インタビュー

2024.09.04

学生向けスト6公認大会「全学格」はなぜ生まれたのか、主催者の一人Victrix赤松氏に聞く

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 大学生・高校生向け『ストリートファイター6(スト6)』としては初のカプコン公認大会となった「全日本eスポーツ学生選手権 格ゲーの部(全学格)」が8月24日に近畿大学 esports Arenaにて開催されました。大会は近畿大学のオープンキャンパスを利用し、近畿大学、RocketKnight、Victrix、忍ism Gaming、Rox3Gamingによって共催。盛況のうちに幕を閉じました。

大会の様子
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 ただ、『スト6』は大きな参加制限のない大会が多く、大学生・高校生向けに限定した大会は珍しいうえ、公認大会は初めてです。なぜこうした大会を開いたのか。今大会を開催した意義や経緯、そして今後について、主催者の一人であるパーフォーマンス・デザインド・プロダクツ 取締役 Victrix Japan Maneger 赤松一成氏に聞いてきました。

取材・文/ライター 岡安 学

パーフォーマンス・デザインド・プロダクツ
取締役 Victrix Japan Maneger
赤松一成氏

なぜ全学格が生まれたのか

──早速ですが、全学格を開催した意図や経緯をお聞かせください。

Victrix 赤松一成氏(以下、敬称略) 個人的な話からさせていただきますと、私自身、学生時代は水泳に打ち込んでいました。それも全国大会に行くレベルで本格的に取り組んでいました。高校ではインターハイ、大学ではインターカレッジを目指し、出場していました。出ること自体に価値はあるんですけれども、それ以上に出る為に積み重ねたチームでの努力であったり、目標に至るまでのプロセスであったりと言うのが大事で、それが自分の経験を豊かにしてくれたと思っています。

 eスポーツにも、そういった経験を豊かにしてくれる努力やプロセスは、スポーツと同じようにあると感じています。しかし、学校にはeスポーツがまだまだ浸透しておらず、eスポーツとスポーツに同じ効果があるという感覚が学校現場にはないと思ったのが、今大会を実施する発端ですね。

 なので、水泳選手がインハイやインカレを目指すように、eスポーツプレイヤーが目指す機会、場を作りたかったんです。スポーツが得意な生徒はその実力を発揮する場がありますけど、ゲームが得意な生徒の活躍の場がありませんでしたから。そこで、学生向けの全国大会を作りたいと考えました。

 すでに高校生向けのeスポーツ大会は存在していますよね。そこで、既存の大会と差異化をはかり、まだ目指す場がない生徒に活躍する場を提供するために対戦格闘ゲームの大会を行うことにしました。今回取り扱った『スト6』は日本のeスポーツで屈指の人気と実力があるプロリーグがありますし、学校としてもPS5とソフトを用意するだけなので、導入しやすいという背景もあります。

 生徒の親世代の多くが知っているほど認知度が高い点も大きいですね。学校で普及させるのはやはり親と教師なんです。生徒発信で動いたとしても最終判断は親と教師になるので、そこも考えると『スト6』はベストなタイトルでした。あとは、『スト6』は日本のメーカーのタイトルなので、日本で盛り上げ、日本人が活躍してほしいというのもあります。

──Victrixは対戦格闘ゲームで使用する操作デバイスを発売しているので、そういった観点からの『スト6』採用かと思いましたが、その点はどうでしょうか。

赤松 Victrixと言う会社は、どんな案件でも必ずウィンウィンになれる状態を目指していきます。高校生や大学生が活躍する場を作りたいというのが本音であることは間違いないですが、確かに当社は格ゲープレイヤーに使われるデバイスをつくっているので、親和性があるという側面も当然あります。ただ、販促の為だけにやっているつもりはありません。

 今回はあえて物販ブースを設けませんでした。もちろん、私は企業の一員なので、会社にも貢献しなくてはならないとも思っています。なので、ゆくゆくはそういった展開も必要となってくると思いますが、今は、ビジネスを考えずに大会を運営していきたいと思っています。

 Victrix以外で協賛、後援してくれた企業もビジネス目的ではなく、高い熱量を持って賛同してくれました。先行投資的な意味合いが強いですし、なによりプレイヤーの質を高めていきたかったんです。

