インタビュー
2024.10.18
コーチも育てるコーチングサービス「Crazy Raccoon Gaming School」、100年先のeスポーツのために
- インタビュー
今やゲームスキルを上達させるためのレッスンは多々ありますが、なかでも注目なのは大手eスポーツチーム「Crazy Raccoon」(CR)の名を冠する「CR Gaming School」(CRGS)です。平常時は最低でも月額2万円以上という決して安くない金額ですが、効果があるとして受講生が後を絶ちません。
大きな特徴はマンツーマンでレッスンを行うことと、コーチの質に強くこだわっていること。コーチとして仮採用されるのはわずか2割以下で、さらにそこから本採用に向けたコーチング研修があります。同サービスを運営するBrave group子会社のGame & Co.取締役の久保敦俊氏は、「ゲームがうまいからと言って、教えることがうまいわけではありません」と話します。なぜここまで質にこだわるのか。久保氏とesports教育事業部のプロデューサーを務める朝比奈雅幸氏に、話を聞きました。
取材・文/南雲 亮平
「あなたのためだけの教科書」
── CRGSは「厳選されたコーチ」を強調していたり、コーチと一緒に自分だけのカルテや教科書をつくったりと、“コーチ”への強いこだわりを感じます。
朝比奈氏(以下、敬称略) 私たちは、コーチングとティーチングの違いを強く意識して事業を運用しています。
久保氏(以下、敬称略) CRGSコーチは受講生とのマンツーマンレッスンを担当する人のことで、伴走と対話を大切にしています。特に重視しているのは、受講生から話を引き出す傾聴力。得た情報から上達に必要な要素を抽出して細分化し、独自のカルテに落とし込むことで課題とやるべきことを明確にし、練習の質を上げます。レッスン中に出た課題や解決策はコーチが板書を取り、その受講生のためだけの教科書をつくっていきます。
受講生は教科書をもとに練習できるだけでなく、課題の洗い出し方や解決方法も学ぶことができるので、レッスン以外でのプレーもより充実したものにすることができます。
朝比奈 ゲームの指導をする場合、いわゆるティーチングと言われる学校の授業のような一方的な指導では、受講者が抱えている課題を中々解決することは出来ません。操作方法やタイトルごとのルールについては皆さん共通していますが、プレースキルや上達方法に関する課題は受講生ごとに異なるので、個人に寄り添って課題を明らかにし、専用の教科書をつくる方法をとっています。
コーチ業を通して広がる可能性
── 話を引き出す力だけでなくカルテや教科書をつくる技術まで必要となると、たしかに「ゲームがうまい」というだけではCRGSのコーチは務まりそうにありません。
朝比奈 最初からすべてスムーズにこなすことは難しいので、コーチの採用時には複数段階のハードルに加えて、研修を設けています。
まず応募条件はかなり厳しく絞っています。VALORANTでいえばイモータル3以上、競技シーンで選手やコーチ、アナリストなど何らかの経験があるなど、応募のハードルは低くはありません。
そのうえで、実際に一度デモンストレーションとしてコーチングを行っていただきます。当社で用意した受講生役に授業をしていただく形式で、応募者には事前に共有した動画からその受講生役の課題を洗い出してもらい、解決策を考え、実際に指導してもらう、という手順です。
まずはその人ならではのコーチングの技術や方法を見る形ですが、ここを通過し、仮採用される方は約15%ほどです。
── かなりの狭き門ですね。
朝比奈 さらに言えば、デモンストレーションの段階で当社が求めるクオリティでコーチングができる方はほとんどいません。
ただ、私たちも最初から完璧にコーチングができるとは考えていません。私たちとコーチ候補者の関係にもまたコーチングの考え方が当てはまると思っているので、これから育成していくことを前提に、豊富な知識は当然としてコミュニケーション能力や言語化能力を持つ方、もうすこし変わることができればコーチになれそうな予感のある方などを仮採用しています。
仮採用の期間中には、当社が用意する研修を受けていただきます。研修では仮採用者がコーチングしている様子を録画し、その動画を運営側で立てたコーチリーダーに見てもらい、仮採用者にフィードバックを行います。これを5回ほど繰り返すことで、候補者には受講生から意見を引き出す方法や会話の割合、板書の書き方などを身に付けていただきます。
