インタビュー
2025.01.16
「日本のeスポーツが世界にも誇れるように」 eスポーツの弁護士に聞くキャリアと仕事 西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 松本祐輝さん
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【ゲームの進路相談室・第10回】eスポーツ・ゲーム業界で活躍する人の足跡をたどり、将来の夢を叶えるためのヒントを提供する「ゲームの進路相談室」。今回は、「eスポーツの弁護士」として知られる、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業の松本祐輝さんに、これまでのいきさつや学生・生徒に伝えたいことなどを聞いてみました。eスポーツ業界を法律面から支える「eスポーツの弁護士」。いったいどんな仕事なんでしょうか。
(取材・文・写真 / 寺澤 克)(取材日:2024年9月)
Profile
松本 祐輝 / Yuki Matsumoto(太字)
1992年生まれ。大阪府出身。2014年東京大学法学部卒業、同年 司法試験合格。16年に西村あさひ法律事務所に入所し、現在に至る。eスポーツチームや業界団体の顧問弁護士を務めるなど、所内ではゲーム・eスポーツ関係の案件を中心に手掛ける。最近ハマったゲームは「学園アイドルマスター」。
声優好きが弁護士目指すきっかけに eスポーツに関わるのは社会人になってから
──何がきっかけで弁護士を目指そうと?
松本さん 思い立ったのは大学生の時です。漠然と「安定した職業に就きたいな」という思いと、広く日本のエンタメに関わりたい気持ちがあったんですよね。
私は声優が結構好きなんですよ。特にランティスに所属している新谷良子さんのファンで。で、その事務所の顧問弁護士になるのが夢でした。
そこで、タレントの仕事に関わるためにはどれが一番手っ取り早いか。それを考えた時、勉強が得意だったので、弁護士として仕事をすれば、そこに広く関われるのではと思ったわけです。
──すると、現在の「eスポーツの弁護士」は、最初思い描いていたものとは少し違いますか?
松本 結果的にはそうなりますね(笑)。実はeスポーツに関わろうと思ったのは弁護士になって2年目の頃でした。
現在の職場は、基本的には企業法務を取り扱う事務所です。それこそ、M&Aとか、訴訟とか、大きな上場会社同士の統合とか……ですね。かなり忙しくて、帰ってくるのは深夜ってこともあって、その中でも楽しみといえば、ゲーム配信を視聴することでした。
──忙しい合間に触れるものってなんだか印象深いですよね。どんな配信を見ていたんですか?
松本 スターダストプロモーション(芸能事務所)の所属タレントが「Overwatch」というゲームでプロを目指すという「スタダGG」という番組でした。その当時視聴回数が多い方ではなかったんですが、面白くて、一生懸命見ていました。
スタダGG
https://www.youtube.com/@GG-wn2mg
そこからOverwatchは面白そうだなと思って、PCを買い替えてFPSをプレーするようになりました。それで、一人では面白くないのでDiscordでサーバーに入ったりして遊んでいましたね。
そこで友人から「PUBGのプロになるからマネージャー探してるんだよね」って話があって、そこからですね、eスポーツに関わりだしたのは。
──マネージャーを引き受けたんですか?
松本 はい。当時上から3番目ぐらいのカテゴリーだったんですけど、プロチームのマネージャーを務めました。はじめは個人の趣味程度だったんですけど、チーム経営などを勉強するうちに「こうしたらスポンサー取れるのに」みたいな、さらに踏み込んでみたい思いが芽生えてきました。
また、弁護士の仕事としては、eスポーツの法規制について相談を受けることがかなり多いということもわかってきました。そこから発展して、eスポーツの法規制の問題に取り組むプロジェクトを立ち上げたのが2018年でした。
──法規制というと具体的には景品表示とかの話でしょうか?
