インタビュー

2024.03.14

古厩監督がeスポーツ映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』で描きたかったこと

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 3月8日に全国公開となった『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』。なぜここまで「攻撃力の高い」青春映画が生まれたのか。

・いきなり核心に迫る冒頭のシーン
・青春モノとしては異常なほどの社会批評性
・見えないもの(距離感、空気)を描くことへの挑戦

 青春モノ映画の固定概念を打ち破り、eスポーツ世代特有の「距離感、空気」を描くことに成功した、古厩智之監督にインタビューをしました。

取材・文/小川 翔太

『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』の古厩智之監督

最初の感想は「身も蓋もない」

──映画を見て驚きました。監督含めた制作スタッフの「今っぽい感覚」や「eスポーツ」への理解度が非常に高い作品だと感じました。特にeスポーツの運営側が「最初はeスポーツへの理解度が低く、熱量が高くない状態で大会運営を始めた」のに「段々と熱量が高くなっていくような描写」が特にリアルです。

古厩智之監督(以下、敬称略) そう言っていただけるのが嬉しいです。私たちも最初は「eスポーツや登場人物達をリアルに描写する方法」が分からず試行錯誤をしました。


──この作品を制作するにあたって、どのような取材を行ったのでしょうか。

古厩 映画の舞台となった阿南工業高等専門学校の学生さんへの取材は勿論のこと、eスポーツ大会を運営した方々にも話を聞きました。おっしゃる通り、運営側の方々も大会を始めた当初は、そこまでeスポーツに対する理解度が高い状態ではない様子でした。

 運営の方々に「どうしてタイトルを『ロケットリーグ』にしたんですか?」と訊いてみたら(劇中の描写と同じく)「3人組なのでチームを組みやすく、人も死なない」と返答がきて「(え?それだけ?)これは身も蓋もないな」と感じました(笑)。

 私はeスポーツがほかのスポーツと大きく違う点が「試合の内外問わず、コミュニケーションがメインになる点」だと考えました。運営側もeスポーツ大会の運営に関わるうちに、その魅力に気づいていくと考えたので、その描写を入れました。

──ここでのコミュニケーションとは、ゲーム中のボイスチャットのことでしょうか。

古厩 ゲーム中のボイスチャットもそうですし、ゲーム外でDiscordを繋げて「コミュニケーションをするための土台」をつくることもそうです。若い世代は無意識でそうやっているのかもしれませんが、それをしなければ成り立たないのがeスポーツだと感じました。

 例えば、サッカーだとそういったコミュニケーションは必ずしも必要ではなく、試合開始前に「球の取り合いをしよう」で成り立ってしまう。一方、eスポーツは、自分の感覚や自分がやろうとしていることを、適切に「共有する」のが肝となっているので、それが面白いところだと思います。

eスポーツを題材にした映画ならではの独特なシーン

──『ロボコン(2003年)』『のぼる小寺さん(2020年)』など、監督は多くの青春×マイナースポーツを題材とした映画を撮られていますが、今回は「青春×eスポーツ」の映画です。eスポーツを題材とした映画ならではのシーンを挙げるとしたらどこでしょうか。

古厩 素人っぽくて申し訳ないのですが、僕は最初「gg」というスラングの意味が分らなかったんです。後に「対戦相手を賞賛するコミュニケーション」(Good gameの略)だというのを知り、とても素晴らしい文化だと感じたので劇中に取り入れました。

 (試合直後に対戦相手を称えるのは)日本の国技では珍しいコミュニケーションです。相撲の試合とかでも、勝敗がついてもお互いに静かで、相手を称えて拍手をすることもない。

 試合後の「gg」というスラングは、(eスポーツをしている)当人たちにとっては当たり前の文化であって、そこまで意識しているものではないかもしれませんが、私にとってはすごく良い文化に映りました。

──「今っぽい感覚」を描くことがテーマにあったと伺いましたが、どのように描写しようと心がけましたか。

古厩 「普段、SNSやeスポーツで仲良くしている知り合いと、リアルやプライベートで会うと避けちゃうよね」みたいなのは私も共感するので、そういった距離感を取り入れました。

──意識して取り入れたシーンはありますか。

古厩 例えば、夜に3人で練習しているシーンにおける、練習中は和気あいあいと会話をしているのに、練習を終えてゲームから抜けるときは「ピローン」と素っ気なくログアウトするシーンがまさにそうですね。普通なら練習後に10分ぐらい雑談をしそうなものだけど、それすらなくお互いが日常に戻っていく。

Discordっぽい音は、わざわざ作った

──あくまでチームメンバーであって、お互いにプライベートには干渉しないというのが、「割り切っている関係」と言いますか、独特の距離感なんですね。

古厩 そうなんです。ちなみにこのシーンのボイスチャットの接続が切れるときの「ピローン」という音には拘りました。とあるプロゲーマーさんから「ゲーマーにとって、あの音は重要なんです。Discordのあの退出時の効果音を聴くと、なんか寂しい気持ちになる。絶対にこの効果音は劇中で使ってください!」と言われて(笑)。

