インタビュー

2022.12.10

eスポーツがつなぐ新たな若者支援の輪 NPO法人サンカクシャ 前編

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 皆が楽しむeスポーツ。誰もが楽しんでいるからこそ同じタイトルをプレーする者同士のコミュニケーションを深めてくれます。そんなeスポーツは近年、いろんな形でたくさんの業界に導入されるようになっています。NPOもその内の一つ。今年6月にプロeスポーツチームを立ち上げたNPO法人サンカクシャにその取り組みの詳細を聞きました。前後編に分けて代表である荒井佑介さんのお話をお届けします。(取材・文/銭 君毅)

サンカクシャ 荒井佑介代表

若者に寄り添い社会への参画を助ける

 板橋駅からほど近く、閑静な住宅街に建つビルを訪れると中からは明るい笑い声が聞こえてきます。そこは身寄りのない若者たちが身を寄せ合う居場所「サンカクキチ」。テーブルやソファーがおかれた温かみのある空間の中でゲームや漫画など思い思いに時間を過ごすことができます。しかし、少し奥を覗いてみると最奥の一室には大きなゲーミングPCが何台も設置されたeスポーツ部屋がありました。

サンカクキチ

 サンカクキチを運営するのは特定非営利活動法人のサンカクシャ。15歳から25歳までの身寄りのない若者に対して居職住(居場所・職業・住まい)を支援する団体です。東京都豊島区を中心に活動しており、サンカクキチの他にもシェアハウスを4拠点運営しています。2019年の設立以来、現時点で200人近くの若者をサポートし、30人近くがシェアハウスに入居、もしくは卒業しました。

 厚生労働省によると日本の子どもの7人に1人(13.5%)が貧困であるとされます。現代社会の課題の一つとして注目を集めている子どもの貧困問題ですが、サンカクシャの代表である荒井佑介さんは、それらが周知される以前の学生の頃から中学生の不登校学生や生活保護世帯の学生への支援という形で関わってきました。そんな中、荒井さんは高校生以降の支援の必要性を実感し、サンカクシャを立ち上げたとか。

 荒井さんは「子どもの貧困という言葉が広がって、子ども食堂や学習支援が結構増えてきましたが、そういうのって“子ども”ってい付いているだけあって中学生までという制限がついていることが多いんです。高校以降って義務教育が終わったあとでもあるので自己責任にされがちであったり、そもそも福祉が若者を苦手としていたりで中学を卒業した後の支援って本当に足りないし、課題もあんまり認知されていない状態でした。せっかく中学までサポートするなら高校までしっかり支援していかないと、18歳ぐらいでこぼれ落ちちゃう子がたくさんいるのでしっかり自立しきるまでサポートする仕組みを作っていくべきかなと思ったんです」と力を込めます。

 子どもの貧困における最大の問題点の一つが連鎖性です。貧困に苦しむ子どもは経済的にも学力的にも進学を諦めることが多く、高卒や中卒の肩書が就職の大きな壁となります。その結果、大人になった彼らの子どもも貧困に苦しむことになるという悪循環を断ち切る必要があるのです。そういった意味では、サンカクシャは将来の岐路に立つ高校生たちのドロップアウトを防ぐ存在だといえます。

コロナ禍で得たeスポーツという新たな繋がり

 そんなサンカクシャですが、今年の6月にサンカクキチを拠点としたプロeスポーツチーム「OWLRISE(アウルライズ)」を立ち上げました。Apex Legends部門とストリーマー部門を立ち上げ、Apex Legends部門にはプロ選手を迎え入れ、世界大会を目指しているとか。サンカクキチにもゲーミングPCを設置し、OWLRISEの拠点として活用しています。

アウルライズのロゴ

 一見、関わりが薄いように見えるNPOとeスポーツ。しかし、その裏側には思わぬシナジーがあったとか。サンカクシャがeスポーツ事業を立ち上げるに至った背景には新型コロナウイルスの感染拡大があったといいます。

 日本国内でも感染が確認され、徐々に広がりを見せていた2022年4月、1回めの緊急事態宣言が発令されました。サンカクキチも閉所せざるを得ず、そこに通う子どもたちと対面でのコミュニケーションができなくなってしまいました。個別訪問による食料の配布などは実施していたものの、それにも限界があります。そこで思い付いたのがゲームによるコミュニケーションでした。

 荒井さんは「最初はLINE通話をつないでどうぶつの森とかをやってました。実際にやってみて、意外といけるなと感じたのが正直なところです。居場所に来られなくても、こうやってゲームをやっていたら楽しいだろうと思っていて、中にはApex Legends(APEX)などのオンラインゲームをやっている若者もいたんです。興味を持って教えてもらったら私もはまってしまって(笑)」と語ります。

 蓋を開けてみれば、大半の男の子がAPEXをプレーしていたそうでコロナ禍でAPEXをみんなで遊ぶことがブームになっていたとか。そんな中、「いろんな支援団体からゲーム好きの子がいるから関わって欲しいという相談が増えて、新しい子とつながるツールになるんだなと思いました」と荒井さんは語ります。「その後にはカスタムマッチを開催したりして、40人ぐらい若者を集めたんですが、そこで初めてつながる若者がいたり、サンカクシャの中でも人との交流が苦手な子も参加してくれたりして、ゲームは人と人がつながるツールとしてすごくいいなと感じた」といいます。

若者たちの心の壁をeスポーツが開く

 その後はシェアハウスを開設したほか、知り合いのつてを伝って選手を集めアウルライズを立ち上げました。アウルライズのお披露目イベントでは豊島区の副区長や議員なども参加。これにより区とのつながりも強化できたそう。ゲームをきっかけにサンカクシャの持つコネクションが大きく広がったのだとか。何より、これまで支援を必要としていてもリーチできなかった若者に手が届くようになったのが大きな変化といえます。

 これまで、サンカクシャへの相談は行政からの紹介や緊急度の高いものが多かったそうですが、ゲームを通じて来る相談には行政がつながっていなかったり、行政との相性が悪く上手くサポートを受けられなかったケースが多いとか。荒井さんは「やっぱり、親と折り合いが悪くなって、行政に相談しに行こうとする若者は少ないと思うんです。そこでゲームが突破口として役に立ったケースがよくあるんです。行政や普通の支援団体ではできないアプローチで踏み込めるツールだなと感じています」と強調します。

 若者を夢中にするeスポーツ。一見しただけではただのエンタメの一つに過ぎませんが、見方を変えれば大人と若者をつなぐコミュニケーションになります。後編ではそんなeスポーツに対する荒井さんの見解や今後の取り組みを探ります。

*後編=eスポーツがもたらした若者支援の変化と全国に広がる取り組み NPO法人サンカクシャ 後編

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