インタビュー
2023.10.01
益田東高校の“eスポーツ特待生”とは? 授業料免除にかかる期待と効果
- 高校eスポーツ
島根県益田市にある七尾学園 益田東高等学校には“eスポーツ特待生”がいます。通信制高校ではeスポーツコースなどを設けていることもあり、入学にあたってeスポーツの実力を評価するケースもありますが、全日制では珍しいことです。同校はなぜ特待制度にeスポーツを取り入れたのか。eスポーツ部顧問の進藤大希教諭に話しを聞きました。(取材/寺澤 克、南雲 亮平・文/南雲 亮平)
eスポーツの特待生とは
── 益田東高校の特待制度には“eスポーツ”の枠があると聞いて驚きました。
進藤大希先生(以下、敬称略) 1年前は私もeスポーツで特待はないだろうと思っていたのですが、eスポーツも“スポーツ”であって、全国につながる大会がある、ということを当校の広報部の部長(野球部の監督)が考えていて、「強い人がいれば、一人二人はeスポーツで特待をつけることができるから、いい人がいるなら呼びましょう」と勧められました。
ほかの全国を目指す運動部などと同様の制度が適用されたので私もびっくりしましたが、仲間入りできた気がしています。
── 特待というのは具体的にどのような内容なのでしょうか。
進藤 例えば、今年入った特待1期生の石原佑一さんは、最高レベルの特待S2。担当者、つまり私が全国大会で活躍できる力を有していると判断して声をかけました。特待の内容は、入学金4万円、施設利用費6万円、この先3年間の校納金※(学費)1万円/月の免除です。
※保護者(両親)の年収が590万円以下の場合など条件あり
── 授業料がかなり免除になると。学校はとても期待しているんですね。
進藤 そうなんですよ。だから勉強も頑張らないといけませんし、礼儀や礼節も身につけなければなりません。そして、結果も残さないといけないので、本人のプレッシャーは大きいと思います。ですが、これだけの金額がゼロになるというところに学校からの期待が現れていると思うので、本当に本人には頑張ってもらいたいと思っています。
弱点を克服し夢に向かう特待生
── それだけ石原さんが活躍するという確信があったのでしょうか。
進藤 はい。ただ、中学校にはeスポーツ部がないので、誰のレベルが高いのか、探すのに苦労しました。
昨年、体験入部できる機会が何回かあったのですが、石原さんはそのすべての回でeスポーツ部の体験会に参加して、その際に実施したフォートナイト大会では優勝までしていました。その積極性をまず評価しました。さらに彼の試合を見た、全国大会出場経験のある部員も「彼は全国レベルの実力があるから、引っ張ったほうがいい」と言うので、「そうだろう」と確信し、S2の特待を出しました。
もちろん、体験会の時だけでは分からないこともあるので、私が実際に中学校に行って面談をしました。その際に分かったのですが、どうやら不登校の時期があったようで、出席日数が足りず、特待の条件を満たせるかどうか微妙でした。でも本人は「絶対にeスポーツ部に入る」という気持で、中学生でありながら、フォートナイト内のいろいろな大会で結果を残している証明の写真を私に送ってくれたんです。
それを見て「これは本気だな」と思いました。ほかにも、昼夜逆転するくらいフォートナイトに没頭していたようですが、それを克服して、不登校も克服して、勉強も絶対やるという約束をして、特待に決定しました。
「来てくれ、来てくれ」と言うと勘違いする生徒も多いのですが、こちらの要望も聞いてもらう必要があるので、厳しいことも言って、「それでもやりたいならそのつもりでやるから」という話をして、今回の入学につながりました。
── 入学後の様子はどうでしょうか。
進藤 中学時代は不登校だったのでテストの点数は厳しいものだったようですが、高校に来てからは一回も休むことなく、クラスでは2位の成績。授業中も寝ていることもないし、担任の先生からは「石原さんは勉強も部活も両立していると思います」という話をいただきました。まだ半年もたっていませんが、ひとまず、安心しています。
STAGE:0では結果を残せませんでしたが、つぎの高校全国大会では成果をあげてもらい、勉強も部活も体力トレーニングもやって、遊びじゃないというところを他の生徒にも見せつけてほしいです。
── 全国に行った経験のある、益田東のエースこと塩安さん(3年生)は強いですが、タッグで全国を目指すような計画もあるのでしょうか。
進藤 昨年全国に行った際のペアの相性が良く、石原さんはまだそこに到達できていません。塩安さんたちが一歩上のレベルにいます。でも、今度の合宿で成長を見て、メンバーが変わる可能性もあります。仲のいい人同士ではなく、強い人同士で組んで、結果を期待するということもあるかもしれません。