また、自分自身で動画を見て課題を挙げてもらったり、ほかのコーチの動画を見てもらったりとさまざまな行程を経て、その仮採用者にあう方法でスキルアップを図ります。最終的には、当社のコーチングの考え方に共感していただき、求めるスキルを身に付けることができた方を本採用としております。仮採用からは、6~7割の方が通過していきます。
── そうしたこだわりがユーザーを惹きつけているんですね。最低でも2万円以上と、決して安くない料金についても納得感があります。
久保 私たちが目指しているのは、塾や英語教室のようなコーチングサービスです。しかしながら、ゲームを人から教わる市場というのはまだ確立していません。eスポーツプロチームのコーチとは異なる、ゲームにおけるコーチという存在もまだはっきりとは定義されていない状況です。そんな中でコーチングスキルを身に着けた方に伴走してもらって一緒にゲームスキルを上達させる文化をつくっていくには、まず業界の基準をつくる必要があると考えました。
自分たちが初期値となるからには、小さく初めてしまうと後に続くサービスも小さくなってしまう恐れがあるので、妥協せずクオリティの高いサービスを提供しようということで、適切な価格を設定しています。
「100年先のesportsのために」
── サービス名に「Crazy Raccoon」とある通り、コーチ陣にはプロの世界で活躍している方もいらっしゃいますね。
久保 プロとして活動した経験のある方は、言語化能力やコミュニケーション能力が自然と身につく方も多いので、コーチとしての高い素養があります。セカンドキャリアとして講師やコーチは選択肢に入るでしょう。ただ、最終のキャリアにしてほしいとは思っていません。
プロチームで磨いたスキルに加えて、コーチ業を通じて向上させたコミュニケーション能力、他人との接し方、そして身に付けたコーチング技術や傾聴力は、ゲーム以外の仕事でも使えると思います。さらに、コーチにはコーチング技術だけでなく、ビジネスツールの使い方やメールの書き方といった事務作業の習得にも力を入れてもらっているので、幅広い業務に対応することができます。
プロに限らず、ここに所属していることがコーチの次のキャリアにつながったり、所属すること自体に価値が生まれたりするようなブランドにしていきたいと考えています。
── 受講生だけでなく、コーチの今後も考えて事業を展開していると。
久保 Game & Co.には「100年先のesportsのために」という理念があります。私自身、2015年ごろからイベント制作などでeスポーツ事業に携わっています。当時から市場の成長や、市場への期待感なども肌身で感じてきました。ただ、ここ数年はトップ層というか、上の層ばかりに焦点があたっているような違和感がずっとありました。
サッカーや野球は高校野球や高校サッカーなどの制度がしっかりと整っていて、ユースチームや少年野球・サッカーと、さらに言えば幼稚園くらいの頃から道があります。地域の人も協力し、試合となれば家族以外にもさまざまな人が見に来ます。一方、現状のeスポーツではまだ実現できていません。
この違いは、かけてきた時間が一つの要因だと思っています。だからこそ、これから20年後、30年後に自分がいちファンとしてeスポーツを楽しめるように。そして40年後、50年後にもeスポーツが文化としてしっかり続いていくために、ピラミッドの裾野の部分に注力していこうとGame & Co.を立ち上げました。
100年先となると、私が生きているかどうかはちょっとわからないのですが、とりあえず私が60歳とか70歳になったときに、SNSやHUBのような場所でいろいろ観戦しながら話ができたり、楽しめたりする世の中であるように、引き続き取り組んでいきます。
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外部リンク
Crazy Raccoon Gaming School
https://cr-gs.jp/
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