インタビュー

2024.07.26

高校eスポーツにスポットライトを! 第2回全高eプロデューサーに聞く、選手が悔いを残さない運営へのこだわり

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 第2回「NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権」(全高e)のエントリーがスタートしました。「フォートナイト」「リーグ・オブ・レジェンド」「VALORANT」「Apex Legends」「ストリートファイター 6」の五つの競技で、日本最高の高校eスポーツチームを決める今大会。企画・運営を担当する二人のプロデューサーに、大会にかける想いとこだわりを聞きました。

取材・文/南雲 亮平

大会プロデューサーの岡田勇樹さん(左)と
苦瀬博之さん

第2回「NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権」プロデューサー


岡田勇樹さん(以下、敬称略) 物心ついた頃からゲームに親しみ、最盛期は日本のFPSトップ層と渡り合ったことのある実力者。1対1のFPSゲームでは、大会優勝経験も。大会やイベントの企画・運営を担当。


苦瀬博之さん(以下、敬称略) ゲームからリアルサッカーに興味を持ち、学生時代は二刀流で活躍。現在はどんなに忙しくても、毎日夫婦で「ポケモンユナイト」をプレーする。大会やイベントの企画・運営を担当。

「NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権」とは

── NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権はどんな大会なんでしょうか。

岡田 高校生の輝かしい青春の1ページになることを目指すeスポーツ大会です。野球でいえば、いわゆる“甲子園(全国高校野球選手権大会)”のような立ち位置を目指しています。

 同じ高校の中でチームを組んで、大会ホームページのエントリーフォームから申請すれば誰でも参加できます。最初はオンラインの予選から始まるので、交通費などはかかりません。

 ゲームのインストールや起動、操作方法がよくわからないといった場合でも、事務局にメールや電話をいただければ対応いたします。ですので、高校生ならどなたでも、気軽に参加できる大会となっています。

前回大会の様子


── 全国規模の大会となるとハードルが高そうに感じますが、初心者でも大丈夫でしょうか。

岡田 ぜひ、応募していただければと思っています。

 おっしゃる通り、全国規模の大会なので実力の高い学校も出ていますし、ハイレベルな大会にはなると思います。しかし、何事もそうですが、初めての大会でいきなり実力を発揮して勝ち進めるかと言えば、多くの場合そうではありません。本当にセンスがあり、昔から鍛え上げてきたケースは別ですが、多くはないと思います。

 私たちも大会を継続していきたいと考えているので、まずは1年生で出場して感触をつかみ、2年目で雰囲気に慣れて、3年目に集大成を発揮する、といった流れも考えられます。過去、競技者として活動していた私自身も、とにかく出場できる大会には出場し、努力の結果が試される緊張感や決まった時間に対戦する心構えなどを可能な限り経験しておいた方が、さまざまな場面で実力を発揮しやすくなると考えています。

── サポート体制も整っているということなので、未経験者が出場するにはピッタリの大会と言えそうですね。

岡田 もちろん、長年eスポーツに打ち込んできた人にも目標にしていただける大会になっています。目標がない活動はどうしてもだらだらとした活動になってしまいがちなので、練習した成果を発揮する場所はとても大切です。「今日は2勝できたね。よかったね」で終わってしまったら、それは楽しい時間ではありますが、勝つために考えて努力する“競技” とは異なりますし、競技に取り組むなかでしか経験できないこともあります。

 自分がチームでFPSの競技シーンに臨んでいた時も、大会に向けて戦略を練ったり、大会だからこその奇策を考案したりと、勝つために努力しました。例えば野球でも、普段はバッティング練習をしていても、試合本番ではバントの重要性が増し、できないと困ることがあります。自力を伸ばすだけでなく、勝つために課題を見つけ、解決策を考える。こうした習慣を身に付けることができれば、eスポーツに取り組む時間が、より実りある時間になるはずです。

 先生としても、生徒が活躍する場をつくりたいと考えていらっしゃるかと思いますので、ぜひ目標にしていただきたいです。一部の競技は全国決勝大会を東京で実施しますから、“ゲームで結果を出せば東京に行ける”といった部分もモチベーションにつなげていきたいですね。

