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2024.11.21

「eスポーツの弁護士」が語る大会・イベントを開く際の法律的な注意点とは?松本祐輝弁護士に聞いてみた!

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 文化祭や新入生歓迎会などで、eスポーツイベントを生徒や学生自ら主催するケースが増えています。しかし、これからイベントを企画したいという人にとっては、何に注意したらよいのか、いまいち想像がつかないことでしょう。特に法律面ともなると、一歩間違えると取り返しのつかないことになってしまいます。そこで今回は、eスポーツ・ゲーム業界を法律の面から支えている弁護士の松本祐輝さんに、大会やイベントを開く上で注意すべきことを解説してもらいました。

Profile

松本 祐輝 / Yuki Matsumoto
 1992年生まれ。大阪府出身。2014年東京大学法学部卒業、同年 司法試験合格。2016年に西村あさひ法律事務所に入所し、現在に至る。eスポーツチームや業界団体の顧問弁護士を務めるなど、所内ではゲーム・eスポーツ関係の案件を中心に手掛ける。最近ハマったゲームは「ユニコーン オーバーロード」。

許諾を取るのが大前提 イベントを始めるにあたり注意したいこと

──初めに注意しておきたいのはどんなところでしょうか。

松本さん(以下敬称略) 基本中の基本ですが「まずはゲーム会社さんに許可を取りましょう」というのは必ず言っていますね。

まずは必ずゲーム会社から許諾を取る

松本 実は、私も最近、学生さんからXやDiscord上でイベント開催の相談を受けることが多くなっていまして、その時の第一声もこれです。

──やはり、そういう問い合わせが多くなってるんですか。

松本 そうですね。数年前と比べると、例えばスマブラで大会を開きたいという要望はかなり増えているなという印象を持っています。

どんなイベントなのかを整理 逆にゲーム会社がサポートしてくれる可能性も

松本 で、次に尋ねるのが「どんなイベント、大会なのか」です。すると、「オフラインの場でプロジェクターを使って観客に見せる」。そういった回答を多くいただきます。

 つまり、人前でプレーしたゲームを上映したり、多くの人を集めて大会をしたりと、観客を集めるということです。こうしたイベントを開くにはゲーム会社、ないしはそのゲームタイトルの権利者にまず許可を取る必要があります。これは著作権に関わるところですね。

──確かに「著作権」に関わるなら無許可ではいけませんよね。

松本 はい。ただ最近はご存じの通り、大会を主催することに対していちいち許可を取らなくても良いように、ゲーム会社が「ガイドライン」を出しています。

 さらに、問い合わせてくれれば許可を出すという会社もあれば、中には、必要ならば賞品やグッズ提供などのサポートまでしますっていうところまであったりするんですよ。この点については、もしかするとイベント開催の助けになるかもしれません。各自しっかりと調べて、問い合わせることをオススメします。

迷っているならガイドラインや開催実績多いものを選ぶのも近道

松本 逆に何から始めたら良いか迷っているなら、既にガイドラインを設けているタイトルを選ぶという方法もあります。

──それはどういうことでしょうか。

松本 極端な話、ガイドラインのないマイナーなタイトルでイベントを開くのは大変です。イベント初心者にとっては、すでにある程度の条件が明確に示されているものを選ぶ方が、開催ハードルが低くなるはずです。

 大会がよく行われているタイトルにはガイドラインが充実しているものが多い。どれにするか迷っているなら、そうした作品を選ぶことも頭に入れておきましょう。

賭博になってしまうことも!? 賞金や賞品を出すときに注意したいこと

──「ゲーム会社から賞品提供」なんてお話が今出ましたけど、賞品や賞金が関わってくると、またいろいろと注意すべきことが増えそうですね。

松本 確かに気になるところですよね。実は、賞品・賞金は法律的に大きく制限されることは基本的にないと考えて良いです。

法的に問題ないがガイドラインで条件示される場合も

松本 ただ、注意したいのは先ほども言ったゲーム会社の「ガイドライン」。ユーザーが行う大会でわざわざ「賞金は出さないでね」とか「金額は○○円まで」と具体的に明言されていることもありますので、よく読みこんでおきましょう。

