コラム
2024.06.28
佐賀の高校生が注目!人気のあまり抽選になった「SAGAハイスクールDI人材育成プログラム」キックオフ
- eスポーツニュース
佐賀県は、佐賀城 本丸歴史館 外御書院で5月18日、「SAGAハイスクールDI(デジタル イノベーション)人材育成プログラム」のキックオフイベントを開催しました。山口祥義佐賀県知事や、同プロジェクトを中心となって進める佐賀県教育委員会の甲斐直美教育長をはじめ、関係する企業や団体の代表者が参加し、プログラムの概要と今後の展開を発表しました。
プロジェクト概要、応募は定員の2倍以上
「SAGAハイスクールDI人材育成プログラム」は、産官学民と銀行(金)が連携して、3年間、高校生に実践的なデジタル技術を指導するプロジェクトです。目的は、将来、県内で活躍するDI人材・起業家を育成すること。佐賀県 産業労働部の井手宣拓部長は、「現在、県内の高校生の8割ほどが、県外に進学してそのまま県外に就職するような状況です」と、人材流出の課題があることを説明。将来予想されるICT人材不足もあわせて解決するため、半導体やAIなどの産業に関わっている県内企業と一緒に、高校生が将来、そういった業務で活躍したくなるような講座を展開できるよう、県内企業の協力拡大を応援していきたいと話しました。
事業の名称は、佐賀藩が1852年に設け、幕末日本の科学技術の発展に大きな功績を残した理化学研究所「精煉方」をなぞらえて「SEIRENKATA」としました。
事業としては大きく次の四つのテーマを掲げています。
(1)DI人材育成プログラムの開発(コンソーシアム・カリキュラム開発・Lab運営事務局)
(2)デジタル技術等を活用し、新たな価値を創造する学びを提供
(3)先端技術を有する企業、大学、高等専門学校等、地域を支える人材の活用(伴走型支援)
(4)学んだデジタル技術をもとに、成果発表や知識・技能を競う佐賀県DI選手権大会を開催
(1)のプログラム開発については、先述の通り県内や近隣の企業・教育機関、そしてNPO団体で作り上げていきます。(2)の講義でも、企業や大学院などから派遣されるハイレベルな人材が、“伴走コーチ”として学習をサポート。これが(3)にも繋がります。(4)は記載通り、2024年12月に成果を試す「県内DI選手権」を開催。3年後の26年には、「DI選手権」全国大会の開催を目指しています。
生徒たちは1年目、「ベーシック プログラム」としてデジタル技術の基礎を学び、興味ある分野の方向性を決めます。2年目は「アドバンスド プログラム」で、興味を持った分野について深く学びます。3年目は「マスター プログラム」で、より高度な内容を学び、自らデジタルイノベーションを生み出す人材を目指せるようにしていきます。
講座は「SAGA DI Lab」7拠点で、放課後や週末に実施。各拠点には高性能PCを各10台、計70台を導入しています。県内の高校1年生を対象に募集をかけたところ、60人の定員に対し139人が応募。急遽、100人にまで枠を増やし、抽選で参加者を決定しました。
講座を受けた生徒たちが県内外の大学へ進学したり、県内企業に就職したり、県内で起業するなどして、将来、佐賀県の活性化に寄与してもらうことも狙いの一つ。そのために、カリキュラムのなかに「地元学」を入れることで、佐賀県への愛着や、発展に貢献したいと思ってもらえるような郷土意識が芽生えることを期待しています。
地元学や、それを絡めた3Dモデリング基礎の講座で使用するコンテンツを提供するNASEF JAPANの松原昭博理事長は、「NASEFがアメリカで発足した際、貧困層の子どもたちに教育を提供しようとしたのですが、最初は上手くいきませんでした。しかし、子どもたちが興味関心を持つゲームやeスポーツを活用したら、効果バツグンでした。講座ではこうした知見を活かすとともに、ホームが海外にあるという特性を活かして、海外の学校との連携や交流を通して、グローバル人材の育成にも貢献することができます」と、展望しました。
産官学民金の連携によるDI人材育成プロジェクト
イベントの冒頭、県教育委員会、同県、有明工業高等専門学校による連携協定と、県教育委員会、国際教育eスポーツ連盟ネットワーク 日本本部(NASEF JAPAN)による連携協定の締結式が、それぞれ「一之間」で行われました。