特待生の思わぬ影響
── 先ほど、特待のランクのお話がありましたが、特待生は石原さん以外にもいるのでしょうか。
進藤 ありがたいことにあと3人います。1人はA、もう2人はBです。努力すれば全国で活躍できる見込みがある場合はA、県大会に出場できるレベル、かなり練習すれば全国で活躍できるのではないかというのがB、やる気があるのがCという評価です。
それほど評価されていますから、管理職からは「やってくれ」と言われています。吹奏楽部と並ぶくらい文化部の顔になれ、と。それで地域の人向けの体験会などを開いています。その期待も、一回全国に行ったことがあるからだと思います。あれがなかったら、部室も広くなっていなかったでしょう。
── 石原さん以外の特待生の様子はどうでしょう。
進藤 一生懸命頑張っています。特待生以外の部員も、特待生がいることで負けないようにと頑張っています。特待生という存在が競争力をかきたてているので、全体にいい影響があると思っています。
── eスポーツの特待生はほとんど見ないので、そういった取り組みがあることを衆知すれば注目度も上がりそうですが。
進藤 機材や場所にも限りがあるので、大きく衆知しようとは考えていません。来年度も特待にeスポーツ部の枠があるとすれば、さらに厳しい条件で出すことになるかと思います。一方で、嬉しいことに今年も新たに7人が入部してくれました。大会で結果を出すほかにも、イベントや大会を開くことで、自然と新入部員がやってくる流れをつくっていきたいと考えています。
── 確かに大きく宣伝したら新入部員がたくさん来るかもしれませんが、夏休みなどの長期休みも活動されている厳しい部活ですよね。そこで二の足を踏む人もいそうです。
進藤 負けていられないので、夏休みなども運動部と同様でほとんど休みがないことを入部条件に入れています。競技だけではなく、勉強や体力トレーニングもあるので、これはどの部活にもいえることですが、生半可な気持ちで続ける部活ではないですね。
教師も実感するeスポーツの教育的効果
── 校長先生もeスポーツには期待を寄せているとか。
進藤 eスポーツ大会で結果を残して、学校を有名にして生徒を集めたいという思いもありますが、「eスポーツで不登校の人を救いたい」と言っています。ただ救うだけでは一方的な負担になってしまうので、eスポーツ大会やイベントで活躍することで学校を助けてほしいという、“Win-Win”の関係を目指しています。
だからこそ、厳しく指導してくださいと言われています。体力トレーニングもやって、心身ともに健康でいることで、eスポーツのイメージを変えてほしいとも言われました。益田東高校で不登校だった人が活躍して、人が集まるという流れが理想です。
── 3年生の塩安さんも、あまりコミュニケーションが得意ではなかったというお話でしたね。
進藤 まさにモデルケースと言えます。彼が1年生の頃、来年eスポーツ部を作ったら入るか聞いたら、一言目は「うん」でした。当時は敬語も使えなかったし、落ち着きもなかったんです。でも、eスポーツ部に入って活動を続けるうちに、徐々にコミュニケーションが取れるようになり、ほかの先生からも「変わったな」と言われるようになりました。eスポーツの教育的効果の絶大さを感じました。
以前、保護者と担任との三者面談を行った際、お母さんが「こんなに変わるとは思わなかった。益田東のeスポーツ部に入れてよかった」と、担任の先生に涙ながらに感謝をしたそうです。すごく堂々としていて、中学校からの同級生が見てもびっくりしていました。
あまり話しをするタイプではなかったのですが、「eスポーツ部に入って変わった自分」というテーマで校内弁論大会に出場し、特別賞を受賞して県大会へ出場。また昨年度は「輝かしい成績を収めた功績」としてスポーツ功労賞を受賞するなど、本当に変わったと、私も思います。eスポーツをやれば、今まで前に出ていくのが苦手だったとしてもいろいろ変わっていくんだと!
こうした実体験を踏まえて、私はeスポーツを通じて人間形成をしていきたいと考えています。その人からeスポーツを引いたらゼロになってしまうのではなく、人間としての力を身につけてほしいので、そういった指導をしていきます。
ただ、負けたくはないので競技面でも頑張っていきます。
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外部リンク
七尾学園 益田東高等学校
https://masuda-higashi.com/
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