インタビュー
2024.09.12
eスポーツで入試偏差値アップ!? 近畿大学に聞く、学生運営の苦楽と扱う意義
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8月24日に近畿大学で全日本eスポーツ学生選手権 格ゲーの部(全学格)が開催されました。全学格はRocket KnightやVictrix、忍ism、ROX Gamingなど、企業やeスポーツチームが中心として開催していますが、会場となった近畿大学も後援しており、近大のeスポーツサークルもスタッフとして、運営に参加しています。
そこでeスポーツサークルの幹部ふたりと近畿大学の事務長に、大学eスポーツの現状と在り方を聞いてきました。まずは大学生のふたりです。
取材に応じてくれたのは、近畿大学 情報学部情報学科3回生 eスポーツサークル代表 藤木慎右さんと近畿大学 情報学部情報学科3回生 eスポーツサークル クリエイターズ部門代表 浜野壮志(たけし)さんのふたりです。
取材・文/ライター・岡安 学
“報連相”の大切さを痛感
──まずは、近畿大学eスポーツサークルについて教えてください。
藤木慎右さん(以下、敬称略) eスポーツサークルは発足から10年目となるサークルです。私が10代目の代表と言われています。私がサークルに入る前は、一時期、存続の危機が叫ばれるほど廃れていたようですが、今はかなり大きなサークルとなっています。今回の大会を開催しているesports ArenaがあるE館は情報学部の設立と同時に建てられて、今年で3年目となります。
──eスポーツサークルはどういった活動をしているのでしょうか。
藤木 オープンキャンパスの手伝いが多いです。あとは『VALORANT』の日本の大会であるVCJも手伝わせていただいています。先輩がVCJに関わっているので、そのつてですね。そのほかには、定期的にサークル主催のイベントを開催しています。
浜野壮志さん(以下、敬称略) esports Arenaを使ったオフラインイベントもやっています。学生eスポーツ連盟の大会に出場することもあります。マイナビインカレの大会にも出ました。
──藤木さんと浜野さんはプレイヤーなんでしょうか。
藤木 私は選手としてはやっていません。
浜野 eスポーツサークル内にタイトルごとのグループがあるんです。以前は『VALORANT』と『Apex Legends』のグループに入っていましたが、今はほとんど参加していません。
──eスポーツサークルの実務はどんなことをしているのでしょうか。
藤木 イベントの骨子を作ったり、当日の現場での統括をしたり、サークルの管理をしています。近畿大学から仕事を回してもらうこともあります。以前、東広島市の方からeスポーツイベントを開催したいという話をいただいたときに、eスポーツについての講演をしました。コンサルティングのようなイメージです。
浜野 クリエイティブ部門ではサークル内で行うイベントの企画をメインに行っています。『Minecraft』のサーバーで遊ぶ企画をたてたこともありました。クリエイティブ部門はできたばかりなので、まだやれていることは少ないですが、今後は動画制作とか、大会配信用のオーバーレイをつくって行きたいですね。
──eスポーツサークルを運営する上で難い点や厳しい点はありますか。
藤木 私たちの代の時の話ではないですが、4代くらい前の代表と連絡が取れなくなった時はかなりピンチだったと聞きます。一時期、オープンキャンパスで行うイベントスタッフを集める時、集まりが悪い時期もありました。
浜野 今日もギリギリの人数で回しています。スタッフは完全ボランティアですし、eスポーツイベントは開催時間が長時間にわたるので、スタッフを集めるのにはハードルの高さを感じます。
──大学で、特に近大でeスポーツを開催する意義はどこにあると思いますか。
浜野 近大でやる意味としては、やはり設備が整っていることですね。esports Arenaがありますし、機材も揃っています。
藤木 大学には高価な設備が整っていますから、それに触れることで知識を蓄えることができます。スキルを得ることで就職が有利になることもあります。技術面以外では、ゲームプレイヤーとしても、イベント運営としても、“報告”の重要性が学べます。社会に入るともちろん報告が重要となってきますが、大学時代からそれに触れられるわけです。