集めたお金を賞金にすると賭博となる可能性も スポンサーが資金提供ならセーフ

松本 あとは賞品ではなく、参加者からお金をもらうパターンがありますよね。

──よく見ますね。「施設利用料として」とか。

松本 おっしゃる通り、会場を借りないといけないから一人500円負担してもらおう、という場合もありますし、観客から観覧料を取ろう、ということも考えられますよね。

 大会を、参加料を取ってオフライン会場で行うとき、特に家庭用ゲーム機を使用する場合には、「ゲームセンター営業」に当たるとされてしまい「風営適正化法」の違反となる恐れがあります。

 ですから、参加費の決め方については「大会運営費用÷最大定員」以下に抑える、これを守れば、参加料を取る場合でも、問題なく開催可能とされています。さらに、そこから観覧料やグッズ販売で収益を出すことは問題ないとされています。

 参加費を徴収する大会を適法に運営する方法については日本eスポーツ連合の「JeSU参加料徴収型大会ガイドライン」でも詳しく解説しています。

「JeSU参加料徴収型大会ガイドライン」を制定
~風営適正化法上の「ゲームセンター等営業」に該当しない 参加料徴収型大会の範囲を明確化~

 あと注意しておきたいのは、プレイヤーから参加料を取る場合、その徴収したお金からそのまま賞金を出してしまうと、賭博に該当する可能性がある点です。

──賭博にならないように、ということはできるんですか?

松本 一応、イベントのスポンサーが賞金を出す場合は「セーフ」になります。しかし、学生や生徒による企画だとそれってなかなか難しい。

 学生レベルの大会では、参加料を取った場合は、スポンサーがついていない限りは「賞金を設けない」と割り切った方が安全にイベントを開けるのかな、というのが法律家としての見解です。

賞品もやっぱりガイドラインを要確認! SNKなど手厚いサポートする会社もある


──賞品はどうなんですか?

松本 賞品に関してもほぼ同じです。主催者が元々所持していたものを提供する、ぐらいであれば実際に広く行われてきたことですし、おそらく問題ないかと思いますが、そこはやはり権利者であるゲーム会社の見解を確認するべきです。

──やはりガイドライン準拠なんですね。でもゲーム会社からサポートを受けられる場合もあるんですよね?

松本 はい。私が知る限りだと「THE KING OF FIGHTERS」シリーズなどで有名なSNKさんは、イベント主催者向けのサポートプログラムを用意しています。イベントの内容や規模によってグッズを提供してくれるのですが、ここはおそらく日本のゲーム会社の中では一番支援が手厚いのではないでしょうか。

SNKのサポートプログラム(SNKホームページから引用)


 こういった企業がもっと増えてくれると、誰でもイベントを開きやすくなり、eスポーツ業界もさらに盛り上がりそうではあるんですけどね。

インフルエンサーやプロ選手を呼びたい!有名人を出演させるときに注意すること

──イベントではゲストとして有名人を呼ぶこともあるかと思いますが、その点についてはどうでしょうか。

松本 私がよく相談を受ける大学生主催のイベントだと、インフルエンサーを呼んで、ゲームをプレーしてもらうケースがよくあります。お金を払い出演してもらう。この点は特に問題ありません。

出演料で人を呼ぶなら問題なし 各社NG、推したい有名人がいることも

松本 ただ、「誰を呼ぶか」という点ではちょっと立ち止まってみる必要があります。ゲーム会社によっては「こういう人には出演してほしくない」という人もいる可能性があります。逆に、イベントに喜んで参加してくれる選手を紹介してくれることもあるでしょう。