選手目線での大会運営に対するこだわりを話す2人


── 未経験のチームでも上手くステップアップできるような仕組みがあると、より大会が盛り上がりそうです。

苦瀬 生徒や顧問の先生自らが手探りで練習環境を構築しているケースも見られますが、まだ少数です。ほかのスポーツが地域でコーチを採用したり、練習試合を行ったりするように、eスポーツでも強くなるための手法をある程度形にしていきたいと考えているので、そういった部分でのサポートは検討しています。

 すでに、オンラインでのコーチの派遣や、部活動の運営サポートといった事業を展開している企業もあります。無料というのは難しいと思いますが、そういったサービスを活用して、初めての方でも、熟練の方でも、サポートできる仕組みを選手権に上手く組み込んで、より多くのチームが高みを目指せる環境を作っていきたいです。

 あとは、eスポーツを家族や学校からもっと応援される活動にしていきたいので、練習や指導の段階からスポットライトが当たるような仕組みも必要だと考えています。ゲームに馴染みのない保護者の方が見たときに、練習しているのか、大会に出ているのか、ただ遊んでいるのかわからない、といった状況では悲しすぎますから。

 本当は予選から全試合の配信もしたいんです。高校野球の地方予選だったら、試合自体は保護者が見に行けるじゃないですか。でも、eスポーツのオンライン予選は配信が無ければ保護者が試合の様子を見られないまま終わります。ルールもわからず、「勝った」「負けた」と子どもに言われても、なかなか応援しにくいと思うので、解決策を探しているところです。

── トレーニングやコーチ派遣については、部活で取り組むのであれば、顧問や担当の先生にとっても重宝するサービスになりそうです。ほかにも、顧問の先生を意識した対応はありますか。

岡田 顧問の先生向けの対応で言えば、大会に関する連絡は必ず選手と顧問の先生の両名にお送りしています。申し込んだ選手だけしか状況がわからないようなことになると、先生も大会なのか練習なのか、わからなくなってしまう可能性があるためです。しっかり情報共有をして、選手たちと先生が一丸となって試合に臨める体制をつくっています。

苦瀬 前大会では、運営の安定感についてはご評価いただいていたので、今大会でもしっかりと力を入れています。初めてeスポーツ大会に挑む学校でも、安心してお気軽にご連絡をいただけると幸いです。初めて出場する大会としてはおすすめです。

今回の全国決勝の舞台は
東京品川プリンスホテル内の会場「Club eX」

先生の声を取り入れた、学校に寄り添った運営

── 前大会では、全国決勝が1月末から2月にかけて行われましたが、今回は12月と、スケジュールが大きく変わりました。しかも、実施の発表は決勝半年前の6月だったので、連絡はずいぶん早い印象です。

苦瀬 大会のスケジュールについては、かなり早めに出そうと意識していました。アンケートなどで先生方とコミュニケーションを取りながら決めています。学校の年間の予定はもう少し早い段階で決まっているので、その時期にできるだけ近いうちに発表することで、学校として参加しやすいようにしました。時期もできるだけ勉学に支障がないよう、例えば決勝大会はギリギリ冬休みを狙っています。

 今回新たに採用したブロック制や競技タイトル、決勝大会の会場についても、前回参加してくださった選手や先生にいただいたアンケートの回答、ご要望を取り入れつつ、全体のバランスを見て慎重に決めています。

新たに設定されたブロック制度


── ブロック制はどういった狙いで導入したのでしょうか。

苦瀬 今回は東・西と、全日・通信で分けました。まず東と西で分けたのは、“地域の代表”といった文脈が生まれてくると、もっと盛り上がると考えたからです。将来的に、可能であれば県代表などが出てくるような仕組みで大会をつくって、その県に住んでいる人に自分事と捉えてもらえれば、より多くの人に熱量を持って応援していただけると思います。そうなれば、地域の商店街や企業が協力しやすくなるかもしれません。そういった流れの先駆けとしてチャレンジしました。

 全日制高校と通信制高校で分ける際もさまざまな観点から検討しました。eスポーツもフィジカルスポーツと同じように、練習に投資できる金額や時間が多ければ多いほど強くなりやすい競技です。それ自体は当たり前のことではありますが、通信制は全日制に比べて練習に費やす時間が多く、練習環境が整っている傾向が顕著にみられます。大会の結果を見ても、全日制と通信制で明らかに大きな差があります。