連携協定の目的は、DI人材育成に向けた教育体制の充実、その他教育上の諸課題への対応を図り、佐賀県の教育の充実・発展に寄与すること。DI人材育成や、そのカリキュラム、教材作成、高校生に対するコーチング、社会課題解決に向けたDI人材育成などに関することで、四者は連携していくことになります。
挨拶に登壇したプロジェクトを主幹する甲斐氏は「デジタル人材のニーズは非常に高まっています。また、高校生たちの中にも、そんなデジタル技術を学びたいという声があります。そうしたことを背景に、佐賀県教育委員会と産業労働部、県内企業、そして高等教育機関、銀行などと連携して、こちらのプロジェクトを立ち上げました」と、産官学民金による事業であると説明しました。
有明高専の八木雅夫校長は、「高専は62年前に誕生して以来、独自の教育方法と実践力、現場力を重視した高度な教育が、創造性と実践性を兼ね備えた技術者、エンジニア、起業家を育ててきています。そのなかでも有明高専は、幅広い工学技術と豊かな教養を基礎に、多様性や国際性に富む高度技術者の育成や地域社会との連携に注力してきました。こうした歴史と革新の積み重ねをさらに発展させて、本事業に協力、連携していきたいと考えています」と、高専の特徴を活かした教育を実施できることを強調しました。
きっかけは企業版ふるさと納税
今回のプロジェクトを実施するにあたってきっかけになったのは、サードウェーブが納めた企業版ふるさと納税です。
同社の尾崎健介代表取締役社長は、「当社はゲーミングPCを提供していますが、ゲーミングPCというと“ゲーム”というイメージに直結するかと思います。まさにその通りではありますが、当社のお客様の3分の1は、実は大学などの教育機関や企業、クリエイターの方々です。AIやブロックチェーン、場合によっては流体力学用のソフトウェアを動かす、といったときに高度な処理能力が役立っています。ゲーミングPCは、ゲームに特化したPCというわけではなく高性能PCでもあるということです」と、企業や研究機関でゲーミングPCが活躍していることを紹介しました。
この佐賀県が進めるSAGAハイスクールDI人材育成プロジェクトは産官学民金が一致団結していることに加え、3カ年、あるいはさらにその先も含めた計画で、着地点までみえているという、練り上げられた事業です。さらに、佐賀城の本丸という、佐賀県を代表する施設でキックオフイベントを開催していることからも、必ず成功させるという佐賀県の本気度と覚悟が見えます。
体験講座
キックオフイベントの後半は、佐賀城 本丸歴史館 外御書院の二之間、三之間、四之間で、「SAGAハイスクールDI人材育成プログラム」の概要説明やコーチ紹介、当プログラムに受講する高校生と山口祥義佐賀県知事、甲斐教育長を交えた体験講座を実施しました。
挨拶に登壇した山口佐賀県知事は、「SEIRENKATAに参加する皆さんには、ぜひ自分で考える人になってもらいたいです。これからコーチからいろいろなことを学ぶと思いますが、その先はいずれ自分で見つける、といった志を持ちながら取り組むことで、自分自身が飛躍できるか、未来から必要とされる人材になれるか、がかかってくると思います。常に自分で考えて、実践する。それを意識しながら勉強してください。佐賀にとってもこのプログラムは挑戦なので、みんなと一緒に素晴らしいモデルを作り上げていきたいです」と激励しました。
体験講座の講師を務めたのは、有明工業高等専門学校 創造工学科 情報システムコースの石川洋平教授です。石川教授は、サーキット(回路)とデザイン(設計)を組み合わせた造語である「サーキットデザイン教育を提唱している人物。プログラミングが教育として当たり前になったように、半導体・集積回路も小中学生や高校生、一般の人に親しんでもらおうと取り組んでいます。
このほか、地域企業などの研究課題について、企業研究者と学校の研究グループが一定期間共同で解決を図るとともに、卒業研究の一環として学生を積極的に関与させる「産学連携マッチングラボ」を設立。こうした新しい仕組みづくりが認められ、2024年5月に国立高等専門学校教員顕彰において、文部科学大臣賞(一般部門)「顕彰題目:産業・地域の持続的な発展を支える学生・指導者の育成」を受賞しました。今回の産官学民金が連携したプロジェクトには、まさに適任です。
