大会レポート

2023.12.09

授業で桃鉄・マイクラ!? 「エデュテイメント祭り!」で活用事例を発表

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 コナミデジタルエンタテインメント(コナミ)は12月2日、東京銀座のesports 銀座 studioで、ゲームの教育的活用をテーマとしたセミナーイベント「エデュテイメント祭り! presented by 桃太郎電鉄」を開催しました。当日は日本各地から教員や教育機関関係者が集まり、エデュテイメントの活用事例や課題について活発に議論を交わしました。

12月2日に開催された
「エデュテイメント祭り! presented by 桃太郎電鉄」


 同社は2023年1月から学校教育機関向けに「桃太郎電鉄 教育版Lite ~日本っておもしろい!~」(教育版桃鉄)を無償提供しています。教育版桃鉄は学校教育機関が導入しやすいよう、WEBブラウザやタブレット端末などでの操作が可能なデジタル教材。日本全国を巡って物件を買い集め、資産額日本一を目指すというゲームの特性を活かし、地理や経済を学ぶことができます。現在では、国内で5000校以上の教育機関から申し込みが来ているといいます。

 今回のイベントタイトルにもある「エデュテイメント」は、娯楽を意味するエンターテインメントと、教育を意味するエデュケーションを掛け合わせた造語です。楽しいことをきっかけに学びを生み出そう、という取り組みを指しています。教育版桃鉄もその一つ。コナミをはじめとした関係者が、このエデュテイメントを教育現場により浸透させ、子どもたちの学びの機会をつくるために今回のイベントを企画しました。

 イベントは三つのプログラムで構成されています。オープニングののちに、A・B・Cの三つのブースに分かれてワークショップ、最後は特別講演です。

教育版桃鉄 とは

 オープニングでは、教育版桃鉄の現状について紹介。同タイトルは2022年12月に発表し、23年1月にリリースしたコンテンツ。同年11月時点で6521件のIDを発行したといいます。

 販売されている製品版との違いは、大きく分けて5点。45分の授業で活用できるよう、地方に限るなどプレー範囲を限定できる点。駅周辺やランドマークの情報が閲覧できる虫眼鏡機能。利用時間や参加人数などを管理できる先生用ツール。製品版に登場する妨害要素の「貧乏神」が登場しないなど、持ち金が変動し過ぎないような調整。他プレイヤーの邪魔ができる「嫌がらせカード」で対象を指定できない、などがあります。

教育版桃鉄の特徴


 教育版としつつも、クイズ機能などのわかりやすい学習要素を入れずに、ほぼ製品版の仕様で提供しています。これについて、小学校教諭を務めながら教育版桃鉄にエデュテイメントプロデューサーとして携わる正頭英和氏は次のように理由を説明しました。

 「日本の学校の先生はすごいと考えているので、そのうえでお話します。皆さんはぶり大根を渡されたら、おそらく美味しいとか味が濃いとか、形がどうだとか“評価”すると思います。では、大根だけを渡されたらどうするでしょうか。多くのケースでどう料理しよう、と考えるはずです。いろいろ機能を盛り込むのではなく、素材をそのまま提供すれば先生や生徒が自ら考えて使うので、そのまま出してくださいとお話しました」(正頭氏)。

教育版桃鉄にエデュテイメントプロデューサーとして携わる
正頭英和氏


 実際の活用事例を見てみると、半数近くの学校では社会地理で活用されています。次いで多いのは算数・数学。資産や物件価値の変動など、数字を多く扱うタイトルならではの使われ方があることがわかりました。このほか、国語や総合・生活など、あらかじめ用意された学習機能がないからこそ、さまざまな教科で活躍しています。

教育版桃鉄の使われ方

ゲームが学びにつながる瞬間

 オープニングの後は、三つのグループに分かれてのワークショップです。

 Aブースでは、実際にどのような形でエディテイメントを実践しているのか、教育版桃鉄と教育版マインクラフトの実例を紹介しました。特に、16年に登場した教育版マインクラフトは先達だけあって多くの実績を築いています。登壇したプロマインクラフターのタツナミシュウイチ氏は、「学校の教室でどのようなエンターテインメントを展開すればエデュケーションにつながるのかを考えることが大切」とコメント。学びにたどり着くためにも、まず楽しさが大切である点を強調しました。

