高校eスポーツニュース
2023.09.29
大阪・泉佐野の高校eスポーツキャンプ、初対面でも“ワンチーム”に
- 大会/イベント
- VALORANT
8月21~24日に、泉佐野市りんくうタウンのオチアリーナにて高校生向けゲーム合宿「eスポーツキャンプ 2023 Summer」が開催されました。昨年に引き続き2回目の開催です。
eスポーツキャンプは高校生を対象とした合宿イベント。参加者はタクティカルシューティングゲーム『VALORANT』を使用して、練習に明け暮れる日々を過ごします。有名ストリーマーやプロの実況、解説者がゲストとして参加し、専門学校や高校などでeスポーツを教えるコーチが指導者を務めます。単純に『VALORANT』の腕前が向上する合宿としての側面のほか、全国から集まった見知らぬ高校生同士で短期間、寝食を共にする貴重な機会です。
初日は顔合わせを目的としたオリエンテーションを行い、合宿で一緒に練習をするチーム分け、ゲストとの交流、チーム練習が行われました。2日目は1日中チームの練習とスクリム(合宿内での他チームとの練習試合)を、3日目はチーム練習に加え、午後から合宿の成果が試される大会の予選を行います。最終日は大会の決勝、表彰式、打ち上げ、閉会式があります。今回は3日目の様子をレポートします。
初対面でも“ワンチーム”に
朝一の飛行機で現地入りしたのですが、朝8時半の時点ですでに参加者は全員会場に集まって朝練をしています。最初聞いている予定では、9時から練習開始とのことだったので、まだ練習はしていないと思っていただけに驚きです。
会場に設置されていたスケジュールを確認すると朝6時半から朝練の時間に割り当てられており、生徒は率先して練習に参加していたとのことです。午後からはチーム対抗戦の大会の予選が予定されています。この大会に向け、チームはあらかじめ戦力的には差が出ないようにメンバーを振り分けています。つまり、初心者帯のランクであるアイアンからシルバー、上位ランクのアセンダントやダイヤモンドが混合されているチーム編成になっています。
メンバーとは合宿でほぼ初めて会ったことに加え、実力や知識量に差がありながらも、どのチームも“ワンチーム”として練習している姿は若さ故の対応力の高さが伺えます。
そもそも、学校などで『VALORANT』をプレーする友人が居なければ、チームとしてプレーすることは稀となるわけです。個々でランクマッチなどに参加すると作戦よりも個別のスキルの高さが勝敗に関わりますが、チームでプレーする際には戦略や対応力が必要になってきます。チームワークを発揮するにはお互いがしっかりと情報を伝え合い、適した判断を下し、迅速に行動するコミュニケーションが重要だと気づかされます。それを経験できたのは、eスポーツキャンプに参加した大きな意義ではないでしょうか。
練習中の貴重な時間を割いてもらい、参加した生徒とコーチ、そしてイベントを主催した南海電鉄とeスタジアムのスタッフにも話を聞いてきました。
Lunxux選手(16歳)
昨年のeスポーツキャンプにて兄が参加していました。兄からはとにかく自分が行き詰まっているところが解決し、勉強になることばかりで、絶対に強くなると言われました。今はゴールドランクです。参加前からランクは三つくらい上がりました。コーチから教わった具体的なこととしては、撃ち合いの時に出る癖を指摘されたことで、そこを直すことができました。ほかにはスキルの使い方や味方との連携の仕方、かけ声の出し方などですね。エイムの仕方もちゃんと教えて貰えたことで、撃ち勝つことも多くなりました。
eスポーツキャンプは最初どんな人が来るのか不安でしたが、チームメイトが仲良く接してくれたのですぐに溶け込めました。トラブルがあっても対応できるようにコーチが絶えず近くに居たのが良かったのかも知れません。
Haru選手(18歳)
eスポーツキャンプに参加するきっかけとなったのは、Twitterのオススメに流れてきたことですね。『VALORANT』は2年くらい前から始めて、本格的にやりだしたのは1年くらい前からです。ランクは最高位がアセンダントで今はダイヤモンド2です。
フルパ(チーム全員が知り合い)はよくやりますが、ガチガチのチーム戦はやったことがありませんでした。なので、eスポーツキャンプに来て、自分からチームメイトに声を掛けるようになり、すごく良い経験になりました。最近、『VALORANT』のチームに入ったので、そこでも活かせそうです。
応募した時は一緒に行く人がいなくて、ひとりだったんですけど、後から知り合いが参加するのを知って安心しました。人見知りなので、中々こちらからアクションを起こしにくく、受け身になってしまったところはありますね。あと、eスポーツは女子がまだまだ少なくて、今回も5人でした。全員違うチームに振り分けられたので、まだちゃんと話せてないのが残念です。
RaLto(15歳)
参加を決めたのはTwitterの広告で流れてきたのを見て、そこから公式サイトに飛んで、決めました。将来的にはプロ選手になることを目指しており、今はイモータル2で、最高位はイモータル3です。『VALORANT』歴は2年半ですね。もともとDetonatioN FocusMeのファンで、『League of Legends』や『ストリートファイターV』の競技シーンも観ていました。2年前に開催されたEDION CUPを観たのをきっかけに『VALORANT』を始めました。
チームはランクの幅が広く、自分が一番高いランクだったので、いろいろと教える立場にありました。教えながら自分もプレーするのは楽しかったですね。教えた結果、みんながうまくなっていくのは良かったです。こういった経験ができるのはオフラインのチーム戦だったからだと思います。コーチングしてもらうのは初めての経験ではなかったですが、タイプの違うコーチに指導してもらえたので、新たな発見もあり、成長する良い機会になりました。
人とコミュニケーションをとるのは得意な方だったのですが、それでも心配はありました。チームメイトに恵まれて仲良くやれました。あと、元選手やRejectのオーナー、ジャスパーさんと話ができたのは嬉しかったです。
