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生徒の千日詣りが体育教師と校長の胸を打つ 誠恵高等学校eスポーツコース成り上がり記【前編】

【高校eスポーツ探訪・10 前編】 静岡県沼津市に位置する誠恵高等学校は、普通コースや進学コースのほか、情報処理や芸術といった多彩なカリキュラムを用意する私立高校です。同校では数年前に校長先生が交代したことをきっかけに大きく変わり始めたとか。そんな中で創立したeスポーツ部は、全国でも類を見ない「総合文化部」から誕生しました。情熱ある生徒が本格的なeスポーツ環境を求めて千日詣りのように教員に働きかけ、変化の渦中にいる学校がこれに応えることで実現した誠恵高校eスポーツ部。第10回となる高校eスポーツ探訪では、顧問の杉浦光浩先生と生徒5人を取材。同校の部活誕生秘話を先生編と生徒編の前後編に分けて掲載します。(取材・文/銭 君毅 注:2022年3月に取材)

 

杉浦光浩先生

生徒がやりたいことをやる部活「総合文化部」

――まずは自己紹介からお願いします。

杉浦先生(以下、敬称略) 当校、誠恵高等学校で保健体育を担当していて、専門は陸上競技。部活動の顧問としては陸上競技と柔道を経験し、現在は総合文化部を見ています。

――総合文化部?

杉浦 eスポーツも含め、アウトドアやファッション、模型といったさまざまなコースを選択できる部活動です。

――とても珍しい形の部活ですね。いつ頃からできたのでしょうか。

杉浦 平成から令和に変わった年なので2019年頃ですかね。現在の校長先生が就任されて1年目になる年だったんですが、当時、校長先生は「生徒の希望に寄り添っていくスタンス」や「生徒にとって居心地がいい学校にしていく」といった方針を常々強調されていました。

 あるとき、既存の部活に入部していた生徒がいたんですが、どうやら消去法で興味のない部活に入っていたみたいで、「自分が好きな活動ができる部活を作りたい」という提案がありました。その際、eスポーツが好きな子やミニ四駆・模型・ラジコンが好きな子、メイクやファッションが好きな子が私のクラスにいまして、彼らに対して校長先生へ相談するようアドバイスをしたんです。その結果、新たな部活動が始まることになりました。ただ、数人のグループがたくさんあると教員も見きれないので、総合文化部という一つの部活を作り、その中でさまざまなコースを設けることにしました。

 

自分の“好き”を突き詰める総合文化部

 

――なるほど。総合文化部の生徒はコースを兼任することもできるのでしょうか。

杉浦 基本的には1人1コースになります。立ち上げた際はeスポーツも模型もやりたいという生徒がいて、その子は掛け持ちしていましたね。ただ、それ以外の子たちは基本的に一つのコースを突き詰めてやっている状況です。

――好きなことをとことんやっていく部活だからこそ自然と一つのコースを選ぶことになると

杉浦 そうですね、入部の条件を「なんとなく入部せず、いい加減に活動しないこと」としていています。そもそも創立の経緯として、やりたいことをやるために今までにない部活を作り、校長先生に許可をいただいていたのでみんな本当に一生懸命です。

eスポーツ部から「なんちゃって」がとれるまで

――となると、eスポーツ部というよりは総合文化部eスポーツコースという呼び方が正しいのでしょうか。

杉浦 スタートはそうだったんですが、実は今年の4月から正式にeスポーツ部として独立することになりました。

――なんと、おめでとうございます。

杉浦 これも、校長先生や諸先生方の協力、生徒たちの頑張りがあったからこそです。eスポーツコース自体はもともと30数人でスタートして、今思えば本当に恥ずかしい話なんですが、当初は私物のSwitchやPlaystationを持ち込み、回線もない状況で、eスポーツとは名ばかりのただのゲーム同好会と呼ばれてもおかしくない状況でした。

――回線もないというとeスポーツでは必須のオンライン対戦などはできませんよね。

杉浦 一応、私が個人で契約しているポケットWi-Fiがあったので、それで接続したりはしていたんですが。ただ、やっぱり通信速度や遅延の問題はありました。そういった部活の状況が大きく変わったのは、現在主力として頑張っている新2年生たちが入学したからです。入学以来、本当に何度も私や校長先生のもとに来て直談判を続けてきたのです。彼らの頑張りによって、校長先生にも部としての意向を理解していただいて、ハイスペックPCを5台用意していただいたり、回線も学校が契約しているものを使わせてもらったり、この春にはゲーム分野で強い回線をeスポーツ部専用で用意してもらうなど、急速に環境を整備していただけるようになりました。

