コラム
2024.03.22
「参画が選択のチャンス生む」 NASEF最高教育責任者の特別授業が大盛況! 下関・立修館高等専修学校
- 高校eスポーツ
eスポーツによる教育支援を行う北米教育eスポーツ連盟(NASEF)の最高教育責任者 ケビン・ブラウンさんが2月、山口県下関市小月茶屋にある下関学院 立修館高等専修学校を視察しました。
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同校のeスポーツ部は、世界68カ国1152チームが参加する国際大会「NASEF FarmCraft2022」で上位入賞したり、部員がeスポーツ部の特待枠で大学に合格したりと、目覚ましい活躍をみせています。ケビンさんはこうした活躍を支える現場を視察し、各所にノウハウを広めるために同校を訪問。歓迎会から始まった当日の様子を、大盛況だったケビンさんによる特別授業やeスポーツ部の活動を交えてレポートします。
参加することが大切
立修館の視察は、入り口に立てられたウェルカムボードから始まりました。ボードから歓迎メッセージを受け取ったケビンさんが教室に入ると、100人以上の生徒がズラリと並んで座っており、入室とともに視線が集まったのち、大喝采で迎えられます。
立修館高等専修学校の関谷豊理事長は、ケビンさんにあいさつを述べながら「数年前に生徒がeスポーツに取り組んでいるということで、応援するために板垣先生にeスポーツやってみませんか、と聞いたらニコニコしながら、いいですね、面白そうですね! やってみたいです、と言われました」と、eスポーツ部を立ち上げた経緯を説明。
その後、「この返答から始まったわけですが、その後さまざまな大会やコンテストで優勝・入賞して活躍するだけでなく、土日にも関わらず地域のeスポーツイベントに協力して小中学生にeスポーツの指導をしている姿を見て、とても嬉しい気持ちになりました。eスポーツを通じた成長が楽しみなので、今後はもっとこれまで以上にさまざまな体験ができるよう模索していきます」と、同校のeスポーツ活動について紹介しました。
その後は、歓迎セレモニーとして立修館の大正琴部メンバーによる演奏です。セットリストは、下関のローカルサウンド「民衆の街 長府」と、庵野秀明監督の出身地である山口・宇部新川が近いことから新世紀エヴァンゲリオン「残酷な天使のテーゼ」。大正元年(1912年)に生まれた、鍵盤のついた弦楽器から奏でられる優雅な音色に、ケビンさんをはじめとした参加者たちが聴き入っていました。
演奏会でフロアが温まった頃、ついにケビンさんが登場。NASEF JAPANのeスポーツ・スカラスティック・ディレクター坪山義明さんの通訳を通して、「今日はスピーチではなく、皆さんと一緒にアクティビティをしたいと思います。学生のころの私がそうだったのですが、スピーチでいろいろ聞いても、あまり覚えていませんでしたから」と、講話を始めました。
最初、「世界一の学習ツール、おもちゃです」(ケビンさん)と言って、さまざまな形のパーツが入ったブロックのおもちゃを生徒たちに配りました。生徒たちは近くにいる人と4人1チームになってリーダーを決め、チームごとにたくさんのブロックが入った袋を一つ受け取ります。
ここで早速、ケビンさんは独特なコールを行います。「1チーム一つずつ、ブロックを持っていますか。聞こえたら1回拍手してください」と声を張ると、思い思いに拍手が起こります。今度は2回拍手を求めると、まだばらつきがあります。最後は3回を呼び掛けると、リズムが揃った拍手が起こりました。
ブロックが行き渡ったことを確認したのちは、アクティビティ開始。制限時間15分で、ブロックで何かをつくるように指示します。つくるものは何でもいいのですが、ルールは四つあります。
1. 何を作ったのか、ほかの人が見てもわかるもの
2. 目的を持ったものをつくること
3. ほかのチームでもつくることができるもの
4. 添付の設計図・完成図は無視していい
「用意、スタート!」の掛け声とともに、一斉に動き始める生徒たち。まずは座っていたパイプ椅子を机代わりにパーツを広げ、何をつくるか作戦会議です。色や形を見て何ができるかを考え、パーツを分類したり、役割分担したり、仮組するチームもありました。はじめのうちは余裕そうでしたが、残り2分のカウントダウンでは焦り始めます。このころには、活発に意見を交わしていたチームも黙々と何かを組み立てます。10カウントに入ると大いに焦りはじめ、最後の瞬間まで組み立てているチームもありました。
「もう終わりなので、手を上に挙げてください」とケビンさんが言うと、しぶしぶ手を挙げます。それでもまだ手を挙げていないチームがいたので「聞こえたら手を叩いてください」と指示が飛ぶと、納得のいくところまで終わらせることができなかったメンバーも観念して手を叩いていました。完成したチームのリーダーに手を挙げてもらうと、ちらほらと上がり始めます。
「完成した作品を見せてください」と言いながら、ケビンさんは生徒たちの席に分け入り、「工場! ケーキ! 亀!」と作品をほかのチームに紹介。それを見て、自然とほかの生徒たちも見てもらおうと自分たちの作品を持った手を伸ばし、懸命に紹介していました。
アクティビティを終えた総括でケビンさんは、「今日伝えたかったのは、二つの言葉です。一つは“Participate”(参画する)。もう一つは“select”(選択する)です。今回、みなさんにはブロックでオリジナルの作品をつくってもらいました。条件は同じでしたが、どのチームも異なるやり方で完成させましたよね。設計図通りではなく、あらゆる選択肢からそれぞれが選び、新しいものを創造できたのです。それは積極的に参加したからこその結果です」と話します。
