コラム
2022.11.16
eスポーツは教材になり得るか クラブ創設体験会で見つけた可能性
- 大会/イベント
(米国・アトランタ発)高校の授業でeスポーツを扱うようになれば、ゲームへの興味が授業への関心につながりそうです。「ただの遊び」だと考えている人でも、eスポーツを通して自身の将来の可能性や適性を探ることができるとなれば、興味がわいてくるかもしれません。今回筆者が参加したNASEF(北米教育eスポーツ連盟)のeスポーツクラブ創設体験会で、eスポーツが授業の教材になる可能性を感じることができました。

日本でeスポーツを活用した教育に注力するNASEF JAPAN(北米教育eスポーツ連盟 日本本部)は11月13日、NASEF本部のあるジョージア州・アトランタに視察団を派遣しました。目的は、北米における教育的eスポーツを実地で体験し、その知見を日本に持ち帰ることです。今回、BCN eスポーツ部編集部も同行することができたので、その様子をレポートしていきます。
日程の2日目(到着日を除く)にあたる11月16日(現地時間)、視察団はNASEFが作成した1000ページ以上のカリキュラムの一部を体験しました。テーマは「eスポーツクラブの創設」。NASEFのカリキュラムでは、仕事で役立つスキルを身に着けるために、クラブメンバーはそれぞれ「ビジネス戦略」や「アナリスト」、「広報」など、さまざまな役割を担うことになります。体験会では、視察団のメンバーが高校生の立場になって、eスポーツクラブの創設体験に臨みました。
eスポーツクラブ創設体験会
体験会の冒頭、NASEFの教育・トレーニングディレクターを勤めるケビン・ブラウン氏は「学生がeスポーツクラブを始める際、まずは『魂を鍛錬する』ことになります。メンバーが『なりたい自分になる』ためにサポートすることが、クラブの役目です」と前提となる考え方を説明しました。クラブを創設するにも、最初からeスポーツに取り組むのではなく、はなりたい自分の解像度を上げることから始まります。
ステップ1:スーパーヒーロー夢想
最初はさまざまなキャラクターが描かれたプリントが配られました。その中から、自分が気に入ったキャラクターを選びます。次に、選んだキャラクターをスーパーヒーローとした場合のストーリーを考えます(時間は10分)。どのような内容でも問題ありませんが、ただ一つだけ「弱点を作る」というルールがあります。ストーリーを作ったら、隣の人と発表し合います。

このステップで注目するのは、スーパーヒーローとしての能力と、ルールに則って作った「弱点」、そしてその克服方法です。
過去に参加した生徒の中には、「あらゆる言語を使いこなせる」「動物と話すことができる」「数学が得意」といった自身のなりたい姿をスーパーヒーローに投影していることがありました。一方で、「自分を守るために親が亡くなってしまった」「報酬のためなら、汚いことでもなんでもする」といった“悪役”になりかねない危うさを持つヒーローを考える生徒もいました。なお、後者のヒーローは紆余曲折を経て、最後にはいいことだけをしようと決意します。
突然「将来何をやりたいのか」と面談で聞かれたり、進路希望の紙を渡されたりしても、何も思いつかないかもしれません。しかし、「自分が考えるスーパーヒーロー」という題材があることで、自らの将来や悩みと向き合うことができるようになります。また、視察団の平均年齢はゆうに30歳を超え(もしかすると40歳超え)ていますが、ヒーローの設定を考え発表する際は恥ずかしがりながらも和やかでした。お互いが心の距離を縮め、歩み寄るきっかけになったのです。
ステップ2:適正チェック
ステップ2は、クラブ内の役割についての適正チェックです。eスポーツは、選手や実況者だけで構成されているわけではありません。NASEFでは、広報やマーケティング、マネージャーなど、15種類の役割に分けて考えています。そのなかで自分が何に適しているのか、アンケートで探ります。

アンケートでは、「ストラテジスト」「運営」「コンテンツ作成」「起業家」の大きく分けて四つの適正を図ることができます。それぞれの質問に1?5(当てはまるほど高い数字)で回答し、数字の高い役割が適正になります。
ステップ3:eスポーツクラブ創設
適正がわかったら、いよいよeスポーツ部の創設です。そのためにも、まずは四つの役割を一通りそろえたチームを作る必要があります。役割が不足していたり、余ったりすれば希望や必要に応じて、一番適している役割ではなく、二番目の役割を担う場合もあります。

チームに分かれたら、eスポーツクラブの「名前」「ロゴ」「マスコットキャラクター」「部を継続させるために新しいメンバーをどのように集めるか」を決めます(時間は20分程度)。この際、それぞれの役割を意識しながらグループワークに臨むことで、仕事を体験することができます。

最後は、それぞれが考案したeスポーツクラブの内容を発表し、振り返って終了です。
興味をかき立てるテーマ
体験会に参加した奈良女子大学非常勤講師・文部科学省ICT教育アドバイザーの竹中章勝氏は「日本の学校は、『キャリア』や『生きる理由』を考えるといった段階まで踏み込むことができていません。なので、多くの子どもが興味を持っているゲームやeスポーツ、もしくは今回題材にした物語のキャラクターを題材にすることで、自ら遠い目標のためにどのようなことを学ばなければならないのか、を考えるきっかけになると思います」と振り返りました。

さらに、竹中氏は、「ゲームをプレーする、ということならクラブの方が高校も取り入れやすいと思います。しかし、今回のアクティビティなら、『総合的な時間』などで単発で使う『投げ込み教材』として整えれば、生徒たちが自分の向かう道を探るための授業として、取り入れやすいかもしれません」と、eスポーツを授業の教材とする道筋について展望します。
投げ込み教材であれば、日々忙しい先生が新たに教材を用意する手間を省くことができます。また、NASEFのカリキュラムを授業で使用することができるスカラスティック・ディレクターが出張すれば、きめ細やかな授業を行うこともできます。NASEFの目的は、eスポーツとしてゲームをプレーすることではなく、生徒をどのように教育につなげるか、ということです。
今回の体験会では、生徒たちが持つゲームへの情熱をどのように教育につなげるのか、そのヒントを見つけることができました。(BCN・南雲 亮平)
■関連記事
■外部リンク
NASEF JAPAN
https://nasef.jp/

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