠けると試合に負けてしまうので。

　1人用のゲームでは得られない体験がeスポーツにはあります。例えばRPGだとゲーム内のキャラのレベルが上がれば勝てますが、eスポーツだとプレイヤー自身がスキルアップして強くならないと試合に勝てません。強くなった実感が得られるのはeスポーツならではの魅力ですね。

編集者　漫画ではその「スキルアップしている様子」をどう描くのかが大変なんですよね。

しゃるもん　まずMOBAというゲーム自体が非常に複雑なゲームなので「何がどう上達してキャラが成長しているのか」を画で表現するのが大変ですね。

編集者　その点において『ガーディアン・エンジェル』では、主人公たちが格上のチームのプレーをみたとき、1回目はすごさがわからなかったけど、自主練習を経てから再度彼らのプレーをみたら、そのすごさに気づけるというシーンがあります。このように「ゲームの技術を高めることで“ゲームを見る視点”が変わった」という描写で、彼女たちの成長を表現できたのは良かったですね。

── 普段からMOBAを遊んでいる読者にとっては、共感できる「MOBAあるある」が随所にあるので楽しめますね。一方、eスポーツやMOBAに詳しくない人でも楽しめるような工夫としては、どのようなことを意識されましたか？

編集者　私もゲーム初心者で、この作品を作るにあたってLoLをやってみたのですが、ゲーム内の情報量が多くて頭がパンクしました（笑）。

　でも「友達と一緒にプレーするのが楽しい」というのは感じることができまして、初心者にとっては「友達と一緒に遊んで楽しい」が最初のとっかかりだと思ったので、その楽しい雰囲気を読者にも感じてほしいなと思っています。

　この漫画をきっかけに「eスポーツの世界に飛び込んで欲しい」という想いもあるので、初心者を馬鹿にするような描写は極力削っています。競技である以上、強い相手との戦いで挫折をするのは必要な描写ですが、本当に最初の一歩、主人公がeスポーツを始めたばかりタイミングで、周囲が「なんでできないんだよ！」って馬鹿にしないことを心掛けました。例えば、ゲーミングＰＣを持っていないことを馬鹿にしないとか。作中でいうと選抜科のメンバーは、相手を馬鹿にしがちなのですが、同好会のメンバー間ではそういうやり取りをしないよう意識しています。

　『ガーディアン・エンジェル』を読んで「私も友達とゲームでこういう会話をしてみたい！」と思ってもらえると嬉しいです。あとは私が実際にLoLをやっていて分からなかった専門用語には注釈をいれていますね（笑）。

企画者　LoLを題材にしたeスポーツ漫画を企画した際に、私が「オブジェクトとはこういうもの」といった説明を書いて、編集者さんにそれをブラッシュアップしていただきましたね。

編集者　「そもそもオブジェクトって何？」みたいなところから議論がスタートしましたね（笑）。「ああ、オブジェクトはタワーだけでなくモンスターのことも指すのか」「モンスターを倒すと経験値が手に入るけどプレイヤーを攻撃してくる……いや中には攻撃してこないやつもいる……」とかですね（笑）

　こういったMOBA初心者が抱きそうな疑問を、主人公の紅音に代弁させることで、初心者を置いてきぼりにしない作品を目指しました。

── 確かに特に序盤は、チーム作りのための仲間集めからスタートするので、eスポーツのことを一切知らなくて楽しめる構成になっていますね。「eスポーツとかよくわからなくても、5人の女の子が可愛いから読む」でもOKですね。

編集者　そうですね。とにかく女の子が可愛いので見てほしいです！

企画者　序盤のストーリーで女の子たち5人の性格や背景を知ってもらった上で、いざeスポーツ同好会を設立してeスポーツの活動が始まっていくので、その辺りは読者にもスムーズに読んでもらえるように心掛けました。

編集者　7話以降でゲームのシーンが入って派手になるので、しゃるもんさんも描いてて楽しそうでしたね。

しゃるもん　個人的には（画に）動きがあると描きやすいですね。座ってPCを眺めているシーンばかりだと、画に動きが無さ過ぎて「これは漫画としてどうなんだろう？
って不安になったりもしました（笑）

── （PCを操作しているだけのシーンでも）キャラが可愛いので読んでいて退屈しませんでした。むしろPCの前に座っているだけなのに、いろんなことが起こるのがeスポーツの現実だと思うので、そのあたりを忠実に再現されていているのを感じましたね。では最後に、これからの見どころについて、ネタバレしない程度にこっそりと教えてください。

しゃるもんさん　ここからは満を持して、紅音とみお（初期に登場した2人）のストーリーが描かれます。

企画者　最初から登場した2人なのですが、エピソードは最後になりましたね。

しゃるもんさん　紅音の元ボクシング選手というバックグランドもさらっとしか描けてないので、ここから描きたいですね。

ガーディアン・エンジェル
＜概要＞
性格や個性もバラバラで様々な問題をかかえる女子高生5人が「eスポーツ」に出会い、多くの苦難を乗り越えながら高校生eスポーツの頂点を目指す物語。

▼参考リンク▼

・『ガーディアン・エンジェル』
https　//manga-bang.com/free/waiting_free/guardian202106#
・公式Twitter（@0guardianangel0）
https　//twitter.com/0guardianangel0

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https　//manga-bang.com/store/books?book_title_id=1055301
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・『ガーディアン・エンジェル』第1話　試し読み
■マンガBANGコミックス公式note
https　//comics.manga-bang.com/n/n8cc1252d9353

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