Aブース「エデュテイメント、教室でやってみた!」の
登壇者と会場の様子


 Bブースの内容は、特別支援におけるエデュテイメントの活用について。成果があったことだけではなく、上手くいかなかったケースも紹介しました。リアルスポーツに比べて身体性が少ないゲームは、参加するハードルは低く、より多くの生徒のやる気を引き出します。しかし、支援が必要な生徒同士がゲーム上で協力するには事前の関係性も重要になるとのこと。また、繊細な生徒がいる場合は回線が安定していないと不和の原因になることもあるので、ネットワーク環境は事前によく確認して整えて必要があると呼び掛けていました。

Bブース「特別支援におけるエデュテイメントの活用」の
登壇者と会場の様子


 Cブースは、教育現場、教育委員会、文部科学省の三つの立場からゲームの教育的活用について議論。さまざまなことにゲーム性を持たせて楽しみに変えて取り組みやすくする「ゲーミフィケーション」をキーワードに、エデュテイメントの可能性を探りました。

Cブース「現場、教育委員会、文科省、
3つの立場から語る教育の現状と未来」の
登壇者と会場の様子


 注目を集めたのは、エデュテイメントを導入する方法についてです。参加した教員から、「導入したいのですが、管理職や自治体へに説明を尽くしても、なかなか理解が得られない場合の対処」について質問が挙がりました。これについては「根気強く人間関係を築き、ほぐしていくことが有効な場面が多い」とのこと。京都府公立小学校で教諭を務める坂本良晶氏は、「一緒にプレーして体験してもらい、良さを体感してもらうのも一つの手です」と、自身が実践した方法を紹介していました。

エデュテイメントの大切さ

 特別講演の冒頭、正頭氏は「昭和の時代には個人で解決できる問題がたくさんありました。自分の頑張りで周囲を、社会を変えることができたんです。でもそうして一人ずつが問題を解決していくと、今度はみんなで解決しなければならない問題が残ります。複数人で問題に取り組む際に重要なのは、要素に分けて分担すること。つまり、一人ひとりが何をできるのか、何をしたいのかが重要になります」と、現代を生きる個人に求められることに言及します。

エデュテイメントの大切さについて語る正頭氏


 さらに、「現状、何をしたいのか、というアンケートを取ったときに『やってみたいことがない』という回答が約8割。『ある』と回答する人は2割ほどしかいません。その2割に理由を聞くと、『~~したときに楽しかったから』と、体験に基づいていました。このことから、体験を提供することの大切さがわかります」と、続けます。

 「皆さんも経験があるかもしれませんが、体験に至るには、『やってごらん』よりも、『楽しそう』と自ら体験する方が取り組みやすいですし、学びも多そうですよね。だからこそ、積極的にやりたくなる“エディテイメント”が重要なんです。楽しいことをしていたら、自然と学んでいる。そして学んだことをきっかけに、やりたいことが出てくる。エデュテイメントなら、そうした環境をつくることができます」と、エデュテイメントの大切さについて話しました。

正頭氏×マイクロソフト田中氏×コナミ岡村氏 トークショー

 トークショーには、正頭氏のほか、マイクロソフトコーポレーションで教育版マインクラフトの普及に携わる田中達彦インダストリーブラックベルト、コナミデジタルエンタテインメントで桃鉄の開発に携わる岡村憲明シニアプロデューサーが登壇しました。

左から、正頭氏、マイクロソフト田中氏、コナミ岡村氏

ユーザー層の違いで導入しやすさが変わる現状

 議論の中でマインクラフトと桃鉄のユーザー層の違いなどについても話題にあがりました。岡村氏は、小学生など若年層がプレーするマインクラフトを羨ましがりながら、「桃鉄はプレーしたことのある大人が多いため、学校に教育版を導入する際、管理職や校長先生からも『あ~、あれね! 私もあれで地理を覚えたよ』などと言ってもらえるケースがあります。こうなると理解を得やすく、導入もスムーズに進みやすいです」と紹介します。

 一方でマインクラフトは、多くの小学生がプレーしているにも関わらず、大人はプレーしたことが無いというケースが目立つとのこと。田中氏は、「マインクラフトは一言で説明するのが難しいほど何でもできるゲームタイトルなので、ピンとこない管理職なども多く、導入のハードルになることもあります」と、世界的に人気なゲームにもかかわらず、世代による理解の差が表れる現状に悩んでいました。

インプットとアウトプット 桃鉄教育版 限定の新機能も

 また、マインクラフトはブロックを使って何かを作り上げるというゲームの特性上、インプットとアウトプットがセットになっています。方や桃鉄は、物件の価値を見ながら吟味して購入したり、資産の計算をすることはありますが、得られた物件の情報や地理を活かすアウトプットの場面はゲーム中にほとんどありません。