続けて、「例えば、みなさんの前にエスカレーターと階段が並んでいるとします。エスカレーターは乗っているだけで目的地に到着しますが、階段は頑張って登る必要がありますよね。ただ、エスカレーターには終点があり、乗っているだけだった人はそこから先への進み方も進む力も身についていません。一方、階段は登り方を考える力と登る力を鍛えてきたので、階段が終わってもその先どこにでも進んでいけます。つまり、受け身ではなく、積極的に参画することで初めて選択する自由が得られるということです」と、参画することと選択することの大切さを説きます。
さらにケビンさんは参画(sankaku)と選択(sentaku)をローマ字で白板に書き、共通する文字「snk」を強調して、「sとnとkは、英語でseek・new・knowledgeの頭文字。新しい知識を求めるという意味です。これからも積極的に参画して、選択し、新しい知識を得て、さまざまな分野で活躍してください」と、人生を充実させるための手段を一つ伝授しました。
特別授業に参加した伊織百樺さんは、「私たちが楽しめる形で参加することと選択することの大切さ、そしてそれにより新しい知識を得られるということを教えてくださり、ありがとうございました」と、生徒を代表して感謝を述べました。
ただの遊びで終わらない
歓迎会のあとは、eスポーツ部の視察です。立修館のeスポーツ部員は先述の通り総勢30人以上。その人数に対応できるよう、部室も3部屋用意されていました。ゲームタイトルや取り組みによって分けており、ハイスペックなゲーミングPCが6台設置されたシューティングゲーム向けの部屋、FarmCraftやリーグ・オブ・レジェンドなどミドルクラスのPCでもプレーできるタイトル向けの部屋、そして1対1で戦う格闘ゲーム向けの屋上のペントハウスです。
eスポーツ部の創設にかかわった板垣先生は屋上にある建物を眺めながら、「最初はこの小さなペントハウスから始まりました。部員も片手で数えられるほどだったので何とかなりましたが、今では大所帯なので複数の部屋で活動しています。eスポーツ部支援プログラムに参加して活動を始めて、さまざまな実績や活躍を重ねてきました。いまでは地元企業の方々に認めていただき、支援していただいています」と、生徒たちの活躍を強調します。
視察中も部員たちは、教えあったり、声をかけあいながら対戦したりと、活発に取り組んでいました。板垣先生は「活動している部員のうち、約7割の生徒は不登校経験者です。でも今は、コミュニケーションを取りながら明るく活動しています。eスポーツがしたいからと学校に来る部員もいます。健全に活動できるよう、リーダーを立てて、一緒にルールもつくりました。健康ゲーム指導士の資格を取得した部員が、高齢者と交流する機会もあります」と、ゲームを遊びで終わらせず、生徒の成長につなげるための取り組みを紹介しました。
部員の中原綾子さん(3年生)は、「上級生だけでなく、卒業した先輩が指導に来てくれることもあります」と紹介。ケビンさんに会うために来校した卒業生もいました。環境も充実しており、同じく3年生の髙野生喜さんによると、「シューティングゲームに取り組む部屋のPCは6台ともハイスペックなゲーミングPCです。ほかの部屋には、画質は抑えめになりますがLoLやマインクラフトができるPCをある程度用意しています」とのこと。さまざまな大会での実績が認められ、西京教育文化振興財団から贈られた助成金で、ゲーミングチェアやデスクも揃えていました。
ダイヤモンドの作り方
すべての工程が終わったのちに実施された教員によるディスカッションでは、「普段、消極的だった生徒たちがあんなに楽しそうに、自ら発表したくなるような光景は見たことがありません」「生徒が自然とやる気になっているように感じました」といった声があがりました。
これに対しケビンさんは「声だけだと印象が薄くなるので、自分が動いたり、手を叩いてもらったりすることで、授業に参加している感を出します。そうすると、自覚がなくても自ら参加できるようになるはずです」と解説します。
また、ケビンさんは「ダイヤモンドをつくるために必要なのは、石炭と圧力と熱です。今回の授業の場合、石炭は私たち大人の知識や教材、圧力は時間制限や目標、そして熱は生徒たち自身の好奇心や成功したいという想いです。これらが揃うとダイヤモンド、今日のブロックで作った作品のような成功体験が生徒たちに生まれ、一歩前に進むことができます」と、成功体験が重なれば生徒の自信につながり、さらなる成功体験を求めて積極的に参画するようになると説明を加えました。
一連の話を受けて、きもの専攻の関谷先生は、「これまでも時間制限を設けて生徒たちに和服を縫ってもらうことはありましたが、どこまで進むかは生徒次第でした。でも今度からは、明確な目標を立てもらおうと思います。最初は簡単に達成できる範囲で成功を体験してもらって、生徒たちの様子を見ながら徐々に伸ばしていきます」と、さっそく授業に取り入れようとしていました。
eスポーツ部の活動は、何よりもゲームに情熱を注ぐことができる生徒にとって新たな活躍の場になってきました。ただゲームをプレーして楽しいというだけでなく、プレッシャーとなるルールや目標を設けることで、活動を通じて反省材料や成功体験など「何を得られたのか」が明確になり、成長の糧となります。そういった環境を整えるためには、大人のサポートが欠かせません。立修館高等専修学校の取り組みでは、生徒と先生が協力して健全な活動を実現していました。こうした事例はさまざまな学校の参考になりそうです。
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外部リンク
立修館高等専修学校
http://www.shimonosekigakuin.ac.jp/s_risshukan/
NASEF JAPAN
https://nasef.jp/