――そうなると全国でもかなり良い環境になりそうですね。

杉浦 そうですね。通信環境も機材も非常にいいものを使っていると思います。

――校長先生や生徒の頑張りがあったとのことですが、杉浦先生が取り組まれたことはありますか。

杉浦 私が何かをしたというのは本当にそんなにありません。新2年生が主力として頑張っているとお話しましたが、実は彼らが中学3年のときに当校のオープンキャンパスに来てまして、その際、私物の機械と回線を使ったなんちゃってeスポーツの状況を説明したんです。ただ、総合文化部もできたばかりだったので「今は学校が大きく変わろうとしていて、みんなの頑張り次第で校長先生も話を聞いてくれる。みんなで学校を変えよう」と呼びかけて集まってきてくれた子たちなんです。だからこそ、子どもたちの熱量なんだと思います。

 

杉浦先生「私が何かしたというのはそんなにありません」

 

――そんな経緯があったんですね。

杉浦 あとは校長先生が交代され、タイミング的に受け入れていただけたことですね。最近でこそeスポーツは盛り上がるようになっていますが、当時まだeスポーツが普及しておらず、周囲の理解がない中でご尽力いただけたのは大きいかなと思います。本当のことを言うと、以前の校長先生がいたときもeスポーツ部を作るようなお話はあったんですけど、やはり設備や回線への投資を含めた複雑な理由で流れてしまったんですね。

――現在の学校の体制と生徒たちの熱意が実を結んだわけですね。

杉浦 最初に話が出たときも軽い気持ちではなかったんですが、どこかこちら側に覚悟がなかったのかもしれません。今の子たちは毎日のように「eスポーツをやりたい」としつこく聞いてくるものですから(笑)。われわれもこれには応えないとなという思いがありました。

アスリートから見たeスポーツの姿

――杉浦先生は陸上800mの日本陸上競技選手権大会で3位を獲った経験があるとか。

杉浦 いえいえ。

――現実のスポーツをされている方としてはeスポーツをどう思われますか。

杉浦 そうですね、オンラインのeスポーツって100回マッチすれば100通りの戦いがあるじゃないですか。ロールプレイングゲームなどの従来のゲームって、言ってしまえば、レベルさえ上げてしまえば絶対に勝てるやりこみ要素が強い。一方、eスポーツは毎回同じ戦法が通用するわけではなく、試合によって持つ武器も違えば相手の戦略も違う。そして、とにかくチームプレーが重要なんだということを強く実感しています。チームでコミュニケーションをとり、勝てばうれしい。本当にリアルのスポーツと変わらないと思います。最近は引退された川崎フロンターレの大久保嘉人選手なんかもプロeスポーツチームの役員に入ったりしてますし、リアルのスポーツ選手がこうやって発信してくれたりするとよりeスポーツの価値も上がるかもしれせんね。

――確かに、最近はリアルのスポーツ業界もeスポーツに寛容なように見えます。eスポーツを“部活”として運営することについてはいかがですか。

杉浦 メリット・デメリットはあると思います。当校の生徒は優しくておとなしい子が多いんですが、恥ずかしがり屋でシャイなところもあります。そんな中、eスポーツを通してさまざまなイベントに参加し、人との関わりの中で自信を付け自己肯定感を高めることにつながるのはいいことだと思います。自校の生徒で手前味噌なんですが、昨年の沼津eスポーツフェスティバルでは「この子たちはこんなにできるんだ」と感心したくらいです。

 

沼津eスポーツフェスティバルでは校長先生(右)と一緒に学校の取り組みをアピール

 

杉浦 デメリットについては、オンラインである以上活動を把握できない部分があることでしょうか。運動部とかだと、やはりその場に教員と生徒がいるのである程度活動を把握できます。それがオンライン上だと、家でもやれてしまうので、睡眠や食事、学習に影響がないか心配になってしまいますね。もちろん家庭でも見てくれているでしょうし、幸い、部員は皆進級が無事決まっているのでやることはやっているんだとは思います。

――4月からeスポーツ部に昇格されるとのことです。今後についてはいかがでしょうか。

杉浦 部室としてパソコン室を用意していただき、顧問には私以外にももう一人教員が付くと伺っています。新たなスタートが切れると思います。

――頑張ってください!

*後編はこちら

eスポーツ部という居場所を作ってくれた学校へ賞金で恩を返したい 誠恵高等学校eスポーツコース成り上がり記【後編】

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