コラム
2022.11.18
実例から見るeスポーツの教育的活用、日本と北米の違い
- 高校eスポーツ
(米国・アトランタ発)北米教育eスポーツ連盟の本部があるアトランタでは、教育的eスポーツをどのように実践しているのでしょうか。今回は、北米のeスポーツクラブを訪問した様子をレポートします。
NASEF JAPANのアトランタ視察3日目は、教育的eスポーツを実践しているアトランタの学校を三カ所訪問。最初に訪れたのが、Academies of Creative Education“The Lab”所属のForsyth Virtual Academy(高等学校)です。
“5C”
Virtual Academy(バーチャル アカデミー=VA)はその名の通り、場所を問わずにオンラインでアクセスできる仮想空間上の学校です。117科目の授業を行っており、リアルの学校に通いながらバーチャルアカデミーで授業を受けることで、リアルの学校における単位を取得することができます。もちろん、eスポーツのコースも設けています。
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学校見学の冒頭、VAでeスポーツコースのジェネラルマネージャーを務めるPK GRAFF氏が、同校で実践している教育的eスポーツの概要を説明しました。eスポーツコースでは、ゲーム・eスポーツはあくまで教材の扱い。生徒はゲームをプレーするだけではなく、関連する仕事や、そこで求められるスキルなどを総合的に学習します。
VAはオンラインで繋がる学校なので、同じくオンラインで繋がるeスポーツとの相性はバツグンです。eスポーツを活用して指導するにあたってPK氏が大切にしているのは、(1)コネクト、(2)クリエイト、(3)コミット、(4)クライム、(5)クッキーの五つの“C”です。
それぞれ、居場所をつくるために生徒自身が学校や友人、コーチと繋がる(コネクトする)こと。目的に沿って手段を考え、実践(クリエイト)すること。学んだ成果を発揮(コミット)して、親やコミュニティに認めてもらうこと。上り(クライムし)続けるように、努力を続けること。そして目標であるご褒美(クッキー)を目指すこと、といった意味があります。
会場にはeスポーツコースの生徒たちも集まりました。生徒たちは教育的eスポーツで学んだことについて、「eスポーツで学んだことは、どの仕事でも求められるスキルです」「コロナ禍でつながりを持つことが難しい時期でも、eスポーツで繋がりをつくることができました」「オンラインだからこそ、国籍を越えた思いもよらないような出会いもあり、自分の居場所ができました」と、自らの意見をはっきりと述べます。
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こういったことを可能にするのは、五つのCを実践していることはもちろん。教育的eスポーツでキャリア教育に取り組んでいることが大きく貢献しています。生徒が常に自分の意見を考え、ほかの人にプレゼンすることができるよう訓練しているからこそ可能なことです。言うまでもなく、どのような仕事でも大切になるスキルです。
教育的eスポーツで培ったコミュニケーション能力や創造力を生かして、企業にインターンシップしているDJさんは、「自分のキャリアに直結する、関心のある分野を発見するきっかけになった」と、eスポーツコースを振り返ります。12年生(高校3年生)のセリーヌさんは「精神的につらい時期にゲームに助けられたから、プログラミングや心理学を学び、心理学的なゲームをデザインしたい」と話していました。教育的eスポーツが、高校生のうちから将来のことについて考え、さらには行動するというきっかけになっているのです。
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また、ここにアメリカと日本の高校の仕組みの違いも垣間見えました。日本の高校では受験対策の勉強を優先しがちですが、アメリカでは高校からすでに将来のキャリア形成について考え始めます。「自分は社会のなかでなにができるようになるのか」「何のために生きるのか」といった部分まで掘り下げます。こうしたトレーニングを、若者が情熱を傾けるeスポーツをつかって実践しようというのが、教育的eスポーツです。
ただ、教育的eスポーツには課題もあります。ゲームはただの遊びと考える両親による反対です。生徒が入りたいのに両親が反対する場合、PK氏は両親にこう説明します。「ゲームはただの手段です。eスポーツコースはゲーマーの居場所というだけ。子どもに挑戦するチャンスを与えましょう」。