 学習の最終到達地点はアウトプットなので、その練習の重要さは容易に想像がつきます。だからこそ教育版桃鉄にはアウトプットのための新要素として、駅の物件を編集できる機能を追加しました。

教育版桃鉄に導入された物件編集機能


 教育版桃鉄のホームページで公開しているひな型のCSVファイルを表計算ソフトで編集し、ロードすることでゲーム内の物件データを変更することができる機能です。物件の名前、価格、収益率の編集が可能で、一つの駅につき、物件を八つまで設定可能。URLを追記することで、虫眼鏡カーソルをあわせた際に画面右側に指定のWebページを表示することもできます。

 自らが調べて気になる物件を追加したり、既存の物件の情報をもっと詳細に反映したりと探求的なこともできるので、学べることがグッと広がります。

 教員用の管理ツールで、物件の編集を有効に切り替えると利用できます。オンライン機能はないので、物件編集はファイルをロードした個人にしか反映されませんが、編集したファイルを共有しそれぞれの端末でロードすれば同期することも可能です。

 岡村氏は、「製品版にもないこの機能は初めての取り組みなので、ぜひ使ってみていただき、意見をいただきながら修正していきたいです」と期待しました。こちらは教育版ならではの新機能ですが、教育版で好評で製品版に反映された機能もあります。それが虫眼鏡モードで、製品版でも物件やランドマークの説明を見ることができるようになりました。なかでも最新作の『桃太郎電鉄ワールド ~地球は希望でまわってる!』は世界各国を飛び回るので、好奇心をくすぐられます。

無償提供でも「得るものは大きい」

 このほか、教育版マインクラフトは有償で提供しているのに対し、教育版桃鉄は無償で提供していることについて、岡村氏は「もともと、桃鉄で地理を覚えたという声はたくさんいただいていました。楽しいものを作ったら、結果的に学びに繋がっていたんです。その学びを広げようということで、教育版を発表しました。最終的には製品版の宣伝になるほか、こうして教育関係の方々と繋がり、これまでなかった視点をえることができるので、無償であっても得るものは大きいです」とコメントしました。

マインクラフトと桃鉄の違いについて話した岡村氏


 メリットの多い教育版ですが、課題もあります。当日ワークショップに登壇した文部科学省初等中等教育局で学校デジタル化プロジェクトチームリーダーを務める武藤久慶氏は、「学校教育などに何かを導入する際は、さまざまな人を納得させるためにもある程度のデータが必要です。何を学べるのか、どのような成果がありそうなのか、といったことです。その視点からいくと、マインクラフトや桃鉄は学びは多いのですが、何を学ぶのかコントロールするのが難しいので、自治体によっては導入に躓くケースがあります」と、エデュテイメントを広げるためにも、データを収集し共有、体系化することが大切であるとの考えを示しました。

文部科学省初等中等教育局で
学校デジタル化プロジェクトチームリーダーを務める武藤久慶氏

エデュテイメントの展望

 今イベントは、22年に開催された「桃太郎電鉄 教育祭り!」から数えて2回目の開催です。前回に続き、タイトルには「presented by 桃太郎電鉄」と入っていますが、次回、次々回と、桃鉄やマインクラフト以外のゲームが参入し徐々に規模が大きくなれば、エデュテイメント祭のタイトルから桃鉄が外れる可能性もあります。しかし、岡村氏は「大歓迎」と前のめりです。

 「私は勉強が嫌いで、とくに暗記科目は嫌いでした。だから歴史も苦手だったのですが、大河ドラマを見たら、面白くて好きになりました。歴史を勉強してこなかった自分を後悔しましたね。あとは戦国武将が登場するゲームタイトルも好きなので、プレーしていたら戦国時代と幕末について詳しくなっていました。桃鉄も同じで、それだけだと授業は成立しませんが、プレーしていたら自然と地理を覚えることや、地域の特産品を知ることがあります。こうしたきっかけを与えることがエデュテイメントの役割だと考えています」と、自身の経験をもとにエデュテイメントの可能性について言及。

 続けて、「エデュテイメントのタイトルが増えたら、今よりもっと、あらゆる学びに興味をもつきっかけも増えることになります。だからこそ、さまざまなメーカーに入ってきてもらいたいです。ゲームを作って売るだけではありえなかった出会いもあるので、もっともっと広げていきたいです」と展望を語りました。

ほかの強化と一緒に授業として並ぶ桃鉄

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外部リンク

エデュテイメント祭り! Presented by 桃太郎電鉄 教育版
https://www.konami.com/games/momotetsu/education/seminar_02.php

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