インタビュー
2024.03.21
不登校を乗り越えゲームで大学特待合格、eスポーツ部で得たかけがえのない経験
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山口県下関市小月茶屋にある下関学院 立修館高等専修学校の生徒が、ゲームで進路を切り開きました。同校のeスポーツ部は世界68カ国1152チームが参加する国際大会「NASEF FarmCraft2022」で、日本からは初参加でありながら3位と4位に入賞。その後は部長を務め、30人以上の部員をまとめました。春からは千葉県の開智国際大学に、eスポーツ部枠の特待生として通います。一体、どのような人物なのか、取材してきました。
eスポーツ部の活動を通して大きく成長
同校が好成績を残したNASEF FarmCraft2022とは、NASEFと米国国務省が中心となって実施した、教育版マインクラフトをベースにした農業シミュレーターを使ったコンテストです。参加者はゲームの中で、収益性に優れて環境にやさしい“最高の農地”づくりを目指します。途中で発生する虫害や天候変化といったさまざまなシチュエーションに対応しながら約3カ月間プレーし成果を出すとともに、どのような施策を行ったのかをまとめ、最後に英語で発表します。
立修館の卒業後、今春から開智国際大学に特待生として通うことになった伊織百樺さんも、FarmCraftの取り組みに参加しました。「別のコンテストで入賞を逃したリベンジとしてチャレンジしました。軽い気持ちで参加しましたが、FarmCraftはゲーム内もコンテストの説明もすべて英語だったので、初めは内容を理解するのも大変でした。農業についても知らないことばかりでした」と、さまざまな苦労があったと話します。そうした課題をチームワークと試行錯誤で乗り越えて、世界上位に入賞するという輝かしい結果を残しました。
開智国際大学は、2024年度から「強化部活動」による特待制度の対象にeスポーツ部を追加しました。同大学はICT教育に力を入れており、PCや周辺機器を取り扱うeスポーツは、ICT教育への入り口に適していると着目。興味関心を持つきっかけは多い方がいい、という方針のもと、近年のeスポーツ人気や話題性を考慮して追加を決定したといいます。
百樺さんとeスポーツ部顧問の板垣聡美先生は、開智国際大学から届いたeスポーツ特待設置の知らせを受けて、すぐに大学に連絡を取り、直近のオープンキャンパスに参加。その場で、これまでの活動内容や頑張ったこと、大学に入ってやってみたいことを説明しました。その後、小論文、英文読解、論述問題の三つの試験を経て見事に合格。結果は上から2番目のS2特待でした。強化部活動による特待制度は、本来であればS3までしかありませんが、特別枠として繰り上げられた形です。通常、4年間で417万円負担のところが130万円になるという破格の待遇。差額の287万円という金額に、百樺さんへの期待がうかがえます。
百樺さんを女手一つで支えてきた母 伊織奈々さんは、「(百樺さんは)中学の頃、人との接し方が分からなくなって、不登校になった時期がありました。多感な時期だからこそ、教室の空気や学校の方針など、敏感に合うあわないが出るのだと思います。私も一緒に悩んで、学校を変えたこともあります」と、当時を振り返ります。
立修館に進んだのは「アニメや声優さんが好きで、声優という仕事に興味があり、山口県でも珍しい声優コースがあったから」とのこと。「入学してからは、本人曰く、なり行きでeスポーツ部に入って、いつの間にか部長になってと、いろいろな経験ができたようです。世界大会の結果が注目を集めて、eスポーツ部員が30人ほどに増えたのですが、それを取りまとめる立場を務めた責任感や面倒見の良さは、彼女が持っている資質だと思います。テレビの取材を受けて、堂々と話している姿を見たときには、感動して涙が出てしまいました。大きく成長したと思います」(伊織奈々さん)。
人との接し方に悩んでいた時期からは想像もできない変化ですが、やはり一筋縄にはいきませんでした。奈々さんは「人が増えれば悩みも問題も増えるじゃないですか。それで悩んでいることもありました。抱え込んで、もう辞めたいと言っていた時期もあります。人のことは気にするのに、自分のことには不器用で」と心配しつつ、「だからその分、私がしっかり見て支えようと思い、悩みや自分の気になるところをため込まないように話を聞いたり、人との歩み寄りや妥協について話したりしていました」と、百樺さんに寄り添ってきた時間を懐かしんでいました。
eスポーツ部を通して見つけたもの
百樺さんがeスポーツ部に入ったきっかけは、友人からの声掛けです。「友達に手伝ってほしいと言われて部活に入りました。そのころeスポーツやゲームについてはほとんど知らず、マネージャーの友達をサポートするつもりで入ったのですが、いつの間にかFarmCraftをやったり、みんなのプレー環境を整備したり、ルールを作成したりと、自分もマネージャーのような立場になっていました」。
そうした活動のなかで百樺さんは多くの発見をしました。「部活に参加するなかでいろいろ考えすぎてしまい、泣いてしまうこともありました。でも、たくさん悩んだからこそ前向きに考えようという気持ちになることができ、以前よりも内面的に強くなれた気がします。そして、部活で後輩と接するようになって、物事を誰かに教えることの楽しさに気が付き、教師になりたいという夢を見つけることもできました」。
将来は、介護施設や教育現場はもちろん、ほかにもさまざまな分野でeスポーツ自体やそれに関わる人材が活躍できることを周知していきたいと話します。「eスポーツがもっといろいろな人に認められ、サッカーや野球のように世代を問わず、見ている人が盛り上がるような、そんな競技として広まっていけばいいなと思います」。
春から百樺さんは1人で遠く離れた千葉で生活することになります。奈々さんは、「会えなくなるのは心配だから目の届くところにいてほしいと思うこともある」と言いつつも、「県外に行く、いいきっかけがもらえました。百聞は一見にしかずとも言いますし、場所を変えてeスポーツに関わって、生き方とか考え方を学んで、視野を広げて、いろいろなものに参加することで自分を磨いてほしいです。悩むこともあると思いますが、それだけ真剣であることの裏返しなので、教師になるという目標をつかみ取ってほしいと思います」と、激励しました。
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外部リンク
立修館高等専修学校
http://www.shimonosekigakuin.ac.jp/s_risshukan/
NASEF JAPAN
https://nasef.jp/
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