浜野 高校までは報連相を行うという感覚がなかったんですよね。高校では与えられた課題をこなすだけでなんとかなりましたが、大学ではゼロから自分たちでやっていかないといけないので、必然的に報告の重要性がわかってきます。
藤木 大学で報告の重要性を理解するには経験や時間がかかります。最初は理解度が低くて、失敗することもありますが、学生は失敗することができるので、そこは大事な部分ですね。失敗することで勉強になりますし、失敗は大人がフォローしてくれます。自分なりの正解を見いだせますし、社会に出た時にその経験が役立ってくれると思います。
浜野 イベントを企画して、参加者がひとりということもありました。
──将来的に大学eスポーツがどのようになっていって欲しいですか。また、個人としてはeスポーツが将来にどのように役立つと思いますか。
藤井 個人的な願いとして、学生主体のeスポーツが有名なものになって、テレビなどのニュースで取り扱って貰えるほど知れ渡って欲しいですね。その起点としてeスポーツサークルの学生が盛り上げていって欲しいですね。
浜野 まだまだeスポーツの知名度が低いですし、厳しい世界ではありますね。
藤井 自分の将来としては、社会人になってもeスポーツイベントはやっていきたいと思っています。趣味になるか、仕事になるかはわからないですけど。就職はeスポーツに限らずイベント系を目指しています。情報学部としてのスキルを活かしていきたいです。
浜野 来週からとあるゲームメーカーにインターンに行くことになっています。ゲーム業界はすごく気になるので、プレイヤーやイベント運営から、ゲーム制作側に行くのも良いかなと思っています。eスポーツサークルについては、近大には良い施設があるので、ぜひ、存続していって欲しいと思います。高校生のみなさんは、オープンキャンパスを体験して、ぜひ、近畿大学に入って、eスポーツサークルに来てください。
藤木 eスポーツサークルは学部が不問なので、情報学部以外の人も大歓迎です。
──全学格のイベントを体験しての感想はいかがだったでしょうか
藤木 今回は企業がメインのイベントなので、私たちの役目は当日の運営くらいだったんですけど、これまでで一番きれいな形で実施できたイベントでした。運営の方々はesports Arenaだけでなく、サーバールームまで行っていろいろ作業をしていましたし、細部までしっかりと動いていたのは印象的です。プロの仕事が見られたと思います。
台本は私たちもつくっていたんですけど、どんどん変わっていって、直前まで最終稿にならなかったので、そこまでぎりぎりにやるんだなと思いました。最終的にできあがった台本をみて、自分たちが作ったものとの比較もでき、勉強になりました。
浜野 対戦会の方を中心にみていたのですが、見知らぬ人同士で対戦し、交流をしていたのは新鮮でした。これがオフラインイベントの醍醐味なんだな、と感じました。
──ありがとうございます。
eスポーツを“マグロ”並みに
ここからは近畿大学 大学運営本部情報学部 学生センター事務長の矢藤邦治氏に大学としてeスポーツイベントに参画する意義について聞きました。
──全学格のイベントに後援していますが、どういった経緯で後援することになったのでしょうか。
矢藤邦治氏(以下、敬称略) 今回の件とは別の機会で、Victrixの赤松さんと知り合っていたのですが、その赤松さんから、全学格のイベントをやりたいと言うお話を聞きました。もともと、情報学部にあるesports Arenaはeスポーツイベントの開催を目的とした施設ではありますが、箱貸しをして収益を得ることは考えていません。取り組み自体をPRさせていただくことを条件に、esports Arenaを無償で貸し出すことにしました。
──後援することになった理由、あるいは意義はどういったところにあったのでしょうか。
矢藤 やはり学生向けということですね。今回は、高校生と大学生のみが参加する資格がある大会だったので、教育機関である近畿大学にぴったりなイベントだと思いました。
あとは、近畿大学は私大なので、学生に興味を持って貰うことが重要です。そういう意味では高校生はマーケティングターゲットと言うことになります。如何に、近畿大学を魅力に感じてもらい、受験してもらえるかが重要なわけです。