 ただ、Dicordの音自体は使用許可が降りなかったので、Discordに似た音を作りました(笑)。

 ちなみに「この距離感を全面的に押し出そう」と判断したのは、モデルとなった3人の学生から、あるエピソードを聞いたときです。

 彼らは劇中と同様に、全国大会のために東京に出てくるのですが、その日は解散して別行動することになったらしいんです。ところが偶然、すぐに秋葉原でばったり会うんです。でもせっかく会ったのに挨拶をすることもなく、そのまま別行動を継続。私もこの話には「なんじゃそりゃ(笑)」と驚きましたが、少し気持ちが分かる気がしたんです。

──「今っぽい感覚」とは言いつつも、監督ご自身の感覚と重なる部分もあったのでしょうか。

古厩 そうですね。私も暑苦しい関係性は苦手でして(笑)。適度な距離を保ちたいタイプなので、共感する部分もありました。


──主人公たち3人が屋上で初めて全員と顔を合わせるシーンが印象的でした。監督の持ち味である、長回しによる「独特な間」が炸裂しており、「今っぽい感覚の距離感」を表現する点において、とても効果的な演出だった思うのですが、あの間にはどのような意図がありましたか。

 あのシーンは、今の若い子たちのノリをきちんと描きたいと思っていました。しかしながら、私ももうおじさんです。私が「こういう演技をしてほしい」とお芝居に口を出してしまうと、おっさん風味になってしまうと思い、(登場人物と年齢が近い)演者さんたちにお任せしました。

──全体的に青春映画特有の「説教臭さ」がなくて、観ていて気持ちいいと感じました。今っぽい感覚の青春を描くうえで「やっちゃいけない」と監督が思っていることはありますか。

古厩 私にも中学3年生の子どもがいるのですが、当時小学6年生の時に「『Fortnite』をやりたい」と言われて、いざネットで調べたら「Fortnite いじめ」というのが出てきたので、子どもに遊ばせなかったんです。

 でもよく考えてみたら(ゲームの世界だけでなく)現実でもいじめはあるんですよね。その時の(親の考えを子どもに押し付けてしまった)私自身の反省もこめて、この映画には説教臭いことは取り入れたくないなと思いました。

なぜここまで「攻撃力の高い」青春映画が生まれたのか

──いまや青春映画の巨匠と言われている監督ですが、冒頭シーンのトラック中での、父親の「勝つか負けるしかないんだよ」という台詞で、いきなりタイトル回収への伏線を張ったり、親と子どもの関係を徹底的に描いて社会性を取り入れたりと、この作品には従来の青春モノにはない斬新さがありました。

古厩 実話を元にしているので、作中の試合結果を大きく変えることはできません。なので実話に沿った結末をゴールとしつつ「何をテーマに持ってくるか」と考えたときに最初のシーンを描こうと決めました。

──『のぼる小寺さん(2020年)』では、親が一切出てこずに徹底的に若者同士の関係性にフォーカスが当たっていましたが、この作品はその真逆で、親と子の関係性が徹底的に描かれていますね。

古厩 劇中の主人公たちのモデルとなった3人も、実際に劇中の家庭環境と似たような環境で育ってきているので、映画でもリアルに近い環境にしました。

──主人公たちは周囲の大人に対して、ある種の「諦め」を抱いているようにも思えました。こういった描き方になっているのは、監督自身の背景も影響しているのでしょうか。

古厩 私の父親は田舎の市役所のおじさんでした。『日本野鳥の会』の会員なのでずっと鳥を見ているんです。鳥は大好きなのですが、どうやら人が怖いらしくて、家の呼び鈴が鳴っても出ないし、人と道ですれ違っても避けるような人でした。

 そんな父を見て当時は「こんな大人にはならないぞ」と思っていましたが、今になると父の気持ちはわかる気がします(笑)。あと同時に「子どもが何をやっても、周囲の大人は変わらない」と私自身諦めていたんです。

 私自身(子どもの価値観に影響されて)「大人が変わる映画」はどこか嘘くさいと感じているところがあるのですが、それはそういった当時の経験によって「リアリティの基準」が造られたのが影響しているのだと思います。

「くちゃくちゃ食べる」は奥さんのアイデア?

──個人的にすごく好きなシーンがありまして。家族でピザを食べているシーンでお父さんが唐揚げを千切ってご飯にかけた上にお茶をかけて、さらにはそれを大きな咀嚼音を立てて食べることで不快感を演出する描写が見事だったと思いました。あれは監督が考えたのでしょうか。

古厩 「汚い食べ方をする」というところまでは考えていて、具体的にどう落とし込むか考えていただときに、妻が「ご飯に唐揚げを乗せてお茶をかけたら?」と言ったんです。

 私も「よくそんな気持ち悪いことを思いつくね」って妻に言いました(笑)。(不快感を描けるのであれば)これでいいかなと思ってやったのですが、やっぱりアレは最悪な食べ方ですね(笑)。

