コラム

2023.06.25

受けて楽しい「総合的な探求の時間」、新たな選択肢は“eスポーツ”

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 北米教育eスポーツ連盟 日本本部(NASEF JAPAN)は6月24日、東京・秋葉原で教員向けのeスポーツの教育的活用について研修会を開催しました。NASEFの最高教育責任者を務めるケビン・ブラウンさんが講師を務めました。

NASEF JAPAN主催の教員向け研修会の参加者ら

総合的な探求の時間に沿った研修

 開会式で松原昭博理事長「本日は、アメリカから最高教育責任者のケビン・ブラウンが来ています。本国のPBL教育(問題解決型学習)に関する教員研修をするわけですが、米国のPBL教育は先進的で日本とは異なるので、そういった部分を吸収して現場で実践してもらいたいです」と、ただ学ぶだけの機会ではないことを強調しました。

NASEF JAPANの松原昭博理事長

 また、「アメリカの取り組みをそのまま持ってきたわけではありません。日本で実施するにあたり、彼は総合的な探求の時間に関する文科省の学習指導要領を読み込んでいますから、日本の実情に沿った内容にアレンジしています。現場で使えるように配慮しているわけです。この研修で新しい学びを体感してもらい、子どもたちの可能性を広げる教育をドンドン展開できればと思います」と期待を述べました。

 研修には、科学、化学、情報技術、国語、数学、美術、量子力学などさまざまな教科の教員たちが集まりました。授業は午前に3セッション、午後に2セッションという構成です。

eスポーツを通じた体験型の学習

 1限目、ケビンさんはまず、教育的eスポーツの意義について説明。コミュニケーション能力や自分に役割があるということを理解して行動するような社会的感情が大きく伸びることを強調しました。さらに、eスポーツを取り巻く環境には、プレイヤーだけでなく、ソフトウェア開発者、ストリーマー、イベント運営者など、さまざまな職種があります。こうしたキャリア教育にも役立つと紹介しました。

講師を務めるケビン・ブラウンさん

 2限目は、小さなブロックを使ったアクティビティ。ブロックのパッケージには設計図も入っています。これを7分で組み立てるという課題が出ました。先生たちは久しぶりのブロックに戸惑いながらも組み立てを開始します。しかし、設計図とパーツを見比べますが、なかなか見つかりません。どうやって進めるか悩んでいるうちに7分が経ちます。完成に近い形はあるものの、完成している人は誰もいませんでした。

 ケビンさんは「これで皆さん、一回失敗しましたね。なぜ失敗したのかと考えるかもしれませんが、それはどうすれば成功するのか考えるきっかけになります。何か思いつきましたか?」と問いかけてから、組み立て時間を5分追加しました。

 次の5分は、前の7分よりもいっそう集中して黙々と組み立てますが、あっという間に過ぎました。終了の合図のあと、結果を見てみると一人だけ完成していました。この成功を参加者全員で称えたのちに、ケビンさんが「どうやって組み立てましたか」と尋ねると、「パーツをサイズごとに分けて、パーツごとに作りました」と工夫した内容を共有しました。

必死にブロックを組み立てる先生たち

 完成させることができなかった先生たちは、工夫を聞いて成功させるための方法を知ることができました。この方法を知っていれば、次は完成させることができるはずです。なかには、完成をあきらめて何を作りたかったのかが分かる部分を先に組み立て、何らかの成果物を残す人もいました。理想像に少しでも近づける、という選択肢があることもわかったわけです。こうして失敗から学ぶことが、総合的な探究の時間のゴールになるとケビンさんは話します。

 12分間、生徒の気分を久しぶりに体感した先生は、「新鮮な体験でした。レゴが完成しなかったという失敗を通してさまざまなことを学ぶというのはわかったのですが、具体的に子どもたちにどのように伝えるのか、というところまで考えるのが難しいです。失敗した後に成功した人がどのように工夫してレゴを完成させたのか知ると、悔しいですけれど次はそうしようと思います。こうした学びを生徒にも伝えたいので、いろいろ考えてみます」と楽しそうに語りました。

eスポーツがさまざまな役職で成り立っているので、学習のゴール多岐にわたることを強調するケビン氏

 3限目は、総合的探究の時間における教師の役割について。生徒が理解できない場合にスキル、経験、主題の知識を提供することで、学習を促進し、生徒の成果を高めることの大切さを説明しました。生徒に失敗しても大丈夫な環境を与え、失敗したときにサポートすることで、多くの学びを提供できるということです。