松本 はい、いわゆる大会の賞金10万円問題(※1)とか、賭博に該当するか否か(※2)とか。これらをしっかり整理するべきということで、まだ発足したばかりだった日本eスポーツ連合と取り組みを始めました。
※1… 当時、eスポーツの大会賞金は日本の景品表示法上10万円までしか出せないという理解が広がっていたが、後に解消。
※2… 日本では、参加者がお金を持ち寄って優勝者が賞金を総取りするような大会は賭博に当たるとして禁止されている(アメリカではそういった方式を採用するEVOなどの大会がある)。
──そうすると、eスポーツに関わるようになったのは社会人から?
松本 そうなりますね。ただゲームは広く浅くですけど遊んでました。学生の頃はMMORPGをプレーしていましたし、大学近くの東京・下北沢のゲーセンに通ってガンダムVSシリーズもやってました。あとはアイドルマスターが好きでライブにも行ってました。
炎上対応も仕事の一つ!? 「eスポーツの弁護士」の仕事とは?
──では、今のお仕事について詳しくうかがいます。どれくらいの比率でeスポーツ・ゲーム関係の仕事を?
松本 現在の事務所は企業法務が主なので、M&Aや企業間紛争などの業務に取り組んでいるのもありますが、今の比率は大体半々くらいですね。
──ゲーム関係だと弁護士さんはどんな関わり方を?
松本 例えば海外のゲーム会社だと、日本でゲームサービスを運営する時に、法律上注意すべきこととか、そういったところを監修します。日本の法規制って独特なので、対応が難しいんですよね。
日本のゲーム会社だと一般的なゲームの取引。マネタイズモデルが法律上問題ないかといったことが多いですね。
──eスポーツでいうと、どんなお仕事になるんでしょうか?
松本 eスポーツチームの顧問弁護士もやったりしています。多いときは、小さいチームも含めて5~6社から相談が来たこともありましたが、複数チームをサポートすることは難しいのでなるべくお断りしています。しかし、eスポーツに関わる弁護士が増えてきたこともあって、他の事務所に所属する弁護士の先生に私からお願いすることもあったりします。寂しい半面、eスポーツの弁護士が数多く育ってきたことはうれしくもありますね。
あとは、eスポーツを事業とする企業の監査役もやってます。
もちろんeスポーツタイトルに関する仕事もありますよ。大会の規約をつくったり、eスポーツのことを法律的によくわかっているから、ということでよく使っていただいています。
資金調達や海外展開、選手契約に関することも、ですね。最近はサッカーや野球のようなフィジカルスポーツに近い給与体系になっていて、すごく進化を感じますよ。
──野球やサッカーだと出来高制とかオプションがかなり詳しいですよね。eスポーツもそれらとすでに遜色がない?
松本 ちょうど今も契約を考える時期なんですけど、5~6年やってると変わりましたね。はじめは月にいくらって定額だったのが、こういうパフォーマンスをした、成績を出した、そしたらプラスでボーナスを付けるだとか、かなり事細かくなりましたよ。
──お話を聞いていると、かなりeスポーツの基礎的な制度的部分を担っているのだなと感じます。
松本 確かにそうかもしれないですね。どういうものがeスポーツの選手、ファンを含めたコミュニティにとって最良か、一つひとつ考えながら案件をこなしています。そして、やっぱり私自身、制度設計にすごく興味があって、eスポーツのインフラ、フォーマットも意識しています。そのプラスアルファで案件を引き受けているといった感覚なんです。SNSでの炎上の対応もそういったプラスアルファですね。
──炎上が?それは謝罪文とかでしょうか?
