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2024.10.02

磨かれるスキルと絆 最大規模のeスポーツ合宿に取り組む滋賀・八幡工業高校 三浦先生の「eスポーツ部 合宿のススメ」前編

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 滋賀県にある八幡工業高校では、昨年夏から他校も巻き込んだeスポーツ合宿に取り組んでいます。8月の実施では、合計9校、80人もの生徒が集まったという、国内最大級のeスポーツ部合宿。「eスポーツで合宿というと『オンラインでもいいじゃん』と言われるかもしれないですが……」と語るのは、同校eスポーツ部顧問の三浦広和先生。前後編にわたって、先生に合宿を始めた経緯やねらい、練習の内容、生徒の成長について語ってもらいました。(取材・文 / 寺澤 克)(取材日:2024年8月28日)

eスポーツ部でも思い出に残る合宿を 40台のPCを準備して臨んだ大規模オフラインイベント

──どうして合宿を始めようと思ったのですか?

三浦先生(以下敬称略) 合宿って辛くもあるんですけど、思い出に残るものなんですよね。私は元々、バスケットボール部の顧問だったんです。全国大会レベルの強豪校を指導することもあったんで、合宿するのが普通だったんですよ。4年前からeスポーツ部をみることになりまして、eスポーツって運動部で文化部っていう半々な部分があるなって思ったんです。だったら合宿してみたいなと。

三浦先生


三浦 部員たちからしたら、しんどくてイヤな部分も多いんですが、思い出に残ってることを挙げてもらったら「やっぱり合宿楽しかった」とか「みんなでこうやって泊りで練習するのいいよね」みたいな話を卒業生や運動部の子たちがするのをよく聞きます。

 実は、いざeスポーツ合宿を始めると、前の参加校も含めOB・OGが手伝いに来てくれたりすることも多くて、やっぱり印象に残っているんだな~としみじみ思うし、元生徒たちの好意や言葉は合宿を続ける原動力にもなったりしてます。そんな合宿も2023年の春からはじめて、今回で3回目となりました。

──今回の合宿には40人が集まったと聞きました。そうするとPCの台数とか機材関係もネックになりますよね。

三浦 そこら辺は、上手くやりくりをしていると言いますか、今は学校では30台のゲーミングPCを用意しています。そこにさらにASUSさんより10台ぐらい貸し出してもらって人数分そろえました。

合宿風景 写真だけ見ても20台以上はある


──八幡工業さんだけで30台!すごく多いんですね。

三浦 そうですね。他の学校にはない台数の多さだと思います。合宿をする場所が欲しいのもそうなんですが、部員が70人と何より多いんです。彼らが部室でプレーできないっていうのは問題だったので、これぐらいの台数になりました。

 最初はサードウェーブさんの高校eスポーツ部支援プログラムで3台、そこから学校の費用や部費、生徒会の特別予算などで購入していってコツコツ増やしていきました。

──なるほど。ところでその部費ってどれぐらいなんですか?

三浦 月2000円です。ただ私が買えるものはできるだけ買って、回線の費用や消耗品、コーチング代などを計算しながら積み立てている部費をPCに充てて支払うという感じで何とかやっています。

──そうするとPCを揃えるのも大変ですよね……。

三浦 例えばレスリング部で使うマット。あれって300万~500万するんですけど、部費で用意するのは難しいから中古を何とか40~50万で譲ってもらう。運動部の顧問ってそんな涙ぐましい努力の積み重ねの連続だったので、むしろ普通というか、特段苦しいということはありません(笑)。とにかく、今の目標はPCを45台揃えることです。

短期間なのでテーマは一つに絞る! 基礎を固める集中講座!


──では合宿の内容について聞かせてください。

三浦 合宿は全部で6日間です。8月9~11日にリーグ・オブ・レジェンド(LoL)、8月21~23日にVALORANTを種目に行いました。それぞれで40人、5校が参加しました。スペシャルコーチに加えて各チームに一人学生コーチが付いてもらって、LoLでは元プロのリールベルトさんと近畿大学の学生さん、VALORANTではNOEZ FOXXでもコーチ経験のあるSylFyさん、大阪電気通信大学の学生さんが参加してくれました。VALORANTでは元々SCARZの元監督noppoさんが参加する予定だったのですが、体調不良ということで、急きょ来てくれたのがSylFyさんでした。

リールベルトさん
SylFyさん 二人とも「40人を一度に指導することなんてめったにない!」と驚きつつもやる気十分だったそうだ


●参加校

VALORANT部門

・滋賀学園高等学校
・立正大学淞南高等学校(島根県)
・益田東高等学校(島根県)
・龍昇経理情報専門学校(徳島県)

LoL部門

・専修学校クラーク高等学院 札幌大通校
・飛龍高等学校(静岡県)
・星林高等学校(和歌山県)
・精華高等学校(大阪府)

2泊3日ではできることが限られる 一つのテーマに集中して取り組むのがポイント!