勇気を出して相談してみる、というのも一つの方法

松本 あらかじめ許諾を取るときに、どんな人を呼びたいのか、イベント内容などを事細かに説明する。そうすれば、ゲーム会社側もサポートしやすくなります。

 何より、彼らもイベントを開く生徒や学生たちを支援したいと考えているでしょうから、まずは勇気を出して相談してみる、というのも一つの方法です。

企業や団体と協力するなら? 業種などを確認すること スポンサーであることもはっきりさせておく

──スポンサーについてもお話しいただきましたが、もしかすると企業や団体と協力する可能性もあるかもしれません。そういう時には何に注意すべきですか。

松本 最近よく議論になっているのは、いわゆる「ステマ規制」です。「ステルスマーケティング(ステマ)を規制する景品表示法に基づく法制度」、いわゆるステマ法が施行され、広告であることを隠して宣伝する行為は法的に禁止されるようになりました。

 ですから、イベントスポンサーとして入るときに、企業側は必ずスポンサーであることを明示、明言しないといけないわけです。ただ、どのイベントを見てもこのあたりは、しっかり守られているので大きな問題になることは少ないかなと思っています。

 もし注意するとしたら、特定の業種がスポンサーだとゲーム会社が開催を許可できなくなることです。

 お酒やタバコの企業がダメ、そのゲーム会社の競合に当たる会社がスポンサーとなるのもダメ。このあたりは想像がつきますよね。そして金融会社の中でも暗号資産系や仮想通貨といった「Web3.0」系と言われるものはNGとされることもまだ多いです。ゲーム会社の「ガイドライン」に、どういった企業がNGなのか、明記されていることもありますよ。

イベントの名前はどう決める? 商標となっているゲームタイトルは使えない

──ほかに見落としやすいポイントってありますか?

松本 結構忘れがちなんですけど、イベントや大会の名前には注意した方が良いです。印刷物にしてしまうと取り返しが付きませんからね。

──名前ですか?

松本 例えば、オーバーウォッチ2で有名なBlizzard Entertainmentさんは、コミュニティ大会を開催する時、公式大会と区別できるよう「コミュニティ」という単語を入れないといけないと決めています。任天堂さんも、「大会名に商標は入れられません」とガイドラインに明記しています。

──するとスマブラの大会って一目瞭然ですね。

松本 対戦会は「○○ブラ」や「○○スマ」という名前が多いですよね。実はこれは、ガイドラインに準拠した命名方法だったわけです。

どこに問い合わせたらいいかわからない?コミュニティイベント主催者に思い切って声をかけてみる!

松本 ここまでお話ししましたが、ゲーム会社のサポートが得られにくい、どこに問い合わせれば良いかわからない、というケースも当然あるでしょう。

──そういう場合はどうすればいいんですか?

松本 理想は、そのタイトルのコミュニティで大きなイベントを開いている主催者や、経験のある人に相談することです。勝手に具体名をあげてしまいますが、スマブラだったらアユハさん、ストリートファイターならかげっちさん、各タイトルで著名な方はいらっしゃると思いますので、教えを乞うのも良いと思います。ちなみに今挙げた2人は、とても親身に対応してくれる優しい方々ですよ。

アユハさん


【アユハさんへのインタビュー記事】

「あなたは『やってきたこと』に“意味”を見出せますか」配信技研 取締役 アユハさんに聞く学生時代とキャリア

イベントを楽しむかげっちさん


【かげっちさんへのインタビュー記事】

Fighters Crossover主催運営かげっちさんに聞く「大会開催の心得」

 それと、注意したいのは炎上対策、ですかね。

──最近はそういうのが多そうですね。

松本 イベントの運営では、法律面で注意することはもちろんなんですが、例えば、大会の中で不正が行われたり、イベントの内容自体で批判を受けるということは確かに多いです。

 ここについても、コミュニティの方々は非常に詳しいでしょうから、大会を開く際に、どこを注意したらよいのか、事前に聞いてみてもいいかなと思います。

──今回はありがとうございました!


 なお、今回の内容については、松本さんも監修に加わった日本eスポーツ連合「法令をよく知ってeスポーツを楽しもう!かんたんeスポーツマニュアル」でも解説しています。こちらも確認して、eスポーツイベントや大会の企画に挑戦してみましょう!

法令をよく知ってeスポーツを楽しもう!かんたんeスポーツマニュアル(日本eスポーツ連合)

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外部リンク

西村あさひ法律事務所
https://www.nishimura.com/ja

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