──学生向けの大会ですが、高校生と大学生を別のトーナメントにせず、一緒にしたのは何故でしょうか

赤松 かなり本音の話をすると、どれだけの人が参加してくれるか自信がなかったんですよね。対戦格闘ゲームは若手もいますが、ベテラン選手が活躍しているタイトルでもあったので、高校生や大学生がどれほどのプレイヤーレベルなのかも未知数でした。『スト6』を採用している部活動もそれほど多くないことは分かっていましたし。

 はじめは高校生向けを考えていました。その後、大学生を含んだ大会にすることを決めたんですが、先の参加者の件の他に、高校生、大学生の枠を超えたコミュニティの構築を目指して貰いたかったんですよ。同時に開催した対戦会では、積極的にDiscordのIDの交換なども促していました。

──大会の参加者は応募した人の中から抽選で選抜されていましたが、オンライン予選ではなく抽選にした理由はなんでしょうか

赤松 オンライン予選を実施できるほどの人数が集まるかどうか、という先の話と同じ理由です。そういう意味では、今回の大会はプレ大会とか、準備大会とかに近いものがあります。今回、開催したことでいろいろな知見を得ることができたので、ゆくゆくは高校生と大学生を分けて、それぞれのオンライン予選で勝ち抜いた選手がオフライン決勝に進出するような形にしたいですね。プレ大会としてみれば、参加選手のレベルはかなり高く、参加者の質も量も思った以上のものがありました。

──eスポーツ大会を開催するにあたって、赤松さんやVictrixはeスポーツの現状をどのように捉えているのでしょうか。日本国内とグローバルのそれぞれの視点で教えてください。

赤松 コロナ禍によって、ゲームやeスポーツは大きく拡大をしました。いわゆる巣ごもり需要ですね。プレイヤーの数も増えましたし、ゲームをプレーする上で、より良い環境を整えたいと考える人も増えました。コロナが5類になって、日常が取り戻されていくと、多少はシュリンクしたと言う見方もあるようですが、市場としては縮小していないと思っています。

 学校がeスポーツを導入するようなケースが増えてきましたし、オリンピックの名を冠する大会の開催も決まりました。サウジアラビアでは高額賞金のeスポーツワールドカップも開催しており、今まで以上に注目されています。eスポーツはまだまだこれから伸びていくと信じています。

 そして、Victrixとしても、そんな環境の中で、しっかりとソニーのライセンスがとれた安心できる商品のみをリリースし、すべてのプレイヤーが納得できる質の高い製品を出していきます。特にトップランナーの方々に選んで貰えるような高い製品作りを目指します。そして、それと同時に、質の高い選手を排出できるような環境を作っていきたいと思っています。若い選手が世に大きく羽ばたけるような大会を作っていきます。

──大会やデバイスづくり、選手支援以外に今後の活動はありますか。

赤松 これも個人的な話ですが、eスポーツの研究、学術的な研究とのコラボ、機会創出をやってみたいですね。eスポーツが人体にどのような影響があるのか、デバイスによってどうのように変わってくるのか。学校でのeスポーツの普及を考えると、どうしても突き当たってしまう「プレー時間の壁」も気になります。

 フィジカルスポーツは体力の限界がわかりやすく、一定以上の練習はできなくなりますが、eスポーツの場合はそこまで身体に表れにくい。もちろん、脳とか見えない部分で披露は溜まっているハズなので、そこを客観的にわかるようになると安心してゲームをプレーできるような環境をつくることができると思います。科学的に正しく理解し、それを言語化できれば実現できるはずです。

──ありがとうございました。

学生時代から活躍の場を

 どのような競技にしろ学生時代から活躍の場あれば、早いうちから始めようとする気概が生まれたり、継続する力が育まれたりすることでしょう。また、学生のうちに経験したことが、社会人になったときに大きな影響をもたらし、次世代の創出へとつながっていきます。

 全学格の大会がこういったエコシステムの一端を担い、今後も継続し、より大きな大会へと成長することを期待したくなりました。“格ゲーの部”という名称なので、『スト6』以外のタイトルで開催できるようになることで、学生eスポーツはさらに広がっていくことでしょう。

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外部リンク

全日本eスポーツ学生選手権大会格ゲーの部
https://zengakukaku.jp/lp/

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