今回、扱ったタイトルがカプコンのゲームだったと言うのも理由のひとつです。カプコンは日本を代表するゲームメーカーで大阪の会社です。カプコンとはいろいろ付き合いがあり、学校で行うゲーム制作の授業に、カプコンのエンジニアにインターシップとして来てもらっています。大学としては、このふたつが大きな理由となります。
──先ほど、eスポーツサークルの代表の方が、大学から東広島市のeスポーツ事業の仕事を任せてもらったことがあるというお話がありましたが、外部から大学側へ協力依頼が来ることも多いのでしょうか。
矢藤 東広島の件は、eスポーツを使って東広島市が地方創生を実現したいと相談がありました。東広島市には近畿大学工学部があり、その縁もあって、一緒にやることとなりました。その工学部と東大阪キャンパスにある情報学部は兄弟学部なんです。それで情報学部が東広島市への協力をすることになりました。
それ以外に、大阪にあるeスポーツ系の専門学校で学生が講師としてアルバイトしています。ほかにも、さまざまな教育機関と繋がりがあり、学生が派遣されることがあります。これらは近畿大学の、情報学部の成功事例のひとつとして捉えています。
──情報学部にとってeスポーツはもはや切っても切れない状態になったと言うことでしょうか。
矢藤 そうですね、そう言えると思います。情報学部は3年前に立ち上げた新設学部です。情報学部としては、ほかの大学に比べて後発組と言えます。すでに実績のあるほかの大学の情報学部よりも学生に興味を持って貰い、大学に来て貰うには、ほかの大学にはない魅力を押し出さないといけません。
そこでeスポーツを取り入れることを考えました。結果としては、想定の2.5倍の応募があり、現在では14倍の合格倍率となっています。受験者が多く、倍率が高くなれば、必然的に合格者のレベルが高くなり、偏差値も跳ね上がりました。同志社大学のすぐ下くらいの偏差値までアップしています。
──近畿大学と言えば近大マグロが有名ですが、eスポーツが二の矢として近大を支える日がくるかもしれないですね。
矢藤 そうなって欲しいところです。教育現場でeスポーツが関わると選手育成を思い浮かべる人は多いと思いますが、情報学部ではeスポーツに関わるもの、携わっていくものすべてを学ぶことができます。ゲーム好きの高校生にすごく興味を持って貰えました。今や中学生がなりたい職業アンケートでゲームエンジニアが1位になることもあります。ゲームは将来設計においてとっても大きな存在になっているわけです。
情報学部は今年で3年目です。来年以降で就職内定の結果が出て、卒業する学生が出てきて、いよいよその成果が出てきます。そこは楽しみです。eスポーツを通じて近畿大学を見ていただければ良いですね。
──ありがとうございました。
eスポーツが大学の標準規格に!?
全学格の会場となったesports Arenaはeスポーツイベントを開催するための設備が整っていました。隣接するi-coreはeスポーツ専用の部屋ではありませんでしたが、全面の壁に投影できるプロジェクターを用意しており、こちらもeスポーツや対戦会を行うには良い環境と言えます。
そのi-coreでは『スト6』の対戦会でお馴染みの「Fighters Crossover」が開催されていましたが、機材の持ち込みはほぼなく、情報学部やeスポーツサークルの機材で賄うことができていました。
大学の一学部として、これだけのeスポーツに関する設備が整っているのは、さすがに設備を売りにするだけのことはあります。もちろん、eスポーツ学部ではなく情報学部なので、IT関連などさまざまなスキルも身につけることができます。eスポーツに限らず、ゲームやエンジニアに興味がある人には恵まれた環境でしょう。
“マグロ”並に近大にeスポーツが定着することで、大学でeスポーツを取り扱うことが事実上の大学の標準になる可能性も十分あります。その点に関しては期待しかありません。
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外部リンク
全日本eスポーツ学生選手権大会格ゲーの部
https://zengakukaku.jp/lp/