松本 そうですね。
炎上が起きたらチームとして声明文を出す。出すのはいいんですけど、どのように調査をしてチームとしてどう対応するのか、それを文面として世間に示す必要がある。
読む側にしかるべき対応をしたと示すのはもちろんですが、チーム自体にもその影響が残らないように、ということも気にしないといけないんです。われわれ弁護士が監修して、法律面だけでなく体面にも配慮した声明文を作成しています。きちんとしたリリースを作ると、他のチームもそれを参考にしてくれるので、結果として業界のイメージ向上につながっているように思います。
eスポーツに携わるとやりがい感じる コミュニティとの向き合い方は依然難しい
──今のお仕事で面白いと感じるところって何ですか。
松本 弁護士って仕事の結果が世の中にわかりやすく現れることって少ないんですよ。でもeスポーツなら、選手の移籍契約を担当して、いざそれが発表されるとコミュニティが盛り上がるとか、やりがいを感じられる場面が多いです。
確かに過去5年くらいを振り返ると、関わった一つひとつの案件が今意味を持っているなと。選手契約のひな型もそうだし、すごく業界に貢献できているなと思えますね。
まだまだeスポーツの弁護士って国内に10人くらいしかいないので、そうした少ない人数で業界の環境づくりに貢献できているというのもやりがいを感じるところです。
──では逆に苦労する点は。
松本 不祥事や緊急の相談が多いんですが、どれもが法的に全て解決できるわけじゃないんですよね。それが難しい。ビジネス的なジャッジが必要なこともあるし、コミュニティとの向き合い方も考えないといけないし、あとはゲームごとの文化や特徴も認識しないと、すぐに対応を誤ってしまうリスクがあります。
ゲームをやりすぎて勉強しようと思えた!? 若い世代に伝えたいことは?
──学生や生徒、子どもたちに伝えたいことは?
松本 きちんと自分の好きなことを突き詰めておくっていうのは、すごく大事だなと実感しています。
今の仕事が上手くハマっているのは、学生の頃からエンタメに興味を持っていたから。エンタメ系の案件だったら業界の環境もすぐわかるし、ゲームに関する案件もそうです。カルチャーに対する理解が下地にあるから、他の弁護士と上手く差別化できているんですよね。
あと、皆さん「ゲームばかりやって」とご両親に言われることも多いんじゃないでしょうか。私も子どもの頃はずっとゲームしてましたよ。それこそ一日11時間くらいやってたこともありました。中高一貫校だったんですけど、その4年ぐらいは全部モンハンとポケモンに費やしてますから(笑)。
逆に好きなものならずっとやらせてもらえる環境で、逆にそれが功を奏してるかもしれません。
──どういうことですか?
松本 そういう環境ではあったのですが、「一生ゲームで遊びたかったら、勉強しないとね」と母親によく言われていました。でも、そこでゲームをやりすぎたからこそ「そろそろ勉強したほうが良いな」とも思えたんです。僕の場合は、ですけどね。
日本のeスポーツが世界に誇れるように 業界外から新たな発想集まることに期待
──今後の目標について教えてください。
松本 2024年1月のeスポーツアワードでは功労賞を頂いたりと、「eスポーツの弁護士」という点ではすごく認知してもらえるようにはなりました。ですが僕の描くゴールは、eスポーツ・ゲーム領域を代表する弁護士となることです。そのためにも、日本eスポーツ業界が、国際的にも競争力を持てるように支援していきたいと思っています。
もう一つは、やっぱりeスポーツに関わる人がよりハッピーに、そしてもっとビジネスとして取り組めるように、インフラを整えることですね。
──最後にeスポーツ業界を目指す人に何かメッセージは。
松本 業界的な話で言うと、例えば証券会社に勤務していた人がeスポーツ業界に転職するとか、業界外からの人の行き来がさらに増えてくると、さまざまなアイデアが集まるようになり、良い刺激になるのでは、なんてことを期待しています。
それと、私にも、弁護士志望の後輩がインターンで「eスポーツに関する業務をやってみたい」と尋ねてきてくれたりと、相談に来てくれる人が出始めています。もちろん私のような弁護士が増えてくれるのは本当にうれしいこと。仮に弁護士でなくても、法律に興味を持ち、何らかの形でeスポーツに関わってくれるだけでも、ありがたいことです。
もし法律関係に少しでも興味があるのなら、近くの大人に相談してみてもいいです。もちろん僕に連絡するのもウェルカムですから、その時は、何か将来を思い描くきっかけをご提供できればと思います!
──ありがとうございました!
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外部リンク
西村あさひ法律事務所・外国法共同事業
https://www.nishimura.com/ja
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