インタビュー
2022.08.17
eスポーツを横須賀の文化に【前編】 市主導の観光プロジェクトで地域に根付く高校eスポーツ
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近年では珍しくなくなった自治体によるeスポーツ事業。高齢者の認知症・フレイル対策や、若者への認知拡大・教育効果などを期待して実施することが増えています。そんな中、横須賀市ではeスポーツを市全体の文化として定着させるべく、高等学校を中心に取り組みを始めています。今年で3年目となるプロジェクトの名前は「Yokosuka e-Sports Project」。その詳細を前後編に分けてお伝えします。
eスポーツ聖地化10カ年計画
東京湾の入り口に面し、日本の海上玄関口の一つとして栄えた横須賀市。黒船来航の地として歴史的にも著名である一方、米軍や自衛隊が駐留している同市では、海軍カレーやヨコスカネイビーバーガーといった海軍にまつわるグルメを楽しむことができます。
そんな横須賀市ですが、2019年に市内のeスポーツ文化醸成を目指したプロジェクト「Yokosuka e-Sports Project」を始動しました。eスポーツ文化を横須賀市に定着させることで地域を活性化し、音楽やスポーツを含めたエンタテインメント都市として発展していくことが狙いだとか。開始当初は横須賀市内の高等学校などを対象にゲーミングPCの貸し出しやネットワーク・セキュリティの無償コンサルなどを展開。そして翌年の20年には高校生を対象にした市主催のeスポーツ大会「Yokosuka e-Sports CUP」を開催しており、今年で第3回を迎えます。
近年は数多くの自治体がeスポーツに取り組み始めていますが、横須賀市がeスポーツに注力する背景には、もともとサブカルチャーを土台に地域の魅力を発信してきた事情があります。横須賀市 文化スポーツ観光部 観光課のサブカルチャー担当でウェブデザイナーを務める小山田絵里子さんは「World of Warshipsとアズールレーンのコラボ企画だったり、ポケモンGOのサファリゾーンだったりと、過去にはさまざまな取り組みがあって、その中でPCブランドさんなどと知りあうことができました。結果、eスポーツジャンルの企画にご賛同いただいて今回のプロジェクトが実現しました」と語ります。
同プロジェクトにはインテルやMSI、NTT東日本、Project Whiteといった企業が協力しており、誰もが楽しめるeスポーツを市民に触れてもらうことで、街の先進性を高めつつ魅力として発信していく狙いなのだとか。小山田さんは「eスポーツはお客さんと一緒に大会を作り上げるというか、身近な存在として一緒に応援しちゃうような感じなんですよね。そんな中で、横須賀っていう名前を少しでも心に留めていただけると嬉しいですね」と期待を寄せます。
一方、一般的なeスポーツ事業というと大会やイベントの開催が主流ですが、同市が第一に実施したのは市内の高等学校のゲーミング環境を整えるところからでした。高校へのPC貸し出しをeスポーツ事業の主軸に定めているのは横須賀市ならではの特徴ともいえます。
これについて小山田さんは「ただ大会を誘致するとなるとその一回で終わってしまう可能性があります。私たちはeスポーツの文化を作っていって、いずれ大きな大会を誘致するというのが目的になるので、“文化”つまりは教育に注目しました」と語ります。若い世代に早いうちから高性能PCに触れてもらい、今後の普及支援のエンジンになってもらうわけです。横須賀市文化スポーツ観光部 観光課でサブカルチャー担当の主任である関山 篤さんは「高齢の方や社会人の方などいろんな切り口があるとは思いますが、われわれとしては若い人たちの将来性に期待しているんです」と強調します。
横須賀市では10年先を見据えた計画を打ち立てており、長い目で同市をeスポーツの“聖地”へと発展させていくのだといいます。若年層以外にも数多くの取り組みが進んでおり、コンサルティング企業を招待して市内の事業者向けに「eスポーツビジネスのマネタイズ」をテーマとしたセミナーを開催。また、今年3月には同市の遊休資産となっていた施設をプロチームのゲーミングハウスとして利用してもらえることが決定。横須賀を拠点とするチームの誘致にも成功したのです。聞けば、最近地元の子どもたちがプロチームの選手たちを野球に誘うこともあったのだとか。徐々に地元の住民たちにも受け入れられ始めていることがうかがえます。
eスポーツ部は子どもの自律を促す
Yokosuka e-Sports ProjectのPC貸し出しプログラムでは市内の高等学校における部活や同好会などにハイスペックPCを最大5台までと周辺機器などを無償で貸し出すもの。同プログラムが開始する以前にはサードウェーブによるゲーミングPC貸し出しプログラム「高校eスポーツ部支援プログラム」が実施されていましたが、この存在が横須賀市独自で機材を貸し出す後押しになったといいます。
当初、横須賀市ではサードウェーブのプログラムを市内の各校に紹介していたそうですが、3年後にはPCの返却か購入を選択するという内容であることから、導入を断念する学校が多かったといいます。横須賀市においても期限を設定しているものの、引き続き学校にPCをおけるようなスキームにできるよう取り組んでいるそうです。
貸し出し事業の発表から実際にeスポーツを導入した学校は市内13校のうち8校に上りました。この割合は、中学3年生の子が横須賀市内の高校へ進学を希望したとき、半数以上の学校がeスポーツに取り組んでいることになります。関山さんによれば、eスポーツに興味を持ってオープンキャンパスに訪れた子どもたちもたくさんいたといいます。
一方で、気になるのは反対意見。いまだゲームに対する悪印象が根強い中、当初小山田さんは保護者からネガティブな意見が届くことを想定していたといいます。しかし「そういった意見は全くなくて、むしろウェルカムという声が多かったです」と小山田さんいいます。家庭でもゲームにまつわる教育をどのように施していけばいいかわからないケースも多いそうで、むしろ、制限時間を設けたり、自身の健康を保つ大切さを学校側が体系的に指導してくれることは保護者にとってメリットに映ったようです。
関山さんは「健康面は自身のパフォーマンスに直結するだけにチームで強くなるには意識せざるを得ません。自分達でルールを決めるようになって逆に大人よりもしっかりするようになったと思います」と強調します。部活で直接指導することにより趣味のゲームでも自律するようになったとは意外なポイントだといえるでしょう。
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■外部リンク
Yokosuka e-Sports Project=https://www.cocoyoko.net/e-sports
横須賀市=https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/
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