Ken選手(17歳)
昨年に引き続き、2年連続で参加しました。昨年はストリーマー目当てで参加しましたが、その後、マネージャーとしてチームに参加しています。eスポーツキャンプは選手目線で参加できるので、マネージャーとしての視野が広がると思い参加を決めました。あと、去年のキャンプがすごく楽しかったのもあります。ランクはアセンダント1ですね。
普段のプレーはオンライン中心なので、eスポーツキャンプは直接チームメンバーと会える貴重な機会です。顔を見ながらコミュニケーションを取れるのでより相手の気持ちがわかりやすく、こちらの気持ちも入っていきます。
すべてのチームにコーチがついているので、上級者の知識を得ることができ、腕が磨かれました。コミュニケーション能力も高まったと思います。昨年初めて参加した時は不安でしたが、eスポーツキャンプに集まっている人はみんな共通の趣味を持つ人なので、話をするきっかけはあり、困りませんでした。高校生として、eスポーツキャンプに参加する費用や交通費は決して小さいものではないですが、お金に換えられないくらいの良い経験ができました。あ、参加費と交通費は親にお願いして立て替えてもらいました。これから返します。
Tomusコーチ
PUBGの日本リーグでプロゲーマーを3年ほど経験し、ストリーマーとして活動しています。V3 Gamingの『VALORANT』部門で活動しています。
知り合いを通じて、eスポーツキャンプのコーチの話をいただきました。参加するまで、どんな子が来るのか、どんなことを教えれば良いのかすごく悩んでいましたが、参加している生徒はみなモチベーションが高く、コミュニケーションもしっかり取れるので、すべて杞憂でした。ちょっと専門的すぎるかな?と言うことを伝えてもすぐに吸収してくれるんです。専門学校で講師をしているのですが、そこで3カ月かけて教えたことを3日で習得するレベルです。
チームとしての雰囲気が重要だと思っており、必要以上に厳しくはしていません。どちらかと言うと友達感覚に近いですね。でも、なぁなぁにはならず言うことはしっかり言うようにはしています。今の高校生はデジタルネイティブでネットからさまざまな情報を得られるので、大人っぽくなっちゃう感じがあるんですけど、eスポーツキャンプに参加している生徒はみんな素直で良いですね。
実際、ここまで本気で取り組んでいるとは思っていませんでした。能動的に参加している生徒ばかりなので、本気度が違いました。その生徒の本気度に応えられるだけの環境がここにはあると思います。設備も運営もしっかりしていて、プロが揃っています。参加した人に絶対に後悔させないだけのものがあります。私自身も生徒のやる気に感化されて良い経験ができたと思っています。みんな顔が輝いているのが良いですね。
南海電鉄 イノベーション創造室 新規事業部 課長補佐 加藤寛之氏
eスタジアム 代表取締役 中川和幸氏
── eスポーツキャンプの評判について
加藤氏 昨年のeスポーツキャンプのムービーをさまざまな人に観ていただきました。eスポーツのキラキラした部分やダークな印象を持っていた人が、イメージと違っていて、感動したと言ってくれています。子供たちを応援していこうという親御さんの意見に感動した人もいましたね。
中川氏 eスポーツではチームワークの大切さやコミュケーションの重要性、戦略などを学べました。そこに関してはスポーツ全般に通じることです。多くの人に、教育としても存在できると気づいてもらい、eスポーツの意義を理解していただけたと思います。
── eスポーツキャンプの運営について
加藤氏 eスポーツキャンプは泉佐野市の取り組みとして企業版ふるさと納税と泉佐野市の支援によって成り立っています。今後、泉佐野市や行政の後ろ盾がなくても運営していけるように、今年は多くのスポンサーを募ったところ、多くの企業に協賛いただけました。2回目は収支的にも大きなマイナスは出ていませんし、より理解してもらえる企業も増えてきたと感じています。
中川氏 1年目は最初ということである意味採算度外視な部分はありました。2年目は収支を問われるようになり、それに応えることができました。スポンサーが増えたことで、今後もやれると言う手応えは得られました。
── eスポーツキャンプの成果について
加藤氏 去年はまずやってみようと言う感じでしたが、実際にやってみると、人間的にこんなに成長できるものかと驚きました。eスポーツキャンプに参加した生徒がeスタジアムに入社すると言う事案もあり、エコシステムも構築されつつあります。
── 今後について
加藤氏 行政なので時限付きの案件ではあります。ただ、自治体と連携するにはピッタリの事業であることも確かです。ほかの自治体からも問い合わせがありますし、得られたノウハウは提供していきたいですね。立ち上げには自治体の力を借りていますが、最終的には独り立ちできるようにと考えています。
中川氏 同じく、泉佐野市での経験を活かしてほかの地場産業と行政を繋げる役割をしていきたいですね。
自費だからこその真剣さ
昨年のeスポーツキャンプでも自費で参加している高校生を多くみかけました。今年も自費で参加している生徒が多く、生徒にとってeスポーツキャンプの重要度の高さがわかります。また、自費ということもあり、やる気の高さはほかに類を見ないほどです。
高校生の夏休みと言えば、受験に向けた夏期講習のイメージもあります。将来的には夏期講習の方が役立つ機会が多いかも知れませんが、モチベーションの高さは比べものにならないわけです。就職や進学に直接繋がるかは未知数ですが、このキャンプに参加した経験が、今後の人生を豊かにしてくれるような気がします。(ライター・岡安 学)
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外部リンク
「eスポーツキャンプ」公式サイト
https://www.nanka-e-tabi.com/special/esports/
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