──このような露悪的な描写は過去の監督作ではあまり見られなかったと思いますが、この作品を通して監督の中で気づきがあったのでしょうか。

古厩 田中達郎(※劇中の主人公)のモデルになった学生さんの話を聞いていると、母親に対する愛情は感じるのですが父親については「お酒ばかり飲んで寝ている」や「煙草ばかり吸っている」くらいしか話をしようとしませんでした。

 そんな父親に対する「見え方」が、当時の自分にもあったのを思い出して、重ね合わせてしまいましたね。

 また劇中、eスポーツを競技としてやることで彼らの世界は大きく広がりますが「彼らをとりまく環境は本質的には変わらない」ということを描写しなきゃいけないと思いました。

 私はHIPHOPやスケボーが出てくるストリート系の映画が好きで、そういう作品に出てくる登場人物は大体ひどい家庭環境の中で育っているんです。

 みんな酷い状況だからこそ「HIPHOPやスケボーに意味がある」という構成になっていることが多いんですよね。今回はそれを「eスポーツで描かなければならない」と感じました。

「親が酷い」というよりも「親が疲れ切っている」

──とはいえ、この劇中の親は完全な毒親として描かれているわけではなく、それぞれの親が「自分なりに一生懸命に生きてきたが、それでも抗えないことがある」というのを感じられました。これは意識されてのことでしょうか。

古厩 この映画では「親が酷い」というよりも「親が疲れ切っている」のを描くようにしました。完全なる毒親にしてしまうと、親と子どもが敵対するだけの話になってしまうので、塩梅に気をつけました。

──eスポーツ世代と親世代で見え方が変わりそうです。

古厩 私は子どもに「絶対に『Fortnite』はやらせない」とか言ってしまいましたが、今では『バイオハザード』を一緒にプレーすることもあり、息子が可愛くてしょうがないところもあります。

 一方で、私の実感としては、大人は「子どもが生意気」だと腹を立ててしまうんです。

──家族のピザのシーンでの、父の食べ方に対する、主人公の態度はまさにそうですね。直接、食べ方について指摘すれば、まだマシなものの、主人公が無言で明らかに白い目で見ているから、父も激昂してしまう。

古厩 そうなんですよね。「なんなんだお前!」って(笑)。

 この映画で描きたかったのは「みんな蛸壺の中にいる」という事だったのかもしれません。子どもが蛸壺の中にいるときは、親も蛸壺の中にいるんじゃないかなと。

 蛸壺の中にいること自体は良いことではないのですが、それを否定したところで仕方がありません。蛸壺に居ながらも、たまにはHIPHOPやスケボー、eスポーツで一瞬だけでも他者と繋がることができる、というところに素晴らしさがあると思います。

eスポーツを頑張る学生にメッセージ

──最後に、自分の好きなものに対して熱中している学生さんたちに勇気を与えるようなメッセージをいただきたいです。eスポーツは世間的に認められてきたものの、一般的な部活動とは差があり、学生たちがeスポーツに打ち込むとなると、後ろ指を刺されながらになることも多いのが現状です。監督も学生時代は世間と馴染めず苦労されたと伺っています。当時の監督のように、世間とのギャップを感じつつも頑張る学生さんに向けてお願いします。

古厩 中学生時代の私は先生に目をつけられてしまい、暴力を受けていました。「学校がつらい」とは思いつつも逃げられない毎日を過ごしていました。

 当時は親友もおらず、夢中になれることもなかったのですが、そんな私にとって映画館は大切な場所でした。600円あれば行ける、映画館はある種の逃げ場所だったんです。映画館を出たら、いつもの息苦しい世界が待っていたのですが、映画館にいる間だけは「無防備な自分」でいられました。

 eスポーツをやっている方々は周りの大人から「そんなことをやって!」と言われるかもしれませんが、(私にとっての映画がそうであったように)そのような大人の目が届かない世界の方がいい場所であると思います。

 逃げ込んでいるときこそ、自分自身について考えることができ、自分自身の“核”を醸成していける時間なので、一見、生産性はないように見えるかもしれませんが、長い人生のスパンで考えると何よりも大切な時間を送っているんです。

 とはいえ(何をやっているか分からない子どもに対して)親御さんが心配になって厳しい声をかけるのは仕方がないので、声を大にしては言えませんが「自分自身の“核”を造っている時間」だと考えて、どんどん自分の世界に逃げ込んでほしいと思います。

 自分の居心地の良い場所を見つけて、そこで何かを徹底的に継続したら、長期的には素晴らしい結果が待っているでしょう。

■古厩智之 プロフィール
1968年長野県生まれ。『この窓は君のもの』(1995)でデビュー。同作で日本映画監督協会新人賞を受賞。『まぶだち』(2001)でロッテルダム映画祭グランプリ。『ロボコン』(2003)で日本アカデミー賞優秀脚本賞。『さよならみどりちゃん』(2005)でナント三大陸映画祭銀の気球賞。『奈緒子』(2008)。『ホームレス中学生』(2008)。『武士道シックスティーン』(2010)。『    サクランボの恋』(2018)。『のぼる小寺さん』(2020)などを監督。

引用:https://www.kyoto-art.ac.jp/info/teacher/detail/20177

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外部リンク

映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』公式サイト
https://happinet-phantom.com/play/

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