ゲームをプレーするにあたって守るべき「ゲーム憲章」も生徒の手によって作ります。eスポーツ組織における役割や、責任の所在を明らかにするものです。それを両親に見せ納得してもらうことで、生徒は次のステップに進むことができるようになります。
導入1年で成果
次に訪れたLittle Mill Middle School(中学校)は、行政から支援を得てeスポーツクラブ(eスポーツラボ)を創設することができた学校です。
eスポーツ用の高性能なゲーミングPCや周辺機器は高価なので、設備がない学校にeスポーツクラブを設置するのは難しいことです。しかし、「コミュニティを豊かにしたい」という行政の意向が、ゲーマーのコミュニティを形成・成長させることができるeスポーツクラブの特徴と合致したことで、Little Millではeスポーツクラブの創設に向けて行政の支援を受けることができました。
支援金をもとに高速インターネット回線や高性能PCをそろえてクラブを創設してから1年。クラブメンバーたちは「肉体的な有利不利が少ないので誰でも気軽に参加できる」「楽しめるコミュニティができた」「遠くにいてもつながることができる」と、コミュニティを形成し居場所をつくることができています。約1年で行政が期待した成果を残すことができたということです。
部活の時間は、基本的に学校が始まる前の7時半?8時半。日本ではゲームのやりすぎで夜更かしをしてしまい、朝起きられないゲーマーが多数を占めますが、Little Millではそうした心配がありません。将来的には、クラブのなかで生徒に広報やアナリストといった役割をあたえることでキャリア形成の準備をしていく計画とのことです。
eスポーツで地域の活性化
最後に訪れたのは日本でいう公営のカルチャーセンター。地域の人たちが運動やレクリエーションのために集まる施設です。ここのeスポーツエリアは、7台のゲーミングPCを揃えるほか、XboxやPS5も備えています。コロナ禍で希薄になった地域のつながりを戻したい行政が、eスポーツが地域のゲーマーコミュニティを活性化させると期待して投資した例です。
若者だけでなく、子どもからシニアまで、講習を開いて初めてeスポーツに触れる人を迎え入れたり、イベントを開催してコミュニティの輪を広げたりと、幅広い利用を想定しています。なかでも教育の面から注目したいのは、近隣の設備が整えられない学校に、eスポーツクラブの活動場所として貸し出していることです。行政はすべての学校を支援できるわけではないので、支援を受けるのが難しい学校が教育的eスポーツに取り組む大切な場所としての役割も担っています。
大切なのは“ハッスル”
この日、訪問した3カ所にはある共通点があります。それは、すべての設備・施設をPK氏が管轄しているということです。最初は地域への愛からボランティアでeスポーツコミュニティを作り始めましたが、その活躍を知った群の行政がPK氏を雇用。行政がかかわるeスポーツ施設はPK氏が管轄することになりました。
PK氏は、「eスポーツコミュニティを成功させるために必要なのは、リーダーシップと、ゲームをやりたい人たち。特に、リーダーには、行政を説得するための強いハートと、ハッスル(=ハッタリ)が求められます。お金がもらえるからやるのではなく、コミュニティにいるゲーマーが楽しそうな姿をみて嬉しい、といった気持ちで続けられるかどうか命運を分けます」と話します。
似た例としては、日本の高校でも、やる気のある生徒が先生や学校を相手に交渉を重ねてeスポーツ部を立ち上げることがあります。その生徒が在籍中は問題ないのですが、やる気のある生徒が卒業すると、途端に部活動が沈静化してしまうことがあります。
そうならないためにも、PK氏は後継者を育成しているところです。その場限りで終わってしまっては、コミュニティ・居場所がなくなってしまうばかりではなく、投資した意味も失ってしまいます。教育的eスポーツも各地に広げるだけではなく、広がったその場で継続できる体制を作っていくことが大切なミッションになっています。
■関連記事
■外部リンク
Forsyth Virtual Academy
https://www.forsyth.k12.ga.us/Page/52006
Little Mill Middle School
https://www.forsyth.k12.ga.us/lmms
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