インタビュー

2024.11.06

「あなたは『やってきたこと』に“意味”を見出せますか」配信技研 取締役 アユハさんに聞く学生時代とキャリア

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 練習を重ねた選手たちが熱い試合を繰り広げ、たくさんの観客が熱狂するeスポーツシーンは、さまざまな人によって支えられています。連載企画「ゲームの進路相談室」では、そんな“eスポーツに関わる職業”と“その職業に就いた経緯”を紹介。将来の仕事をぼんやり考えるきっかけを提供します。

アユハさん


 今回は、東京大学を卒業後、Twitch入社、現在では配信技研の取締役を務める「アユハ」こと中村鮎葉さんに「自身の学生時代について」「学生の頃やっておいて良かったこと」に加えて、eスポーツを頑張る学生たちへのメッセージを伺いました。

(取材・文/小川翔太)

自身の学生時代について

──どのような学生時代を過ごしていたのでしょうか。

アユハさん(以下、敬称略) 東京都の小中高一貫校に通っていて、フィジカルスポーツにすごく力を入れていました。

 小学生の頃は7時台に学校に着き、毎朝グラウンドを走り、二重跳びを200回してから、1時間目の授業を受ける生活をしていました。

 15時に学校が終わったら、スポーツの習い事(陸上、水泳、空手)があり、中学受験をする人たちに負けないように塾にも通ってました。小学校の時は、割とハードなスポーツ生活を送っていましたね。

 中学生になると、本格的に部活が始まり、中学生~高校生までの6年間は「鉄緑会」という塾に通いました。テニス部だったので週1回はテニススクールで、空手の道場にも行ってたので、勉強とスポーツばかりやってる環境でした。

──小中学校は勉強とスポーツ中心の生活をされていたのですね。高校時代はいかがでしょうか。

アユハ 高校時代は理系を選択して、情報系に進むことになりました。高校では文系・理系を選択する必要はなかったのですが、塾ではカリキュラムの都合上、高校1年生の時点で文系か理系か選ぶ必要がありました。

 実は何も考えず理系を選択してしまい、蓋を開けてみると、私は理系科目が苦手でした(笑)。

 当時、高校で情報系の授業もありましたが、今みたいに必修化されておらず、情報系の大学は比較的不人気でした。当時は、ファイルの拡張子を変換したり、画像を編集できる人は珍しいこともあり、先行者のいない情報系の学部に行こうと決めました。


──多忙な学生時代、テレビを観たりゲームをする時間はなかったのではないでしょうか。

アユハ テレビやゲームより、漫画やアニメの方が好きでした。

 高校1年生の頃に「iPod touch」や「iPod Classic」などが出たので、それらで手軽にアニメを見られるようになったんです。今はスマホがありますが、当時はなかったので。

 (iPodがない頃)バッグを開いたら、漫画が10冊以上は入ってるレベルでたくさん読んでいたので、ゲームというよりはアニメや漫画派でしたね。


──学生時代はゲームはされてこなかったのでしょうか。

アユハ 小学生~中学生の頃は、あくまで教養の範囲でゲームはしていました。

 「大乱闘スマッシュブラザーズ」は小学校の時から友達と一緒にやっていました。

 あとNINTENDO64だと「スーパーマリオ64」「ディディーコングレーシング」「マリオカート」や「ゼルダの伝説 時のオカリナ」などをやっていました。

 ゲームキューブだと「ピクミン」「ルイージマンション」「マリオサンシャイン」などです。「大乱闘スマッシュブラザーズ DX」をしてから、ファイナルファンタジーシリーズを全作品やりました。

──学業と部活動などお忙しかったかと思いますが、どのようにゲームの時間を捻出されたのでしょうか。

アユハ 実際、そこまで長時間はゲームをしていないと思います。例えば「ポケモン」や「ファイアーエムブレム」「ゼルダの伝説 時のオカリナ」は、20時間ほどで全クリができます。

 「ファイナルファンタジーⅦ」も40時間で終わるので、実は現代の人たちと比べるとプレー時間は短いほうだと思います。

学生時代やっておいて良かったこと

──アユハさんといえばスマブラコミュニティですが、学生時代に所属したきっかけは何でしょうか。

アユハ 大学のサークルでスマブラをしたのがきっかけでした。受験を終えて大学に入った瞬間、サークルに入りスマブラを始めました。

 私は同級生に勝つために、YouTubeやニコニコ動画でスマブラの対戦動画を見て研究していました。

 2010年は、まだeスポーツの波が来ていない頃で、そこまで熱心に研究して練習するようなプレイヤーは少なかったので、当時は「インターネットで対戦動画を見て学ぶ人は珍しい」と言われていました。

 動画で練習していると、特別な対戦技術が手に入って、劇的に強くなり、周囲とのレベル差が生まれて、大学の友達とは対戦しづらくなりました。

 大学内で対戦相手がいなくなったので、インターネットで人を集めている「スマブラ勢」という人たちと一緒にプレーするようになりました。「オフライン大会」や家でゲームをする「宅オフ」のような練習会に参加して、スマブラの練習をするようになりました。