石川教授はサーキットデザイン教育について、「みんなが持っている携帯電話とかスマホ、PCの中身を自分たちで作りましょう、という話です」と説明。作れるわけがない、という空気のなか、畳の上で長机に向かって正座という寺子屋のようなスタイルで体験講座がスタートしました。
まず1枚の半透明の用紙の上に型抜きされた厚紙を合わせて、切り抜かれた部分に色を塗ります。 次に、ほかの型をあてて異なる色で塗る、といった工程を4回 繰り返しました。最前列で授業に参加していた山口佐賀県知事は、石川教授の話に時折質問をしながら、後半は色塗りに没頭していました。
この作業は半導体の設計工程を体験するもので、色を塗り終えた紙が半導体にあたります。「これをシリコンで作れば本物の半導体になります」と、石川教授が説明すると、参加者たちは自分が色を塗った紙を改めて興味深げに眺めていました。
作業が終わるかどうか、というタイミングで突然、石川教授はゲームをしようと生徒を誘います。喜ぶ生徒たちが、三之間、四之間に設置されたゲーミングPCゲームを起動すると、色塗りシューティングがスタート。指定された色で指定された箇所を塗っていきます。
このゲームは、直前に、実際に紙に色を塗った作業と同じように、半導体を設計する工程を体験することができるというもの。本プロジェクトに地域の民間企業として関わっている木村情報技術の子会社であるASKプロジェクトが、3Dのゲームや映像をつくることができる「Unreal Engine」を使用して開発しました。
すべての体験を終えたのち、石川教授は半導体の元となるシリコンやトランジスター、そして半導体の製造工程について説明しました。
石川教授は、「イノベーションはすごく難しいことですが、今みたいに楽しみながらやって、実践的な技術を身に付ければ、そこからイノベーターが生まれます。最初のスタートはみんな同じなので、いろんなことにチャレンジして、気になったことは伴走するコーチに聞いてください。そうすれば、いろんなことができるようになります。何かできるようになったら、保護者の皆さん、大人の皆さんはぜひ褒めてあげてください。生徒の皆さんはそれをバネに、ぜひ親孝行をしてください。それが誇りに繋がります。皆さん誇りをもってこれから3年間、協力してやっていきましょう」と、体験講座を締めくくりました。
体験講座を受けた佐賀県立唐津南高等学校1年生の園田羽音さんは、「半導体がどんなものなのかほとんど知らなかったのですが、体験を通して興味が湧きました。これから学べるのが楽しみです」とコメント。佐賀県立佐賀西高等学校1年生の古川喜悠さんは「これから重要になる技術を学べる機会なので、大切にしていきたい」と話しました。
先輩、後輩のつながり
SAGAハイスクールDI人材育成プログラムの目標は、「地元循環モデルの構築」です。同プロジェクトで創出した人材の多くが県内外の情報系の高等教育機関や県内企業への就職や県内で起業する、という流れを期待しています。
これだけでも大変ですが、将来佐賀で活躍するDI人材が、次代を担う人材創出をサポートするような流れをつくることです。
ここで重要なピースとなるのが、佐賀県DI選手権大会です。SAGAハイスクールDI人材育成プログラムは3年計画ではありますが、2年目からは再び100人ほどの1年生を集めて、ベーシックプログラムとアドバンストプログラムを並行して展開していく計画です。3年目になれば、三つのプログラムが同時に走ることになります。佐賀県DI選手権大会は、この300人を結ぶ貴重な機会です。
大会などで300人を縦横関係なく結ぶことができれば、毎年、卒業した100人が次の世代を応援してくれることでしょう。繰り返せば、徐々に応援者が増えていくことになります。先輩が後輩を導くという、部活動などで見る光景をSAGAハイスクールDI人材育成プログラムで実現することが、循環モデル構築のカギになりそうです。
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外部リンク
佐賀県
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NASEF JAPAN
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