 本来、強い学校にはシード枠のようなものをつくり、トーナメントはある程度実力の近しいチーム同士の対戦で始まる形が理想です。先ほどお話した通り、ゆくゆくは大会側でサポートしながら練習環境の整備をすすめ、全日制と通信制の差をどんどん縮めていきたいと考えています。実現できれば、最初から同じフィールドで戦うこともできるようになるはずです。

岡田 強いチームが勝つのは当たり前なので、今回の区分はかなり試験的な取り組みでもあります。ただ、より多くの選手にスポットライトを当てるためにも、現段階でレベルが近しいチーム同士の対戦からスタートできるであろう方法として取り入れました。

 ですから今後ずっとこの形というわけではなく、教育課程による区分をなくし、全国各地で予選を行うなど、夏の甲子園のように運営できれば、それがベストだと考えています。

── 区分けが増えれば、例えば「東日本ベスト8」のように、区分けごとに称号も生まれるので、実績として残せるものも増えそうです。あとは競技タイトルを変更、追加した経緯についても教えてください。

岡田 大会が終わったあとも、できれば長く競技に関わっていただきたいという想いから、現時点の日本のeスポーツの盛り上がりを考慮したタイトルに変更しました。

苦瀬 高校生の方々が実際にプレーしているタイトルということも重視しました。人気の度合いや今後の発展性、継続性を見極めて選んでいます。今回は入れ替えが発生しましたが、今後も実情を見て入れ替える可能性もあります。ただ、集中して取り組むことができないのでコロコロ入れ替えるようなことはしません。

岡田 今回、採用を見送りとなった「ロケットリーグ」は、今大会の前身である全国高校eスポーツ選手権から第一回 全日本高校eスポーツ選手権まで計6回続いていたタイトルです。競技タイトルを見直す際、増やす場合は日程も調整する必要があるほか、実際にプレーしている人口なども考慮する必要があります。そうしてほかのタイトルと比較して、外すという結論に至りました。

 ただ、6回も続いているタイトルなので、今回もあると見込んで練習されてきた選手の方々がいることもわかっています。ですから、nhecの主催であるNASEF JAPANは、kokkenさんらが関わっている中高生向けロケットリーグ大会を別途、支援していく計画です。

第2回の競技タイトルは五つ


── 対象年齢17歳以上とされているApexを採用したことも、たいへんなチャレンジだと思いました。対象年齢の課題を、保護者の同意などをもって乗り越える試みは先進的です。高校生に取材すると必ず名前が出てくるタイトルなので、期待も高かったのでは。

岡田 出て来ないわけがないと思うんですよね。先生、生徒から一番声が大きかったです。選手たちが本当にプレーしているeスポーツタイトルを取り入れたいと考え、何とかできないかと採用に至るまでのプロジェクトがスタートしました。

苦瀬 対象年齢があるからと、検討から除外するのはすごく簡単なんですけど、やっぱりプレーしている選手たちのことを考えたうえで、どうしたらできるのかと模索し、いろいろな条件を付けながらなんとかここまできました。

選手が悔いを残さない大会を

── 実情を考慮しながら学校の意見を取り入れることで、参加しやすく、部活としても取り組みやすくなっているわけですね。

岡田 とはいえ、すべての意見を反映しているわけではありません。

 競技シーンの経験がある私自身はもちろん、運営チームも競技シーンを深く理解し、競技者ファーストの姿勢なので、選手が悔いなく大会を終えられることを一番に重視しています。ただ、そうすると、先生の意見とうまく合致しない場面が出てきます。

 例えば、学校の先生からは「活動時間が長くなるので、フォートナイトの予選の試合数を少なくしてほしい」という意見があがっています。現在5試合のところを、3試合、4試合に減らせないか、といったご相談です。

 しかし、選手側からすれば、本番が長ければ長いほど練習の成果を発揮する機会が多くなるわけです。特に1試合に参加する人数が多いバトルロイヤル系のタイトルでは予期せぬ事故が起こりがちなので、ある程度の対戦回数を重ねないと実力を明確にするのが難しいんです。ですから5回からは減らしていません。先生や学校の優先度はかなり高いのですが、選手ファーストで考えたときに譲れない部分もあります。

 ほかにも、VALORANTのマップの決め方も予選は限界があるので難しいので運営側で決めていますが、準決勝、決勝まで運営が選びますとなったら、選手に「公式大会では、お互いのマップのバン/ピックから戦いが始まるのに……」と、がっかりされてしまいます。なので準決勝以降は公式大会と同じく、対戦チーム同士でバン/ピックしていただきます。やっぱり選手のモチベーションは大切なので、公式感が薄れることでやる気を損なわないように意識しています。