 失敗した時にもほめて、何をまなぶことができたのか聞くことが大事です。すぐに解決するために自分の人生経験を紹介すると、パッと答えが出るかもしれません。ただ、生徒はそれが唯一の答えと考えてしまう可能性もあります。だからこそ、先生はしばし沈黙して、生徒が考えて、どのようなものでも答え出すまで待たなければいけません。

生徒自身が発信できるように

 4限目の竹中章勝先生は、2022年11月に訪問したアトランタのeスポーツ視察の様子を紹介しました。その後、eスポーツは日本の学校のなかでメジャーではない点を強調。「マイナーなことをやる、という気概は大切ですが、生徒たちは周囲から評価されていない状況に耐えられるでしょうか」と問いかけ、「それが難しいのは明らかです。ですから、環境をつくるということが大切なのです。そのためには、生徒たち自身がその成果を周囲に発信できるよう指導する必要があります」と解説します。

竹中章勝先生

 竹中先生が強調したのは、eスポーツは社会活動、つまり仲間づくりや役割などを体験することができる場所だからこそ取り組む価値があるということです。ただ“教育に良い”と言うのではなく、「何がどのようにメリットがあるのか、具体的に示すことで、認められるものになる」と結びました。

グループワークで学びを体感

 グループワークでは、18ある教育的eスポーツのカリキュラムのうち、最初の一つ目である「ソウル・フォージ」を実施しました。参加者はキャラクターが描かれた10枚のイラストから好きなキャラクターを選び、そのキャラクターをヒーローとするなら、どのような特殊能力を持つのか、またどのような困難に立ち向かい、乗り越えたのかを考えるゲームを実施しました。設定を考えたのちは、1分ほどで近くの人に発表します。

好きなキャラクターを選んで設定を考えるアクティビティ

 このゲームで重要なのは、キャラクターに付加した能力やストーリーが重要。それらは自分が憧れていること、あるいはコンプレックス、社会の見え方を表しています。例えば飛行能力を設定したなら、航空力学や工学に興味を持つことができるかもしれません。あらゆる言語を話す能力は、文学やジャーナリズムなどへの興味につながると考えられます。こうして生徒の興味や関心を探るという狙いがあります。

設定を考える先生たち

 次のグループワークでは、五つのグループに分かれてeスポーツ部を作ります。グループの中でも、事前のアンケートの結果から戦略家、クリエイター、運営者、起業家という四つの役割に分かれて、部活に入部希望者を呼ぶため、名前やロゴ、クラブの三つの特徴などを20分で考案。全員の前で発表します。このアクティビティは、参加者はチームを創設するときにはどのような仕事が必要なのか、次に同じことをすればいいのかを考えるきっかけになる、ということが分かるアクティビティでした。

5グループに分かれてeスポーツ部の立ち上げを体験

 閉会の挨拶で、松原理事長は、「日本ではなかなかないメソッドで実施した研修会だったので、刺激的な一日だったかと思います。ただ、一日で終わりではありません。ここから一緒に歩んでいければと思っています。このあと、2週間に一回相談窓口を設けます。ケビンが世界のどこにいてもやります。実践する際に不安や懸念があれば、それを払しょくするために尽力するので、お声がけください。今回、リアルで全国のいろいろな場所から集まっていただいたので、これを機にコミュニティを作っていき、その輪を広げていきたいと考えております」と締めくくりました。

子どもたちの興味を引くeスポーツを学びのきっかけに

 研修後、先生たちからは「面白い取り組みでした」「導入してみたいとは思います」といった感想があがりました。一方で、「すでに1年のスケジュールが決まっているので、すぐに導入は難しい」「今回二つのアクティビティをやってみたが、ほかのカリキュラムをつくるのは大変そう」といった意見もありました。

 ケビンさんは「教材をつくるのはそれぞれの先生」と言っていましたが、先生は日々の授業に加え、準備、会議、さらに休日は部活動など多忙を極めることで有名です。こうした部分をサポートするために2週間に一度の相談窓口ですが、そこで一遍にカリキュラムをつくるのは難しそうです。

 だからこそ、松原さんが話した、コミュニティをつくり、協力してカリキュラムを組み立てるのも一つの手段になりそうです。また、NASEF JAPANの加盟校向けコミュニティサイトには、組んだカリキュラムを共有するためのページもあります。一つでも一貫したカリキュラムをつくることができれば、それを土台に先生自身がアレンジを加えるという方法もあります。

 いずれの手段をとるにしろ、生徒たちが興味を持つゲームを学習に活用するのは有用ですが、まだまだハードルがあります。NASEF JAPANが横浜創英中学校などで実施している「Farmcraft」を活用した英語授業の結果など。実績や説明を重ねることで周囲の理解を得ていき、突破していきたいところです。

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■外部リンク

NASEF JAPAN
https://nasef.jp/

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