高校eスポーツ探訪
2022.07.15
eスポーツ部がつなげる地域貢献の輪 茨城県立常陸大宮高等学校 前編
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【高校eスポーツ探訪・11 前編】 eスポーツでコミュニケーションを学び、チームワークを育む。これは事実ではあるものの、eスポーツが持つメリットの一面でしかありません。茨城県の常陸大宮高等学校では、eスポーツを活用したIT人材の育成に取り組む一校。eスポーツが持つ競技性を大切にしつつ、カジュアルにITに触れられる面を生かし、生徒のITスキルの向上を目指します。第11回となる高校eスポーツ探訪では常陸大宮高校eスポーツ部に取材。eスポーツを通じてITを学び、そのスキルを地域貢献に生かすまでの過程を探ります。(取材・文/銭 君毅 注:3月に取材)
公立高校がeスポーツ部を立ち上げる苦難
??常陸大宮高校は三つの学校から成り立っているとか。
星野智紀先生(以下、人名は初出以降敬称略) もともと、大宮高等学校・大宮工業高等学校・山方商業高等学校の三校が別々にあって、2006年の学校再編で統合されました。
??さまざまなコースがあるのもそういった経緯が関係しているのでしょうか。
星野 そうですね。県内ではなかなかないんですが、普通科と商業科、機械・情報技術科があります。
??eスポーツ部の活動状況についてお聞きします。
大久保創基君 部員は4月に3年生になった生徒が6人と2年生になった生徒が1人の計7人で活動しています。練習時間は月曜日から金曜日まで毎日1時間やっていて、土日は基本的に活動していません。グランツーリスモやロケットリーグ、クラッシュ・ロワイヤルなどを練習していて、中でもロケットリーグに注力しています。
??立ち上がったのはいつ頃なのでしょうか。
星野 全国高校eスポーツ選手権の第1回が開催した2018年にeスポーツらしきことを始めて、翌年の19年に正式にeスポーツ部が立ち上がりました。
??公立高校のeスポーツ部は珍しいですね。何がきっかけだったのでしょう。
星野 地域の影響が強いと思います。もともと当校は生徒数がかなり多い学校でして、合併前の1校である大宮高校だけでも40人のクラスが、6クラスくらいありました。しかし、現在では3つの学校を合わせても50人ほどしか在席していません。過疎の影響をもろに受けていて、このままでは学校の存続が危ういということで、学校の目玉として立ち上げることになりました。
??eスポーツ部は、公立高校が立ち上げるには私立や通信制高校と比較して難しい気がします。学校側の反対はありませんでしたか。
星野 最初は結構反発がありました。立ち上げに際して職員会議を開いたんですが、半数以上の職員から厳しい声をもらいまして。最初はちょっと泣きそうでしたね(笑)。
当時は年配の先生が多かった、というのもあるかもしれません。現在40から50代の先生方は、おそらくゲーム依存と戦ってこられた方々なんだと思います。肌感としてゲームは悪という印象を持っている方が多い気がしますね。
??説得は大変だったのでは。
星野 半分無理やりなところはありましたが、職員会議の結果として「とりあえずやってみよう」となりました。当然、最初は名前だけが部活動の同好会のような感じでスタートし、私の私物で一緒にゲームをしました。後は、当時STAGE:0のタイトルになっていてスマートフォンでもできるクラッシュ・ロワイヤルを中心に練習していましたね。
ちなみに、創設初期は部費なんて出ていませんでしたが、現在では私立と比べて少ないながらも部費が出ていて、数万円近くの予算をいただいています。
大久保 設備についても、全員分の機材はないんですが、部室に4、5台のゲーミングPCがあって、それで練習しています。
成果物を作り、評価され、新たな仕事につなげるサイクル
??大久保君はどうしてeスポーツ部に入ったのでしょうか。
大久保 中学の頃にパソコン部に入っていたので、パソコンに触れる部活がしたかったからです。ゲームも結構好きです。
??実際にeスポーツ部に入ってみてどうですか?
大久保 最初は周りからの目がすごく冷たい感じだったんですけど、大会に出て実績を残していくにつれて周りからも「すごいね」って言われるようになりましたね。
??周りの目が冷めていた?
大久保 友達とかから、やっぱり「ゲームだけしているんじゃないか」といったことを言われました。ただ、実際にはゲーム以外の活動もしていて、地域の人に貢献できたりしたのはよかったです。
??地域貢献ですか。
大久保 例えば、地元には大栗沢砂防堰堤というダムがあって、茨城県がこれをモデルにしたダムカレーを作ったんですが、このダムカレーが出される時のランチョンマットをeスポーツ部で作成しました。
??すごいですね。具体的にどのように作成したのでしょうか。
大久保 部員全員でデザインを考えて、データを作成した感じです。僕もそうなんですが、情報技術科に所属している生徒がいるので、授業で学んだことも生かしながら作成しました。
??eスポーツ部の活動としては非常に面白い内容です。先生が県とやり取りしたのでしょうか。
星野 実は、ランチョンマットの話は私が拾ってきた仕事ではなくて、生徒が自身でつかんだ仕事なんです。というのも、われわれはeスポーツの活動だけでなく、動画コンテストとかにも出場しています。動画コンテストで当時は2着の準グランプリをいただいたんですが、その動画を見てオファーがかかってきたんです。ぜひこういう仕事をやってくれないですかと。
決して私が取ってきたわけではなく、部員が自分らで頑張った成果が社会に認められて、それがまた仕事として回ってきたわけですね。そういう意味では好循環が作れたかなと思います。
??素晴らしい成果ですね。生徒にとってもいい影響になりそうです。
星野 前提からお話させてもらうと、私はeスポーツっていうのは、あくまでもきっかけの一つだと思っていて、それらを起点に社会で活躍できるIT人材を作っていきたいというのが根底としてあるんです。その手段の一つがeスポーツという考え方ですね。
なので、ゲームに特化したコミュニケーションを学んでほしいというのも、もちろんあるんですけど、それとはまた別にゲームを上手く活用した地域貢献のコミュニケーションも大切にしていきたいという思いがあるんです。そのコミュニケーションの中ではゲームだけじゃなくて外部の方との接点だったり、それを作るために自分たちが成果をあげていくみたいなところも伝えていけたら嬉しいと思っています。
??普通科ではなく、実学の情報技術科ならではの考え方かもしれませんね。大久保君としては、制作に参加してみていかがでしたか。
大久保 ランチョンマットを実際に売って、自分たちが作ったものがたくさんの人に使われたことを感じました。地域に貢献できていると思うと嬉しいですね。
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■外部リンク
茨城県立常陸大宮高等学校=https://www.hitachiomiya-h.ibk.ed.jp/
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