── あこがれている大会のような仕組みでできたら、ワクワクしそうです。

苦瀬 公式大会を意識しているのは、運営や演出の部分だけではありません。レギュレーションもかなり厳格に作っていますから、しっかり読んで、破らないようにしてもらいたいと考えています。スポットライトが当たる側であることを意識していただき、相手へのリスペクトや、モラルをもって、マナーをまもって試合に臨んでいただきます。

選手にスポットライトを当てるための
施策についてもさまざま検討しているという

出場だけが華じゃない

── 近ごろは、大会に出場して成績を残すのではなく、大会やイベントを開催することを目的として活動するeスポーツ部もあります。そういった生徒にスポットライトを当てるような企画もありますか。

岡田 第一回でも、実は大学生の方々にボランティアとして広報活動に参加していただきました。その際に、大会の裏側ツアーも実施しています。

 大会への出場だけではない、というお話がでましたが、eスポーツは大会やイベントの企画・開催・運営、実況・解説、動画制作、デザインなどさまざまな仕事で成り立っています。ゲームやeスポーツを入り口に学びの機会を提供したいと考えているNASEF JAPANが主催であるからこそ、学ぶ機会は大切にしたいですね。

苦瀬 高校生しか選手として参加できませんが、卒業後でも違う形でかかわってくれる人たちがいます。それが運営なのか、プロモーションなのか、交流なのか、さまざまな形がありますが、そうするとどんどん関わっていく人が増えて、より良い大会になるはずです。

 そのためにも、具体的な検討はまだできていませんが、裏側ツアーなども実施できればと思います。選手たちみんながプロプレイヤーを目指しているわけではないと思うので、自分の可能性を広げるために、eスポーツを通じて仕事のことを学びたいと考えている人向けの施策として検討しています。まだ、できるのかはわかりませんが、インターンのような形で参加してもらう機会があれば、さらに教育的価値も高まりそうです。

── すでにeスポーツイベントを主催している学校もあるので、即戦力にもなりそうです。

苦瀬 プレーする楽しみだけでなく、プレーしてもらう、人に楽しんでもらうことの喜びを知っている生徒が増えているというのは、素晴らしいことです。社会人の私たちも嬉しいですし、そういった生徒が増えてほしいとも思います。

 eスポーツに取り組んでいる生徒はデジタルの知識も自然と入ってくるので、DX人材にも向いています。PCとモニターをつないで映像を出力する、インターネットに接続する、自分たちのプレー動画を録画してPCで見直す、それを編集して配信するなど、こうしたゲーマーにとっては当たり前のことでも実はすごいことで、その先を目指す一歩になるんだと知ってもらいたいですね。

来たれ! 高校生!!

── 最後に、高校生たちに向けてメッセージをお願いします。

岡田 日頃、自分たちがやっていること、練習して得た力を試す場として使っていただきたいです。てっぺんを目指しているチームには、ぜひ日本一を証明するぞ、という気持ちで臨んでいただきたいです。皆さんが全力を発揮できるよう、私たちも全力でサポートしていくので、エントリーをお待ちしております。

 生徒から要望を受けた先生の皆さんも、不安な点や不明点があれば、事務局まで電話でもメールでもなんでも構いませんのでご連絡ください。PCの揃えかたやゲームのインストールの仕方など、可能な限りサポートします。生徒の方が大会のステージに立てるまでサポートします!

苦瀬 やっぱりまずは参加してほしいです。初心者だからとためらうことはあるかもしれませんが、そこは心配なく飛び込んでください。先ほど話した通り、本番の大会にならないとわからない緊張感や、その場で発揮される力、その瞬間のうれしさ、くやしさは絶対にあると思います。それを知ってもらうのは、eスポーツプレイヤーとしてはもちろん大切ですが、そういった本気の場に挑むというのは社会人になったあとにも生きる経験です。それを味わうことができる場として参加してほしいです。

 そして、選手ファーストであり、学校ファーストで運営する大会なので、なにかご相談事項があればどんどんお寄せいただきたいです。ご要望やご意見なども前向きに反映していきたいと考えていますので、送っていただければ非常に嬉しいです。

 エントリーをお待ちしております!

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外部リンク

NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権
https://nasef-nhec.jp/

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