──合宿では具体的にどんな練習に取り組んだんですか。

三浦 スペシャルコーチの2人にこちらから要望を出しながら、内容を詰めていき、テーマを一つに絞って取り組みました。それぞれで基礎的なことをやりたいという思いはあるので、LoLでは「タワーダイブ(※1)」、VALORANTでは「アセント(※2)」をテーマとしました。やっぱり2泊3日で結果を出そうと考えた時にはあまり幅広くやってもしょうがないですからね。

※1 … 相手側のタワーに飛び込み相手を撃破すること。
※2 … ゲーム内のマップの一つ。両サイトにスイッチで開閉するシャッターが配置されているのが特徴。

何となくやりがちな「タワーダイブ」 その過程や考え方を理解し、成功につなげる


──タワーダイブと言えば強豪校は当たり前のようにきれいに決めていく印象がありますね。

三浦 普通の高校生の認識では、ただ何となくやるというのが普通だと思うんです。ただ競技シーンだと、例えば強豪校なんかは狙ってタワーダイブをしている。その動きを紐解いてもらって、どういう条件だったら成功するのか、その過程や考え方を講義してもらって、実践してもらいました。

──根拠をもってタワーダイブしよう、ということですね。

三浦 はい。そこで、大事になるのは、ウェーブコントロールです。それを理解して、まずはフィールド上のミニオンを相手側に押し付け、きっかけをつくる。あとは、ミッドレーンやジャングルからロームして有利をとって、声を合わせてダイブアクションを増やしていく。どうしてダイブが上手くいかないのか、それをコーチが入って分析してくれるので、参加者にとっては非常に濃い内容になったのかなと思います。

──毎回こんな感じだったんですか?

三浦 そうですね。LoLについては今回で3回目になるので、初回はレーニングは勝っててチーム全体でも優勢なのに終盤で負けてくる、ということがあったので「ゲームエンド」をテーマにしてみました。2回目は、そもそも「構成って何」っていうところ。

VALORANTではまず意識を合わせるところから アセントを徹底的に対策!

図解で説明しながら指導するSylFyさん


──VAORANTではどんなことを?

三浦 今回は初のVALORANT合宿ということで、マクロな意味での基礎、試合全体の流れの部分についてレクチャーしてもらいました。noppoさんにはその点についても相談していて、「VALORANTの基礎ってなんですか」ということで、まずは一番基礎的なマップを選択しています。構成はアセントのメタ構成「ジェット、KAY/O、ソーヴァ、キルジョイ、オーメン」でプレーしてもらって、そこからエリアコントロールの話、アンチエコの場合など、形式的な動き方を学びました。

 ですが、その動き方が最初はかなり人それぞれだったんですよ。生徒たちももちろん日ごろからVALORANTプレーしてますけど、誰の動画や解説を参考にしたのかで、考え方が違っていた。だからまずはそれを統一するところから、というイメージです。

 さらにそこから、いろいろとセットプレーを教えてもらったので、ひたすら実践する。

──練習というとどうしても「エイムの技術を上げよう」とか漠然としたものが浮かんでしまうんですが、違うんですね。

三浦 はい。結局、自分の実力の部分、ミクロの要素っていうのは個人で何とかしなきゃいけないので、日ごろの練習で培っていくものです。それはエイムだけでなく、スキルを使うタイミングとかも同じですね。

 チームプレーを意識しようとするときに、まずはお互いに見ている場所が共通していたり、マップの理解度を合わせる必要があります。カバーが遅いのは技術が足りないということもあるかもしれませんが、そもそも互いに注意して見ている場所が違っていたということもあるわけです。

 特にVALORANTって高校eスポーツとして始まって間もないじゃないですか。どの先生も部活動の練習の仕方だったり、そもそも基礎がどこにあるのか、ノウハウが不足しているんじゃないでしょうか。だから「何が基礎で何をするべきなのか理解する」というのはこの合宿中、意識していたところではあったんですよね。競技における基礎を少しでも多くの学校で形づくれればいいんじゃないかと。これが積み重なっていって、高校eスポーツの競技レベル底上げにつながれば面白いですよね。

合宿にはメンタルトレーナーを呼び、チームメイトの思考傾向や考え方を相互で理解してもらう機会を設けるなど本格的


 後編では、合宿の狙いや生徒の成長、今後の展開について掘り下げていきます。

三浦先生の「eスポーツ部 合宿のススメ」 後編

(公開は10月9日を予定しています)

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外部リンク

八幡工業高校
http://www.hachikou-h.shiga-ec.ed.jp/

滋賀県立八幡工業高校eスポーツ部 X公式
https://x.com/hachimanesports

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