 それが、初めて学校の外側のコミュニティでゲームをやるようになったきっかけですね。

──外部のコミュニティに入って、どのような学びや気づきがありましたか。

アユハ 年齢関係なく、全員がタメ口で話しているのにはびっくりしました。

 私はずっと部活でスポーツをしてきて、上下関係がしっかりとした中で育ってきたので、年下が年上にタメ口で話していたのは衝撃でした。

 例えば、大学のサークルでは(スポーツの実力や実績は関係なく)「年齢が上の人のほうが偉い」という風潮でした。

 でもスマブラのコミュニティでは「強さ」が絶対で、年齢は関係ないんです。

 「その行動は弱いよね」「あなたは今日、予選で負けてただろう」など、そういった指摘や煽りが年齢関係なく飛び交います。

 年下が年上に正論を言った場合でも、年上の人は「確かに、やっぱお前すごいね」と返す。素直に対話ができる環境でした。

 コミュニティでは正しさと強さが論理の中心で、無駄な根性論や謎の美徳がなくて、お互い強くなろうとしているんです。

 「すごい、こんな環境があるんだ!」と感動して、その世界に没入していきました。

学生の頃やっておきたかったこと

──学生時代にやっておけば良かったと後悔していることはありますか?

アユハ ありませんね。

 おそらく私は「今まで自分がやってきたことを有効活用」したり「何かしら意味を持たせること」が上手なのでしょう。

 私の周りの人間、例えば配信技研やTwitchで配信してる人やスマブラ勢は、みんな完全に私のレールに無意識にのせられています。

 例えば、英語をやっていたことを塾講師の仕事に繋げ、塾講師の夏期講習で稼いだお金で毎年海外遠征ができました。海外遠征をしてたから、海外のスマブラ大会を見て、世界レベルのテクニックを真似できました。

 やがて、英語が喋れること、スマブラのコミュニティでコネクションがあったことが幸いして、Twitchというアメリカの企業に就職できました。

 また、私は人文学的な哲学、倫理学、政治哲学系の考え方にも造詣が深いと勝手に自負していますが、それらが大会運営に役立っています。

 現在のスマブラ勢は大会を運営する際に、思想を大事にしていて、どの大会にもコンセプトがあって、コンセプトからルールを逆算しています。

 これは、人文学的な考え方なんです。

──「コンセプトからルールを逆算」した大会とは、例えばどのような大会が挙げられますか。

アユハ 「ウメブラ」です。

 「ウメブラ」では大会の終盤、トップ4の対戦になると、会場内を暗くして、実況の声を会場に流しています。

 従来のスマブラの大会では決勝用の檀上などもなく、決勝戦はいつの間にか行われていました。「ウメブラ」は「会場のみんなでトップ4の人たちを応援しよう」という雰囲気になるような施策を実施した、最初のスマブラの大会です。

 大会では、参加者は「本戦で負けたあとも相手を見つけて練習したい」と思っていますが、大会規模が大きくなるにつれて、練習相手が見つからず余る人が出てきます。

 そうなると不満に感じる人が出てくるので、トップ4をヒーロー化してみんなで体験を共有する方向に持っていこうと考えました。

──みんなで応援することで、大会規模が大きくなったとしても、参加者が不満を感じることなく、満足してもらえるんですね。

アユハ はい。このように「大会をどうしていきたいか」「どのようなリソースの限界があるか」から逆算しているのが人文的、経営学的な考え方です。

 学生時代に勉強しておいてよかったなと思っています。

eスポーツを頑張る学生にメッセージ

──これからeスポーツを頑張ってみたい、興味があるという学生に対してメッセージをお願いします。

アユハ 体力をつけて、英語を喋れるようになって、現場を経験してください。

 インターネットがあれば、配信をして視聴者数を出したり、動画を出してフォロワーを増やせます。しかし、eスポーツの良さはそこだけじゃありません。eスポーツは「人の情熱があるところ」「みんなが頑張っているところ」などの独自の面白さがあります。

 対戦ゲームの大会に出て、勝ち負けを体験して、その後、友達や仲間同士で対戦会などを開催して、技術トラブルや日程調整、ルール調整などを経験してみてください。

 学生のうちでもそれを経験できるのが、eスポーツのいいところです。人と会い、人と対立し、何かを調整する経験を積んでください。

──それはイベント運営側を目指すにしても、選手側を目指すにしても、まずはどこかのチームやコミュニティに入るのが良いということでしょうか?

アユハ そうですね。

 チームに入るときに心掛けることは「チームにあまり多くを期待しないこと」です。「チームのために自分は何ができるだろう」と考えてほしいですね。

 実際、SNS戦略や映像のかっこよさは、他のスポーツよりもeスポーツの方が進んでいるかもしれません。

 ただ、その一方「自分が何かを得る前に、まずは相手に与えることを優先する」という考えは、eスポーツよりフィジカルスポーツの人たちのほうが文化的に根付いています。

 「社会に貢献する」「共同体に貢献する」「学校に貢献する」「後輩を育てる」「先輩と物語をつくる」という考えは、現状、フィジカルスポーツの方が発展してるんです。

 これからeスポーツを目指す若い人たちは「まず自分が貢献する」という意識も持ってほしいですね。

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外部リンク

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https://www.giken.tv/

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